暗い真実
アルニクと仲間たちが笑いと祝福の夜を楽しんでいた頃、
世界の別の場所では、計算された静寂の中で何かが動いていた。
シタデル――都市の温もりとは正反対にそびえ立つ、冷たい権力の象徴。
その廊下は果てしなく続き、磨き上げられた大理石は時を超えても変わらず、そこを行き交う命に関心を示さない。
サツジンは無言のまま正確な足取りで進む。
手袋をはめた手には、書類の束。
その一歩一歩が目的を持っており、無駄は一切ない。
これはただの届け物ではなかった。
交差点で二人の人物が近づいてくる。鋭く、洗練され、意図的な存在感。
ミス・キャラウェイが慣れた微笑みで声をかける。
「サツジンさん。こんな遅くまでお仕事ですか?」
サツジンは軽く頭を下げる。「キャラウェイさん。仕事に終わりはありません。」
「ええ、でも今夜は特別な件があります。」
隣の若い男性が時計を見る。「キャラウェイさん、あと二分で集合です。」
「また今度、ですね。ご無沙汰でした。」
「では、また。」
二人が廊下の先へ消えると共に、そのわずかな温もりも消え、残るのは義務の重さのみ。
サツジンは再び前を見据え、重厚な両開きの扉へと歩みを進める。
扉を押して入ると――
そこは広大な部屋だった。
歴史を刻む書架が壁を覆い、巨大な窓の外には都市の光景が広がっている。
ホバートレインが空を走り、ネオンの軌跡が床に反射していた。
その窓際に立つ一人の男――
アメリカX、主権者ライオネル。
鋭い顎を縁取るモミアゲ、鋭い茶色の瞳。
高層ビルのオフィスの窓から街を見下ろしていた。
都市はエネルギーに満ちていた。
何も言わず、ただ見ていた。
「何の報告だ、サツジン?」
サツジンは前へ進み、書類を机の上に正確に置いた。
「ライオネル様、我々の計画にとって最大の脅威が判明しました。」
ライオネルはゆっくりと振り向き、獲物を狙うように書類に視線を落とす。
一枚を手に取り、目を通す。
沈黙が室内を支配する。
やがて――
ライオネルの唇がゆっくりと歪む。
その笑みは、ねじれた愉悦に満ちていた。
ページをめくるたびに笑みは深まり、やがて低い笑い声が漏れ始めた。
そして、笑いが広がる。
最初は低く、次第に深く、部屋全体を震わせるように。
「この瞬間を、待っていた。」
彼は囁き、紙を握る手に力が入る。
そして――
手首の一振りで、書類は宙を舞った。
一枚の写真が床に落ちる。
正面を見据える、赤い瞳のデミ・ウルフたちの家族写真。
『セントリオン家系』
ライオネルは息を詰まらせた。指が写真の縁をなぞる。
その表情は歓喜と、さらに深い闇のはざま。
「これだ……完璧だ。新時代が来る。奴らはまだ気づいてすらいない。」
サツジンがわずかに身を引く。「ただし、最初の変異能力の所在はまだ……
それに……ハンダーフォールが動いています。各国の主権者たちと接触を……噂が……」
ライオネルの笑みが消えた。
空気が凍る。
「そうか。情報が漏れたか。」
重い沈黙。
だが――ライオネルの笑みが戻る。
今度は狂気を孕んだもの。
「ならば、動くぞ。今だ!」
――
アルニクの家では、まだ笑い声が続いていた。
ローズはソファで伸びながら満足そうに言う。「これよこれ。ルールなし、ストレスなし、美味しいご飯と最高の仲間。」
「靴、脱げよ……」カイがため息交じりに呟く。「お前、野生かよ。」
「聞こえたわよ?今、唸った?」ローズがにやり。
「ただのため息だ。」
ローズはわざとらしく靴を蹴飛ばし、ブーツの一つがテーブルにぶつかって鈍い音を立てた。
カイが顔をしかめる。
「落ち着け、潔癖くん。」ローズが笑う。「泥は踏んでないから。」
「今はな。」カイがぼそっと返す。
このやり取りが長引く前に、アルニクが手を叩いた。
「さて、この家で一番大事なルールを確認しようか。」
即座に、全員が声をそろえる。
「マルクスに料理をさせるな!」
「マジかよ……」マルクスが尻尾を揺らしながらうめく。「ちょっと焦がしただけだろ……」
「水を。」カイが即答。
ローズは吹き出し、笑いすぎて咳き込む。
「もう一生料理禁止ってことか……」マルクスが頭を振るが、顔には笑みが浮かんでいた。
「全員の安全のためだ。」アルニクがエプロンを放り投げる。「玉ねぎでも切ってろ。火のそばに近づくな。」