19. 王女の秘密
最近、あまり伸びてなかったので完結させちゃおうかなと思ったりもしていたんですが、いいねを定期的にしてくれてる方がいて励みになっています。一応ストックも結構あるので当分は頑張って投稿しようと思います(´・ω・`)いつもありがとうございます。
歓楽都市ゾルダン。その熱気は、昼下がりになっても衰えるどころか、夜に向けて加速していくようだった。
「……あー、ダメだ。人が多すぎる」
大通りの雑踏の中で、俺は額の汗を拭った。俺たち一行――俺、マリア、セバスチャン、ニーナ、シャルロット王女、そして従僕のグラン。総勢6名での移動は、想像以上に困難だった。特に、煌びやかなドレス(お忍び用に着替えたとはいえ目立つ)の王女と、それに遜色のない美貌を持つマリア、そして筋肉質なジャージ聖女という組み合わせは、すれ違う人々の視線を釘付けにし、自然と人だかりができてしまう。
「これでは聞き込みどころではありませんね。目立ちすぎて、人探しどころかカモを探す詐欺師ばかり寄ってきます」
セバスチャンが、近づいてきたスリの手首を笑顔で締め上げながら言った。
「そうですわね。……ヴェルト様、提案がありますの」
シャルロットがパチンと扇子を閉じた。
「このままぞろぞろと歩くのは非効率ですわ。分かれて探しましょう」
「分かれて、ですか?」
「ええ。セバスチャンとマリアは、裏通りの治安の悪い場所――『ゴミ捨て場』のような酒場を中心に探してください。そういう場所は、あなた方の得意分野でしょう?」
「……ム。確かに、路地裏のドブネズミを探すなら、私一人の方が早いですわね」
マリアが納得したように頷く。
「そしてグラン。貴方はニーナ様をお願いします。彼女のような純朴な方は、悪い大人に騙されそうですから」
「承知いたしました。……ニーナ殿、私のそばを離れぬよう。この老骨がしっかりお守りしますぞ」
「は、はいぃ! お爺ちゃん、お願いしますぅ!」
ニーナがグランの袖を掴む。老従僕と孫娘のようで、微笑ましい絵面だ。
「そして……残ったヴェルト様は、わたくしの護衛をお願いしますわ。表通りのカジノや、少し格の高い店を回りましょう」
「ちょ、ちょっと待ってください! なぜヴェルト様がそちらに!?」
マリアが即座に噛み付くが、シャルロットは涼しい顔で切り返した。
「あら、マリアさん。貴女、ドレスコードのある店に入れますの? そのメイド服で? わたくしとヴェルト様なら、貴族の兄妹としてカジノに入れますけれど」
「ぐぬぬ……! 服装でマウントを……!」
「それに、裏社会の情報収集は貴女にしか頼めませんの。……ヴェルト様のために、一番大変な泥仕事を任せられるのは、貴女しかいませんわ」
この一言が効いた。
「……ヴェルト様のため。一番大変な仕事……。ふふ、ふふふ。そうですわね、私こそがヴェルト様の影。光の当たらない場所で敵を屠るのが私の愛……」
マリアがブツブツと呟きながら、恍惚の表情で納得してしまった。流石王族といったところか、人を使う才能があるな。
「――ですが、シャルロット殿下。一つだけ忠告しておきますわ」
マリアの声から感情が消える。周囲の気温が数度下がるような、絶対零度の囁き。
「断腸の思いでヴェルト様をお任せしますが……もし、二人きりの間にヴェルト様に色目を使ったり、既成事実を作ろうとしたりしたら………その綺麗な首が胴体と繋がっている保証は、ありませんよ?」
殺気というより、もはや呪詛に近い警告。だが、シャルロットは扇子で口元を隠し、涼しい顔で微笑み返した。
「あら、怖いですわね。ほほほ、肝に銘じておきますわ」
「ふふふ、そうしてください。……では、行ってまいります」
マリアは能面のような笑顔を残し、セバスチャンと共に裏路地へと消えていった。
(……おい、今ぜったい洒落にならないこと言ってたよな?)
俺は冷や汗を拭った。この王女も王女で、あのマリアの脅しを正面から受け流すとは、やはり只者ではない。
こうして、俺たちは三つの班に分かれ、数時間後に広場の噴水前で合流することになった。
◆
喧騒から少し離れた、運河沿いの遊歩道。俺とシャルロットは、並んで歩いていた。周囲にはカップルや観光客が多く、これならただの貴族の散歩に見えるだろう。
「……うまくマリアを撒きましたね、殿下」
「ふふっ。だって、貴方と二人でお話したかったのですもの」
シャルロットは悪戯っぽく微笑むと、少しだけ声のトーンを落とした。
「……ヴェルト様。貴方は、不思議な方ですわね」
「と、言いますと?」
「ただの地方領主の息子が、なぜ、この広い大陸の片隅にある街で、優秀な魔法使いが燻っていることまで正確に知っているのです?王家には情報収集についてはかなり優秀な部隊がいるんですのよ?このわたくしですら知らないような情報をヴェルト様がご存じとは思えませんの」
ギクリとした。やはり、この王女は鋭い。俺がネロのことを知っているのは、前世のゲーム知識だ。この世界で優秀な魔法使いは貴重な存在だ。そもそもそういった魔法使いは学生として学校に通っていたり、要職についていたり世俗と離れて暮らしているのが殆ど。こんな歓楽街にフリーで優秀な魔法使いがいることが異常なのだ。それをアークライト領の領主の息子が、ピンポイントで態々出向いてまで捜索しに来るなど、不自然極まりない。
(ただ、この時点のネロは魔力が異常に高く頭も良かったが、ゲームのファンの間では『ひねくれものの魔女』って言われてるだけあって性格に難があるんだよなぁ。勇者と行動することでそこら辺が改善されていくんだが......まぁそこらへんを追求されるとめんどくさいからみんなには優秀な魔法使いとだけ伝えているけど。)
「……まるで、最初から何かを知っているかのような動きですわ。わたくしには時々、貴方がこの世界を遥か高い場所から俯瞰しているように見えますの」
「……ただの勘と、噂話ですよ。耳が早い商人が出入りしていますので」
「....嘘はお嫌いですわ。……でも、追求はしません。誰にでも秘密はありますもの。わたくしにも、ね」
シャルロットは運河の水面を見つめ、寂しげに目を細めた。
「ねえ、ヴェルト様。わたくしがなぜ、あのような場所で襲われていたか……気になりまして?」
「……王位継承権争い、でしょうか?」
俺はゲーム知識に基づいた模範解答を口にした。この国の王位継承権争いは熾烈だ。第一王子の『武断派』と、第二王女の『穏健派』。そして中立を保つ第三王女のシャルロット。これは一般的にもまことしなやかにささやかれている。
ゲーム中盤では、この派閥争いに主人公たちが巻き込まれていくわけだが。
「ふふ、誰もがそう思いますわよね。……でも、違いますの」
シャルロットは首を横に振った。
「わたくしの命を狙ったのは、兄様でも姉様でもありません。……おそらく『教会』ですわ」
「な……ッ!?」
俺は思わず足を止めた。教会だって? 原作ゲームにおいて、聖教会は中盤まで『中立・善』の組織として描かれている。裏で暗躍していることはプレイヤーにはわかるが、表立って王族、しかも王女の暗殺を企てるような暴挙に出るのは、物語の終盤もいいところだ。
「意外そうな顔をされていますわね。……実は今、父上――国王陛下が、原因不明の病で伏せっておられますの」
「陛下の病……それは、高齢によるものでは?」
「いいえ。……毒ですわ。それも、解毒魔法を受け付けない、呪いのような毒」
シャルロットの声が冷たくなる。
「わたくし、見てしまったのです。教会の枢機卿が、父上の寝室から出てくるのを。そしてその直後から、父上の容態が急変したのを」
「……まさか、教会が国王を暗殺しようと?」
「ええ。そして、それを目撃したわたくしを『異端』として処分しようとしている。……兄様や姉様も、教会に上手く取り入られているか、あるいは欺かれています。それぞれ独自に動いてはいるようですが、今は連携も取れず、誰が敵かもわからない状態……。王宮でまともに動けるのは、わたくし一人だけ」
だから、彼女は城を抜け出し、自ら調査に動いていたのか。俺の背筋に冷たいものが走った。
(おいおい、話が違うぞ。ゲームじゃ国王が倒れるのは『魔族の刺客』のせいだったはずだ。それが教会? しかもこんな早い段階で?)
勇者の誘拐。 国王への毒殺未遂。 王女の暗殺未遂。
全ての点と点が繋がる。この世界における『聖教会』は、俺の知るゲームの教会よりも遥かに凶悪で、そして行動が早まっている。やはり俺がチュートリアルを生き延びたことで歴史が狂ってきているのか? ...いや、それだけでここまで歴史が変わるか?ゲームにおいても俺の存在は他の物語に関連したような内容は無かったはずだ。
だが、その毒について俺には心当たりがある。「解毒魔法を受け付けない、呪いのような毒」。ゲーム本編でも、国王は同じ症状に倒れる。犯人は魔族とされていたが、症状は一致している。『紫怨の呪毒』だ。そして、その治療法も俺は知っている。
(ゲームでは、通常の回復魔法では治せず、勇者たちが奔走するイベントだ。最終的に国王を救ったのは……『魔法知識』と『聖女の力』の融合だった)
魔法のエキスパートであるネロが毒の構造を解析し、聖女ニーナがその解析に基づいて特殊な浄化魔法を注ぎ込む。この二人の協力によってのみ生成される『対呪毒術式』だけが、王の命を救う鍵だったはずだ。
「……ヴェルト様。わたくしが貴方に興味を持ったのは、その強さだけではありません。貴方は教会の聖女を連れていながら、教会の『首輪』を壊し、自由にさせている。……貴方なら、この狂った盤面をひっくり返せるのではないかと思いまして」
「……やはり、バレていましたか」
俺は観念してため息をついた。
「庭師というには、ニーナの装備は目立ちすぎましたね。『聖女の鉄甲』なんて国宝級のアイテムをつけていれば、王族の目をごまかせるはずもない」
シャルロットは「ええ」とクスクス笑った。
「最初は驚きましたわ。伝説の聖遺物をナックルとして使いこなす庭師だなんて。でも、彼女のあの純粋な魔力と、教会特有の所作……隠しきれていませんもの。わたくしは実際に聖女様は見たことがなかったのですが、すぐにわかりましたわ。ヴェルト様も、わたくしが気づいていると分かった上で、茶番に付き合ってくださったのでしょう?」
(……買い被りすぎだ。俺は必死に誤魔化そうとしてたんだよ。まあ、バレていたなら話は早い)
俺は苦笑いで誤魔化しつつ、彼女の瞳を真っ直ぐに見返した。
「殿下。陛下の病……諦めるのはまだ早いかもしれませんよ」
「え……?」
「俺が昔読んだ文献に、似たような症状の記述がありました。『呪毒』と呼ばれるその毒は、通常の回復魔法を弾きます。ですが……『攻撃的な魔力による毒の分解』と『聖なる魔力による再生』を同時に行えば、中和できる可能性があるとか」
「攻撃と、再生……?」
「ええ。つまり……今探している『魔法使い』と、俺が連れている『聖女』。この二人が揃えば、陛下の呪いを解けるかもしれない」
俺の言葉に、シャルロットが息を呑んだ。絶望の中にいた彼女の瞳に、微かな、しかし確かな希望の光が灯る。
「……まさか。だから貴方は、魔法使いに固執して……?」
「さあ、どうでしょうね。俺はただの人材マニアですよ」
俺は肩をすくめた。正直、国王のことは想定外だったが恩を売っておくにこしたことはない。だが、これではっきりした。ネロを仲間にするのは、勇者救出(物理無効結界の突破)のためだけじゃない。この国の王を救い、教会の陰謀を暴くためにも、あいつは絶対に欠かせないピースなのだ。
見捨てるわけにはいかない。勇者を取り戻すためにも、この王女との協力関係は不可欠になる。……いや、それだけじゃないな。たった一人で、味方もいない中で巨大な組織に立ち向かおうとするその気概。……正直、嫌いじゃない。道中で軽口を叩き合った仲だ、多少なりとも情が移っちまったってことか。それに、敵が教会だというなら、俺たちの利害は完全に一致している。
「……殿下。俺はアークライト家の当主代行として、自分の平穏と領民を守るためなら、相手が神様だろうと喧嘩を売る男ですよ」
俺はニヤリと笑ってみせた。
「そこは自分の平穏が優先ですのね」
「それはまぁ。しかし、教会の横暴は目に余りますね。……その喧嘩、買いましょう」
シャルロットの顔が、パッと輝いた。
「ふふっ、やはり貴方は面白い方ですわ! ……契約成立、ですわね」
彼女が握手を求めてくる。その手を握り返した瞬間――。
ドォォォォォンッ!!
街の向こう、裏通りの方角から、巨大な爆発音が響き渡った。
「な、なんですの!?」
「あの方角は……マリアたちが向かったエリアか?」
黒煙が上がっている。嫌な予感がする。 俺とシャルロットは顔を見合わせ、爆心地へと走り出した。
……厄介なことになっていないといいが
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