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星薬師と秘密の騎士〜皇帝の命、助けます!  作者: 穴澤 空@4/11ドアマットヒロイン発売


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第9話 服薬毒

 皇后明陽の後ろに付き従い、彼女の信頼できる侍女とともに、香凛は炎黎帝の住む天空宮(てんくうぐう)へ向かった。

 昨日と同じように皇帝の私的区画に入ると、床は玉を磨き込んだものとなり、急ぐと転んでしまいそうになる。


「おや、瑛然もいたのね」


 炎黎帝の寝所へと入ると、中には瑛然と風俊が侍っていた。

 昨日は控えの間までだった香凛も、明陽に言われ中に入る。


「香凛、皇后殿下に苛められなかったか?」

「おやめ。私がまるで意地悪みたいじゃないの」

「殿下の苛烈さを、知っておいた方がいいかと思いましてね」

「困った子ね。私は身内には優しいわよ」

「その言葉は否定しません」


 目の前で繰り広げられる軽妙なやりとりに、香凛は耳を疑う。

 どれほど信頼された侍衛であろうと、相手は皇后である。瑛然が処罰されることなどは、ないのだろうか。

 そんな彼女の心配をよそに、二人の会話は続いていた。


「それで、香凛」


 不意に、瑛然に呼ばれる。


「陛下の容態を看て欲しい」


 瑛然は炎黎帝の寝台のすぐ横にいて、こちらに来いと指示を出した。

 ちらりと明陽を見ると、促すように頷く。

 風俊の後ろを通り、香凛は瑛然のすぐ隣へと座る。


「我らが黄龍の遣い、天の皇帝陛下へご挨拶申し上げます。当代の星薬師、凌香凛にございます。お体に触れることをお許しいただけますでしょうか」


 香凛の挨拶に、炎黎帝はすいと腕を布団から抜き出す。

 了承の合図だ。


「失礼致します」


 頭を下げにじり寄り、炎黎帝の手に触れる。

 脈拍を確認すると今度は瑛然が炎黎帝の上半身を起き上がらせ、皮膚の状態や喉、顔色や目の様子、口の中を確認していった。

 最後に足の状態まで確認すると、香凛は深々と頭を下げる。


「なるほど……」

「香凛、何か気付いたことがあるか?」


 さすがに炎黎帝から直接話しかけることはできないのだろう。

 瑛然が代わりに香凛に声をかける。


(手のほんの僅かな手の震え、心拍の不安定さ、むくみに粘膜の異変……それになにより)


「瑛然殿は、陛下の体部にも触る資格があるかしら」

「ああ。きみの代わりになにか?」


 手足や顔部分は触れることができても、さすがに心臓や内臓のある体躯に触れることは昨日の今日現れた人間には許されない。

 香凛はそう考え、瑛然に代理を頼むことにした。


「瑛然殿、手を」


 彼の手を取り、自らの体へと触れさせる。


「お、おい。何を」

「ここです」


 当惑する瑛然をよそに、香凛は真剣な顔で腹の右上辺りに彼の手を運ぶ。

 男の体とは明らかに違うやわらかなそこは、服の上からでも伝わってくる。


「なるほ、ど?」

「場所、わかりますか? お腹の右上、ここですよ」

「わかったから、俺の手を押しつけるな」

「ちゃんと触れないとわからないでしょう」

「……わかった、もう充分伝わった」

「そう? 伝わったのならいいけど」

 

 瑛然の赤くなった顔も、彼の背が高いこともあり香凛には気付かれない。

 そんな彼も、香凛の言葉で表情を引き締めた。


「陛下のこの辺りを軽く押して、ご容態を確認して欲しいの」

 

 彼女の言葉に頷くと、瑛然は炎黎帝の体にそっと触れる。


「っ、少し痛いな」


 香凛が瑛然に触れるように指示したのは、肝臓の辺り。

 

(軽く押しただけで、痛みを感じる。やっぱり)


「陛下のお薬を少し頂戴しても宜しいでしょうか」

瑛然(・・)。彼女に渡してやってくれ」


 すぐに枕元の棚に置かれた散薬――いわゆる粉薬を香凛へと手渡す。

 手のひらに収まるような小さな磁器に入れられた薬は、御殿医により処方されたものだという。

 蓋を開け、香りを嗅ぐ。

 次いで、ちろりと舐めた。


(舌先がピリつくこの感じ。粘膜がやられる感覚を、穀物の香ばしい味で誤魔化している。それにやたらと甘い香りは桂皮(けいひ)甘草(かんぞう)ね。そして暗がりだからわかりにくいけど、この……赤)


 蓋を閉じそれを瑛然に返すと、一呼吸置く。

 その所作に、炎黎帝も皇后も風俊も――そして瑛然も気付く。

 香凛は拱手し、上半身を起こしている皇帝に向かう。


「失礼を承知で、御前にて申し上げます」

「よい。続けよ」


 瑛然を介さず、炎黎帝は彼女へと声をかける。

 それは、香凛の見立てを信用するという意味でもあった。


「こちらの散薬。甘草、附子(ぶし)朱砂(しゅしゃ)。そしてそれを誤魔化すための桂皮と麦門冬(ばくもんどう)が調合されてございます。主立った成分である前者三要素は、日々摂取することで毒となりましょう」


 甘草は低カリウム症を引き起こし、むくみを生じる。附子は心拍を乱し場合によっては神経毒ともなる。朱砂は水銀だ。どれも、体調の悪い人間に処方するようなものではなく、むしろ命を縮めさせるものでしかない。

 

「確信はあるのか」


 炎黎帝の言葉に、香凛は続ける。

 

「畏れながら、個々の薬についてはわたくしも取り扱いがございます。一つ一つ、時期を短く注意をすれば、毒も薬になりましょう」

「薬はまた、毒にもなると」

「はい。お言葉の通り」


(瑛然殿は、幾度か医師を変えたと言っていた。つまりどの医師も薬師も、何者かの指示でこの処方をしたということ)


「陛下のお薬は、しばしわたくしが密やかに処方させていただければ」


 一歩間違えば、首を刎ねられる。

 それでも、香凛はそう言いきる必要があった。


「では香凛。陛下の生まれの時刻を詳細に教えましょう」


 明陽の言葉に香凛は僅かな疑問を持つが、ここで異を唱えることなどできない。


「ありがとうございます。お教えいただく情報を元に、服薬いただくお時間と調剤を調整いたします」

「それでよい」

 

 皇后明陽のその言葉の意味を香凛が気付くのは、この後のこととなる――。


次の更新は本日19:00です。


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