9話 よくないやつ
―――友達と、初めて喧嘩をした
○ショッピングモール
ゲームセンターを出た侑斗と俊大は、帰りの電車を待つ時間潰しとして、どこか一休みできる場所を探している最中だった。
今は、人の入り混じるモール内の通路をふたり並びながら歩いている。
俊大「あ~、遊んだ遊んだ!」
「久しぶりゲーセン満喫したわー」
両手を頭の後ろにやりながら、満足げにそう呟く俊大。
侑斗「おれも小学生以来来てなかったけど……案外楽しんだな、こういうのも」
そして侑斗も、頬を緩ませそう言葉にする。
元々、ゲームセンターに行こうと言いだしたのは俊大の方だった。
最初それを聞いた時、侑斗はあまり乗り気じゃなかったが、結局は、俊大に半ば強引に連れられる形になった。
俊大「だろ?」
まるで最初からそう思うと確信していたかのように、俊大は言う。
侑斗「でも、最後のクレーンゲームは正直納得いかなかったけどな」
俊大「あははっ」
「大体そういうもんだよ、クレーンゲームは」
〈俊大とは
たまにこうやって
遊ぶことがある
思えば
中2で知り合ったあの頃から
続いていることだ
当時
友達と縁がなかったおれでも
こうして遊びを続けるうち
自然と
友達と呼べる間柄になっていた〉
俊大「―――あ、ちょうどいいところに。あそこに座ろうぜ」
ちょうど俊大が指さした場所には、休憩するにふさわしいソファが二台並べて設置されてあった。
ひとつは、おそらくカップルと思われる男女ふたりが居座っていて、お互い楽しそうにしゃべり合っている様子。
ふたりは特に躊躇することなく、空いてるもう片方の席へと向かう。
俊大「ちょっとトイレ行ってくるわ」
侑斗が「うん」と相づちを打ちながら返すとともに、俊大はそそくさと荷物をソファの上に置いて、近くにある手洗い場へと向かっていった。
ひとりになった侑斗は、真っ暗な携帯を両手に持ったまま、ぼんやりと前方を眺める。
(思ったより
遅れそうだな、帰り……
一応連絡入れないと)
早急に母への伝言を打ち込むため、携帯を漁り出す侑斗。
〈でも—――
最近
不思議に
思うことがある〉
俊大「―――すまん、待たせた」
少しして、俊大が少し足早に戻ってくる。
〈なんでおれなんかと
いまだに
つるんでるんだろうって―――〉
俊大「あと三十分くらいはゆっくりできるそうだな」
ソファに座った俊大は、さっそく携帯を見ながらそう告げる。
侑斗「三十分かぁ……」
〈どうせコイツのことだ
おれが友達いないからって
きっと気を遣ってるに違いない〉
俊大「まあそう退屈にすんなって」
俊大がそう言うものの、侑斗の顔つきに変化は見られない。
俊大「そういえばどうなんだよ、あれから」
侑斗「……?」
俊大「生田とだよ。なんかあったか———いや……何もないわけねえよな、普通に考えて」
侑斗「………」
侑斗にとってはあまり触れられたくないこと。
故に、どう返すのが正解かわからなかった。
俊大「告白して、それでフッたその相手がまた同じクラスだもんな……」
「お前、今絶対気まずいだろ」
言われ、侑斗は少し意外な顔をする。
(なんだ……
別におれのこと
面白がってるだけじゃ
なかったのか)
侑斗「別にそうでもない」
正直に侑斗がそう告げる。
すると俊大は少し驚きの表情を見せた。
侑斗「実は結構しゃべったりしてるんだ、生田さんと」
俊大「は、マジかよ……。お前から話しかけてるのか!?」
侑斗「なわけない。普通に向こうからだよ」
驚き、そして少しの間考える素振りを見せたあと、俊大は再び口を開く。
俊大「じゃあお前、今生田に猛アピールされてるんだな?」
侑斗「知らない」
「……でも、友達になろうとは言われた」
今まで信じられないという風に話を聞いてきた俊大であったが、ここに来てようやく落ち着きを取り戻しだす。
俊大「へぇぇ、お前もついにねえ」
侑斗「……?」
腰をソファにくっつけ、だらんと頭の後ろに両手をやる俊大。
俊大「仲良さそうだし、こうなったらいっそのこと付き合っちゃえばいいじゃないか」
「そもそも、お前のこと好きってのはもう分かってることなんだし」
そこで侑斗はふと頭に思い浮かべる。
あの日、まだ自分たちが物理室で昼食を取っていた時に交わした会話———
侑斗「前にお前、言ったよな」
俊大「……?」
侑斗「おれが気づいてないだけで、実は生田さんのことが好きになってる―――そういう可能性もあるかもしれないって」
俊大「ああ」
少しだけ目を丸くした俊大は、すぐさまそう返す。
侑斗「生田さんと話すようになって、少しは時間たったけど……」
静かにこぶしを握りしめる侑斗。
俊大の方は見ずに、そのまま口を開く。
侑斗「やっぱりおれ、あの人を恋愛的に好きだなんて思ってない」
俊大「…………」
侑斗「確かに好感は持った。……でもそれは友達として。純粋に生田さんのことを知るにつれて、あくまで『人』として好感を抱いたんだ」
「別に付き合いたいなんてことは、今まで一回も思ったこともなかった」
言葉にするにつれ、だんだんと確信に近いものを覚えていく。
おかげか今まで抱いていたいくつかの雑念も、いつの間にか吹き飛んでいった。
案外、こうやって人に向かって言葉にしてみるものだと―――侑斗は少しだけ頬を緩ませる。
俊大「本当にそうか?」
が、彼が発したその言葉によって、侑斗の顔は簡単に崩れてしまう。
侑斗「だからそうだって言ってるだろ」
口調こそ冷静だったものの、表情は強張っていた。
それは確認というよりも、まるでこちらを疑るような質問を投げかけてきたことに、ほんの少しの憤りを覚えたから―――
俊大「例の『素から遠ざかる』ってヤツは? あれはもう直ったのか?」
侑斗「………っ」
思わず目を見張る侑斗。
侑斗「それは……」
侑斗が目を逸らしている間に、俊大は再び口を開く。
俊大「俺はな………自分に嘘をついてまで見栄を張るみたいなこと、別にしなくていいと思うんだ」
「素直に自分の気持ちと向きあう―――その方がずっと幸せじゃねーか」
侑斗「違う……」
小さく、侑斗は言った。
俊大「何がだよ?」
体ごと向き直っている俊大とは対照的に、侑斗は身体どころか視線すら合わせていない。
ただ俯き気味に、暗い顔をしていた。
侑斗「それはお前が勝手に考えてることだ」
「おれは本心から言ってるんだ。そんな気持ちはないって」
俊大「―――いいや、お前は生田のことが好きだよ」
侑斗「は……っ?」
「なんでそんな分かったようなこと言えるんだよ? 他人のくせして」
俊大「お前の言いたいことは分かる。別に嘘ついてないってのも」
侑斗を半ば無視するような形で、俊大は続けた。
俊大「でも本当にそれは本心か? 大事なもの見落としてるんじゃねーか?」
「もう一回自分の心覗いてみろよ。じゃないとお前、この先ずっと後悔するぜ」
侑斗「―――した……」
少し強めな語気が響き渡る。
侑斗「した結果、こっちは違うって言ってるんだよ……っ」
俊大「違う。俺が言ってるのはそういうことじゃない」
「お前は、自分が信じたいものしか見てない。だからもっと素直になって、自分と向き合った方がいい言ってんだ」
俊大が諭す言葉を聞いているうち、だんだんと侑斗の顔は諦観を帯びていく。
侑斗「なんだ……そういうことかよ……」
俊大「……?」
急に聞き取れない―――まるで独り言かのような発言に対して、俊大は首を傾げる。
侑斗「口では面白がってるとか言いながら……本当は心の中でおれのこと見下してたんだな、始めっから……っ」
俊大「は……別に俺は見下してなんか―――」
侑斗「実際そうだろ」
「あの時……物理室でした話も、全部『カッコつけてる』『本心じゃない』なんて思って聞いてたってことだろ?」
俊大「いいや、あの時は本心だって思ってたよ」
侑斗「でもそれを……結果的に説教の材料にしてるじゃないか」
俊大「………っ」
侑斗「変わらない。お前はおれを見下してる」
俊大「だからそれは誤解……」
―――ねぇ、あっち行こ
突然、隣の席からそんな言葉が聞こえてきた。
周りが静かだったこともあって、女性の声は容易く耳に届く。
侑斗と俊大「「…………!」」
―――トンッ、トンッ。
ふたりのカップルたちが、自分たちの前を通り過ぎていく。
痛い視線が女性の方から送られてきて、思わずぎょっとした。
同時に、自分たちが我を失っていたことに気づく。
俊大「ごめん」
小さく、そう言い放った。
俊大「俺が悪かった。別にこんなことが言いたかったわけじゃないんだ、全然……」
侑斗「…………」
俊大「帰ろう……」
まだ三十分もたっていなかった。
けれどふたりは、静かな通りを会話もなしに歩きだした。
○別れ際
俊大「また遊ぼう、な?」
遠ざかる彼の背中を見つめながら、侑斗は気まずそうな顔をしていた。
○現在
みよりとふたりで目的の教室まで歩いている中、侑斗はふと週末あったことを思いだしていた。
〈違う……
やっぱりおれは
生田さんを好きだなんて
思ってない〉
―――いいや、お前は生田のことが好きだよ
侑斗「…………」
目を逸らす侑斗。
〈―――いいよ
だったら
克服してやればいい
誰と話しても
素のままの自分でいられるように〉
みより「―――鳴見くん?」
侑斗「……?」
みより「聞いてた? 今の話」
侑斗「……あ、ごめん。聞いてなかった……」
「だからね」と、続けるみより。
みより「今日のお昼、一緒にごはん食べない?」
瞬間侑斗は足を止める。
目を丸めた状態で、みよりを見た。
みより「……?」
急にその場で止まった侑斗を、みよりは不思議そうに見つめる。
みより「えっと……どう、かな?」
少しだけ、彼女の不安が垣間見える。
何気ない誘いでも、きっと勇気を持って口にしているんだ。
それにこれは―――
思いながら、侑斗は少しの間だけ考えを巡らせた。
侑斗「……う、うん」
みよりの顔から驚き、そして笑顔が映りだす。
みより「やったーっ!」
踊るように自分の返事を喜ぶ彼女を見て、侑斗は頬を緩めた。
次週の木曜更新。




