火星の洞窟
古代の遺跡は果てしなく広がり、その壁にはすでに忘れ去られた象徴が刻まれていた。クラウンが奥へ進むほど、建築は変化していった。かつては滑らかな金属のトンネルだったものが、今では遥かに古いものへと変わっていた。巨大な石の柱が、時によってすり減り、廊下に沿って並び、その表面には弱々しく明滅する輝くルーンが刻まれ、まるで死にゆく心臓の鼓動のようだった。空気は埃だけでなく、肌に押し寄せるエネルギーで重く、何世紀も邪魔されずにいた存在感が脈打っていた。
クラウンはニヤリと笑い、耳の通信機を調整した。「おい、タカシマ、まだそこに生きてるか?」
雑音が響いた後、タカシマの声が割り込んできた。「かろうじてな。戦争が頭上で繰り広げられてるのに、遺跡でコソコソしてる奴もいるんだな。」
「ハハ、俺ってラッキーだろ」とクラウンは笑い、崩れたアーチを跨いだ。
「そうは思わねえよ」とタカシマが呟いた。
クラウンは目を丸くした。「あとどれくらいだ?」
「もうすぐだ。」
「よし、だってこの場所にうんざりしてきたからな。」
タカシマはため息をついた。「下の保管庫に近づいてる。エネルギー値が異常だ。気をつけろ。」
「はいはい。」クラウンは前に進んだが、奥へ行くほど全てが奇妙に感じられた。これはただの古い火星の遺跡じゃない…何か生きてるような気がした。
前方には、廊下の突き当たりに巨大な金属の扉が立っていた。ひどく錆びつき、かつて滑らかだった表面は今や時間と腐食でギザギザになっていた。
「まあ…こいつ、昔はもっとマシだったんだろうな」とクラウンは呟いた。
タカシマの声が通信機から響いた。「300年以上誰もそこに降りてない。」
クラウンは鼻で笑った。「ウェルカムマットでも期待してたのに。」
躊躇せず、彼は後ろに下がって扉を蹴り飛ばした。扉は抗議するように軋み、轟音とともに内側に崩れ落ちた。
「それ、必要だったか?」とタカシマが無表情に言った。
「もちろん」とクラウンはニヤリと笑い、壊れた入り口を跨いだ。「カッコいい気分になれるだろ。」
扉の先には、不気味な部屋が広がっていた。遺跡の他の部分とは異なり、この部屋は手つかずで、時間に触れられていないようだった。中央には黒曜石の台座に、野球ボールほどの大きさの鮮やかな緑の石が置かれ、生きている心臓のよう脈動していた。
「これだ」とクラウンは息を呑んだ。
タカシマの声が鋭くなった。「取ってこい。」
「ちょっと待て。」
「…『ちょっと待て』ってどういう意味だ?」
クラウンのニヤリが広がった。「何かいるぞ。」
「そんなはずはない。保管庫は封印されてた—」
「魔法の獣だ。」
空気が変わった。
影の中で何かが動いた。
クラウンの目は、薄暗い光の中でかろうじて見える動く塊に注がれた。完全に見る必要はなかった—感じられた。存在の重さ、空気を満たす原始的なエネルギー。
暗闇から、それが飛びかかってきた。
巨大な蛇、その鱗は液体のような黒曜石の輝きを放ち、牙はクラウンの全身よりも長かった。
「うわ!でかくて醜いな!」クラウンは笑いながら避けた。「めっちゃ美しいじゃん!!」
「早く殺せ!」とタカシマが叫んだ。
蛇が再び襲いかかり、その口はクラウンを丸ごと飲み込めるほど大きかった—
そして、止まった。
クラウンが片手で捕まえた。
獣の体に震えが走った。本能が叫び、その巨大な体がためらいながら後退した。
クラウンのニヤリがさらに広がった。目が薄暗い光の中で輝き、彼の周囲のオーラは獣そのものよりも遥かに恐ろしいものを放っていた。
「どうした?」クラウンは握りを強めながら囁いた。「これからが楽しいとこだろ。」
獣は低く、うなるようなヒッという音を立てた—
そして、クラウンが動いた。
牙が砕け、鱗が割れた。蛇は反応する間もなく、クラウンの攻撃がその体を引き裂いた。動きは正確で、残忍で、容赦なかった。部屋は虐殺の音で満たされ、一撃ごとに破壊力が増した。
タカシマは通信機越しにその騒音を聞き、首を振った。「めっちゃ楽しんでるな、アイツ。」
やがて、獣のズタズタの体は血の海に沈み、動かなくなった。クラウンはその混乱を跨ぎ、赤い血を振り払った。
「よし、これで終わり」と彼はため息をつき、コートを払った。「よっと。」
彼は石に手を伸ばした。
指が触れた瞬間、全てが変わった。
脈動していたエネルギーが消えた。部屋を彩っていた輝くルーンがちらつき、そして消えた。かつて古代の力で満ちていた遺跡全体が、完全な静寂に落ちた。
遠く上方では、アイカが震えた。
カイが気づいた。「どうした?」
彼女は杖を強く握り、背筋に這う不安な感覚に目を細めた。
「何か…おかしい」と彼女は囁いた。
戦場を冷たい風が吹き抜け、何かが変わった感覚を運んできた。
「…まるで何かが劇的に変わったみたい。」
神秘の森…はほぼ瞬時に死にかけていた。
火星の古代の力が消えると、かつて活気に満ち、野生だった森は根元から命を断ち切られ、枯れていった。何世紀も立っていた木々は脆い抜け殻に縮み、輝く葉は死にゆく残り火のようにちらついて消えた。かつて魔法に満ちていた空気は、今や不気味な静けさに重く垂れ込めた。
地表の深くで、クラウンはニヤリと笑いながら地上に戻ってきた、まるで休暇から帰ってきたかのように。
「戻ったぜ!」彼は地面に立つと大げさにポーズを取った。
ヴェインはほとんど見上げず、ため息をつきながらクラウンの手から魔法の石をサッと奪った。「サンキュ…」
「無礼な」とクラウンはコートの埃を払いながら呟いた。
「行くぞ」とヴェインは輸送船の方へ向き直った。
一行は急いで移動し、水星最大の貨物船「ゼニス」に向かった。そこでは避難作業が進行中だった。巨大な船体がドックにそびえ、工学の傑作で、強化された装甲と最先端の防御システムが投光器の下で輝いていた。それが彼らの脱出の最良の希望だった。
ブリッジに入ると、タカシマが緊張した表情で駆け寄ってきた。
「早く渡せ。」
クラウンは眉を上げた。「なんでそんな急いでるんだ?」
タカシマが答える前に—
「ザラ・ブリッツだ!そいつが原因だ!」
ブリッツの声がブリッジ全体を揺らし、彼女はエンジニアたちに激しく叫び、船の内部システムを乱暴に指差した。
「計算が一つでも間違ってたら、ライオネルにこの船はズタズタにされる!完璧じゃなきゃダメなの!」
クラウンはニヤリ。「機嫌いいな、彼女。」
タカシマはこめかみを擦った。「悪夢だよ。これが動かなかったら、彼女に頭かじられそう。」
「それ聞いたよ!」ブリッツがブリッジの向こうから叫んだ。
クラウンのニヤリがさらに広がった。「ちょっと自業自得じゃね?」
タカシマはうめいた。「とにかく渡せ。」
ヴェインは無言で石を渡した。
タカシマは素早く動き、コントロールパネルにボタンを押して、遺物を収めるために精密に設計されたスロットを露出させた。慎重に、魔法の石をターミナルに置いた。
深い轟音が船を振動させた。
船全体が生き返った。
光が点滅し、エネルギーがシステムを駆け巡り、船のコアは新たな力で脈動した。
クラウンは大声で陽気な笑い声を上げた。「これぞ興奮するぜ!」
タカシマは肩を緩め、ようやく息をついた。「これが最後のピース…これで準備ができる。」
彼はグループに向き直り、声は落ち着いていたが力強かった。「全員、残りの教師を集めろ。前線に向かえ。」
クラウンは二度言われる必要はなかった。「了解!」
躊躇せず、彼は踵を返して飛び出し、運悪く二人の兵士を押し倒した。
タカシマは鼻をつまんでため息をついた。「…バカ野郎。」
ヴェインは小さく笑い、タカシマの目を見た。
「じゃあ、タカシマ…」彼は手を差し出した。
タカシマは一瞬だけ躊躇し、握手を返した。
「気をつけろ」とヴェインが言った。
タカシマは頷いた。「スピリットと共にあれ。」