1話 入学式、そして始まり (小説版)
〈きみは男の子
もし明日
理想の人に告白されるとしたら
なんて答える?
きみの理想は何?
きれいな人?
それとも可愛い系?
ショートヘア?
それともロング?
体型は? 身長は? 足の長さは? 胸の大きさは………?
―――もし、全部選べるとしたら……
———本当に付き合えるんだとしたら……
きみはこれからずっと
『きみのまま』でいられる?〉
○
「気まずいよな……そりぁ」
入学初日。人で溢れる通学路を歩きながら、侑斗はひとりごとのようにこぼした。
「何が気まずいんだ?」
すると突然、背後から聞き慣れた声が飛んできて、侑斗はビクンと肩を上げる。
振り返ると、そこには羽瀬俊大が立っていた。
「……俊大!? って、お前いつの間に……」
「ちょうど後ろ姿が見えたんだよ」
「あー……」
納得するように侑斗が口を開いていると、
「で?」
再び、俊大が何か聞きたそうに声を出す。
「さっきのだよ? ブツブツひとりで呟いてたじゃねーか」
「…………っ!」
慌てて視線を逸らす侑斗。
「……何でもねぇーよ、別に……」
「それ、『あるやつ』が言うセリフな」
「……………」
気まずがる侑斗を見た俊大は、わざとらしく肩をすくめた。
「―――ま、いいかそんなのこと。別にどうでもいいし」
「なら始めから聞くなよ………」
そんな軽口を交わしながら、ふたりは校門をくぐっていく。
しかし会話は続かず、静かな時間だけが流れていった。
(そういや、前にもこんな話したな)
○
クラス分けの掲示板前で、侑斗と俊大はいったん別れることになった。
侑斗が確認を終えて戻ると、俊大はすでに人混みの外へ出ていた。
「どこだった? クラス」
侑斗が問いかけると、俊大が顔を向ける。
「4組。お前はどう———」
そこまで言ったところで、人混みの方から目立つような声が耳に入る。
―――えっ、みよりも2組!?
ひとりの女子を中心に騒ぐ女子たち。
「そう言えばさぁ」
俊大はその女子の声にちらりと目を向けたあと、唐突に切り出した。
「前から思ってたんだけどさ……お前、生田のこと好きなんだろ?」
「は………ッ!?」
侑斗は全身を固くする。
「いや……だってお前、生田といる時毎回挙動おかしくなってただろ」
「…………!!」
「図星だなあこりぁ」
「———いや、違うッ。そうじゃなくて……」
「じゃなくて?」
(やっべー、話逸らさねぇと……)
「みんなも気づいてたのか? そのこと」
「そのこと……?」
俊大が首をかしげる。
「だから……おれが挙動おかしかったってこと」
「あー………そりゃあないだろうなぁ。別にいないだろ、興味あるやつなんて。お前地味だし」
「……まぁ、たしかにそう———」
「で、どうなんだよ? さっきの質問。やっぱり好きなのか?」
(げ………)
「おれは………」
———何が好きなの?
その言葉を遮るように、女子の明るい声がふたりの間に割って入る。
生田みよりと、その取り巻きのイチカとユカだった。
「————ッ!?」
(生田さん……!?)
俊大がみよりに気づき、軽く手をあげながら言いかける。
「おー、生田。ちょうど今おま———」
余計な一言を止めるため、侑斗は俊大の口を慌てて塞ぐ。
『お、おいッ! 何すんだよいきなり!!』
「こっちこそッ、何話そうとしてんだっ!!」
取っ組み合いのような形になる彼らを、女子たちは唖然と見守る。
「まったく、男子ってホントこういうこと好きですわな~」
そう、呆れたように言ったのはイチカだった。
「そうかな?」
首をかしげるみよりに、イチカが笑う。
「みよりは今まで見てこなかったのー? しょっちゅう、こういう喧嘩みたいなのしてた男子いたでしょ?」
みよりは侑斗たちを霞むように見つめ、ぽつりとつぶやいた。
「あー、たしかに……。そんなこともあったかも?」
「えっ!? 私知らないよ!? そんなこと」
ユカが目を丸くすると、イチカは苦笑する。
「あー……ユカは天然だから多分説明しても無駄だと思う」
「……え、なんか私今バカにされた……?」
「うんん、そんなことない。ユカはユカらしくいてねーって話」
「私らしく………?」
「あっ、終わった……!」
みよりが言うと、皆の視線がすぐに男子のほうへ向けられる。
侑斗と俊大は息を切らし、ようやく距離を取っていた。
「……で、ふたりはさっきから何で争ってた?」
イチカが問い詰めるように言う。
みよりも、俊大のほうをちらりと見た。
「いやっ、ホントに何もないから……ッ!」
侑斗が慌てて否定するも、
「ないわけないでしょう? さ、白状白状!」
容赦なくイチカが追い込む。
侑斗が俊大へ助けを求めるように目を向けると、俊大は口を開かず静かだった。
さすがに空気を読んだように見えた———が、
「あっ、それなら私聞いてたよ! 少しだけ」
唐突なみよりの爆弾発言に、侑斗の呼吸が止まる。
「えっなになに!? なんて言ってた!?」
イチカが食いつき、みよりはゆるい調子で答えた。
「えっとー……何かのことを好きなのか、それとも好きじゃないのか、みたいなー……」
「えっ、何それ……!? もしかして恋バナ!?」
女子三人の視線が侑斗に集中する。
〈いやいや……何て言えばいいんだよ!!
てか、このまま黙ってたらやばいんじゃないか……!?
早く何か言わねぇーと……〉
焦燥に駆られる侑斗を横目に、俊大が唐突に笑った。
「ははははっ! 違う違う!! 俺たちは普通に『映画の話』をしてただけだよ。昔の映画とか言っても、どうせ分かんねーだろ?」
「えー……。って、ホントに映画の話ー?」
「ホントだよ」
「……ふーん」
イチカが半信半疑で頷くと、俊大はひらりと手をあげた。
「んじゃ、俺はあっちの方にでも行くっかな。別の組としゃべっててもしょうがないし」
そう言って去っていった。
「羽瀬って何組なの?」
イチカが侑斗に尋ねる。
「さっき四組って……」
「ふーん。……ならーーーって………何だったっけ名前……」
思い出せない様子のイチカに気まずくなる侑斗。
そこでみよりが明るく言った。
「鳴見くんだよ! イチカ」
「……え、そんな人いたっけ……?」
「―――って、失礼ってばもう~!!」
(あはは……。おれも人のこと言えねぇ……)
「そっかそっか。じゃあ鳴見くんは何組だったのー?」
もう一度、悪びれなく聞き返すイチカ。
「二組」
「あー、だから……」
「……?」
思わず侑斗が首をかしげていると、
「え! 鳴見くんも二組だったの!?」
みよりがぱっと目を輝かせた。
「……あ、うん」
「そっか~。じゃあ結構多いねー、同じ中学の人」
「多いって言っても、大半は知らない学校の人たちだけどねー」
やや残念そうに、イチカは言う。
「でも少し安心しない? 知り合いがいるって」
そんなイチカに対して、みよりは明るい顔でそう口にした。
「私も私も! みよりちゃんと一緒なのうれしい~!!!!」
みよりの言葉に反応するかのように、突然ユカが話に入ってくる。
そしてみよりとユカは、すぐに意気投合したように両手でハイタッチする。
ふたりの様子を見ていたイチカは、少しだけ口角を上げた。
「ま、同じ中学同士仲良くしていきましょーや」
イチカがそう言うと、
「だね!」
「うん!」
元気よくふたりもそう返してきた。
「さてと。そろそろ移動でもするかー、もうすぐ入学式始まるし」
上にある時計を見ていたイチカは、すぐに話を切りだす。
「え! もうそんな時間!?」
「ウチらしゃべり過ぎなんだよ、さっきから」
そのやり取りの最中、みよりは今まで存在が薄れていた侑斗のほうへ振り返った。
侑斗は思わず息を呑み、目を丸くする。
「またね!」
「………うん」
「あっ、違った」
「……?」
「これからよろしくね、鳴見くん!」
にこりと言い残し、みよりは友人たちのもとへ戻っていく。
「……………」
(本当ワケが分からんというか、なんというか………
あれは一体
何の『宣言』だったんだろう……)
彼女の背中を見ながら、侑斗はただその場で呆然と立ち尽していた。
〈中学が終わる最後の日
おれは突然、生田さんから告白された
そしておれはその告白を
あっさり断った〉




