50.悪徳領主は王の安眠を妨害する
カツン、カツン、カツン……。
静まり返った王城の回廊に、冷たく、そして硬質なヒールの音が響き渡る。
先頭を歩くのは、この国の第二王女シルヴィア・ヴァン・ドラグーン。
その白磁のような肌は冷気を帯び、流れる銀髪は氷の粒を散らしているかのように煌めいている。彼女が歩くたびに、廊下の気温が数度下がり、窓ガラスに薄らと霜が張っていくほどだ。
尚、部屋から出た時はヴェルトの後ろを“てこてこ”と着いてきていたが、城の人間が見えるや否や先頭を歩き始めたツンデレ姫である。
すれ違う侍女や巡回中の兵士たちは、その姿を見るなり壁際に退き、深々と頭を下げて震えていた。
「……ひっ、氷禍の姫様だ……」 「目を合わせるな、魂ごと凍らされるぞ……」 「今日のご機嫌は最悪らしい……空気が張り詰めている……」
周囲のそんな囁きなど、今のシルヴィアの耳には届いていない。
彼女は氷像のように無表情のまま、ただ真っ直ぐ前を見据えている。その凛とした横顔は、「父王の危機に立ち向かう決意」と「王族としての矜持」に満ちているように見えたことだろう。
だが――彼女の脳内は、全く別の、もっと甘美で恥ずかしい思考で埋め尽くされていた。
(……甘い)
彼女は誰にも悟られないよう、舌先で唇を少しだけ舐めた。
(まだ、口の中に残ってる……。あの濃厚なミルクのコク。鼻に抜ける高貴なバニラの香り。そして何より、舌の上に乗せた瞬間に雪解けのように消えていく、あの儚い口溶け……)
思い出すだけで、彼女の鉄壁の表情筋が緩みそうになる。それを必死に理性の力でねじ伏せる。
(……悔しいけれど、認めざるを得ないわ。あれは……至高の芸術品よ。王宮のパティシエたちが作るどんな菓子よりも洗練されていた。……あんなものが、この世に存在するなんて)
チラリ、と彼女は後ろを歩く男――ヴェルトを見る。
ポケットに手を突っ込み、不敵な笑みを浮かべて歩く、噂の悪徳領主。
(……性格は最悪。やり方も汚い。王族の弱みにつけ込んで、あんな恥ずかしい契約書まで書かせて……!)
彼女は懐にしまった『氷の羊皮紙』の感触を確かめる。そこに刻まれた屈辱的……いや、魅力的な条項の数々。『一日三食のアイス提供』、『新作の優先試食権』
そして極めつけは――『手が冷えてスプーンを持てない時の、あーん介護義務』。
(……べ、別に、私が甘えたくてこんな条項を書き足したわけじゃないわよ……! あくまで手が冷えた時の『介護』として必要なだけだし! 向こうが『一生分保証する』なんて調子のいいことを言うから、逃げられないように言質を取ってやっただけなんだから! ……そ、そうよ。これは権利。彼を私の専属……じゃなくて、正当な対価の徴収なのよ!)
心の中で早口に言い訳を並べ立てる。顔が熱くなりそうになるのを、冷気魔法で強制冷却する。だが、複雑な思考の果てに辿り着く結論は、常に一つだ。
(……邪魔する奴は、許さない)
シルヴィアの瞳が、剣呑な光を帯びて細められた。この先に待つのは、父王の寝室。そして、そこを封鎖している宰相ルシウスや近衛兵たち。彼らは父を隔離し、適切な治療を妨げているだけでなく――結果として、シルヴィアの「アイスを堪能する平和な時間」をも脅かしているのだ。
(父上を助ける。……そして、堂々と「報酬」のアイスをおかわりする。私の『至福の時間』を邪魔する輩は――全員、氷漬けにしてやるわ)
◆
「――止まれぇぇッ!!」
国王の寝室前にある大きな両開きの扉。
そこには、案の定、宰相ルシウスと、完全武装した近衛騎士団が立ちはだかっていた。
「貴様ら、また来たのか! 陛下は絶対安静だと言ったはずだ! しかも、あろうことかシルヴィア殿下まで巻き込んで……!」
ルシウスが唾を飛ばして叫ぶ。その目は血走り、明らかに焦りの色が浮かんでいる。俺が口を開こうとした、その時だった。
「……騒々しいですね」
俺より早く、シルヴィアが一歩前に出た。カツン、とヒールが床を叩いた瞬間、廊下の気温が急激に下がる。吐く息が白く凍りつき、騎士たちの鎧に霜が降りる。
「ルシウス。……そこを退きなさい」
「し、しかし殿下! こやつらは陛下に危害を加えようとする反逆者で……!」
「私が連れてきたのです。……貴方は、私の判断が間違っていると言うのですか?」
シルヴィアの声は静かだった。だが、そこには絶対的な拒絶と威圧が含まれていた。
「へ、陛下をお守りするのが私の務め……! たとえ殿下のご命令でも、こればかりは……!」
「……そうですか。あくまで私の『契約履行』を……いいえ、父上の治療を妨げると言うのですね?」
シルヴィアが、スッと右手を掲げた。
「なら、そこで頭を冷やしていなさい。……『氷牢』」
パキパキパキッ!!
刹那、凄まじい音が廊下に響いた。
ルシウスと騎士たちの足元から、鋭い氷の棘が一斉に突き出し、彼らの下半身を床ごと凍結させてしまったのだ。
「ひぃっ!? あ、足が……動かん!?」 「つ、冷たいぃぃッ!?」
一瞬の早業。詠唱破棄による高位魔法の行使。シルヴィアは氷の彫像と化した彼らを冷ややかに見下ろした。
「誰であろうと容赦しません。……凍りたくないなら、道を開けなさいと言ったはずですよ」
その迫力。その殺気。それはまさに、国を憂う王女の怒り――と周囲は勘違いし、恐怖に顔を引きつらせた。
「ひ、姫様がこれほどまでに真剣に……!」 「我々はなんて愚かなことを……!」
氷漬けにされていない後方の騎士たちが、慌てて道を開ける。ルシウスも腰を抜かしてへたり込み、ガチガチと歯を鳴らしている。シルヴィアはフンと鼻を鳴らし、髪をかき上げて俺を振り返った。
「……行きますよ、ヴェルト。露払いは済ませました」
「……頼もしいこって」
俺は苦笑し、彼女に続いて重厚な扉をくぐった。
◆
寝室の中は、異様な空気に満ちていた。
窓は厚いカーテンで閉ざされ、昼間だというのに薄暗い。そして部屋全体に、生温かく、粘りつくような不快な魔力が充満している。
部屋の中央、豪華な天蓋付きのベッド。そこに横たわる国王の体は、どす黒い靄のようなものに覆われていた。それはまるで生き物のように蠢き、王の口元や胸元から生命力を啜っているように見える。
「……父上!」
変わり果てた父の姿に、シルヴィアが駆け寄ろうとする。だが、俺はそれを手で制した。
「近づくな。……食われるぞ」
「え……?」
「その黒いのは、ただの病魔じゃない。不用意に触れれば、お前の魔力ごと持っていかれる」
俺は冷静に分析し、後ろに控える天才魔術師に指示を出した。
「ネロ。解析だ」
「へいへい、人使いの荒いこって」
ネロが面倒くさそうに前に出て、ポケットから取り出した片眼鏡の位置を調整する。その魔眼が怪しく輝き、幾重にも展開された解析魔法陣が王を覆う黒い靄をスキャンしていく。
「……うわ、趣味悪っ。なんだこりゃ」
数秒後、ネロが顔をしかめて舌打ちをした。額には珍しく脂汗が浮かんでいる。
「どういうことだ?」
「ただの病気じゃねえよ。……だが、なんだこの力の奔流は? 魔力に似てるが、構成がまるで違う。精霊か? いや、もっと根源的で、凶暴な……クソッ、解析しきれねぇ。既存の魔法理論に当てはまらねえぞ」
あのネロが、解析に難航している。
無理もない。これは「魔術」の理ではなく、もっと原始的な「血」の理なのだから。
俺は短く告げた。
「『竜の因子』だ」
「ッ!? なぜ……!?」
その単語が出た瞬間、シルヴィアが息を呑み、驚愕に目を見開いた。そんな彼女の反応を楽しむように、俺は肩をすくめて彼女の心の声を代弁してやる。
「『竜の因子』……それはドラグーン王家が代々隠し通してきた、血脈の秘密のはず……! 貴方は一体、どこまで知っているの……ってか?」
「なっ……!?」
図星を突かれて絶句する王女をよそに、俺はネロに向かって解説を続ける。
「ネロ。これは魔法的な呪いじゃない。血統に刻まれた『生物学的な暴走』だ。対象を人間だと思うな。人の皮を被った『竜』として術式を再構築しろ」
「竜……!? なるほど、そういうことかよ!」
俺のヒントを聞いた瞬間、ネロの表情が一変した。彼は水を得た魚のようにニヤリと笑い、パチンと指を鳴らした。
「合点がいったぜ! このオッサン……いや国王の体内にある『竜の血』が、何者かの術式によって強制的に活性化させられてるってわけか! 魔術のバグじゃなくて肉体の暴走なら、話は別だ!」
ネロは即座に空中の解析術式を組み替え、猛スピードで再構築していく。
「本人の生命力を薪にして、竜の因子が燃え上がってる状態だ。……こりゃあ、普通の医者がどんな薬を使ったって治らねえはずだぜ。治療すればするほど、その魔力を餌にして因子が活性化しちまうんだからな」
「そ、そんな……」
シルヴィアが顔面蒼白になる。
やはり、俺の睨んだ通りか。シルヴィアの「熱」も、この王の「病」も、根っこは同じ。ドラグーン王家が隠し持つ『竜の血』に干渉する、極めて悪質な呪詛だ。
「解除はできるか?」
「普通の術師なら無理だろ。下手に触れれば、術式が自爆して王様ごと消し飛ぶ仕掛けになってやがる。……ったく、性格の悪い仕掛けしやがって」
ネロは不敵に笑い、両手を突き出した。
部屋中を埋め尽くすほどの複雑怪奇な幾何学模様――魔法陣が展開される。
「……ま、凡人には無理だが、この俺様にかかれば『解除コード(弱点)』なんざ丸見えだけどな! 術式構成、強制介入。……防御障壁、バイパス接続。……よし、核を露出させたぞ! 今だ、筋肉女!」
「聖女ですっ!!」
ネロの合図と共に、待機していたニーナが飛び出した。
彼女の拳には、眩いばかりの神聖な光が収束している。
「主よ、邪悪なるものを打ち砕く『物理的な』力を! ……『聖女の鉄拳』ゥゥッ!!」
ドゴォォォォンッ!!
ニーナの拳が、ネロによって剥き出しにされた黒い靄の中心――呪いの核を正確に捉えた。聖なる光と、圧倒的な物理衝撃が炸裂する。
キィィィィン!!
断末魔のような嫌な音が響き、黒い靄はガラスのように砕け散り、霧散した。
その衝撃波で部屋全体が揺れ、窓ガラスにヒビが入り、カーテンが吹き飛ぶ。
「……ど、どうなったの……?」
もうもうと砂煙が舞う中、シルヴィアが震える声で呟く。もし失敗していれば、国王の命はない。全員が息を呑んでベッドを見つめる。
やがて、煙が晴れると――。
「……ふぅ。やりました!」
拳を振り上げたままのニーナが、無邪気に笑っていた。そして。
「……う、ぅ……」
ベッドの上、国王が小さく呻き声を上げた。どす黒かった肌の色は健康的な肌色に戻り、苦しげだった呼吸も穏やかな寝息へと変わっている。胸の上下動も安定している。
「……父上……!」
シルヴィアが駆け寄り、父の手を握りしめた。その手はもう、冷たくも熱すぎもしない、人の温かさを取り戻していた。
「よかった……本当によかった……」
いつもは冷徹な「氷禍」の王女が、今はただの娘として涙を流している。その姿を見て、マリアやロザリアも安堵の息を漏らした。
「……任務完了だな」
俺は大きく息を吐き、ベッドの脚がへし折れて傾いていることには気づかないフリをした。これで、この国のトップは救われた。
すると、その時だった。
「……ん……シル、ヴィア……?」
掠れた、けれど確かな意志の宿った声が響いた。国王の瞼がゆっくりと持ち上がる。そこには、濁りのない碧眼が宿っていた。
「父上……! 分かりますか、父上!」
シルヴィアが身を乗り出す。国王は、目の前で泣きじゃくる娘の頬に、震える手をそっと伸ばした。
「……すまない。随分と、長い悪夢を見ていたようだ……。お前を、泣かせてしまったな」
「い、いいえ……! ご無事で……本当によかったです……!」
気丈な「氷禍」の仮面は完全に崩れ落ち、そこにはただの父親思いの少女がいた。その光景を見て、扇子で口元を隠していたシャルロットも、小さく鼻をすすった。
「……本当に。人騒がせな父上ですこと」
シャルロットが歩み寄ると、国王は皺の刻まれた目尻を下げて微笑んだ。
「シャルロットも……。苦労をかけたな」
「ええ、かけられましたわ。……ですが、戻ってきてくださって何よりです」
二人の娘に囲まれ、国王は安堵の息をつく。俺は空気を読んで一歩下がろうとしたが――。
ドォンッ!!
背後の扉が乱暴に開かれた。なだれ込んできたのは、全身ずぶ濡れで震えている宰相ルシウスだ。どうやらシルヴィアが術を解いたらしい。
「へ、陛下ぁぁぁッ!!」
ルシウスは転がるようにベッドの脇へ這いずってきた。その顔色は、凍えていたせいだけではなく、もっと別の――「恐怖」で真っ青になっているように見える。
「ご、ご無事ですか!? おお、なんということだ……! 奇跡的に意識を取り戻されたとは……!」
「……騒がしいぞ、ルシウス。余はまだ病み上がりなのだ」
国王が眉をひそめると、ルシウスは過剰なほどに平伏した。
「は、ははぁッ! 申し訳ございません! あまりの嬉しさに、つい取り乱してしまい……!」
言葉とは裏腹に、床に擦り付けられたその表情は引きつっていた。視線が泳ぎ、チラチラと俺やニーナの方を見ている。『なぜ呪いが解けた?』『あの完璧な術式が破られたのか?』――そんな心の声が聞こえてくるようだ。
(……なるほどな)
俺は目を細めた。
(……そういえば、原作じゃ、魔族と内通して陛下を呪い殺す『裏切り者』がいたはずだ)
どうやら、この狸親父がその「手先」らしい。
だが、シャルロットは「枢機卿が寝室から出てくるのを見た」とも言っていた。
(宰相と枢機卿、両方ともグルか……。ゲームじゃそこまで詳細に語られてなかったが、辻褄は合う)
治療を妨害していたのも、王を気遣ってのことじゃない。呪いが完成し、陛下が死ぬまでの「時間稼ぎ」だったわけだ。
「……ルシウス」
俺はわざとらしく声をかけた。
「奇跡が起きてよかったな。もし陛下がこのまま崩御されていたら、お前が『治療を妨害した』責任、どう取らされるか分からなかったぞ?」
「ひっ!?」
ルシウスの肩が跳ねた。
「わ、私はただ、陛下の安寧を願って……! け、決して邪魔をしたわけでは……!」
「分かっているさ。……だが、顔色が悪いぞ? まるで『失敗した』とでも言いたげな顔だ」
「な、何を馬鹿な……! 失礼なことを言うな!」
ルシウスは脂汗を拭いながら立ち上がり、震える声で告げた。
「へ、陛下の回復を……国民に、そして『教会』にも知らせねばなりません! わ、私はこれにて失礼いたします!」
逃げるように去っていく宰相の背中。それを見送るシャルロットの瞳は、氷のように冷え切っていた。
「……分かりやすい男ですこと」
「ああ。慌ててご主人様に報告に行ったんだろうよ」
俺が肩をすくめると、国王が静かに口を開いた。
「……そこの若者が、私を救ってくれたのか?」
「父上。彼はヴェルト・フォン・アークライト。……少々性格に難はありますが、腕は確かな領主です」
シルヴィアが涙を拭い、居住まいを正して俺を紹介する。
彼女は真っ直ぐな瞳で俺を見据え、深く、静かに頭を下げた。
「……ヴェルト。貴方には、なんと礼を言えばいいか」
「気にするな。契約通りだ」
「いいえ。……契約以上の『奇跡』を、貴方は見せてくれました。私の体のことも、父上のことも……。貴方がいなければ、ドラグーン王家は終わっていたでしょう」
顔を上げたシルヴィアの表情には、もう敵意も警戒心もない。あるのは、純粋な敬意と感謝だけだった。
「……ありがとう、ヴェルト。貴方を信じてよかった。聞きたいことはありますが、今はただ感謝を....」
「……ふん。素直じゃないツンデレ王女にしては、随分と殊勝な態度じゃないか」
俺が軽口を叩くと、シルヴィアは顔を赤らめつつも、嬉しそうに微笑んだ。そして、シャルロットも俺の隣に並び、そっと耳打ちしてくる。
「……感謝しますわ、ヴェルト様。私の大切な家族を守ってくださって」
「お前の頼みだからな」
「ふふ。……やはり貴方は、私が認めた『英雄』ですわ」
シャルロットが俺の腕にギュッと抱きつく。やれやれ、王様の前でいちゃつくんじゃない。視線が痛いだろうが。
「……ふ、ふふ。若き英雄に、愛娘たちを盗られてしまったか」
国王が力なく、しかし楽しげに笑った。
寝室に、穏やかな空気が満ちる。外の喧騒も、逃げ出した宰相のことも、今は一時忘れよう。
俺は窓から差し込む陽の光に目を細め、ニヤリと笑った。
「さて、感動の再会も済んだことだ。……陛下、代金は高くつきますよ?」
「ああ……もちろんだ。我が名にかけて.....国を挙げて、報いるとしよう」
国王が穏やかに頷いた、その時だった。
「ちちうえぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」
ドゴォォォォォンッ!!
さっき宰相が出ていった扉が、今度は蝶番ごと吹き飛んだ。砂煙と共に現れたのは、筋肉の塊――第一王子マクシミリアンだ。
「ご無事で! うおおおおん! よかったですぞぉぉぉ!」
マクシミリアンは滝のような涙と鼻水を流しながら、病み上がりの国王へ向かって猛然とダッシュした。その勢いは、再会の抱擁というより、もはやプロレスのタックルだ。
「ちょ、兄上!? 父上はまだ……!」
シャルロットが悲鳴を上げる。あんな筋肉に抱きつかれたら、全快した人間でも骨折する。ましてや今の国王なら即死だ。
「父上ぇぇぇ! 愛の抱擁をぉぉぉッ!」
「……死ぬわボケ」
ドゴッ。
俺は無造作に右足を突き出し、突進してくる王子の顔面をカウンターで蹴り止めた。
「ぐべっ!?」
マクシミリアンの巨体が空中で静止し、そのまま仰向けにひっくり返る。
ズシィィィン……と部屋が揺れた。
「な、何をするヴェルト殿! 感動の対面を邪魔するとは無粋な!」
鼻血を出して抗議する王子に、俺は冷ややかな視線を下ろした。
「陛下は病み上がりだ。テメェのハグは致死量なんだよ。……少しは頭を使え、筋肉ダルマ」
「む……! た、確かに……! 危うく父上を愛の力で圧殺するところであった……!」
マクシミリアンはハッとして、自身の太い腕を見た。そして、「さすがはヴェルト殿、冷静な判断だ!」と一人で納得して親指を立ててくる。
「……はぁ。本当に騒がしい人たちですね」
シルヴィアが呆れたように溜息をつき、シャルロットがクスクスと笑う。
国王もまた、苦笑しながらも嬉しそうに息子を見ていた。
こうして、王都を覆っていた暗雲の一つは、暑苦しい筋肉の咆哮と、甘いバニラの香りと共に晴れ渡ったのだった。
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