ラインを守れパート3
高島は目の前のスクリーンを見つめ、表情は読み取れないものだった。しかし、点滅する赤い警告の輝きの裏には…絶望があった。
数字は上がり続けていた。
そして下がっていた。
ほとんどが下がっていた。
「生存者はわずか数百万…」と彼は囁いた。
その声は遠くまで届かなかった。届ける必要もなかった。
アンドリューは腕をきつく組んでそばに立っていた。彼はすでにデータを見て、死傷者の報告を聞いていた。それでも、その言葉はハンマーのように響いた。
「火星に住んでいた3億人の中から…」高島は震える息を吐いた。彼の手は、倒れないように支えが必要なように、コンソールの端を握りしめた。
沈黙が二人を包んだ。
その重圧は耐え難いものだった。
ライオネルの軍は勝利しただけでなく、すべてを飲み込んでいた。
大陸全体が消滅。都市は灰燼に帰した。それにかかったのは数日。たった…数日だった。
アンドリューの顎は固く締まっていた。「この船を守る兵士がいなければ、その数はさらに減るだろう。」
高島の頭がゆっくりと動いた。「わかっている。」
彼の目は再びスクリーンに戻った。
一つ、また一つと、赤いピンが消えていく—飛行中のシャトルが失われ、戦闘機が圧倒され、脱出に遅すぎる船たち。
「防衛がなければ…」高島は今や自分自身に呟くように言った。「…軌道にすらたどり着けない。」
それ以上言う必要はなかった。
二人ともわかっていた。
もしここで避難艦隊が落ちれば…死ぬのは火星だけではない。
生き残ったすべてのものが死ぬのだ。
ブリッジに警報が鳴り響いた。
ビューポートの外では、防衛艦隊がすでに動き始めていた。戦闘機が群れをなして発進し、シールドバリアが衝撃ごとに脈動していた。ライオネルの戦艦が遠くに迫っていた—冷酷で、無慈悲で、急速に近づいてくる。
高島はスクリーンから目を離さなかった。「すべてのパイロットを戦場に送れ。」
アンドリューが鋭く振り返り、声が緊張を切り裂いた。「エンジェル・スクワッドを呼べ。」
近くの士官がたじろいだ。「で、ですが、隊長、彼らはほとんど—」
「やれ!」アンドリューが一喝した。
「了解しました!」
士官は走り去った。
数瞬後—重い足音が廊下に響いた。
アルニクが半分眠っているアイカを引っ張りながらブリッジに飛び込んできた。
マルクス、カイ、ローズが続き、全員が傷つき、血まみれで、立っているのがやっとだった。それでも、彼らはそこにいた。
「全員無事だったか。」高島は振り返らずに言った。声は低く、重々しかった。
アンドリューが肩越しにちらりと見た。「みすぼらしいな。」
カイは近くの支柱にもたれかかり、息を切らしながら言った。「最近よく言われるよ。」
ローズが顔を上げ、眉をひそめた。「これは避難船の話?」
高島がようやく振り返った。顔は青ざめていた。
「ここで敵を食い止めなければ…誰も脱出できない。難民も、兵士も、誰一人として。」
アルニクが前に出た。「何が必要だ?」
アンドリューの視線が彼らを鋭く見据えた。「戦闘機。パイロット。防衛者。」
カイが眉を上げた。「まさか本気で—」
「本気だ。」アンドリューが遮った。「誰か操縦できる者は?」
マルクスは即答した。「俺ができる。」
カイがうめいた。「…俺もだ。専門じゃないけど、シミュレーターはやったことある。」
アンドリューが頷いた。「よく聞け。」
彼は彼らに近づき、背後でエンジンの唸り音が秒ごとに大きくなっていった。
「この艦隊は火星の最後の希望だ。24隻の船。すべて満員。すべて脆弱だ。マジック・コアを使って惑星ジャンプを試みるが、起動するまでは我々は鴨の的だ。」
彼の声が低くなった。
「時間が必要だ。最低10分。それを買うんだ。」
次に高島が口を開き、腕を組んだ。
「君たちを前線に送る。高速迎撃戦闘機。エンジェル・スクワッドの仕様に合わせて設計されたものだ。」
カイが目を瞬かせた。「待て。計画してたのか?」
アンドリューがわずかに笑った。「まぁ、そういうわけじゃない。だが、期待はしていた。」
マルクスが巨大なガラスのビューポートに目をやった。そこには死にゆく神のような火星が浮かんでいた。
「わかった。」彼は言った。「俺たちが食い止める。」
アンドリューの視線が鋭くなった。「必ず戻れよ。」
マルクスは一度頷いた。「戻る。」
カイが目を転がした。「戻るさ。まだ給料もらってないんだから。」
アルニクが前に出て、二人に肩を叩いた。
「スピリットが共にあらんことを。」
ローズが腕を組んだ。「死んだら私が殺すから。」
マルクスとカイはもう一言も発せず、格納庫に向かって走り出した。
廊下を下り、
最後の船を準備するエンジニアたちの列を過ぎ、
すべての足音が緊迫感を響かせていた。
カイが走りながら横を見た。「調子はどうだ?」
マルクスの声は平坦だった。「最悪だ。あいつがここにいる。」
「やっぱりな。」カイがつぶやいた。
マルクスの手が拳を握った。「だが、俺は取り乱さない。」
「約束する?」
「約束する。」
格納庫が目の前に開いた。まるで別の世界への門のように。
滑らかな黒い戦闘機が発射デッキに並び、緊急照明の下で表面が輝いていた。巨大なクレーンが燃料セルを持ち上げ、整備士たちが騒音の中で叫び合っていた。
男が手を振って呼んだ。「エンジェル・スクワッド?!船は準備できてる!」
マルクスは歩調を緩めなかった。「よし。」
カイがにやりと笑い、続いた。「船をよこせ。」
二機の角張った高速戦闘機が待っていた—滑らかで、装甲され、エネルギーに満ちていた。
カイがコックピットに滑り込んだ。「これ、馴染むな。」
マルクスがバイザーを下ろした。「行こう。」
エンジンが点火した。
次の瞬間—
シュオオッ!
二機の戦闘機が磁気発射レールを滑り、虚空へと飛び出した。
宇宙が嵐のように広がった。
戦場はすでに始まっていた。
魔力を帯びたエネルギー爆発が闇を切り裂いた。火星の防衛船がライオネルの精鋭部隊と砲火を交わしていた。戦闘機が雷光の筋のように飛び交い、混沌の網の糸となっていた。
カイの声が通信で響いた。「こりゃひどいな。」
マルクスが軌道を調整した。「なら、片付けよう。」
彼らのHUDが赤く光った—敵機がロックオンしてきた。
高島の声がヘッドセットから響いた。「無謀な戦闘はするな。訓練を受けたパイロットじゃないんだ。」
カイがうめいた。「わかってるって。慎重に…まあ、ほどほどに。」
だが、マルクスはすでに動いていた。
スラスターが輝き、彼は突っ込んだ。
戦いの中心、嵐の真っ只中へ。
…
戦いの音は、強化された船体を通してもまだかすかに響いていた。しかし、ここ、防衛艦ディフェンダーの奥深くすんだ照明の医務室では、すべてが静かだった。
ゆっくりだった。
安全だった。
今のところは。
アイカはベッドの脇にもたれ、肩を落とし、腕に包帯が交差していた。彼女の手には小さな青いマナストーンが光っていた。彼女はそれを口に放り込み、カリッと噛んだ。
苦味が舌に広がったが、彼女は安堵の溜息をついた。
「…よし。マナが回復してる。」彼女はしわがれた声で、しかし落ち着いて呟いた。
隣のベッドに座るローズは、シャツを半分までたくし上げ、胴体にガーゼを巻いていた。アイカは彼女の脇腹に輝く手を押し当て、ひびの入った肋骨を癒していた—が、鋭い痛みがローズの神経に走った。
「イタッ—! もうちょっと優しくしてよ!」
「やってるよ…」アイカは少し手を離して溜息をついた。「ジタバタするのやめなよ。」
ローズは顔をしかめ、うめきながらまた横になった。耳が少し垂れていた。
「…あの馬鹿共。」アイカは少し間を置いて呟いた。「あんな風に飛び出して…」
彼女は拳を握り、すぐに息を吐いた。「ほんと…やれやれ…あいつら、間抜けすぎでしょ。」
背筋に寒気が走った。崩れる都市、燃える空、叫ぶ船、砕けるコンクリートの記憶…それはまだ消えていなかった。煙のようだった。
彼女は震えた。
「ほんとにさ、」アイカが少し声が震えながら呟いた。「なんでカイってあんな馬鹿なの?」
彼女はローズを見上げ、彼女がピクッと反応したのに気づいた。
ローズが固まった。
アイカが首を傾げた。「大丈夫?」
ローズは何も言わなかった。
ただベッドを見つめ、唇を真一文字に結んでいた。
そしてアイカが笑った。
ゆっくりと、知っているような笑みで。
「ねえ…マルクスも行ったよね。」
それが効いた。
ローズの目が少しだけ見開いた。
アイカがにやりと笑った。「なんでカイのことしか考えてないの~?」
即座に—
「な!?」ローズの顔が真っ赤になった。耳が矢のようにピンと立ち、尾が背中で固まった。「な、なに!? そ、そんなんじゃないよ!」
「うわっ、めっちゃそうだね!」アイカが、声に悪戯っぽさが満ちていた。
「う、うるさいっ!!」
アイカは笑いながら身を乗り出し、ローズの両頬を両手でつかんで、遊び心でムニュっと潰した。
「ほっといてよ!!」とローズが叫んだ、顔はまだ真っ赤だった。。
「わ、わ、わかった! やめるよ!」アイカは笑いながら席に倒れ込み、両手を挙げて降参した。
ローズは慌てて顔を背けて、ベッドの端を握りしめた。彼女の顔はまだ熱かった。
彼女は一瞬目を閉じた。
「…偉大なるスピリットよ」と彼女は息の下で囁いた。
「…どうか彼を守って。」




