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11話 勇者、ウチにくる? ●

 マイと話していたタケルは廃墟を改装してつくった中継地点の建物内から窓越しに空を見た。

 クエスト地点まで結構に距離があったせいで、クエスト終了確認時点で夜十ニ時ほどになっていた。

 そこでふと疑問に思ったかのように、


「そういやマイはこの後どうすんだ?」

「この後ですか……どうしましょう」

「どっかに泊まるとかするのか?」

「いえ、お金が本当に尽きてしまって……野宿だと思います」


 タケルはそれを聞きだす為に、わざわざ聞いたのかもしれない。

 実際マイは”低レベルクエストでなんとか生きる為に稼いでいると”魔王討伐十敗時に全てを失い、それから”生きる為”に戦っていると話していたのをタケルは聞いている。

 タケルとしても今の彼女の懐事情が決して良くはないのではないかと、思ったのかもしれない。


 そうしたら案の定というか、野宿らしい。

 

「いやー、マイ。ここで野宿は止めたほうがいい」

「そう言われましても……ここの寝台設備を利用するお金は――」


 砂漠地帯の夜は、寒くてやってられやしない。

 だからここの中継地点は見かけこそアレだが空調設備は完備している、そんな中継地点の外にでさえすれば厳しい環境に晒されるのだ。

 じゃあ空調設備の効いたこの中継地点で一夜を過ごせばいいかもしれないが、寝台設備はあるには有るが低価格だとしてもお金はかかる。

 そこら待合所で寝るなどすれば、気を抜いた際に勇者や魔法使いに襲われることがないわけではない。

 


「ということで、ウチくる?」



 タケルは恐らく考えていたのかもしれない――大分前からその提案を。

 

「家……? え、タケル様はここから家が近いのですか?」

「まあね、動くし」

「動く……? 家……?」

「部屋なら無駄に余っているんだよ、とりあえず一夜はそれでな? まあ俺の昔話っぽいことを聞いてくれたのとおしるこのお礼に」

 

 移動式居住空間の説明には『個室は初期設定ではニ個まで設置されています。ご希望に合わせてニ十個まで追加設置できます』とあった。

 それから十分に人を住まわせる空間は裕に確保出来ることを覚えていた。

 そしてタケルは面倒くさがりやであっても、別に非情な人間というわけではないようだった


「いえ、そんな……悪いです」

「いやいや野宿するって言われたこっちの方が後味よくないし、少なくとも安眠は保障するぞ」

「ですが、お金も――」


 というかお金がなくて野宿するから、と聞いていてお金を取るほどタケルも人間を辞めていない。


「じゃあ”あのおしるこ”一ケースをいつか貰えればいいよ、てかあのおしるこって市販してるの?」

「それで……本当によろしいのですか?」

「ああ、アレ超美味かったから。あのおしるこに惚れたね」

「……わかりました、絶対に一ケースと言わず何ケースでもお譲りいたします」

「じゃあ決まりな?」


 そうタケルは快活に笑みを浮かべた。

 するとおもむろに携帯電話(超古典機)を取り出し――


「キリ、今から帰るわ」

『遅いよ! お兄ちゃんの癖にクエストにどれだけかけてるのよ!』


 ”癖に”というのは”強いのに”という意味を含んでいるのだから、傍から聞く分には違う意味に聞こえるのがなんとも複雑。

 実際キリの声も少し不安を隠しきれておらず、苦笑しながらタケルは電話を切って中継地点の建物内を後にした。

 外に出た途端に――すぐさま二人の体は冷えてしまう、”全身カイロ”がなかったら即死とは言わないでも、辛かっただろう。





 タケルはマイが後部座席に乗ったことを確認すると、スクーターを中継地点の駐輪場から発進させた。

 

「ここから本当に近いのですか?」

「ああ、十分ぐらい」

「本当に近いんですね!?」 


 この地上での”近い”定義は普通に目的地まで二時間かけても当てはまる。

 だからどちらかといえば本当の意味での”近所”という表現が近いのかもしれない。


「見えてくる頃だな……お、あったあった。マイ、あれな」

「え、アレって。あの箱が……?」


 指すのはどう見ても長方体の箱、かつプレハブ。


「見かけはアレだが、広いぞ?」

「ほ、本当なんですか……?」


 流石に疑問に思うだろうな、とタケルは考えながらすぐそこの箱の前にスクーターを止めた。

 スクーターをガレージに収納してから、 


「じゃ、これが俺の家」

「ええとお、邪魔します……」


 タケルがカギを解錠し、玄関戸(傍からは簡素なアルミドアにしか見えない)を開いた。

 すると中に見えたのはその時点で玄関、外見のスペースだけでは玄関分もないだろう。


「キリ、ただいまー」

「お帰りお兄ちゃん……って、その人誰?」

「ああ、この人は――ってマイ?」

「っ!」


 マイはトコトン驚いていた。

 まずは玄関から入ってすぐにあった居間がとにかく広々としていたこと。

 そして、平然と中央に置かれたコタツ。


「これがタケル様の……」

「ああ、この家な。移動式住居なんだよ、圧縮空間方式だから見た目よりも広いし」

「移動式住居……という語呂からして、これは移動手段も兼ねているのですか?」

「そそ。でこの圧縮空間には余裕がある――ってことでキリ、女性一人一泊二日な?」

「……それはいいけど、お兄ちゃんその人とは――」

「夜遅いから、それは明日な。じゃあ”部屋一つ追加、サイズノーマル”」


 そうタケルが言うと、白いというかベージュに近い色の壁に茶色の木目の扉が現れた。


「じゃあ、鍵と……中はこうなってるっと」


 マイに鍵を手渡して、扉を開けてマイに見せる。

 そこには一人部屋の一室にしては余裕があり、ベッドにクローゼットにタンスが揃っている。

 そのベッドにはふかふかな羽毛布団がおかれて、ベッドそのものも寝心地の良さそうなセミキングの大きさ。


「っ!」


 マイに衝撃と興奮が同時に襲ってくる。


「ベッドか布団選択出来るんだけど、設定面倒だから今日はベッドで勘弁な?」

「い、いえ! ほ、本当にこの部屋を私が使ってよろしいのですか!?」

「もちろん、今日はマイ専用部屋。おしるこも約束したしな」


 と、またタケルは笑みを浮かべて答える。


「でも、私が、こんな、素晴らしいお部屋の……」

「じゃ、遅いしおやすみな? カギは一応内から締めておいてくれ」


 そうほぼ強引にマイを押して部屋に入れた。

 マイはしばらくきょろきょろろ見渡したのち――


「……まさか、地上でこんな」


 恐る恐るベッドに近づいて、縁に座った。感触を手で確かめるように押し出すと、


「ふかふかです――」 

 

 我慢できずに体をベッドに投げ出し、全てをまかせた。

 こんな気持ちのよい寝具で寝れるのはいつ以来だろう、というような表情をしているように見えた。


「お休み……なさい」


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