73.魔王様、取り調べを受ける
生徒会室。
学園の中枢とも呼べるその部屋は、重厚な空気と、紅茶の香りではなく、キリキリと胃が痛くなるような緊張感に包まれていた。
俺は部屋の中央に置かれた椅子に座らされ、未だに光の鎖でグルグル巻きにされている。目の前には、執務机に座り、ゴミを見るような目で俺を見下ろす生徒会長、アリシア・ライト・クライン。
そして机の上には、水晶のような魔道具が置かれていた。
「――状況は理解できていますか?ヴェルト・フォン・アークライト」
アリシアが氷のような声で告げる。
「これは『審判の宝珠』。対象の発言が真実であれば『青』に、虚偽であれば『赤』に輝く、国宝級の魔道具です。今回の様な退学も考慮される取り調べでは間違いが無いようにこの魔道具を使う事が許可されています。...この前ではいかなる嘘も通じませんよ!」
「へぇ。そりゃ便利だな。俺の無実もすぐに証明されるわけだ」
「……まだそんな軽口を。いいでしょう、その余裕すぐに木っ端みじんにしてあげますわ」
アリシアは羊皮紙と羽ペンを用意し、事務的に、しかし嫌悪感を隠そうともせずに尋問を開始した。
「まず確認します。貴方は昨日、Fクラスの担任であるヨフセイ・バレッタ・ドーシ男爵に対し、暴力を振るい、重傷を負わせましたね?」
「ああ。俺がデコピン一発で空の彼方まで吹き飛ばしてやった」
キィィィィン……(青色の輝き)
「……っ!?『青(真実)』……ですって……?」
アリシアの手がピタリと止まる。
「デコピン一発……?男爵位を持つこの学園の教師を、魔法も使わずにデコピンで吹き飛ばしたと言うのですか?……常識的に考えてありえませんが、魔道具が反応している以上、ごほんっ、事実は事実として記録します…」
アリシアは震える手で『教師をデコピンで撃墜』と書き記した。
「次です。……動機は何ですか?ヨフセイ先生が不当な指導をしたから、仕方なく抵抗したのですか?」
「は?違うな。あの野郎が暑苦しいトカゲを出して教室の気温を上げたからだ。俺の快適な昼寝と、平穏な時間を邪魔した罪は万死に値する。だから死なない程度に躾けただけだ」
キィィィィン……(青色の輝き)
「……は?」
アリシアがポカンと口を開けた。
「ひ、昼寝……?貴方は、教師が授業のために魔法を使ったのを……『昼寝の邪魔だったから』という理由だけで、半殺しにしたと言うのですか……?」
「あと、俺の連れ(フィオナ)の焼きそばパンを台無しにしたからな。食べ物の恨みは怖いんだぞ?」
キィィィィン……(青色の輝き)
ガタッ。アリシアが椅子を鳴らして立ち上がり、信じられないものを見る目で俺を睨んだ。
「あ、貴方……っ!人間のクズですか……!?教育者への敬意も、反省の色も微塵もない!ただ自分の快楽(睡眠と食欲)のために暴力を振るったと、そう認めるのですね!?」
「俺は真っ当な『悪徳領主』を目指してるからな。自分の欲望に忠実なのは当たり前だ」
キィィィィン……(青色の輝き)
「あ、悪徳領主……っ!?自分で言った!この男、清々しいほどの悪党ですわ!」
アリシアは頭を抱え、こめかみをヒクつかせながら記録を続ける。『動機:昼寝の妨害と食い物の恨み。反省の色なし。更生の余地なし』
「つ、次です!Fクラスの生徒たちについてです!報告によると、彼らは貴方を『魔王』と呼び、崇拝しているようですが……貴方は暴力と恐怖で彼らを洗脳し、支配しているのですね!?」
「洗脳なんかしてねぇよ。あいつらが勝手に玉座を用意したり、俺の機嫌を取ったりしてるだけだ。俺はただ、座ってアイス食ってるだけだぞ。むしろ俺は被害者だ」
キィィィィン……(青色の輝き)
「……ッ!!」
アリシアがバンッ!と机を叩いた。
「つまり!自分からは何も強制していないのに、周りが勝手に傅くほどの『カリスマ的恐怖』で支配していると……!言葉巧みに洗脳するよりもタチが悪い!貴方、根っからの独裁者ではありませんか!このような人物を野放しにしていたら...それこそ国の危機ですわ!」
「人聞きが悪いな。俺はただ、来るもの拒まず去るもの追わずだ。だからこうして面倒な取り調べにも協力してやってるだろ?」
キィィィィン……(青色の輝き)
「それが一番怖いと言っているのです!無自覚で周りを巻き込み、教師に害を成す獣……生理的に受け付けませんわ!」
アリシアの目が完全に座ってきた。どうやら俺の「誠実な回答」は、彼女の中で「凶悪犯罪者の自供」に変換されているらしい。
(アリシアってこんな面倒な性格のキャラだったのか、うーむ)
「最後に……女性関係です。貴方の周りには、ドラグノフ嬢や、従者として連れてきているニーナさんなど、優秀な女子生徒が侍っていると聞きます。……彼女たちを、どういう目で見ていますか?まさか...」
「んー……。クリスは勝手に付きまとってくるストーカー、ニーナは俺が丹精込めて育成した所有物。フィオナに至っては、餌付けしたペットみたいなもんだな」
キィィィィン……(青色の輝き)
パキィッ。アリシアの手の中で、羽ペンがへし折れた。
「……す、ストーカー……所有物……ペット……?公爵令嬢や従者を捕まえて、なんて……なんて……」
アリシアはプルプルと震え出し、顔を真っ赤にして叫んだ。
「なんて破廉恥で!傲慢で!女性を道具としか見ていない、鬼畜の所業!!貴方のような男が学園にいるだけで、女子生徒の貞操が危険に晒されます!この……歩く猥褻物ッ!このハーレム野郎!」
「おいちょっと待て、最後のはただの悪口だろ!」
「黙りなさい!魔道具が『真実』だと示している以上、貴方の内面はドス黒いドロッドロのヘドロで満たされているのですわ!」
アリシアは折れたペンを投げ捨て、燃えるような瞳で俺を指差した。
「十分です……!これ以上の尋問は、私の精神衛生上よろしくありません!ヴェルト・フォン・アークライト!貴方の罪状は明白です!」
彼女は新しい紙を取り出し、殴り書きで署名した。
「教師への理不尽な傷害!クラスの私物化と恐怖支配!そして女子生徒への非人道的な扱い!これらは退学程度では生温いのです!全校生徒の前で貴方のその腐りきった本性を暴き、社会的に抹殺する必要があります!」
「……は?」
「決定しました。明後日、学園の大講堂にて『学級裁判』を開廷します!原告は、奇跡的に一命を取り留めたヨフセイ先生!被告は貴方!」
アリシアはニヤリと、嗜虐的な笑みを浮かべた。
「そこには全校生徒と、学園の理事たちも集まります。貴方がいかに救いようのない『クズ』であるか、この私が生徒会長兼検察官として徹底的に糾弾し、白日の下に晒してあげますわ!」
「......どーでもいいが、裁判って……飯は出るのか?」
キィィィィン……(青色の輝き)
「……ぇ?」
アリシアがポカンと口を開け、次いで顔を真っ赤にして激昂した。
「退学かどうかの瀬戸際で、心配なのが昼食の有無ですって……!?この期に及んでまだ食欲!どこまで底無しのクズなのですか貴方は!!」
「いや、長丁場なら腹減るだろ。3食出るなら付き合ってやってもいいぞ」
「出ません!出るのは貴方の罪状だけです!拒否権はありません!首を洗って待っていなさい、このクズ!」
「だからそれはただの悪口だろ!」
「まったく、なんでこんなのがFクラスで圧倒的支持を得ているのか全く理解不能ですわ!」
こうして。些細な事件?は、俺のあまりに緊張感のない態度と食い意地により、生徒会長の怒りの炎に油を注ぐ結果となり、全校生徒を巻き込んだ『弾劾裁判』へと発展することになったのだった。
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