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星薬師と秘密の騎士〜皇帝の命、助けます!  作者: 穴澤 空@4/11ドアマットヒロイン発売


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第3話 星薬師の術

 香凛は、目の前の男の瞳をじっと見て、口を開いた。


「私の願いは、星薬師の職を朝廷に戻して欲しいということです」


 彼女の言葉に、瑛然は軽薄に笑う。


「へぇ。じゃぁきみは、朝廷に仕える臣になりたいと」


 香凛はそれを受けて、首を振った。


「結果的にはまぁ、そういうことになりますけど。私の望みはそこじゃなくて」

「うん?」

「このままでは、星薬師の技術が途絶えます。でも、朝廷に職を得れば、後継者を得ることができましょう」


 今のままでは、何の役にも立たないこの技術を、受け継ぎたいという者は現れない。

 それこそ、香凛が子を生むことで可能性はあるが、それも叶うのかはわからないのだ。


「結果、私ではない誰か他の後継者が朝廷に仕えることになっても、気にしません」


 瑛然の目がすいと細くなり、薄い唇が弧を描いた。


「なるほど。陛下はその願いを、叶えるだろうね」

「え?!」


(それを判断できるほどの立場に、この人がいるということなの?)


 香凛の考えは、瑛然にも伝わったらしい。彼は軽く首を傾げると、今度はわかりやすく口の端を上げる。


「陛下の考えは、あらかた分かってるのさ」

「……ふぅん」


(禁色の布に御璽まで押された証明書を持っている侍衛――それほど陛下に近しいということかしらね)


「ところで、侍衛殿」

「瑛然」

「は」

「これから、ともに調査をするんだ。名を呼んで貰いたい。なぁ香凛」


(呼び捨て?!)

 

 まるで豆鉄砲を食らった鳥のような顔で、香凛は瑛然を見た。

 否やを言わせぬ笑みを浮かべる瑛然に、一つ溜め息を吐く。


「仕方がないですね――瑛然殿」

「うん、悪くない」

「別に良いですけど」


 湯飲みに茶がなくなっているのに気付くと、香凛はするりと立ち、瑛然の湯飲みに茶を注ぎ足した。


「ありがとう」

「いえ――それで、瑛然殿は、星薬師のことをどのくらいご存じで?」


 注ぎ足された茶を口に運ぶと、瑛然は小さく首を傾げる。


「そうだな……。星見をして、それに合わせた薬を調合する、くらいしか」

「おおまかに言えば、そんなものですね」


 香凛は後ろの長机の上に置かれた、紙の束を手にした。


「これは、私が看た人たちの星盤(せいばん)図。二十八星宿と五行五気の図盤に、患者さんの情報を追加することで、その人個人の星の流れと、効果的な服薬の種類やタイミングを調べます」


 紙には細かく記号や文字が書かれているが、それを解読できるのは星薬師しかいない。


「占術と医学を混ぜたようなもんか」

「簡単にいえばそう。単なる占星ではなくて、薬効の発現タイミングや反応速度まで予想できるわ」

「それはすごいな」


(あら。思ったよりきちんと受け止めるのね)


 星薬師が朝廷から消えて百年あまり。

 そんなことできるわけがないと、一笑に付すかと思っていたが、そうではないらしい。


「せっかくだし、陛下の状況をお調べしようかしら」

「そんなこともできんのか」

「ええ。星薬師は、自分の星を見ることはできないけど、人の星の定めたる状況は見れます」


 簡単に言えば、占術だ。

 自分を占えないが、他人は占える。


「皇帝陛下は、星自体はもう決まってるんですよ」

「決まってる?」

「ええ。天星――皇帝星と呼ばれる、天球を支配する星」

「それは、誰が皇帝となってもその星なのか?」

「その星は、皇帝位を示すものなんです。だから、その位に就いている人が対象者になるわ」


 その答えに、瑛然は僅かに口元を引き結んだ。


「見てて」


 香凛は何も書かれていない、まっさらな紙を一枚引き出すと、筆にすり溜めていた墨汁を浸し大きく円を描いた。

 そこにいくつもの線や記号を引いていく。


「これが基本の二十八宿図盤」

 

 今度は腰紐にかけていた小さな金属の塊を机上に置く。


「それは?」

「これは星律盤といって、天上の星と人体と刻の重複を調べるための器具です」


 円盤状の金属が五層重なり、天地を針が貫いているそれは、それぞれの層を動かすことができる。

 その円盤には、細かな文字が削り刻まれていた。

 カチリ、カチリ。

 じっくりと金属を回していく指先は、とても精緻だ。

 それぞれの層の位置を調整すると、香凛はさらに紙にそれを書き加えていく。


「生まれ星や今の刻限、その他もろもろをこれで設定して、割り出していくの。それをここに書き加えて……」


 説明しながらも、真剣な眼差しでそれを見ては加筆していく香凛に、瑛然はそれ以上何も言わず、ただその光景を見ていた。

 朱赤の墨を別の筆に浸すと、最後に紙に点を落とす。

 瑛然はその一瞬、息が止まったような錯覚を感じる。


 ――気のせいか。


 瞬きを二度ほどして、再び彼女の手元を見る。

 香凛の手元には、複雑な文字や記号が描かれた、まるで一つの絵のような図象が完成されていた。


「美しいな」


 思わず口にした瑛然に、だが香凛は眉根を潜めその紙を見たままだ。


「どうした」

「この赤い点が天星なんですけど」


 香凛は何度も指先で文字や記号を追う。

 そうして再び星律盤を確認し、立ち上がった。


「瑛然殿。すぐに城に参りましょう」

「それは嬉しいが、きみに何が見えた?」


 問う瑛然に、香凛は書き上げた星盤図の赤い点を指し、彼を見る。


「皇帝陛下の命が、近いうちに危機に晒されます」


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