ブラッドウルフ(水星編の始まり)
病的な赤い空の下、地球の荒廃した広がりが果てしなく続いていた。かつて生命で溢れていた土地は、燻る腐敗の中で、かつての姿の抜け殻と化していた。都市は崩れ、森は枯れ、川は汚染で黒く流れていた。それでも、死にゆく世界の残骸の中で、一つの構造物が堂々とそびえ立ち、壊れた大地に不気味な影を落としていた。
シタデル。
黒曜石色の鋼でできた巨大な要塞は、神が玉座に座すように廃墟を見下ろしていた。そびえ立つ尖塔が天に向かって伸び、ギザギザの悪意で空を切り裂いていた。そしてその基部からは、何百ものドームが枝分かれし――完璧に左右対称で、破壊の中で不気味なほど清潔だった。
その目的は謎のままだった。
シタデルの中心部深く、ライオネルは壮大な玉座に座していた。彼の指はゆっくりと、意図的なリズムで叩き合い、鋭い爪が互いにカチカチと音を立て、世界を手中に収めた男の忍耐を示していた。光がないにも関わらず、影が不自然に彼の周りで揺らめき、炎のようにちらついた。彼の深紅の目は無関心に細められ、輝いていた。
彼の前では、女が空中で身をよじり、見えない手に体を歪められていた。彼女の周りの空気はライオネルの魔法でパチパチと音を立て、紫色のエネルギーの弧が彼女の肉に焼き付き、喉から叫び声を引き裂いていた。彼女の目は裏返り、体は苦痛で痙攣していた。それでもライオネルの表情は変わらなかった。
「退屈だ。」
鋭く甲高いアラームがその瞬間を打ち砕いた。
ライオネルはため息をつき、手を上げると、女は冷たい石の床に崩れ落ち、意識がほとんどないまま痙攣していた。彼女の周りのエネルギーは消散し、空気には焦げた肉の刺激臭だけが残った。
囚人…逃亡を試みている。
なんて面倒な。
シタデルの奥深く、錆と腐臭が漂う迷宮のようなダンジョンの中で、デーモンユーザーの一団が重厚な強化セルを守っていた。彼らの魔法のガントレットの薄暗く脈動する輝きが、壁を不気味な赤い光で浴していた。
セルの中では、アレクサンダーが太い鎖で縛られ、かつて強力だった体は無数のバイアルによって弱っていた。いくつかは暗い液体で満たされ、ほかはきらめく緑の毒素だった。ボタンを押すと、バイアルの一つがその中身を彼の血流に注入し、新たな痛みの波を彼に送り込んだ。
「そのものを安定させろ、すぐに!」看守の一人がアレクサンダーがもがく中、吠えた。体は彼を壊すための薬物に抗っていた。
「愚か者」ともう一人が軽蔑を込めて吐き捨てた。「これで能力が弱まる! 逃げ場はない、あきらめろ。」
鋼に響く重いブーツの音が彼らの注意を引いた。顔を隠すマスクに「2」の刻印がある人物が前に進み出た。
ランク2のデーモンユーザー。
彼は他の者より大きく、右腕は生のエネルギーで脈動する巨大なガントレットで覆われていた。躊躇なく、彼はセルの鉄格子越しに手を伸ばし、アレクサンダーの顔を掴み、指を顎に食い込ませるほどの力で締め付けた。
「愚か者」と彼は嘲笑った。「時間の無駄だ。」
彼の拳がハンマーのように振り下ろされ、アレクサンダーの腹に叩きつけ、肺から息を奪った。アレクサンダーは喘ぎ、鎖にもたれながら息が荒くなった。
「やめない…」彼はかすれた声で、しかし折れない意志で言った。
仮面の男は暗く笑った。「まあ、すぐに君を始末してやる。」
アレクサンダーは反抗的に唇を歪めたが、体は裏切り、毒素が血管を流れるせいで震えていた。
看守はさらに近づき、悪意に満ちた声で言った。「見ろ…」彼は両腕を広げ、突然陽気な口調になり、マスクがその瞬間を楽しむように傾いた。「朗報だ…お前の息子が死んだぞ。」
アレクサンダーの息が詰まった。
「…嘘だ。」
ランク2は肩をすくめ、セルドアがヒューと閉まる音を背に踵を返した。「信じるか信じないかは君次第だ」と彼は鋼のように冷たい声で言った。「死ぬのは俺じゃない。」
ドアが響く音を立てて封鎖され、アレクサンダーは息苦しい闇に一人残された。
そして…突然、アレクサンダーの視界がぼやけた。
何――
すべてが暗転した。
彼は果てしない虚空に立っていた。暗く、静かで、圧迫的。
空気は肌に押し付けられるように厚く、息を詰まらせ、監視しているようだった。ブーツが動くと、気持ち悪いぐちゃぐちゃ音がした。彼は下を見た。
血。
広大な血の海があらゆる方向に果てしなく広がり、彼の重さで波打っていた。深紅の表面に歪んだ彼自身の輝く金の目が映っていた。
「…これは新しいな」とアレクサンダーは鋭く息を吐きながらつぶやいた。
その時、声が。
彼の名前。
「アレクサンダー・セントリオン…」
ゆっくりと振り返ると、寒気が走った。
目の前に立っていたのは――彼自身だった。
だが、この姿は間違っていた。完全に赤く、血が彼の正確な形に成形された生き物のようだった。燃えるような目の光が闇を突き刺し、彼を震えさせる強さで彼を見つめていた。
アレクサンダーは不安を隠すように軽く笑った。
「これは不気味だな」と彼は言った。「ブラッドウルフか?」
その存在は動かなかったが、声は空間に響き、彼自身の完全な反響だった。
「そうだ。」
アレクサンダーは息を吐き、腰に手を置いた。「で、俺に何を求めている?」
「脱出しなければならない。」
アレクサンダーの笑みがわずかに広がった。「そんなにまずい状況か?」
「そうだ。」
ブラッドウルフはゆっくりと一歩進み、足元の血が不自然に波打った。
「時間はあまりない」とそれは続けた。声は落ち着いていたが、冷たい何かが含まれていた。「お前の時間は終わった。能力を渡さなければならない。」
アレクサンダーの amusement が一瞬揺らいだ。
「ちっ」と彼は腕を組んで嘲笑した。「やりたいのは山々だが、ちょっとした問題がある。」彼は虚空を指した。「まだこのクソくらえの監獄に閉じ込められてるんだ。」
ブラッドウルフの目がより明るく燃えた。
「お前の能力は進化した。」
アレクサンダーの目が見開いた。
何…?
「時間がない」とブラッドウルフの声が響き、急を要していた。
「脱出しろ!」
周囲の世界が震え、足元の血が激しく波打った。
「その後は何をすべきか分かっている…」
アレクサンダーは息を吐き、肩をほぐした。ゆっくりと、邪悪な笑みが顔に広がった。
「よし…すぐに彼らと合流するかな。」
目がパチッと開いた。
再び、冷たい金属の独房の壁に囲まれていた。魔法の鎖の重さが肌に食い込み、抑制呪文で焼けるようだったが、何か…違っていた。体が生のエネルギーで脈打ち、血管を流れる力がまるで解き放たれるのを待つ獣のようだった。
それじゃあ…アレクサンダーは深く息を吸い、筋肉を緊張させた。試してみるか。
全力を込めて鎖に抗った。筋肉が燃え、血管が膨らみ、生の力が魔法の縛りに立ち向かった。独房が震えた。アラームが鳴り響いた。
「またやりやがった!」
看守の一人がのろい、制御パネルに慌てて駆け寄った。
「バイアルを注入しろ! いつもそれで黙る!」
鋭いヒューという音が空気を満たし、もう一つの抑制液のバイアルが血流に注入された。効果は即座だった――体が抗議し、四肢が重くなった。
だが今回…彼は止まらなかった。
筋肉はさらに強く押した。腕は弱さではなく、新たな何か――覚醒で震えていた。
「もう一度やれ!」
別のバイアルが血管に注入された。
何も起こらなかった。
突然、鋭い音が空気を裂いた。魔法の鋼がうめき、信じられないことが起きた。
ドーン!
鎖が砕けた。
看守たちの間にパニックが広がった。
「や、奴が突破した?! ど、どうやって?!」
一人が震える声で通信機を操作した。
「囚人104が脱走! 至急支援を――」
言葉は途切れた。
ドーン!
アレクサンダーがセルドアを殴り抜き、純粋な力でそれをねじれた破片に変えた。彼の目は抑えきれない怒りで輝いていた。
看守が反応する前に、手がその喉を掴んだ。
「――待て、ダメ――!」
ビリッ!
首が肩から引きちぎられた。血が冷たい壁に飛び散った。体は無残に崩れ落ちた。
「くそくらえ。」
混沌を切り裂くように、静かな確信を込めた言葉が響いた。重いブーツが廊下に響き、意図的で安定していた。緊急照明の薄暗い赤い光から仮面の人物が現れ、惨劇に影を落とした。右腕の巨大なガントレットが力でうなり、仮面には大胆な「2」の数字が刻まれていた。
奴はなぜか強くなっている…
兵士の慌てた声が通信機でパチパチと響いた。
「閣下! 奴はインテリジェンスセンターまで戦い抜いた!」
デーモンユーザーは足を止めた。鋭く息を吐いた。
「マジか?」
焼き焦げた金属の匂いが空気を満たした。
アレクサンダーはインテリジェンスセンターの廃墟に立っていた――壊れたスクリーン、破損した端末、切れたワイヤーから火花が飛び散っていた。彼の進んだ道には破壊された機械と切り裂かれた看守たちが並んでいた。息は安定し、体は新たな力で脈打っていた。
そして、セキュリティコンソールに向き直った。指がインターフェースを飛び、ロックを解除し、セキュリティ対策を無効化した。最後にボタンを押すと――
すべての独房のドアがスライドして開いた。
インターコムを通し、彼の声が力強く、揺るぎなく響いた。
「自分たちの意志で去る時が来た。」
震える将校の切迫した叫び声が、広大な玉座の間に響く緊張した沈黙を打ち砕いた。重いドアがバンッと開き、兵士が胸を激しく上下させ、制服が汗でびっしょりになりながら駆け込んできた。
ライオネルは玉座に座し、指をゆっくりと意図的に叩き合わせていた。魔法の鋭いパチパチ音が空気をよじり、彼の目の前の――現在の遊び相手である女が、かすれた絞め殺されるような叫び声を上げた。彼女の体は痙攣し、鼻から血がにじみ、皮膚の下で血管が異様に膨らみ、彼の力が蛇のようによじれて彼女を貫いていた。
彼の目は苛立ちでちらついた。「話せ。」
将校はごくりと唾を飲み、ライオネルの萎縮させる視線に背筋をピンと伸ばした。「セントリオンが脱走しました…」
沈黙。
ライオネルの指の動きが止まった。金色の瞳が突然の怒りで閃いた。
そして――ドーン。
玉座の間が震え、ライオネルの体から暗いエネルギーの波が爆発し、黒い生の力の触手が空気を切り裂いた。女は捨てられた人形のようにつまずき、瞬時に灰と化した。
「今すぐ彼を抑え込め!」ライオネルの声が雷鳴のように響き、壁そのものを揺らした。
将校はひるんだ。「我が主…彼は強すぎます。彼は――」
「何?」ライオネルの声が肉を切る刃のようだった。
将校は大きく飲み込み、声は囁きに近かった。「彼はランク2を…簡単に倒しました。」
部屋を飲み込む冷たい沈黙。
ライオネルの玉座を握る手が強くなり、爪が暗い金属に深く食い込んだ。「何…?」
アラームが鳴り響いた。赤い光が牢獄の廊下を脈打ち、ちらつく混沌の色で場面を染めた。
死体が散乱していた。
看守。兵士。デーモンユーザー。
皆、虐殺されていた。
血の金属的な匂いが空気に濃く漂い、壁にこびりつき、床に染み込んでいた。
アレクサンダーはその中心に立ち、全身が深紅に染まっていた。彼自身の血は一滴もなかった。
彼には傷一つなかった。
足元にはランク2が横たわっていた。デーモンユーザーの死体は不自然にねじれ、右腕の巨大なガントレットはまだ残留エネルギーでうなっていた。壊れたマスクがそばにあり、背後の壁には2の数字が深く刻まれていた――最後の打撃の力による傷跡。
アレクサンダーはゆっくりと息を吐いた。息は安定し、動じていなかった。
死体をまたぎ、彼は中央制御パネルに向かった。スクリーンはひび割れ、ちらついていたが、彼の手は不気味な精度で動き、セキュリティを回避し、最後のフェイルセーフをすべて無効化した。
電力網が停止。監視が崩壊。シタデルの防御が一つずつ崩れ去った。
彼は動き続けるべきだった。
だが、座り込んだ。
冷たい壁にもたれ、頭を後ろに傾けた。指先から血が滴り、遠くのアラームのハム音が心臓の鼓動と同調して背景に消えていった。
「ブラッドウルフ…」彼はつぶやいた。
声が彼の中で響いた。馴染み深い。監視するような。
「行く前に…知りたい…」彼の息が詰まった。指がピクリと動いた。「マーカスは生きているか?」
一瞬の沈黙。そして――
「そうだ。」
アレクサンダーの唇にゆっくりとほろ苦い笑みが浮かんだ。何年かぶりに、安堵が彼を洗った。
目が少し明るく輝いた。「良かった…」
彼は目を閉じ、深く息を吐いた。
死ぬのは今ならそう難しくない。
小さな笑い声が漏れたが、ユーモアはなかった。「もっと…できたらよかった。もし…」声が途切れ、後悔で厚くなった。「もしそこにいたら…家族はこんな目に遭わなかった…」
カウントダウンが始まった。
三。
視界がぼやけた。奇妙な温かい光が彼の前にちらついた。
二。
彼らが見えた。
三つの影。
輝く。幽玄。シルエットが揺れたが、彼は知っていた。ずっと前に見たことがあった。
デミウルフ。
一人は少女だった。無垢に輝く目。彼が覚えている――守れなかった眼差し。
息が詰まった。胸が痛んだ。
深紅の目に涙が溢れた。
影が彼に手を伸ばした。
体が震えた。唇が開き、息が震えた。
彼も手を伸ばした。
「行くよ…」
指が彼らに触れた。
マーカス…俺は去る。
彼の笑みが柔らかくなった。
「さよならを言えなくてごめん。」
一。
彼は彼らの手を取った。
爆発がすべてを飲み込んだ。
そして、こうして――終わった。
「ライオネル様!!」
必死な叫び声が玉座の間に響き、将校が焼け焦げた制服で、息を荒くしながら飛び込んできた。彼はよろめき、なんとか立っていた。
「監獄15が炎に包まれました…」
ライオネルは静かに座っていた。玉座の腕に軽く叩いていた指が止まった。
「何?」
将校は反応をうかがい、ためらった。二人間の沈黙が薄く伸びたが、すると――
ライオネルはニヤリと笑った。
「たくさんの無垢な人々…」彼の声は軽く、ほとんど面白がっているようだった。「そこに囚人を閉じ込めていた。」
指が再びゆっくりと意図的なリズムを始めた。「そして彼は皆殺しにした。一人残らず。」
軽い嘲笑が彼の唇を離れた。
「自分を終わらせるためだけに。」
将校は大きく飲み込んだ。「しかしライオネル…それはまずいことでは?」
ライオネルは静かな笑い声を上げた。ユーモアがなかった。
「彼の息子は死んだ」と彼は少し首を傾げて言った。「サツジンが爆破したと言っている。」
将校の息が詰まった。
ライオネルは玉座にもたれ、ゆっくりと息を吐いた。
「俺はそれを信じる。」
「タリオン!」ライオネルが叫んだ。
タリオンは薄暗い部屋に座し、暖炉の柔らかなパチパチ音だけが彼の思考の重さを伴っていた。
執事が入ってきて、深くお辞儀をした。「はい、我が主。」
タリオンは見上げず、話した。「どれくらい進んでいる?」
執事が背筋を伸ばした。「完成まで…すぐと言いたいところですが、まだ少なくとも4年はかかります。」
沈黙が二人に落ち着いた。そして――
ライオネルは息を吐き、唇の端に笑みが浮かんだ。「待てるさ。」
彼の指はきつく握り締められ、関節が圧力で白くなった。低い笑い声が胸で響いた。
「おお、偉大な精霊よ」と彼は嘲笑を込めた声で言った。
笑い声が深まった。
「もうすぐ、俺がお前のドアを叩く…」彼は首を傾け、声はほとんど遊び心に満ちていた。
「準備はできてるか。」
読者の皆さん、この水星編を楽しんでくれることを願っています!




