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5話 誰にも言えない

○とある空き教室


 侑斗を連れてきた張本人である南根ユカは、侑斗の方を見ることなくキョロキョロと、周りを見回している。




 ユカ「ここ人来ないかなぁー……?」




 侑斗も、一度だけ周りを見渡す。


 人気もなければ、音ひとつ聞こえてない。

 彼女の言う懸念は、もはや皆無と言って等しく思えた。




 侑斗「……大丈夫じゃない? 多分人来ないと思うけど」




 振り向くユカ。




 ユカ「じゃあここにしましょう!」


 侑斗「…………」




 侑斗は、ユカが椅子に座るのを見て、倣うようにして向かい側にある椅子にに腰を下ろした。


 机越しに、彼女の顔が映る。




 侑斗はユカが口を開くまで待機することにしていたが、生憎と、彼女は口を開く様子がない。


 


 なぜだろうか。




 そんな疑問が湧いてくるとともに、侑斗は少しの気まずさを感じ取った。




 ユカ「……私、見っちゃったんです」


 侑斗「……?」




 ユカはそれだけ口にした。


 侑斗には、それが何のことか全く見当もつかなくて困惑の表情を浮かべる。




 ユカ「鳴見くんが昨日、みよりちゃんといっしょに帰ってるところ」


 侑斗「―――!」


 


 今までずっと下を向いていたユカが、急に前を向きだす。




 ユカ「ふたりはッ、その………付き合ってるんですか?」


 侑斗「……………」




 侑斗は一瞬戸惑いを見せたものの、冷静になりながら口を開く。




 侑斗「付き合ってない」


 ユカ「……………」




 できるだけ低く、侑斗はそう口にした。


 目の前にいる彼女に、それが本当のことだと伝わるように。




 ユカ「そう、ですか……」




〈どこまで口にすればいいんだ?


 こういう時って……




 付き合ってないのは


 本当のことだからいいけど




 友達って言ったら


 その経緯まで細かく聞かれそうで……


 


 さすがに


 『告白された』とは言いたくないし




 かといって、友達以外のことを言うにも


 全然いい答えが浮かんでこない〉




(まぁ……仕方ないか)




 侑斗は膝に手を乗せたまま、顔を上げる。




 侑斗「友達なんだ、生田さんとは」


 ユカ「友達……」


 侑斗「うん」


 


 一旦沈黙が流れたのち、再びユカが口を開く。




 ユカ「……本当に、そうなんですか?」




 眉間にしわを寄せる彼女を前に、侑斗の目が少しだけ見開く。




 ユカ「わたし……見たことないです。ふたりが喋ってるところなんて、一度も」


 侑斗「…………」


 ユカ「いっしょに帰るくらいだから、きっとすごく仲が良いんですよね?」


 侑斗「……別に、そんなことないよ」


   「あの時はたまたま会って、たまたま帰ろうってなっただけだし」




 ユカの怪訝な顔はいまだに晴れない。




 侑斗「それに……」


   「友達になったのは、高校に入ってからだから」


   「まだお互い、そんなには仲良くないんだ」




 ユカの表情が少しだけ驚きに変わる。




 ユカ「そう、だったんですか……」


 侑斗「うん」


 ユカ「じゃあ……」


 侑斗「……?」




 ユカの顔が急に赤に染まる。




 ユカ「わわわっ、わたし……とんでもない勘違いをぉぉぉ……」




 ユカの顔がより真っ赤になり、頭の上に湯気のようなものができだす。




 侑斗「大丈夫……っ。別に何とも思ってないから……」




 アワアワする彼女に対して、侑斗は少し引き気味に反応する。




 侑斗「それに……ふたりで帰ってるところなんて見たら、誰だって付き合ってるんじゃないかって普通は疑うよ」


 ユカ「そう……ですか?」


 侑斗「うんうん」




 コクコクと首を縦に振る侑斗。




 ユカ「でも……」


 侑斗「大丈夫だって。南根さんは何もしてないし、本当に気にしなくていいから。………ね?」


 ユカ「すいませんでしたぁ……」




 ポツンと頭を下げて忍びないとばかりに謝罪をするユカ。


 それを見た侑斗は、今にもこの雰囲気を払拭すべく別の話題を振ろうと考えていた。




 侑斗「……そういえば、南根さんって何か部活入ってる?」


 ユカ「え、部活……」


 侑斗「うん」


 ユカ「えーと……わたしは美術部に入りました。中学の時と同じで」


 侑斗「そうなんだ……」


   「今日は行かなくてもいいの? 部活」




 ユカは首を一回縦に振って、




 ユカ「はい! 美術部は大体いつも自由なので」




(自由……)




 ユカ「特に時間の指定みたいなものはなくって、好きな時にいつでも来てねって感じなんです」


 侑斗「へぇぇ……」


   「何だか楽しそう、美術部」




 心なし、独り言を呟く侑斗。


 それを聞いたユカは―――




 ユカ「興味あるんですか、美術部に?」




 侑斗は少し驚きを見せつつ、ユカと再び目を合わせる。




 侑斗「あ……いや、好きな時に行き来できるのがいいなって思っただけ。おれはあんまり絵に興味がないから……」


 ユカ「あ……そうなんですね」


   「じゃあ鳴見くんは何部に入る予定なんですか?」


 侑斗「…………」


   


 目を逸らしながら、




 侑斗「おれはいいかな……部活は」






○解散後、ユカ視点


 侑斗『ひとつだけお願いがあるんだけど……』


 ユカ『……?』




 廊下をひとり歩くユカ。


 浮かなく、どこか納得がいかないような顔をしていた。




ユカ「……………」




(なんでわざわざ


 そんなことするんだろう……




 別にふたりは


 ただの ‟友達” なのに……)




 そこでふと足を止めるユカ。


 心なしか彼女は、窓の外に映る曇り空に目をやる。




 ユカ「気になるなぁ……」




(明日、みよりちゃんに聞いてみようかな


 本人だし、いいよね……)


 




○翌日、学校


みより「おはよーっ、ユカ!」




 ちょうど昇降口で上履きを出すタイミングで、ユカの横から声がかかる。


 その声を聞いた瞬間、ユカはハッと驚くように彼女を見た。




 ユカ「………!」




 そんなユカの反応を見て、みよりは彼女を不思議そうな目つきで見つめる。




みより「……どうした?」


 ユカ「……うんん、何でもないっ! ちょっと驚いただけ」


みより「………そう?」


 ユカ「うんうんっ!」


みより「あはは、もしかして私の顔に何かついてた?」


 


 ブルブルと顔を横に振るユカ。




 ??「おーっす、みよりー!!」




 直後、突然みよりの後ろからまた別人の声がかかる。




みより「あ、おはよ! イチカ」




 イチカの存在に気づくなり、みよりはすぐに挨拶を交わす。




イチカ「ユカもおはよー!」




 今まで目を見開いていたユカは、イチカからかけられた声を機に冷静な顔つきに戻る。




 ユカ「うん。おはよ、イチカちゃん」




 そんなユカを真顔で見つめるみより。


 ユカはそれに気づいていない。




イチカ「……行かないの? ふたりとも」


みより「あー、行く行く!」




 三人とも教室へと移動し始める。






○昼休み


 入学式を終え、通常授業が始めってから数日が経つ。


 そんな中、イチカたち―――つまりは中学からのイツメンのまま、互いに机をくっ付け合い昼食をするというのは、もはや当たり前のように思えてくる。


 一部の例外もあるが、大体ほかの面々も同じ感じだ。


 元々同じ中学だった仲が良いもの同士がいまだ固まり、今のところまだ交流と言った交流もない。


 しかしこれも時間の問題と言えるだろう。


 今後の授業を通して、彼、彼女らはお互いに関わり合うことは絶対にあるのだから。




イチカ「はははははッ!!! それはないわ~、みより。絶対ないっ」


みより「いやいやッ、絶対あるってば~」




 騒がしい教室。


 しかし会話がはかどるふたりに反し、表情が晴れない者がひとりいた。


 


みより「……ユカ?」




 それに気づかないふたりではない。


 特にみよりは、すでに朝の時点から彼女の異変に違和感を覚えていた。


 イチカも自分らが会話する中で、放っといてはいたが一応の異変は感じ取っていた。




 ユカ「………え」


 


 今まで考え事ばかりしていたユカにとっては、いきなり自分の名前を呼ばれたことに驚くしかなかった。




みより「……大丈夫? なんかユカ、今日一日中変だよ?」




 触れずにいたイチカも、さすがに空気を読みだす。




イチカ「…………」


   「どしたん、ユカ? そんな顔して。全然いつもらしくないし、今日」


 ユカ「…………」


みより「何かあったの……?」


 


 本当に心配そうに、みよりは自分のことを見ていた。 


 その原因が、まさかきみにあるなんて……そんなの言いずらいことこの上ない。




 しかし、この気まずい沈黙をいつまでも続けるわけにもいかない。


 ユカは考える。


 誤魔化すか、それともこれを機に……




 ユカ「うんん」首を横に振るユカ。「なんでもない」




 それが、自然と漏れでた返答だった。




イチカ「なんでもないわけないじゃん。そんな顔して」


 ユカ「…………」




 けれど、ふたりだってその程度でごまかせるような人ではない。




 ―――どうしよう。




 心の中でそう思ったその間際だった。




イチカ「まー……いっか、別に。こういうのって強引に聞きだすものでもないし」


 ユカ「…………!」


みより「そう、だね……」




 ユカは唇を噛む。




 ユカ「ふたりは—――ッ」




 不意にユカがそう言い放つ。


 ふたりの注意は、自然とユカの方へと注がれていた。




 ユカ「ふたりは………もう新しい友達とか、できたの……?」




 その質問に、ふたりは思わず唖然と目を見張る。




イチカ「友達……?」




 速やかに反応を見せるイチカ。


 


 ユカ「う、うん……」


イチカ「……いや、ウチはまだできてないけど」




 ユカの視線がみよりの方に向く。




 ユカ「みよりちゃんは……?」




 慎重に、ユカは尋ねる。




みより「私もまだできてないよ」




(え……)





 ——— 友達になったのは、高校に入ってからだから






みより「なんで?」


 ユカ「あ、いや……みんなどうなのかなーって思って……」


みより「もー、ユカってば。まだ学校始まって3日だよ? いくらなんでも心配しすぎだってそれは」




 笑いながらそう言うみよりに、イチカも便乗して、




イチカ「あ……もしかして、ウチらが速攻で友達作って離ればなれになるって心配してたー?」




 目を見張るユカ。


 イチカはそれを勘違いして、




イチカ「あはははっ。そんなわけないじゃーん! ユカは相変わらず心配が過ぎるわ〜」


みより「そうだよ? 私たち、別に友達ができても離れようとか思わないから! ね!?」




 思惑と反して、ふたりとも自分のことを心配しだす。


 バレなかったことに安堵する自分もいたが、今はそれどころじゃなかった。




〈……え、どういうこと?


 


 友達なんじゃないの? ふたりは……




 なのに、なんで———〉






 ———その……このことは秘密にしておいてくれないかな?






〈なんで、秘密にするの……?〉




イチカ「そういえば見た? 昨日あかり先輩が練習してたの」


みより「あっ、うん! 見た見た! 高校になっても相変わらずエースって感じだったよねー」




〈やっぱりはふたりって……〉




次回は、来週の木曜日更新です。

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