第二話 滲む記憶
私は――また死んだ。
しかし、次の瞬間。
ぽちゃん。
また、冷たい水の感触が全身を包んでいた。
冷たい。苦しい。
足首は変わらず重く、呼吸はできない。
肌に絡みつく水は、まるで氷のようだった。
何度沈んでも、この凍える感覚だけは消えてくれない。
どうしてだろう。
さっき、私は確かに死んだはずだ。
なのに、また――水の中だ。
身体が勝手に、上を目指す。
でも足首が痛い。引っ張られるような感覚。
必死に蹴っても、重いまま。絡んでる何かはちっとも外れてくれない。
こんなにも苦しいのに。どうして、わたしは――
沈まなきゃいけなかったんだろう?
誰かのために? そんな気がする。
でも、思い出せない。
苦しい。苦しい。
またあの水底からの声が響いて、
そのたびに、黒が私を飲み込んでいく。
また、だ。
ぽちゃん。
冷たい水が、また全身を包んだ。
何度も、何度も。
死んでも、また生き返って水に沈んでいく。
冷たさも、痛みも、恐怖も、消えていないのに。
足首は変わらず重く、呼吸はできない。
そして、また死ぬ。
だけど、何度目かの死の中で、
私は水面に浮かぶ何かを見た。
――小舟?
そこに、たくさんの人影があった。
祈るように、じっと手を合わせている。
どうして? なんで、ただ祈ってるの?
お願い、助けて。
声を出そうとしたけれど、
水の中では、喉が音にならない。
その人影の奥で、何かが歪んだ気がした。
世界が、滲んで、ゆっくりと剥がれていくようだった。
ふと、目に入った自分の姿。
白い――装束。巫女のような……。
どうして? なんでこんな格好をしてるんだろう。
それに、わたしは誰?
記憶が滲んで……思い出せない。
もう一度、意識が沈んでいく。
だけど、その暗闇の奥で、
誰かが泣いている気がした。
ぼんやりと、脳裏に浮かぶ記憶。
「やだよ、お姉ちゃん」
か細い声。必死に縋るような、泣き声。
あれは……わたしの妹?
どうして泣いてるの?
どうして、そんな声で私を呼ぶの?
わからない。
わからないまま、私はまた死んだ。