6話 お隣さん
○学校
朝のホームルーム前、段々と騒がしくなる教室の中ひとり、侑斗は机の上に肘をついた状態でぼおっとしていた。
その時ちょうど、机の上に置いてあったスマホの振動が鳴りだす。
侑斗はそれに気づくと、すぐに携帯を手に取った。
(俊大……)
『今日から部活忙しくなしそうだわ
すまんけど昼メシはひとりで食っといてくれ』
侑斗「…………」
返信を返しだす侑斗。
『勝手にぼっちって決めつけんな!!』
とだけ送った。
(まぁ……実際ぼっちなんだけどな)
侑斗は返信を待たずそのまま携帯の電源を切った。
程なくして担任が教室へと入って来る。
いつも通り、担任がする事務的な話を聞いていたら、ふとある話が耳に入りこんできた。
担任「席替えするぞー」
教室に少しだけヒソヒソ声が聞こえてきだす。
(席替えか)
○席替え後
侑斗が座る席。
そこからは、すぐそこに映る担任の姿が見える。
(よりにもよって一番前……)
〈なんてことを
一瞬思ったけど
それに気づい頃には
そんなこと
もうとうに吹っ飛んでいった〉
みより「おはよ、鳴見くん!」
侑斗「おはよ……」
侑斗がそう返すとみよりは微笑む。
驚きと同時に、少しの高揚感があった。
なぜそんな気持ちがわいたのか、自分としても不思議だった。
担任「さあ時間ないからさっさとホームルーム済ませるぞ! まずは———」
(なんでおれ、こんなに嬉しがってる……
いや、多分あれだ
いきなり女子が
話しかけてきたから
きっとそれで
気分が上がってるんだ
そう、いつものやつ……)
侑斗「…………」
侑斗が見ている担任の視界が少しぼやける。
担任「それじゃ、今日も1日サボらず授業受けるようになー」
「特に高井は、国語の時に寝てたって先生から報告受けたから、今後は気をつけるんだぞ~」
少しの沈黙。
学校も始まって間もないため、笑い声など一切起こらない。
一瞬だけ男子クラスメイトの高井に注目が集まる。
担任「んじゃ解散〜」
担任が手を叩く音が教室中に鳴り響く。
その音で侑斗は目が醒めるようにぱっと目を見開いた。
気がついたらみんなは席から離れていて、さっそくクラスメイト同士集まりだしていた。
みより「鳴見くん」
突然声をかけられた侑斗は、驚きながら横を向いた。
みより「聞いてた? 先生の話」
「あっ……」と、気づいたように声にだす。
その後、侑斗は「うんん」と首を荒く横に振った。
侑斗「なんか言ってた? 先生」
みより「うーん……」
「鳴見くんが授業中に寝ないようにって」
侑斗「え……!?」
みより「ふふっ、ウソウソ」
侑斗「…………」
みより「それよりよろしくね。隣の席同士」
侑斗「あ、うん……」
そのタイミングで、端っこの席からみよりを呼ぶイチカの声が聞こえる。
みよりは「はーい!」と元気よく口にするとともに、イチカ達がいる方へと向かおうとする。
侑斗は、心なしかみよりの方へと視線を向けていた。
みより「またね」
みよりは小声でそう言うと、小ぶりで手を振りながらここを去っていった。
侑斗は気づいていないが、この時ユカはじっと侑斗の方を見ていた。
○昼休み
キーンコーンカーンコーンという四限の授業終了を告げるチャイムの音と共に、生徒たちが一斉に散らばりだす。
食堂で昼食を食べに行く者、あるいは購買に向かう者。
そして教室に残る者。
彼らは弁当を持参しているため、毎回教室の中で昼食を取る。
今までの侑斗はそのどちらでもなかった。
後者のごとく弁当を家から持参していたという点は同じだが、ここ教室ではなく誰もいない物理室で。
しかし今日からは違う。
今まで昼食をともにしていた俊大は、部活に励む関係で他の場所で昼食を取るとのこと。
おそらく、同じ部活同士で昼食を済ますのだろう。
対し自分は、俊大以外に一緒に昼食をともにできる人などいないため、致し方なく教室で昼食を済ませようかと考えているところだった。
すなわち『ぼっちメシ』というやつだ。
そして今、侑斗は持参した弁当の風呂敷を解いている。
みより「あれ? 鳴見くん、今日教室?」
いつも———と言ってもここ2日だけの話だが———弁当を持って移動していることを、当たり前のように認知しているみよりに少しだけ驚く。
侑斗「……あぁ、うん。友達、部活で忙しいらしくて」
みより「そうなんだ」
と言っているうちに、みよりの友達であるイチカたちがここに集まってきた。
イチカ「おーっす!」
侑斗「…………」
イチカ「てか隣だったんだ、みよりたち」
みより「あ、うん! そうなんだ!」
イチカ「……えーと、なんだったけ名前ー……」
侑斗を見ながら口にするイチカ。
みより「さすがにもうその手には乗らないよ?」
イチカ「……いや、本当に分かんないんだけど」
みより「え……」
イチカ「まっ、いっか別に」
「それより席替えしたけど、どこで食べるよウチら」
イチカの席の周辺には、もう他生徒たちで埋まっている。
それを見たみよりは「うーん……」と首を唸らせる。
イチカ「そういや、ユカの席ってどこ?」
ユカ「あそこ! ほら、後ろから二番目の―――」
ユカが指をさしたその先は、三人が座れるにちょうどいいスペースがあった。
イチカ「あっ、いいじゃん! あそこにしよ~」
○昼食
ユカの机を四人が囲む。
ちょうど今空いている席のイスを借りて、イチカたちは腰を据えていた。
三人とも、ひとつの机に並べてある弁当箱に手を伸ばす。
イチカ「ところでなんだけどさー」
黙々と弁当を口にしていた三人だったが、急にイチカが口を開く。
みより「……?」
イチカ「なんか仲よさげじゃない? みより。あの隣の人と」
イチカはほいと、一瞬だけ侑斗の方に顔をやる。
ユカ「…………!」
ユカも、イチカがその話題に触れたことに驚きを示す。
みより「うん! 席替えを機に友達になったの!」
イチカ「へー、友達ね。……てか、もう昨日の約束破ってるのね……」
みより「約束……?」
イチカ「まじか……」
「昨日ユカが友達できなくて不安って言ってたの覚えてないの?」
みより「あ……」
ユカ「大丈夫だよ、みよりちゃん!! わたし、全然気にしてないから!!」
みより「ホンっっとごめん! ユカ」
ユカ「だから大丈夫だって……」
ユカ(聞けない……
ふたりが付き合ってるかなんて……)
○侑斗視点
昼休みももう終わりが見え始めてきた頃、昼食を食べ終えた侑斗はお手洗いへと移動していた。
ちょうど今は、手を洗っていてトイレから出ようとしたタイミングだった。
(南根さん、ちゃんと約束
守ってくれてるかな……)
トイレから出て間もない中、突然スマホの振動が鳴る。
侑斗「……?」
ハンカチで水を拭き取った後、侑斗はポケットに入れておいたスマホを手に取る。
侑斗「………っ!」
『五限の授業、私も美術なんだけどさ』
『よかったら一緒に教室までどうかな?』
侑斗はスマホにメッセージを打ち込む。
『友達は? 一緒に行くんじゃないの?』
すぐに既読がついて、
『大丈夫! イチカたちは美術専攻だから!』
侑斗「一緒じゃないんだ……」
『いいけど、教室にいればいいの?』
するとまたすぐに既読がついて、
『うん!』
侑斗が『分かった』と返事を返すと、これまたすぐにありがとうのスタンプが送られてきた。
○美術室
イチカとユカ。
ふたり並んで座るその前方には、オリエンテーションの説明をする担当の先生の姿が。
本人たちは後ろの方の席が故に、先生のする話をあまり聞いていなかった。
イチカ「みよりって書道だったっけ?」
ユカ「あ、うん」
「入学式の日に、みよりちゃんに美術にしようって誘ってみたけど断られちゃった」
イチカ「それはユカの誘い方が悪かったんだよ」
ユカ「うんん」
「だってみよりちゃん、『他にやりたいことがある』って言ってたんだよ?」
イチカ「ふーん……」
「なんか意外。習ってたんかな? 書道」
ユカ「…………」
「どうなんだろ」
○書道終わりに
授業が終わりチャイムが鳴ると同時に、五人にも満たない数少ない生徒たちが書道室から出ていった。
遅れて出た自分たちは、今ゆっくりと廊下を歩いていた。
おそらくひとつ下の階からだろう。
三限の授業を終えた生徒たちの話し声が、微かに聞こえてくる。
自分らを除いて、ここには誰一人として人はいない状況だった。
みより「ねぇ、鳴見くん」
侑斗「……?」
みより「ひとつ質問があるだけどさ……」
侑斗「あ、うん。……何?」
軽い感じの口調だったから、侑斗は心なしかそれをすぐに受け入れる。
二時間もあった授業でのぎごちない会話が、少しは慣れてきたのかもしれない。
みより「なんで私の告白断ったの?」
次週は休載です。再来週には上がる予定です。




