4話 一生に一度の幸運
○下校
複数の生徒達が入り混じる中、侑斗とみよりはすでに各々の自転車を押しながら、校門めがけ歩き始めていた。
みよりから話しかけられる侑斗は、やはりどこか恥ずかしげで……
みより「———そうなんだ。やっぱり最初からは難しいよね」
「私も怖くて、結局身内同士で固まっちゃった」
侑斗「へぇぇ……」
みより「そういえば、鳴見くん。部活には入らないの?」
侑斗「あ……うん。今のところそのつもりはないかな。……少し面倒で」
みより「あはは、やっぱりかぁー。……鳴見くん、中学の時からずっとそう」
侑斗「………?」
みより「そういうみんなとは違うところ、私は好きだよけどね」
侑斗「…………!」
(攻めてるのか? これは……)
みより「えへへ」
侑斗は一度咳払いを入れて、
侑斗「生田さんは? 部活どこに入るの」
みより「私はバレーにしようかなって。中学の時と同じだね」
侑斗「そうなんだ……。バレー……」
その後、すぐに思いついたように
侑斗「え……だったらマズいんしゃないの? 今ごろ部活あってるんじゃ———」
みより「うんん、部活は明日から。今日は見学? なのかな……」
侑斗「……………」
(あー、なんかホッとした……)
〈その後、おれたちは
たわいもない話をしながら
別れ道までいっしょに歩いた
最初は
『仲良くなりたい』というのが
彼女の口実ではあったけど
それが
本当の目的じゃないと
気づいたのは
ほんの別れ際———
彼女が最後に投げかけた
その質問によってだった〉
侑斗はひとり道路に立ったまま、手元のスマートフォンに視線を落とす。
そのスクリーンには、チャットのやり取りができるメールアプリが映しだされている。
チャットには『よろしく』と書かれたスタンプだけが送られてあり、自分はまだ返信をしていない。
画面の左上の方には、送り主の名がそのまま記載されてあった。
ついさっきまで話していたみよりの名だ。
分かりやすく本名のままで
自分も、彼女が送ったのと同じ当たり障りのないスタンプを送り返した。
やるべきことを済ませたというように、侑斗は持っていた携帯をポケットにしまうと、今まで押していたその自転車にまたがりそそくさと移動し始める。
『それで? 結局お前がフッた理由は何なんだよ?』
『まぁ……いつか気が向いたらな』
侑斗「…………」
〈あの時俊大に
言えなかったのは
単におれが
気恥ずかしかったのもある
———けど
それよりは
まだ、自分でもなんで
生田さんをフッたのかが
明確に言語化できていなかったのが大きい
でも今回
生田さんに誘われて
いっしょに話していくうちに
段々と
その理由が何なのか
分かった気がした〉
○物理室
同じく昼休み、侑斗たちは昨日と全く変わらない状態で昼食を共にしていた。
侑斗「なぁ俊大」
俊大「ん? 今度は別の女子に告られでもしたのかー?」
侑斗「んなわけねーだろ……」
「…………」
「ちょっと話そうと思ってな、昨日言ってたおれが生田さんをフッたっていう理由」
俊大「……………」
その瞬間、俊大が手に持っていた弁当箱、そして今まで咀嚼のために動かしていた口をハッと止め、とても意外だと言わんばかりに、侑斗の方を見開いた目で見つめた。
その反応に、思わず侑斗は困惑の表情を浮かべる。
侑斗「………何だよ? そんな大げさな」
俊大「いや……まさか話すとは思ってなかった」
侑斗「いつかは話すって言っただろ?」
俊大「お前の『いつか』は本当に信用してない」
侑斗「…………」
「おれって今までそんなに信用されてなかったのかよ……。ちょっとショックなんだけど……」
侑斗「で、早く教えろよ。話してくれるんだろ?」
侑斗「あ、ああ……」
ごっほん、と侑斗は軽く咳払い。
侑斗「お前が言ってた通りだ。おれはずっと動揺してるんだよ、生田さんといる時」
俊大「…………」
侑斗「それでそんな自分に嫌気がさして……なんでなんだろうってふと考えたら、おれは『素の自分でいたい』んだって気づいたんだ」
「思えばおれ、生田さんと話したあとめちゃくちゃ精神的に疲れてたなって思ってさ」
「それが素の自分じゃない証拠っていうか……生田さんと接してる時は、自分が自分じゃないみたいになってるなって……ふと我に返ってみたら思ったって話」
「ふーん」と、あたかもどうでもいいことかのような返答をする侑斗。
俊大「要するにさぁ」
俊大は弁当を食べながら口を開く。
侑斗「………?」
俊大「生田といる時はカッコつけたいだけじゃないのか、それ?」
侑斗「……はっ!? なんでそうなる———」
顔を赤らめる侑斗。
俊大「おれにはそうとしか聞こえなかったなー。お前が生田のこと好きすぎて、言動が変わるくらい素の自分から遠ざかるっていう風にしか」
思わず意外な目で俊大を見つめる侑斗。
俊大「それが空回りし過ぎて、結果疲れてるんじゃねーの? 知らんけど」
侑斗「別におれは生田さんのこと………」
俊大「分かんねぇじゃねーか。お前がまだ自分の気持ちに気づけてないだけなのかもしれないし」
侑斗「…………」
俊大「まぁけど———」
そこで俊大は箸を止める。侑斗の方は見ないままに。
俊大「俺は時間の問題だと思うぜ?」
侑斗「時間の問題……?」
俊大「ああ。いくら何でも『このまま一生動揺し続ける』みたいなことはあり得ねぇだろ?」
「せっかく告白されたんだ、それもあの生田に。こんな幸運、もうこの先一生来ないかもしれない」
「だったらお試しにでも付き合ってみて、それで一旦様子見するっていうのも別にアリなんじゃないか?」
侑斗「…………」
〈俊大の言ってる通り
案外、慣れるものなのかも……
さすがに一生……なんてことは考えにくいし
ただおれが女子慣れしてないって方が
可能性としては高いのか……?
生田さんみたいな
見た目がいい人に対しては、特に……〉
侑斗「確かに……。それは一理あるかもな」
「だろ?」と、少し得意げに返事を返す俊大。
再び、食事を再開。
俊大「けど一度フッた手前、『また一度お願いします』なんてのも、当人にしてみれば相当恥ずいだろうけどなー」
侑斗「いや別に付き合う必要はねーだろ!」
俊大「は……!? この流れで付き合わねーのかよ!?」
侑斗「当たり前だ。……大体おれは、『一旦様子見する』っていうおまえの案に賛成しただけで、付き合うだとか一言も言ってねぇーし」
「それに友達としてでも成立はするだろ、全然」
俊大「はぁぁ!? なんだよ、それじゃあ面白くねーじゃねーかぁぁ」
侑斗「悪かったな、ご期待に沿えなくて」
つまんなそうな顔をする俊大。
(ま、試してみる価値はあるか。付き合うのは別として)
○教室、放課後
すでに何人もの生徒たちが教室から去ろうとしている中、みよりを含むほか何人かのグループもここから去ろうしていた。
イチカ「さぁ行こーぜ~、仲間たちよー!」
みより「うん、行こ行こー ♪」
みよりを眺める。今のところこちらを見てくるような素振りはない。
また何かしらのアプローチをかけてくるだろうと推測していたものの、そんな素振りすら見せることなく、彼女らは淡々とここから去っていった。
侑斗「……………」
スマホの画面に目を向ける。
そこには昨日交換したばかりのみよりの連絡先が。
そう言えばあの時したスタンプのやり取り以降、まだ向こうからの連絡は今のところ来ていない。
もしかして嫌われた? なんてことを一瞬思うも、さすがにそれは考えすぎだろうと首を横に振る。
(まぁ……慎重になるに越したことはないか)
と、携帯をポケットにしまい椅子から立ち上がろうとしたその瞬間―――
???「あの……」
侑斗「……?」
突如目に映ったその女子の姿に、侑斗は思わず目を見開く。
ユカ「このあと、時間ありますか……? 話があるんです」
侑斗「…………え?」




