1.私の高校生活がぁぁ…!
4月、1年の節目であり、始まりの季節。東京都小平市の住宅街に住む神楽木詩葉は、高校2年生となって新学期が始まろうとしていた。
『東京都練馬区で、身元不明の焼死体が発見されました。今年に入って5件目で、江戸川区、新宿区に続き同一人物の犯行と…』
(なんだか最近物騒だなぁ)
ニュース番組を聞き流しながら、支度を終えて家を出た。少し小走りで住宅街を抜けて大通りに出る。まっすぐに歩いていくと最寄り駅に着いた。
高校には電車で50分ほどだ。学校に着くと、新学期のクラス替えの紙が下駄箱に貼られており、人でごった返していた。
「詩葉おはよう!」
昨年クラスが一緒だった子に声をかけられる。詩葉は彼女と一緒にクラスを確認する。残念ながらクラスが別れてしまったが、また遊びに行こうと約束した。
2年A組の教室はそれなりに人がいて、雑談が飛び交ったり隣の席同士で話し合ったりしていた。それからは全校集会のあとクラスに戻り、前に立ち自己紹介をして時間割の配布で終わった。
詩葉は学校が終わったあと、昨年偶然見つけたカフェに行った。駅前にはあまり店がなく、生徒がほとんど降りないのでカフェの存在も知っている人は少ないだろう。
実際、地元に住んでいる人がよく来ていて、放課後行く時間帯はだいたい同じ面子が揃っていた。今日はお昼時に着いたのでいつもよりも混んでいた。
最近は窓側の席に座っているが、空いていなかったので縦長のテーブルで大人数で使えるテーブルに座った。カフェラテと軽食を頼んで少しだけ勉強する。
しばらく勉強していると、隣いいですか、と低い声が聞こえた。顔を上げると黒髪に切れ長の目、俗に言うイケメンが立っていた。
「ど、どうぞ…」
慌てて広がっていたテキストを自分の方に寄せる。彼は少し笑って、ありがとうございますと言って席に座った。
1時間ほど勉強する予定が、気づいたら2時間も経っていた。そろそろ帰ろうと思い、勉強道具を片付ける。明日から始まる授業に少しだけ期待して、帰路に着いた。
翌日、1限目から長距離走という地獄の授業を受けたあと、時間を待たずして数学の移動教室でヘトヘトになった。初っ端から鬼畜すぎると他のクラスメイトたちも文句を垂れ流していた。
担任曰く、体育のあとの移動教室は今日だけとのことだったので、不幸中の幸いと言えた。6限終了のチャイムが鳴る。SHRという名のLHRをと終え、やっと部活に行くことができた。
詩葉は弓道部に所属しており、腕前はそこそこだ。週に5日というなかなかハードなスケジュールだが、部員とも仲が良く充実していた。
明日から新入生の体験入部が始まるので、今日は練習よりかは掃除や昨年終わらなかったパンフレットの作成をメインに活動した。地味に疲れる仕事である。
部活が終わり、電車に揺られて最寄り駅まで着く。時刻は20時を過ぎていて、親に連絡するのを忘れたと思ったが、家まで15分弱なので大丈夫かと思い直した。
大通り沿いの脇道に入って住宅街の方に入っていくと、何やらオレンジ色っぽい光が見えた。そして焦げ臭い。嫌な汗が背中を伝う。
だんだんとオレンジ色の光が近づいて来て、ついにその全容が見えた。
(人が…燃えてる…)
頭の中で警鐘が鳴り響いているが、詩葉の体は思うように動かない。その瞬間、燃える人影が詩葉に向かって一直線で走ってきた。
逃げなければならないと分かってはいるが、足がすくんで1歩も走り出せなかった。終わりだ、そう思って目を瞑る。
しかし、何も衝撃は感じなかった。
恐る恐る目を開けると、黒髪の男性が燃える人影を素手で押さえつけていた。
「っ早く逃げろ!!!!」
そう言われて逃げようとしたが、足がもつれて転んでしまった。チッ、と男性が舌打ちするして燃える人影を投げ飛ばすと、黄色い護符のような物を取り出し、中指と人差し指に挟んでこう言った。
「…我に力を授けよ」
それと同時に護符が消え、男性が水色の光に包まれる。指を銃の形にして構えると、小さな水の玉ような物が指先に出来上がった。
そして、撃った。
水の玉は見事に命中し、火が消えた。
大丈夫か、と手を差し出されて顔を上げると、カフェで隣に座ったあの男性だった。
「あなたは…」
「お前は…」
2人の声が重なる。しかし、安堵したのも束の間だった。消えたはずの火が、また燃え上がってきていた。しかも、最初よりも強く。
「何!?お前を庇いきると約束できない。今すぐに…」
男性がそう言った瞬間、物凄い勢いで燃える人影が突っ込んで来た。もはや人間とは呼べないそれは、まるで妖のようだった。
瞬間、詩葉の体が勝手に動き出す。動きに合わせて水でできた弓が形成されていく。詩葉はとても洗練された動きで矢を引き絞り、そして放った。
矢は命中し、ついに火は消えた。
詩葉は糸が切れたように腰が抜けて座り込んでしまった。呆然として男性の顔を見ると、男性はぽかんとした表情をしていた。
(いったい、これは何…?)
お互い無言のまましばらく見つめ合っていると、男性がはっとしたように再び手を差し出した。今度こそちゃんと掴み、ふらつきながらも立ち上がる。
「あの、助けていただきありがとうございます。さっきのって一体…?」
「あれは妖だ。最近都内で身元不明の焼死体が見つかったってニュースになっているのを知っているか?全部あれの仕業だ。残念ながら、彼はもう生きてはいないな」
「そ、そんな…」
そんなことあるはずがない。そう思いたいのにさっき見てしまった。目の前には焼け焦げた遺体が転がっており、転んだ時の痛みもある。とても夢だとは思えない。
(帰ったらお父さんとお母さん心配してるかな…)
あまりにも衝撃的すぎて何かを考えることはできなかった。実は夢、ということはないのだろうか。
「今度はこちらから質問させてもらう。お前は妖の存在を知らないようだが、なぜあの力を使えた?しかも護符も無しに…」
「それが、私にも分からなくて…気づいたら勝手に体が動いてました」
ふむ、と男性が考える仕草をする。しかし、自分の中で納得が行かなかったのか、ずっと怪訝な顔をしていた。
ふと時計を見ると、20時30分を過ぎていた。慌てて親が心配しているので帰ります!と言い残し、全力疾走で家まで向かった。
1人取り残された男性がちょっと待てと言っていたのが聞こえた気がするが、今はそれどころではない。
急いで帰宅すると、鬼の形相をした両親がリビングで待っていた。電話にもでなかったし何かあったらどうするんだ、心配したと言われ、酷く反省した。
(あんなに怒られたの初めてだ)
それでも、両親の顔を見てとても安心して、自分の部屋に入ったら一気に力が抜けてしまった。明日も学校があると思い直し、疲れた脚を引きずってリビングに向かった。
それからはふわふわしてて両親と何を話したのかあまり覚えてはいないが、普通に会話していたと思う。夕飯を食べてお風呂に入って寝る。
あまりにもいつも通りなのに、どこか実感が湧かないのはあんなことがあったからだろう。とにかく、まだ新学期は始まったばかりだし、明日からは何もないいつも通りの日常に戻れると信じて目を閉じた。
「ちゅうもーく。えー、ご両親の仕事の関係で2日遅れとなりましたが、転校生がいます。どうぞ入って」
「こんにちは。長野県から転校してきました、綺咲魁人です。よろしくお願いします」
クラスの女子たちがかっこいいと黄色い悲鳴を上げる。そして彼は私の方に視線を向けてニコっとした。
(な、なんであなたがここにいるの〜〜!!!???)
転校生はまさしく昨日の男性その人だった。
どうやら、いつもの日常には戻れないらしい。
需要がありそうなら続きます




