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星薬師と秘密の騎士〜皇帝の命、助けます!  作者: 穴澤 空@4/11ドアマットヒロイン発売


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第1話 訪い

 綾華国(りょうかこく)はおよそ百年前に、皇朝が変わった。

 新しい皇朝は景明朝(けいめいちょう)。現在は第四代皇帝()炎黎(えんれい)が治めている。

 そんな綾華国の首都である華都(かと)から少し外れた天都山に、一人の男が訪ねてきた。

 

「ここに、星薬師(ほしくすし)殿がいると聞いたのだが」


 少し青みがかった灰銀色の髪を後ろで束ね、暗い紫色の瞳をその前髪で隠すようにした男は、簡易な柵の向こう側で野草を摘んでいる少女に声をかける。近くには、彼が乗ってきたであろう馬が、木に繋がれていた。

 

 少女は、女性が履く巻きスカートのような(くん)ではなく、 長ズボンタイプの濃緑色の長?(ちょうこ)を履き、それが橙色の(ほう)の下からちらりと見える。大きな籠を持った彼女は、手元に落としていた目線を上げると、琥珀色のくるりとした瞳を男に向け、ゆっくりと首肯した。


「確かに。星薬師はここにいますが、あなたは?」


 探るような瞳は、男の濃灰の袍とその下にちらりと見える黒の長?、それに磨かれた履を確認し、男が無頼漢ではないと判断したらしい。

 

「ああ、悪い。俺は瑛然(えいぜん)という。皇帝陛下の侍衛をしている者だ」


 侍衛とは、皇帝の私的な護衛のようなものだ。

 名前しか名乗らない、妙に軽やかな口調の瑛然に対し、彼女はわずかに眉をひそめる。が、皇帝の侍衛と聞くと、それ以上は深入りすまい、と口を引き結んだ。


「私は(りょう)香凛(こうりん)。陛下のお遣いでしたら、まずは中へ。狭いですが」

「それは助かる。頼んでもいいか?」


 香凛は頷き、手元の薬草を束ねて持つと、瑛然を玄関へ案内する。

 小さな家の扉を開けると、薬草の独特ではあるが嫌ではない匂いが、瑛然の鼻腔をくすぐった。


 「こんな椅子でよければ」


 示されたのは、背もたれのない丸椅子。

 それに座り、瑛然は部屋の中をぐるりと見渡した。

 

 板葺きの屋根と床、壁には柱と柱の間にしっくいが塗られている。

 その壁に、ところ狭しと吊るされているのは、葉の形も花の形も異なっている、多種多様な草花だ。

 中には枝を切ってきたようなものもある。

 

 横長の薬箪笥の上には、何かの実が詰め込まれた瓶が、これまた種々様々に置かれていた。

 奥にある大きな机の上には、大きさの異なる摺り棒や乳鉢、平たい皿が積み重なり、細長い瓶もいくつも並べられている。横に続く棚には、束ねられた紙と筆、墨をすったのであろう黒い液体が瓶に詰められていた。おそらく、そこが星薬師の仕事場なのだろう。

 

「何か面白そうなものは、みつかりました?」

 

 眼の前の机に、白磁の湯呑みを置きながら、香凛は尋ねる。

 

「面白そうなものばかりだ」 


 柔らかな笑みを浮かべ、軽い口調でそう返す瑛然に、香凛は曖昧な笑みを浮かべる。


「これは――」 

日下(ひか)茶です。疲れが取れますよ」

 

 出された湯呑みを手に持ち観察する瑛然に、香凛は説明をした。

 

「もしかして陛下の侍衛さんだと、出されたものをそのまま飲めないとかありましたか? 申し訳ないです」

「いや、単に初めて嗅ぐ匂いだったから」

「なるほど。日下茶は星薬師が調合する薬でしか使わないですからね。普段は採取もされないものです。毒ではありませんが、私がそれを少しこちらに入れて飲みましょうか」

 

 香凛の提案に、瑛然は軽薄な笑みを浮かべ、断った。

 

「それより、俺の顔はそんなにも疲れてたか?」

 

 どうやら、香凛が疲れに効くと言ったことが気になっているようだ。

 

「そうですね。他の人にはわからない程度でしょうけど」

「さすがは星薬師殿のところにいる方だ」

「え?」

 

 瑛然の言葉に、香凛の手が止まる。それに構わず、瑛然は言葉を続けた。

 

「それで星薬師殿は、ご不在か?」

 

 香凛は手にしていた湯呑みを机に置くと、居住まいを正す。

 そうして、ゆっくりと口を開いた。

 

「当代の星薬師は、私です」 


   ***


 星薬師とは、前皇朝である宸曜朝(しんようちょう)にて、天体で吉凶を占う星官(せいかん)の一つとして朝廷に仕えていた薬師のことだ。

 新しい景明朝になってからは、北方から来た楊一族という部族の流派の医療が採用され、朝廷からは姿を消した。

 星官自体もやがて閑職となっていき、今では朝廷にその職はない。

 彼らは市井に下り、星薬師はただの薬師に、星官は天文学者か占者となっていった。

 だが、ここに一人。


「まさか星薬師殿が、年若い女性とはな」


 瑛然の言葉に、香凛は眉を寄せる。


「星薬師の一族は、私が最後の一人です。不満でしたら、どうぞお引き取りを」

「ああ、すまない! そんなつもりはなかったんだが」


(ではどんなつもりで言ったのか)


 彼女を頼りに来る患者の多くは、祖父とともに薬の処方をしていたことを知っている。

 誰も、彼女を侮ることはない。

 しかし稀に来る新しい患者は、香凛が年若い女性と侮りそれを口にした。


(どうせこの男も、祖父ちゃんのようなわかりやすい見た目を求めているのだろう)


「両親は私が幼い頃に亡くなり、師匠だった祖父も昨年天帝の元へ参りました」

「そうか。それはその、大変だったな」

「いえ。幸い食べていく技は持っているので」


 心の内を出さないよう淡々と答える香凛に、瑛然は目を細める。


「つまりきみは、星薬師としての技術を持っているんだよね」

「ええ。祖父からは先祖代々の技術を全て受け継ぎました」


 加えて言えば、彼女の能力は代々の星薬師の中でも図抜けていた。

 あえてここで口にすることはしなかったが。


「――ここには一人で?」

「はい。今も私しかおりませんので、ご安心を」


 おそらく、他者に聞かれたくない話をするのだろう。


「それで、ご用件というのは」


 ここまで聞いてきたのだ。

 帰るそぶりもみせない瑛然は、依頼を口にするだろう。 

 水を向ければ、瑛然は先ほどまでの軽薄な表情を一転させた。


「星薬師殿に頼みがある」

「私ができる範囲であれば」


 たとえ皇帝の侍衛であろうと、無理難題を言われてはかなわない。


 (うかつに、引き受けるとは口にしない方がいいわよね)


 香凛のそんな気持ちを察しているのかいないのか。

 瑛然は緊張した色合いを乗せて、口を開く。


「皇帝陛下のお命を、救う手助けをして欲しい」


 彼の言葉に、香凛の表情がぴたりと固まった。




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