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星薬師と秘密の騎士〜皇帝の命、助けます!  作者: 穴澤 空@4/11ドアマットヒロイン発売


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第21話 後宮のはなたち壱

 瑛然や風俊、啓俊たちが調査に入れない場所。

 それが後宮だ。

 無論、皇后の配下が密かに潜ってはいるだろう。

 それでも、限界がある。

 そこで、香凛が踏み込むことになった。


(ま、想定内だけどね)


 薬師という立場を明示しているため、後宮のあちらこちらを見て回っても許される。

 目立たないよう官女の服装を借り、木札だけは腰から下げた。

 これで、いざというときの言い逃れには十分だ。

 木札に書かれた印は、皇后の名前なのだから。


「さて、後宮のはな(・・)を見て回りましょうか」


   ***


 最初に向かったのは、医薬所。後宮の女性たちがかかる、医局だ。

 扉が開いていたので中を覗くと、楽しげな話し声が聞こえる。


(あ、そうか。医師は宦官か)


 どこか柔らかな空気を纏った男性と、下位官女の色を纏った少女が、お茶を飲むひとときを過ごしていた。


「お話し中すみません」


 腰に下げている木札を隠し、声をかける。

 香凛は中位の官女の衣装で現れたので、そこまでの威圧感はない。


(上位官女の色にしないでよかった)


 いざというときに立ち回りしやすいのは上位官女かとも思ったが、それだと調査中に知り合った人と打ち解けにくいだろう。その仮説は正しかったと思った。

 


「おやおや、初めて見る顔だね。どうしたんだい?」

「どうぞ、中へお入りください」


 よく見ると、少女は腰に布を巻いている。


(助手のようなものなのかな)


「こちらに来たばかりで、迷ってしまって。少し休憩させていただいても?」


 眉を少し下に落とし困ったような顔をすれば、二人はすぐに中に入れてくれた。


「私、今お茶を淹れますね」

「お菓子もあるよ」


 少女がお茶を淹れる間に、医師が干菓子を出してきた。

 香凛は物珍しいという顔を貼り付けて、部屋の中を観察する。

 薬棚の引き出しには、一つ一つに紙が貼られてあり、中に何が入っているかが一目瞭然だった。


(……不用心)


 助手の少女でも間違えないようにだろう。

 だが、それは逆に今来たばかりの香凛であっても、薬を取り出すことが可能ということだ。


(後宮ってそんな安全なんだっけ……?)


 置かれている薬の名前を確認していく。


(どれも一般的なものね)


「どうぞ、茉莉花茶です」


 良い香りが、茶器から立ち上る。

 少女と医師も同じ卓につき、三人で他愛のない会話をした。


「四夫人の皆さまってどんな方でしょう」

「わたしも、噂でしか聞いたことがないのですが貴妃さまは」

「僕も聞いた話と見た話で実は」


などと四夫人の話を聞き出し、今度は

 

「まあでは皇子殿下のおられる九嬪のお二人は」

「なんでも昭儀さまは」

「まぁそんなことが?」

「そうそう。僕が聞いたのも」


こうして九嬪のことを聞いても、面白いほどに話に乗ってくる。


「最近は、陛下のご体調が良くなくて、お渡りがないでしょ? それでね」


 少女はまだ十代も半ばだろうに、この後宮にいるとすっかり耳年増になるようだ。


「四夫人さま方は、宦官の奪い合いをしているそうです」

「まぁ、陛下への不義では」

「ははは。お嬢さんは真面目だねぇ。後宮じゃよくあることなんだよ」


 宦官と恋愛ごっこや、体の関係になっても、子ができることはけしてない。

 だからこその遊びなのだろう。


「では、複数の妃さまと関係を持つ者も?」

「なんでも、妃さまごとに印を与えているとか聞きましたわ」

「まるで狩りの獲物比べですね」

「お嬢さんの言うとおりだ」

 

 二人を見ていると、後宮ほど噂を楽しむ場所はないのだろうと感じる。


「そうそう、皇太子殿下はね」


 少女の突然の言葉に、香凛の動きがぴたりと止まった。


「皇……太子……殿……下?」

「そう! お体が弱いと噂でしょう。知ってる?」

「え、ええ」


(たぶん、今はとても元気でその……侍衛のフリをしても違和感がないくらいの健康体です)


 とは、とても言えない。当然だが。


「まだお小さいときに後宮内で攫われて、毒を与えられたんですって」

「えっ。それ、本当です?」

「さぁ本当かどうかは……」


 少女がここに来たときには、もうすでに皇太子は皇太子宮に移動した後だ。

 ただの噂話――の可能性も高い。

 香凛はちらりと医師を見る。


「ナイショだよ。本当にあったんだ」

「そんな……。犯人は」

(こう)蜜楽(みつらく)。当時の修容だった女性の侍女がやった」


 修容とは九嬪の一人で、その中では下から四番目の位を賜る立場だ。

 侍女がやったということはつまり、修容がやったということも同然となる。

 

「侍女は処刑され、高修容は笞刑(ちけい)を受けてから、冷宮(れいぐう)に入れられたよ」

「冷宮って、恐ろしいところなんでしょう? 医師(せんせい)


 少女が問う。


「この後宮の北の外れにある、あばら屋のようなところさ。侍女もつかなければ、衣服も最低限しか提供されず……これ以上はやめよう」


 冷宮に入れられるということは、女官や宦官の憂さ晴らしに利用されることも意味した。

 つまり、生きながら罰を与えられ続けるような生活だ。

 下位とはいえ九嬪として暮らしてきた女性であれば、発狂してもおかしくないだろう。

 噂では(・・・)、高修容は半年を待たずに亡くなったという。


「皇太子殿下に使われた毒、というのは」

「さぁ。僕は診てないんだ。すぐに皇城から御殿医が来たからね」


(皇太子に毒を盛ったにしては、処分が甘くないか……?)


 医師の話に頷きながら、香凛は考える。

 皇太子に本当にそんなことがあったとしたら、たとえ修容といえど一族郎党処刑されてもおかしくない。


(高一族を処分できない理由があったか、毒事件そのものが修容を処理(・・)するための虚偽だったか)


「そろそろ、戻ります」


 一通り医薬所の様子も探れたし、四夫人や九嬪たちの噂も仕入れることができた。

 あとは後宮に生息する植物の確認と――


(冷宮の様子も見に行ってみるか)


「あ、そうだ。先ほど話にでた高修容の実家って、どちらかご存じですか?」

「実家? 確か華都の大店だよ。なんだったかな……」


(華都の大店?)


「そうそう! 徐福商会だ」


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