28. 悪徳領主は王都へ向かう
メルザを見送り、俺たちはゾルダンでの拠点として借りていた宿のリビングに集まっていた。
「ふぅ……。ようやく静かになったな」
俺はソファに深く沈み込み、セバスチャンが淹れた紅茶を一口啜った。怒涛の数日間だった。ネロの借金騒動、王女の保護、そして『金喰い虫』の壊滅。だが、これらは全て「準備運動」に過ぎない。
「ですがヴェルト様、戦果は上々ですわ」
マリアがテキパキと荷物をまとめながら微笑む。
「メルザ様という強力な『尖兵』を世界に放ちました。これで裏社会への牽制は盤石。……いよいよ、本命の作戦ですね?」
「ああ。そのために、このひねくれ者を拾ったんだからな」
俺は視線を巡らせ、ソファでふんぞり返っている灰色の髪の少年?――ネロに止めた。
「おい、ネロ」
「あぁん? なんだよ、人使いの荒いご主人様」
一連の騒動に疲れ果てたのか、ネロは不貞腐れた態度で、テーブルの上のクッキーを貪っている。
「今回のメルザの治療、よくやった。……だが、お前、ただの『天才』じゃないよな?」
俺の言葉に、ネロの手がピタリと止まった。
「……何が言いたい?」
「お前の魔法解析能力は異常だ。あの複雑怪奇な呪いの術式を、一瞬で読み解き、最適な解呪手順を構築した。それは単なる知識や計算速度の問題じゃない」
俺はゲームの知識(設定)を脳内で引き出しながら、核心を突いた。何故かというと、ネロというキャラクターはゲームにおいて勇者の仲間になるタイミングでスキルを取得する。しかしこれがランダムなのだ、確率か未来どちらかを見ることが出来る。ゲーム進行においてはどちらでも問題は無いが、この世界でもそうなのか確認しておかなくてはならない。
ちなみにユニークスキルは鑑定では見ることはできない、そしてこのスキルはユニークスキルなのだ。
「お前のその目は、何が見えている? ……『成功の確率』か? それとも『未来の分岐』か?」
部屋の空気が張り詰める。ネロ・アリス。彼の真の恐ろしさは、魔法の才能ではない。そのユニークスキルにある。
「……チッ。気持ちわりぃな、お前」
ネロはバツが悪そうに視線を逸らし、頭をガシガシと掻いた。
「『確率視』だ。俺の目には、あらゆる事象の『選択した物事においての確率』が数値で見える。……どの魔力回路を切れば成功するか、どのタイミングで魔法を撃てば当たるか。全部、答えが書いてあるように見えるんだよ」
「なるほど……! だからカジノでも負け知らずで、大儲けだったんですね!」
ニーナが手を叩いて納得しているが、ネロは苦々しい顔をして吐き捨てた。
「あぁん? ばーか。逆だよ。だから借金まみれになったんだよ」
「えっ? 確率が見えるのにですか?」
ニーナが首を傾げる。
「俺が見えるのは、事象が確定する『直前』だけだ。ルーレットが止まる寸前に『あ、これ100%外れるわ』ってのが見えちまうんだよ」
ネロは忌々しそうにガリッとクッキーを噛み砕いた。
「天才の俺様が『負ける』って未来を突きつけられるんだぞ? ……ムカつくだろ? だから、外れる未来が確定した瞬間に、魔法でルーレット台ごと吹き飛ばして『無効試合』にしてたんだよ」
「「…………」」
俺とニーナは顔を見合わせた。 なんて迷惑な客だ。
「……なるほど。で、破壊した弁償代と違約金で、莫大な借金を背負ったわけか。クズだな、お前」
「うるせぇ! 負けを認めるよりマシだろ!それに悪徳領主に言われたくねぇ」
開き直るネロに、俺は呆れつつも納得した。この歪んだプライドと、常識を破壊する力。それこそが、今から挑む難関には必要なのだ。
「安心しろ。そのイカれた力、俺の計画には不可欠だ。有効に使ってやるさ」
俺は立ち上がり、今後の指針を示すために全員を見渡した。
「さて、次は王都へ向かう。目的は二つ。『勇者アレクの救出』と『国王の救済』だ」
「――ッ!?」
勇者という単語にニーナが、その両方にシャルロットが同時に反応した。
「……やはり、貴方はすべてご存知でしたのね」
シャルロットがパチリと扇子を閉じ、鋭い視線を俺に向けた。
「以前、わたくしが『勇者アレク殿が行方不明』とお話しした時は、随分と他人行儀な反応でしたのに。……『重要な情報を私如きに』なんて仰っていたのは、やはり狸芝居でしたの?」
「……悪かったな。あの時はまだ、殿下にどこまで明かしていいか判断に迷っていてな。だが、このゾルダンでの貴女の覚悟と立ち回りを見て、考えを改めた」
「……考えを、ですか?」
「ああ。貴女はただ守られるだけの姫じゃない。泥を被り、リスクを背負ってでも目的を果たす度胸がある。……俺の共犯者になり得る器だとな」
俺の言葉に、シャルロットは一瞬きょとんとし――それから、かつてないほど嬉しそうに微笑んだ。
「ふふっ。悪名高いヴェルト様にそこまで認められるなんて、光栄ですわ。……ええ、ええ、ようやく信用していただけたようですわね」
彼女は満足げに扇子を開き、流し目で俺を見た。
「でしたら、私のことも『殿下』ではなく『シャルロット』と呼んでくださいな。共犯者なのでしょう?」
「……ッバキィ!!」
その瞬間、部屋の隅から何かがへし折れる音が響いた。恐る恐る振り返ると、マリアが満面の笑みを浮かべたまま、荷造りしていたトランクの取っ手を素手で粉砕していた。
「……おやおや。手が滑ってしまいましたわ。申し訳ありません、ヴェルト様。……ですが、王女殿下? 幾らヴェルト様に認められたとはいえ、いきなり名前呼びとは少々『距離感』が近すぎるのではなくて? 私ですら、まだ主従の壁を超えておりませんのに……」
背後から立ち昇るどす黒いオーラ。俺とシャルロットは引きつった笑みを浮かべ、見なかったことにして視線をニーナへ移した。
「ところでニーナ、貴女どうして泣きそうな顔をしてますの?」
「えっ……私……」
ニーナがドギマギする様子を見て、シャルロットは瞬時に悟ったようだ。
「……なるほど。わたくし、勇者様のお姿は国王への挨拶の際におみかけしただけなのですが、その時、教会の人間が仰ってましたの『勇者と聖女が同じ村で同時に見つかるなんて幸運だ』と、聖女ニーナと勇者アレクは、幼馴染なんですのね? だからヴェルト様は、教会の聖域である塔を襲撃してでも、彼を奪おうとしている」
「……ま、それだけじゃないんだがな」
俺はニーナに向き直り、真剣な顔で告げた。
「ニーナ、悪いがアレクの救出は『後回し』にする」
「えっ……?」
ニーナの顔が曇る。だが、これは必要な事だ。
「誤解するな。見捨てるわけじゃない。アレクが幽閉されている『白亜の塔』の警備は厳重だ。確かに今の俺たちで正面から挑めば、勝てるかもしれないが、混乱に乗じてアレクが人質に取られる可能性がある」
原作でも勇者が塔に幽閉されるルートは存在する。チュートリアルで攫われる様なルートは存在しないが、おそらく洗脳に掛かる時間は変わらないだろう。であればまだ「洗脳教育」の初期段階。教会にとっても貴重な「素体」であるため、傷つけられることはまずない。
「アレクにはまだ時間がある。奴は教会の『大事な兵器』だからな。そう簡単に殺されたり、壊されたりはしない」
「そ、そうですか……ヴェルト様がそう言うなら信じます……」
ニーナが胸を撫で下ろす。
「だが、国王陛下は別だ。……そうだろ、シャルロット様?」
俺が話を振ると、シャルロットは深刻な表情で頷いた。
「はい。父上は謎の病に伏せっておられます。教会は『不治の病』と言い張り隔離していますが……。あれは病ではなく、教会による『呪い』ではないかと」
「そう.....以前にも話しましたが、あれは教会が仕込んだ、毒....呪毒だ」
俺の言葉に、シャルロットが息を呑む。そして俺はネロを見た。
「ネロ。お前の『目』なら、その呪いが見えるか?恐らくメルザにやったこととさほど変わらないはずだ、ネロが解析してニーナが癒す」
「……実物を見てみなきゃ分からんが、呪いなら構造が見える。成功率100%のルートが見えれば、どんな高等な呪いだろうが治せるぜ」
「決まりだな」
俺はニヤリと笑った。
「まずは王城へ向かい、ネロの力で国王の呪いを解く。恩を売り、シャルロット様が実権を握れるように誘導する。そうなれば、教会やついでに教会に協力している腐った貴族どもを一掃する大義名分が得られるわけだ。」
「なるほど……! 王家の権力を使って教会に圧力をかければ、『白亜の塔』の警備も手薄になる、ということですわね?」
シャルロットが目を輝かせる。
「その通り。外堀を埋めておくことに越したことはない」
「……ヴェルト様。貴方は本当に、悪知恵が働きますのね」
うん、褒め言葉として受け取っておこう。
「よし、方針は決まったな。目標は王都、王城への潜入ミッションだ!国王を治療し、勇者を奪還する!」
「「「はいっ!!」」」
「行くぞ、野郎ども! 俺の、俺たちの平和な生活のための、地盤固めだ!」
こうして、ゾルダンでの休暇は終わりを告げた。次なる舞台は王都。まずは国の頂点である国王を救い、その後に勇者を救う。最強の面子による、国盗りにも等しい大博打が始まろうとしていた。
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