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99.いいえ、これは立派な『火属性魔法』です

「ふざけるな!今のはどう見ても明らかなルール違反だろうが!!」


「待機エリアから大将を壁にめり込ませるなど、前代未聞だ!王立学園チームを即刻失格にしろ!」


 第二回戦の終了宣言から数分後。


 大闘技場の運営席には、各国の代表団から怒号とクレームが殺到していた。


 当然である。1対1の勝ち抜き戦という神聖なルールにおいて、ベンチで寝転がっていた男が「昼寝の邪魔だ」という理由で放った風圧デコピンにより、試合中の大将が吹き飛ばされて決着がついたのだ。これを反則と言わずして何と言うのか。


「わ、私に言われても困るわよ!あんたたちだって見てたでしょ!?」


 特級審判のアステリアは、各国からの猛抗議に取り囲まれ、顔を真っ赤にしてパニックに陥っていた。


「だいたい、ただ指を弾いただけで広域殲滅魔法が消し飛んで、大将が壁にめり込むなんて、そんなデタラメな事象がルールブックのどこに載ってるっていうのよ!魔法戦の審判資格しか持ってない私に、あの理不尽な物理現象をどう捌けって言うのよぉ……ッ!」


 エリートとしてのプライドを粉々にされ、半ば涙目で抗議を突っぱねるアステリア。


 だが、他国の代表団も納得しない。闘技場が暴動寸前の空気になりかけた、その時だった。


「――皆様。少し、落ち着いてくださる?」


 魔法拡声器を通した、甘く、そして背筋が凍るような声が闘技場全体を制圧した。


 特等席のメルフィ・アンスバッハだ。


「確かに、待機エリアからの干渉は明確なルール違反ですわ。他国の方々が怒るのも無理はありません」


 メルフィは扇子をパチンと閉じ、極上の笑みを浮かべて俺を見下ろした。


「ですが、ここで彼らを失格にしてしまっては……少々、退屈すぎますわよね?そこで、特別講師である私から、彼らにペナルティとして『特別ルール』を追加することを提案いたしますわ」


 メルフィの瞳が、獲物を狙う蛇のように細められる。


「ヴェルト・フォン・アークライト。次戦より、貴方の『物理的な直接攻撃』および『物理干渉』を一切禁じます。相手を倒す手段は『魔法』のみ。……もしも貴方が、拳や蹴り、あるいは物理的な風圧で相手に危害を加えた場合、その瞬間に王立学園チームは失格といたしますわ」


 会場が静まり返った。


 そして次の瞬間、他国の代表団から歓声が上がった。


「なるほど!魔力放出値ゼロのあの男から、物理攻撃を封じるのか!」「ハッ!魔法しか使えないルールなら、あんな無能、ただの案山子かかしだ!」「流石は聖女さま!」


 魔力がない俺にとって、物理攻撃の封印は「手足をもがれた」に等しい。メルフィの悪意に満ちた縛りプレイの提案に、他国は一転して大賛成の姿勢を見せた。


「……ヴェルト。どうするのよ」


 クリスが顔を青ざめさせて俺を見る。


「魔法しか使えないなんて、論理的に考えて貴方には勝ち目がないわ。ここは私が……」


「いや、俺が出る」


 俺はベンチから立ち上がり、首をコキリと鳴らした。


「あのクソババア、俺を縛り付けて絶望する顔が見たいんだろうが……。生憎、俺は『魔法』も得意でね」


「は?あんた、まともに魔力出せないじゃないのよ」


「……まあ、見てろ」


 俺はニヤリと笑い、闘技場の中央へと歩み出た。



「第三回戦!王立魔法学園VS帝國軍事魔導院!」


 アステリアが、今度こそまともな試合になることを祈るような声で宣言した。


 相手は、重装甲の魔導鎧を着込んだ帝國の巨漢だ。


「フハハハ!運の尽きた男よ!物理が封じられた無能など、我が帝國の魔導装甲の前では赤子も同然!」


 1番手から、帝國の大将が巨大な魔導盾を構え、全身に何重もの防御結界を展開する。


「さあ来い!貴様のその貧弱な魔力で、この絶対防壁に傷一つでもつけられるものなら――」


「おい、審判」


 俺は帝國の大将を完全に無視し、アステリアの方を見た。


「ちゃんと見てろよ。俺の『魔法』を」


「えっ?あ、あんた、本当に魔法なんて使えるの……?」


 アステリアが怪訝な顔をする中、俺は足元に転がっていた、先ほどの試合で砕けた闘技場の『小石』を一つ拾い上げた。


「フハハ!なにを拾っている?まさかその小石を投げつける気か?物理攻撃は反則な上に、そんな小石で我が絶対防壁に傷がつくわけもなかろう!」


 帝國の大将が鼻で嗤う。


「安心しろ。石をぶつけるなんて野蛮なマネはしねぇよ」


 俺は小石を親指と中指の間に挟み、闘技場の端に立つ帝國の大将へ向けて、軽く構えた。


(……圧倒的な【筋力】と【敏捷】。この全運動エネルギーを、この小石一点に圧縮して弾き出す)


 極限まで圧縮された筋繊維が、ミシッ……と微かな悲鳴を上げる。


 そして。


「食らいな。俺のオリジナル火属性魔法……そうだな、名付けて『極炎流星プラズマメテオ』だ」


 パァンッ!!!!


 俺の指が小石を弾き出した瞬間、空気が破裂した。


 音速を遥かに凌駕する速度で射出された小石は、大気との凄まじい摩擦によって瞬時に燃え上がり、周囲の空気を巻き込んで超高温のプラズマの火球へと変貌したのだ。


「――なッ!?」


 帝國の大将が反応する間もなく、白く輝くプラズマの流星が、彼の絶対防壁に直撃した。


 ズドォォォォォォォォォンッ!!!!!!


 轟音と閃光が闘技場を包み込む。


 圧倒的な熱量と衝撃が、重装甲の魔導鎧をドロドロに溶かし、帝國の大将は悲鳴を上げる暇もなく、黒焦げになって後方の壁まで吹き飛ばされた。


 救済結界が真っ赤に発光し、かろうじて彼の命を繋ぎ止める。


 焼け焦げた匂いと、オゾンの臭いが闘技場に充満していた。


「「「…………」」」


 数万の観衆が、言葉を失ってその光景を見つめている。


 壁にめり込み、白煙を上げている帝國の大将。


 そして、指先から微かな湯気を立たせている俺。


「あ、あ、あ……」


 他国の代表から、震える声が上がった。


「ふ、ふざけるな!!今のはただ石を投げただけだろうが!!明らかな物理攻撃だ!失格だ!!」


 その抗議に、俺は冷ややかな視線を向け、面倒くさそうに首を掻いた。


「……はぁ?どこに目ぇつけてんだ、三下」


 俺は溶けてドロドロになった壁のクレーターを指差した。


「見ろよ、あの焦げ跡を。石をぶつけただけであんな風に燃えるわけねぇだろ。あれは摩擦熱を利用して大気をプラズマ化させた、立派な『火属性魔法』だ」


「なっ……!?摩擦熱って自分で言ってるじゃないか!それは物理現象だ!」


「いいや、魔法だ。火花が出て、相手が燃えた。これのどこが物理だ?なぁ、審判?」


 俺は【威圧】のオーラを微かに漏らしながら、特級審判のアステリアを振り返った。


「ひぃッ!?」


 アステリアの肩がビクンと跳ねる。


 彼女は、俺の指先から放たれたデタラメな熱量と、今も俺から漂う「逆らったらミンチにするぞ」という無言の圧力を前に、顔を真っ青にしてガタガタと震えていた。


「そ、それは……えっと……」


 アステリアは涙目で他国の代表と俺を交互に見比べた。


 確かに現象としてはただの投石だ。だが、実際に生み出されたのは数千度のプラズマ火球。これを物理と言い切るには、あまりにも常軌を逸している。


「おい、特級エリート。俺の『火属性魔法』、ちゃんと見えたよな?」


 俺がもう一歩距離を詰めると、アステリアはついに限界を迎えた。


「ひ、ひぃぃぃッ!み、見えました!見えましたからぁっ!」


 彼女は半泣きになりながら、ヤケクソ気味に腕を振り下ろした。


「ひ、火属性魔法の直撃により、帝國大将戦闘不能!しょ、勝者!ヴェルト・フォン・アークライトォォォ!!」


「ええええええええっ!?」


 他国チームから絶望の悲鳴が上がる。


 待機エリアでは、クリスが頭を抱えてしゃがみ込んでいた。


「……摩擦熱でプラズマ化って……。論理が死滅してるわ……」


「さすがヴェルト様です!とっても熱い『魔法』でした!やはり筋肉は全てを解決するのですね!」


 ニーナだけが、拍手喝采で俺を褒め称えている。


 そして特等席では、メルフィが扇子を取り落とし、目を丸くして固まっていた。


 魔力を封じればどう足掻くか。そう期待して課したルールを、まさか『ただの物理攻撃を魔法と言い張る』という、小学生の屁理屈のような方法で突破されるとは夢にも思わなかったのだろう。


 一方、闘技場の最も高い位置にあるロイヤルボックスでは、他国やメルフィの絶望とはまったく別の意味で歓声が上がっていた。


「わっはっはっは!見たか、あれが我らが王立学園の誇る代表リーダー!流石は英雄殿、実に見事な『火属性魔法』であった!」


 国王が腹を抱え、豪快に笑う。


「ええ、ええ!摩擦熱で大気をプラズマ化させるなんて、ヴェルト様はなんて情熱的で素晴らしい魔法使いなのでしょう……っ♡ああ、わたくしまで燃え上がってしまいそうですわ」


 第三王女のシャルロットが、うっとりと両頬に手を当てて熱い吐息を漏らす。


「ふ、ふんっ!あんなのただの野蛮な石投げじゃないの!……ま、まぁ、特級審判が『魔法』だと認めたんだから、文句はないですわよね!流石は私だけのアイスの契約者ですわ!」


 第二王女のシルヴィアも、顔を真っ赤にしながらツンデレ全開で得意げにふんぞり返っていた。


 下界のパニックなど知る由もなく、遥か上空のロイヤルボックスだけが、完全に身内贔屓の歓喜に包まれていた。


 一方、熱気と絶望が入り交じる闘技場のアリーナでは――。


「……さあ、次は誰だ。俺の『氷属性魔法』と『風属性魔法』も見てみるか?」


 俺が凶悪な笑みを浮かべて挑発すると、残りの代表チームの生徒たちは、一斉に顔を青ざめさせて後ずさったのだった。

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