番外編 年末アークライト家のコタツと年越し蕎麦
2025年の年越し話です。本編無関係なので読み飛ばして問題ございません。よくある作者の独り言みたいなもんです。
ここは、本編とは一切関係のない、時空の狭間にある「アークライト家のとある一室」。そこには、異世界ファンタジーにあるまじき『四角い暖房器具』が鎮座していた。
「……ふぅ。2025年も終わりか」
ヴェルトはドテラを羽織り、コタツに下半身を突っ込んでミカンを剥いていた。その横では、ジャージ姿の聖女ニーナが、どんぶり鉢を抱えて幸せそうな顔をしている。
「ヴェルト様、この『お蕎麦』って美味しいですね! 麺なのに、喉越しが良くて、いくらでも入ります!」
「ニーナ、お前はさっきから餅も食ってるだろ。喉に詰まらせるなよ」
「大丈夫です! 私の食道は超筋肉で出来てますから!」
「意味が分からん」
ズズズッ、と音を立てて蕎麦を啜るのは、この場にいるのが不思議なメンバーたちだ。
「おい、悪徳領主。なんなんだこのぬくぬくした魔道具は」
ネロがコタツに肩まで潜り込み、顔だけ出して不満(?)を垂れている。
「一度入ると出られなくなる呪いでもかかってるのか? 俺様の強靭な精神力をもってしても、トイレに行くのが億劫なんだが」
「それは『魔の家具コタツ』だ。人を堕落させる最強の兵器だからな。諦めろ」
「……あむっ。美味しい」
その対面では、本編で救出されたばかりのメルザが、なぜか普通に馴染んで蕎麦を食べている。
「あの……私、さっきまで暴走した怪物だった気がするんですけど……」
「ここは番外編だからな。細かいことは気にするな。ほら、海老天やるよ」
「あ、ありがとうございます……」
メルザは素直に海老天を受け取り、サクサクと齧り付いた。平和だ。
「皆様、お代わりはいかがですか?」 「お茶も淹れ直しましたよ」
割烹着姿のマリアと、作務衣姿のセバスチャンが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。この二人は何を着ても似合うし、何を作らせてもプロ級だ。
「ふふ、日本の風習というのも趣がありますわね」
シャルロットがコタツの上で百人一首を並べながら微笑む。
「『年越し蕎麦』には、一年の災厄を断ち切るという意味があるそうですわ。……ヴェルト様、来年はどんな『悪徳』をなさるおつもりで?」
「決まってるだろ。もっと楽をして、もっと贅沢をして、安全に暮らすんだ」
ヴェルトはミカンを放り投げ、口でキャッチした。
「本編じゃあ、なんか俺が『化け物』だの『最強』だの言われてるが……俺はただの一般人だからな。来年こそは、ニーナやセバスたちの後ろに隠れて、平和なスローライフを送る予定だ」
「「「…………」」」
全員の手が止まり、生温かい視線がヴェルトに集中した。
「……ヴェルト様、それは無理というものです」
「ですね。だってヴェルト様ですし」
「トラブルの方から寄ってくる体質だろ、お前」
「........うるせぇ! 」
ヴェルトが叫ぶと、どこからともなく除夜の鐘の音が聞こえてきた。ゴーン、ゴーン……。
「あ、年が明けました!」
ニーナが立ち上がり(コタツ布団が持ち上がってネロがひっくり返った)、満面の笑みで叫んだ。
「皆様! 2025年はたくさん応援ありがとうございました! 2026年も、筋肉と聖女パワーで頑張ります!」
「調子のいい奴め……。ま、俺様も活躍してやるよ」
「私も……恩返し、しなきゃね」
ネロとメルザも笑う。マリアとセバスチャンが深々と頭を下げる。そしてシャルロットが扇子を開いて口元を隠す。
ヴェルトはため息をつきつつも、微かに口元を緩めた。
「まあ、退屈はしなさそうだな。……よし、それじゃあ」
ヴェルトは手にした湯呑み(中身は最高級の緑茶)を、コタツの上にいる仲間たちへと掲げた。
「野郎ども、よく聞け。来年も俺の方針は変わらん。俺が楽をして、贅沢三昧をする。そのために、お前らは馬車馬のように働いて、俺の平穏を守り抜け。いいな?」
それはあまりに自分勝手な、まさに悪徳領主らしい言い草だった。けれど、その場にいる全員が、呆れたように、けれどどこか嬉しそうに笑って杯を掲げ返す。
「承知いたしました。貴方様の平穏は、我々が鉄壁の布陣でお守りします」
「はいっ! ヴェルト様が寝ている間に、邪魔な敵はすべて筋肉で解決しておきます!」
「へいへい。ま、退屈しない一年にはしてやるよ」
「ふふ、お手柔らかにお願いしますわね?」
カチン、と湯呑みやグラスが触れ合う音が、心地よく響いた。
「よし。……良いお年を」
ヴェルトがボソリと呟くと同時に、窓の外で新年を告げる鐘の音が、ゴーン、ゴーンと厳かに鳴り響く。
コタツの温もりと、蕎麦の湯気。そして、頼もしくも騒がしい仲間たちの笑顔。そんな穏やかな空気の中で、2025年の幕が下りる。
最強の悪徳領主とその一家。彼らの新しい一年は、きっと騒がしく、そしてとびきり愉快なものになるだろう。
【本年は大変お世話になりました!】 読者の皆様、2025年の年末に書き始めたばかりの『チュートリアルで死ぬ悪徳領主』を応援いただき、本当にありがとうございました!皆様の応援のおかげで、無事に年を越すことができました。来年も引き続きよろしくお願いいたします!




