10話 勇者、昔話。 ●
そんな訳で、タケルと神主は中継地点へと戻るのでしたっと。
中継地点の受付でクエスト終了の確認をして貰い、クエスト成功を告げられた。しかし報酬を受け取る為のゴールドカードはなく――
「すんません家にゴールドカード忘れちゃって、ゴールドカード作れます?」
「わかりました、少しお待ちください」
わざわざ作らせた、どこまでもモノグサな勇者である。
すると袴姿の女性、神主が受付で待っているタケルに話しかけた。
「は、はい……それであなたはどのような飲み物を所望なのですか?」
「お、行く行く」
と、タケルは神主に付いて行き自動販売機までやってきた。
「うーん、じゃコレ」
「緑茶ですね、はいどうぞ」
「頂きます……ごくっ――っ!(な、なんだこれは! ただの緑茶とパッケージだけでは見くびっていたが――)」
それはもういい。
「それでは、色々御無礼を働き申し訳ありませんでした」
「たか、思ったけどさっきからどした? 俺愚かな男なんじゃないのか?」
「たしかにとっても愚かではあります」
それは違わないらしい。
「でも、あなた様が経験を積んで得た行動ならば何も申すことはありません。とても気になってしまいますが、矯正させてあげたいですが」
神主は説教とか好きそうだ。
「いやまあ俺も悪かったよ、クエスト横取りみたいな感じになって」
タケルが謝った……! これが先程のおしるこパワー……!?
「いえ、私こそ怒りつけて決闘まで申し込んで……本当に申し訳ありませんでした」
「あのさ、思ったんだけどよ……アンタ、レベル23有ったよな? それなら普通にあのクエストじゃなくても良かったんじゃないか?」
タケル覚えてたんだ、意外。
「……ごめんなさい、私のわがままなのです」
「そっか、まあ仕方ないな。それじゃ、じゃあな」
そうしてタケルは帰ろうとしていた、いやいや明らかに何かを話そうとする前振りだろうに。
しかしタケルはクエストノルマを達成した上に約束のジュースも奢ってもらったことで、すでに勇者をする義務はないとばかりにこの場を後にしようとしていた。
「え、そのことに特に触れないのですか? 仕方ないでいいのですか!? 身勝手に怒ったりしたのですよ!」
「まあ……でも何か理由があったとしても話したくないなら聞かないぞ」
さすがのタケルも空気を読んだようだった
「……実はですね――」
神主は自分が勇者になった理由と、魔王の部下の高レベルモンスターに自分の入っていたギルドが全滅させられ、何もかも失ったことを話した。
それで、予防線を張るように低レベルクエストでなんとか生きる為に稼いでいると。
「それで、俺と勝ちあった訳か」
「そうです、勝手すぎるんです……私は」
そう自分の持っていたもう一つのおしるこを飲みながら神主は俯きがちに言いました。
「……いやまあ、話してくれたから俺も話すけどさ」
タケルは、
「俺はさ、自由になりたかったんだ」
そう一言。
「自由……ですか?」
「人は皆地下に押し込まれて、それも地獄みたいな日々だったんだ。俺にとってはさ」
「…………」
「だから勇者になって地上に出たかった、拘束されることのない自由の世界に」
「そう、なのですか」
「でもギルドには入るしかなかったし、だから独立できるように特訓も一杯した。でもいくら辛くとも俺は経過なんてどうでもいいからさ、とにかく一人で暮らせたらってその一心だった」
「それで、ここまでお強く?」
「それもあるけどさ、俺には妹がいるんだよ。妹はさ、俺からしたらひよっこ同然で、地下がいくら辛かったとしても安全は保障されてた。だから地上には来てほしくなかったんだけどな、来ちゃったんだよアイツは」
タケルは懐かしむように続けて。
「自由になりたいけど、そんなひよっこな妹も大事でさ。だから俺はいつでもアイツを守れるようにもっと強くなった、内緒でトレーニングだってしてる。でもそれはどうでもよくて、とにかくアイツが元気に過ごしてれば俺はどうだってよかった」
「…………」
「だから、俺たち兄妹は一緒にいるようにしてる。アイツは俺から経験値横取りする為にいるけどさ、俺はアイツを守るためにいるんだよ」
「もしかすると、低レベルクエストを選んだ訳は――」
「まあ、早く終わって帰れた方がいいじゃん? 妹は出来れば手元に置いておきたいしな」
……テキトーテキトー言っている勇者だけども、そんなこと考えていたとは。
「私のせいで、あなた様は帰れずに……一夜も」
「いいんだよ、一日ぐらいは。でもただ俺がちょっぴり不安に思っただけのワガママだよ」
「あなた様は妹さんを大切に思っているのですね」
「ああ、妹を預けられた以上は絶対に守る」
なるほど、これは重度のシスコンらしい。
……なんて茶化すのは違うかもしれない、タケルの妹を大切に思う気持ちは本物なのだろう、もしかすると――あのお茶の間も妹のためだったり?
タケルが聞いたあの移動住宅の売り文句は――
『敵からの攻撃があっても大丈夫! 防御力六〇〇〇〇〇の超防御仕様! 安心の一時をお約束します』
ああ、なるほど。
「……お優しいんですね」
「そうか? 家族だから仕方ないだろ? ……っと、こんなに話して悪い」
「いえ、私が先にお話して、そして誤解しすぎていましたから……ええと?」
神主は、タケルの名前をあの決闘時には興奮状態で聞いていなかったのかもしれない。
「そういやお前……てか、スマン名前なんだっけ?」
本当に心の底から覚えていないように、聞きだすように自分が名乗れるようにしながら。
「神主舞です、マイとお呼び下さい……ええと?」
「井上武、タケルで」
「タケル様ですね、覚えました」
「おう、マイな」
そうして二人の勇者が出会ったのだった。