2話 目撃
○人気のない階段にて
侑斗「あ、その……」
〈中学を卒業し
ほんとの本当に学校を去ろうとしたその直前
おれは
女子から告白された〉
みより「……う、うん…………」
〈告白された時は、本当に驚いた
なんでおれなんだ? って……
別に、仲がよかったわけでもない
三年ともクラスが同じではあったけど
他に何かあったかと言えば
たまたま授業でペアになった時に
少しだけ言葉を交わしたくらいなのもので
逆に言えば
それくらいしか関わりはなかった〉
「ごめん……」
「―――――」
———そんな顔をしないで
〈フッたにも関わらず
そんなことを思う自分がいた
まったく、なんてひどい人間なんだろう〉
「……………」
〈いつも笑顔で
きれいで、明るくて、かわいくて、勉強もできて……
あそこにいた
誰よりも輝いていた
そんなキラキラした人間が
絶望に浸っているような顔をしているのが
耐えらなかったのかもしれない〉
みより「―――あ、違うの……! ごめんね、急に黙ちゃって……」
侑斗「……あ……別に………大丈、夫……」
〈彼女が見せたその表情は
ほんの一瞬で
気がつく頃には
また元の顔に戻っていた〉
みより「いやー、もう卒業かぁ………。ホント早いよね~。あっという間だったよ、この三年間」
侑斗「……………」
みより「鳴見くんは? 高校、どこに行くの?」
侑斗「あ……おれは、楠木」
「———へぇぇ、じゃあ私と同じだ。私も楠木高なんだ」
侑斗「え……っ」
(それって……)
「だから、さ……」
「…………?」
「友達になってくれないかなって…………私と……」
「友達……?」
「……………」
今まで合わせていた目を逸らすみより。
「……………」
「その………ダメ、かな?」
「―――! ……いや、友達なら……別に……」
「ほんと……っ? ありがとう!」
「……………」
〈なんで友達なんだろう———
なんてことを
最初は思ってたけど
あれは
彼女なりの『方便』だったんだと
長い春休みを過ごすうち
ようやく気がついた
だってわざわざ
高校を確認してきたんだ
おそらくそういうことだったんだろう
だからおれは———
彼女の高校生活を邪魔しないためにも
あの告白を
全部なかったことにしようって
そう心に決めていた
そのはずだった———
……なのに〉
―――これからよろしくね、鳴見くん!
(なんで……)
○教室にて
新担任の挨拶が終わる
鐘の音が響く
周囲の話し声が聞こえだす
スマホに目を落とす侑斗。
メールのチャットには、『お前このあと暇?』と侑斗が送っている状況。
それをぼおっと眺めていると、返信が返ってきた。
『わりぃ、これから部活見にいくんだ。お前も来るか?』
すぐさま『行かない!』と返事をする。
運動しろ〜!という、とあるキャラクターのスタンプが送られてきた。
前方にある時計を確認すると時刻は十一時五十分で、ちょうど昼前だった。
昼休みはない。
中には弁当を食している者もいるけれど、それは俊大みたいな部活の様子を見に行きたい連中だけだ。
何もない侑斗にとっては、この後帰ることくらいしか予定はない。
周りはすでに友達同士でしゃべりっていて、新鮮な放課後の空気が流れ始めている。
(帰るか)
後ろの席で、ひとり目立たず席を立つ侑斗。
すぐさま教室を後にした。
○家にて
「あー疲れたっっ…………!!」
リビングにあるソファに飛び込むようにして横たわる侑斗。
そのすぐ横の床には、藍色をしたランドセルが置かれてある。
今年で小学三年生になる弟、勇介は、ソファで倒れている兄を、床に座ったまま(お姉さん座りで)眺めていた。
弟「どうしたの、お兄ちゃん?」
侑斗「………ん?」
何も動かず反応する侑斗。
「疲れたんだよー、色々と……」
「色々?」
「お兄ちゃんはかわいい女の子と話してきたんだー……」
「……うん」
「勇介は? 今日学校あったんだろ?」
「うん」
「始業式か?」
「うん」
「そっかー……。今年で何年になるんだったっけ?」
「さん」
「そっか、勇介ももう三年かぁ……。なんかあっという間だな。愛梨だって、もう中学だもんな」
「…………」
「そういえば愛梨は? アイツも今日学校行ってるんじゃなかったっけ?」
「うん。まだ帰ってきてない」
「そっか」
そんな時、ふと玄関の扉が開く音が聞こえてくる。
ふたりの注意が音が聞こえた方へと向く。
やがて現れるひとりの女子———愛梨。
彼女は何やらご機嫌な様子で鼻歌を口ずさみながら、堂々と侑斗の元、すなわちリビングを通り過ぎようとしていた。
「「……………」」
呆然とそれを見届けようとしたその時、突然侑斗が口を開く。
侑斗「愛梨っ! この後メシ作るけど———」
愛梨「ちょっと、今いいところだから話しかけないで!」
侑斗「…………」
直後に鳴り始める通話の着信音。
それは愛梨の持っているスマホからなっているもので、愛梨は「やば! かおりちゃんからだ!!」とはしゃぎながら自室へと去っていった。
扉が閉まるとともに、沈黙が訪れだす。
侑斗「……ったく、愛梨のやつ。完全に浮かれてやがる」
勇介「………?」
侑斗「勇介はずっとこのままいてくれよなー」
弟の頭を撫でる侑斗。
勇介「…………」
侑斗「さてと」
ソファから腰を上がる侑斗。
侑斗「今からご飯作るけど……何か食べたいものとかあるか?」
勇介「………」
「何でもいい」
侑斗「じゃあ、テキトーにチャーハンでも作るか」
侑斗は材料を覗きに冷蔵庫の方へと足を運ぶ。
侑斗「あ……」
がしかし、開けたその冷蔵庫にはほとんど(肝心な卵すらも)残っていないことに気づくのであった。
○スーパーにて
弟とふたりで、スーパーの野菜コーナーを歩き回る侑斗。
左手には、すでに卵や牛乳やらが入ったカゴが——
そして右手には、いつものように勇介と手を繋いでいる状態であった。
そこにいる大半は、主婦と思わしき女性や老夫婦などの姿が見受けられたが、中には女子高生や、同じく小学生くらいであろう数人のグループも見られた。
(何だか賑やかだな、今日は)
おそらく、自分と同じように今日が入学式どった学校が多いのだろう———そんなことを侑斗が推測している最中、
勇介「お兄ちゃん……」
侑斗「……ん?」
勇介「やっぱり手繋ぐの止める」
唐突に、勇介は少し恥ずかしげにそう言い放つ。
侑斗は、少し眉をひそめて、
侑斗「いいのか? もし迷子になったら———」
勇介「いい」
と、少し冷めた感じで告げられたので、侑斗はこれ以上口にすることなく握っていた手を離した。
最初は理由が分からなかったものの、再び周囲に目を向けてみるなり、侑斗は弟の気持ちを察した。
(勇介ももうそんな年ごろか……)
少し寂しげな表情を浮かべる侑斗。
すぐに向こうのお菓子コーナーがあるところに目を向ける。
そこには、キャッキャと騒ぐ中学か高校生くらいの女子たちがチラリと見受けられた。
(まさか、ここでばったり遭ったりな……)
侑斗はぶるぶると首を横に振る。
元々弟へのお菓子を買うつもりだったがその気にはなれず、侑斗は必要な食材だけをカゴに入れ、とっととレジへと向かった。
その際、偶然見かけたレジ横にあるキャラメルを見かけ、それをぽいとカゴに入れた。
やがて何事もなくスーパーを出口へと足を向けるふたり。
(まぁあるわけないか、そんなこと……)
侑斗はスーパーを出ると同時に、そう心の中で呟いた。
○
偶然、侑斗と同じスーパーに母とふたりで来ていたひとりの女子。
彼女は目を見開きながら、スーパーを出ていく侑斗たちを見ていた。
「………………」
(あれって……)
3話は来週金曜アップ予定です。




