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58.神を喰らう魔王へ

 風が、止んだ。


 あれほど吹き荒れていた魔力の嵐も、殺意の暴風も、嘘のように消え失せていた。


 広場に残されたのは、破壊された石畳の残骸と――かつて恋人を思い、人生を足掻き苦しんだ騎士だったものの、肉片だけ。


「……あ、あぅ……」


 足元で、小さなうめき声が聞こえた。


 ロザリアだ。彼女は石畳にへたり込んだまま、ガタガタと震えている。


 焦点の合わない瞳は、虚空の「何か」に怯え続けていた。


「ご、ごめんなさい……局長、許して……お仕置きは、嫌……」


 うわごとのように繰り返される謝罪。


 その姿に、俺の胸が締め付けられるように痛んだ。


 普段は不敵で、飄々とした態度を崩さない彼女が、たった数分の会話でここまで壊された。


 メルフィ・アンスバッハ。


 あの女は、ロザリアの心にどれだけ深いくさびを打ち込んでいたというのか。


「……ロザリア」


 俺は屈み込み、彼女の肩に触れようとした。


「ひっ!?ごめんなさいッ!!」


 ビクンッと彼女が過剰に反応し、頭を抱えて縮こまる。


「俺だ、ヴェルトだ。……もうあいつはいない。大丈夫だ」


 俺はできるだけ声を優しくして、ゆっくりと語りかけた。焦るな。今は、刺激してはいけない。


「ヴェ……ルト、君……?」


 恐る恐る顔を上げたロザリアの瞳に、ようやく俺の姿が映る。


 だが、その瞳から涙がボロボロと溢れ出した。


「ご、ごめん……なさい……。私、何も……動けなくて……」


「いいんだ。謝るな」


「でも、ゲインズが……あんな……私がもっと早く、情報を……」


 自分を責める言葉が止まらない。


 これ以上言わせちゃいけない。俺は黙って彼女を引き寄せ、その震える体を強く抱きしめた。


「…………ッ!?」


 ロザリアの息が止まる。俺の腕の中で、彼女の体温が、鼓動が、直に伝わってくる。


「悪かった。……守れなかったのは俺だ。お前にあんな思いをさせたのも、あいつを止められなかったのも、全部俺の力不足だ」


 俺は歯を食いしばりながら、彼女の背中を、子供をあやすようにポンポンと叩いた。


「だから、お前は悪くない。……もう泣くな」


「ヴェルト、君……う、うあぁぁぁぁ……ッ!」


 張り詰めていた糸が切れたように、ロザリアが俺の胸に顔を埋めて泣き出した。


 俺はただ、彼女が泣き止むまで、その背中を撫で続けることしかできなかった。


 無力だ。


 転生だの、バグだので調子に乗っていた結果がこれだ。


 「知識」があるだけで勝てるほど、この世界は甘くなかった。


(……この世界クソゲーを生き抜くには強くなるしかない)


 俺は彼女の涙で濡れたシャツの感触を噛み締めながら、夜空を睨みつけた。


 今のままじゃ、守れない。


 仲間も、自分の領地も、自分自身の命さえも。


 あいつ(メルフィ)は言った。『次元レベルが違う』と。


 なら、上げてやる。あいつが俺の遥か上の領域、神に迫る様な場所にいるというなら、その神を食い殺す「魔王」にでもなってやる。


 しばらくして、ロザリアの嗚咽が小さくなった頃。


 俺は彼女の体をそっと離し、瓦礫の中に落ちていた「あるもの」を拾い上げた。


 それは、砕け散ったゲインズの鎧の破片の下にあった、小さな銀色のロケットペンダントだ。奇跡的に、これだけは原形を留めていた。


「……ゲインズ」


 蓋を開けると、そこには古ぼけた小さな肖像画が入っていた。栗色の髪に、あどけない笑顔。さっきの幻影で見せた冷たい拒絶の表情とは違う、本来の彼女の――優しく微笑む「リリィ」の姿がそこにあった。


「お前……これを、最期まで……」


 狂っても、怪物になっても。彼が心の奥底で守り抜こうとした「愛」の残骸。俺はそれを強く握りしめ、懐にしまった。


「帰ろう、ロザリア。……立てるか?」


「……う、うん。少し、足が……」


 まだ震えが止まらないようだ。


 俺は苦笑すると、彼女に背中を向けた。


「乗れ。送ってやる」


「えっ? で、でも……」


「いいから。……今の俺には、これくらいしかしてやれないからな」


 ロザリアは少し躊躇った後、遠慮がちに俺の背中に身を預けた。軽い。


 こんな華奢な体で、彼女はずっと一人で戦ってきたのだ。


 俺はロザリアをおんぶして、静まり返った広場を後にした。背中から伝わる温もりだけが、今の俺に残された確かな「守るべきもの」だった。


「……ねぇ、ヴェルト君」


 帰り道、耳元でロザリアがぽつりと呟いた。


「私……怖かった。局長のこと、ずっと忘れたふりをしてた。でも……やっぱり、私は逃げられないのかな」


「逃げる必要なんてねえよ」


 俺は夜道を歩きながら、即答した。


「逃げるんじゃない。……次は、勝つんだ」


「……勝つ?」


「ああ。俺が勝たせてやる。あのクソアマが二度と、お前にあんな顔をさせないようにな」


 根拠なんてない。今はまだ、負け犬の遠吠えだ。でも、言葉にしなければ、心まで折れてしまいそうだった。


「……ふふ。ヴェルト君は、やっぱり変な人」


 背中で、ロザリアが微かに笑った気配がした。


「でも……ありがとう。……少しだけ、元気になれた気がする」


 彼女の腕が、俺の首に回される力が少しだけ強くなる。


 俺たちは月明かりの下、ボロボロの体を引きずって宿へと戻った。


 この夜の敗北は、一生忘れない。そして、この背中の温もりも。



 ーーーーー翌朝、新聞には枢機卿が牢獄で死亡した記事が一面を飾った。

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