悪魔使い
全員が息を切らし、激しい戦闘が終わったばかりの身体が痛みにうめいていた。空気は緊張に満ち、戦場の残骸が周囲でまだくすぶっていた。
アイカは震えていた。杖を握る指は固く、地面を見つめ、息は不規則だった。「何だったの…あれ…」彼女は震える声で囁いた。
「めっちゃ強かった…」彼女はゴクリと唾を飲み込み、平静を保とうとした。「あんなに長く私たちを弄んで…」肩が震え、悔しさと無力感に喉が締め付けられる。泣くまいと必死だった。
その時、ローゼが無言でアイカのそばに歩み寄り、しっかりとした手で彼女の肩を掴んだ。
アイカは驚いて顔を上げた。
ローゼはいつもより柔らかい笑みを浮かべた。「これのために訓練してきたんだろ」とシンプルに言った。
数メートル離れたところで、カイがしゃがみ込み、額の汗を拭った。「まだ辞めるって選択肢もあるぞ、もし—」
ローゼが冷ややかな視線で言葉を遮った。「うん、遠慮するわ。けど、カイが辞めたかったら勝手にどうぞ」
カイはピクッと反応し、額に青筋が浮かんだ。「親切心で言ったのに、ったく」
アーニックは怪我を負いながらも低く笑い、腕をだらりと下げていた。「いやぁ…スリリングだったな」戦いで傷ついた手が少し震えた。
マルクスはアーニックを注意深く見つめ、そばにしゃがんだ。視線はアーニックのボロボロの指に注がれていた。「痛むか?」
アーニックは背筋を伸ばし、堂々とした声で答えた。「全然」
マルクスは眉を上げた。
そして—ツン。
「うわあああ!痛えええ!」アーニックは手を押さえ、痛みに叫んだ。
マルクスはニヤリと笑った。「だろ」
カイはアーニックに向かって手を振った。「おい!もう一艘、避難船を呼べよ」
アーニックはまだ手をさすりながら瞬きした。「なんで?」
カイは目を丸くし、呟いた。「バカかよ」親指で背後を指した。「さっきの戦闘で前の船はぶっ壊れたんだよ」
アーニックが振り返ると、前の避難船の残骸がくすぶる瓦礫の山と化し、金属の破片が地面に散らばっていた。
「…あ」アーニックが呟いた。
カイは腕を組んだ。「それと…あの化け物の残骸も持って帰るぞ」
アーニックは眉をひそめ、謎の敵の首が切られた死体に目をやった。「カイ、そいつを調べなくていいのか?」
カイはため息をつき、死体にしゃがみ込んだ。サイバネティックな装甲を目で追い、死んでいるのに微かに動く不気味さに息を吐いた。「調べたよ…見た感じ、普通の人間だ」
アーニックはすぐには答えず、表情を硬くした。通信機を起動し、セキュアチャンネルを呼び出した。
「こちらアーニック。緊急避難船を現在地に要請」と彼は鋭く簡潔に言った。
一瞬の静寂の後、通信にノイズが響いた。
「アーニック?そっちで何があった?」アンドリュー・ハンダーフォールの声が緊迫して響いた。
アーニックは仲間を見回してから答えた。「正体不明の敵と交戦。予想以上に強かった」少し躊躇し、続けた。「倒したけど…こいつの死体を回収する必要がある。普通の敵じゃなかった」
一瞬の間。やがてアンドリューの声がより深刻になって戻ってきた。「了解。回収部隊を今すぐ送る。待機しろ」
アーニックは通信機を下ろし、息を吐いた。「避難船が来るぞ」
グループは沈黙し、事態の重みがのしかかった。
避難船が降下し、エンジンの唸りがひび割れた地面に響いた。後部ハッチがシューと開き、兵士たちがエリアを確保するために飛び出した。しかし、彼らだけではなかった。
高島がメガネを調整しながら現れ、戦場を見渡した。
「師匠?」カイが驚いて呟いた。
高島は鼻で笑った。「驚いた?マジで?」
カイは腕を組んだ。「まあ、うん。まさかお前がこんなとこに来るとは」
高島はニヤリと笑った。「正体不明の兵士…まさに俺の専門分野だろ」彼は笑いながら、倒れた敵の残骸に近づいた。
カイは目を丸くした。「もう調べたって」
高島は死体に膝をつき、損傷したサイバネティック装甲を指でなぞった。普段の自信満々の態度が一瞬揺らぎ、目を見開いた。
「お前ら、これが悪魔じゃないって分かってるよな?」
緊迫した沈黙が流れた。
「分かってる」とマルクスが腕を組んで呟いた。「でも、人間でもなかった」
高島は鋭く息を吐いた。「俺には人間に見えるけどな」
アイカの息が詰まった。他の者も固まった。
一斉に悟った。
彼らが殺したのは…人間だったのか?
空気が重くなり、疲労に不安が混ざった。誰もこんな結末を望んでいなかった。どんな戦いを経ても、これには誰も準備ができていなかった。
高島はもう一度死体を見て立ち上がった。「人間の中には裏切り者もいるさ」メガネを直した。「でも…自分を責めるな。こいつは普通の人間じゃなかった」
アイカが顔を上げた。「え?でも今—」
高島はため息をついた。「考えてみろ。普通の人間が、お前ら相手にそこまで持ちこたえられるか?お前らがそんな強くないとしてもだ」
「は!?」ローゼが睨みつけた。
高島は手を挙げた。「落ち着けって!ただ、変なんだよ。ありえない話じゃない…でも変だ」
隊員たちは顔を見合わせた。何もかもが腑に落ちなかった。
高島の目が細まった。「それともう一つ…なんかおかしくないか?」
アーニックが眉をひそめた。「どういう意味だ?」
高島は戦場を指した。「見てみろ。戦闘後に他のマシンは一切出てこなかった。援軍も、追加の波もなし。変だろ?」
カイの表情が暗くなった。「まるで…俺たちがこいつとどう戦うか試されたみたいだ」
「その通り」高島は腕を組んだ。「この戦闘自体、兵器のテストだったんだ。奴らはこいつをお前らにぶつけて、ただ見ていた」
アイカは震えた。「それ…気持ち悪い」
マルクスは拳を握った。「つまり、俺たちは命がけで戦っただけじゃなく、観察されてたってことか」
高島は頷いた。「そして、こいつみたいなのがまだいるってことだ」
重い沈黙が皆を包んだ。
高島は背を伸ばし、息を吐いた。「カイ、終わったらラボに来い」
カイは頷いた。「了解」
高島は他の者に言った。「よし、みんな乗れ!もうすぐ次のマシンが来るぞ」
隊はためらわず避難船に乗り込み、戦場を後にした。心はこれまで以上に重かった。
2時間後、高島のラボ
カイがラボに入ると、冷たい空気が肌に触れ、ドアがシューと閉まった。無機質な白いライトがちらつき、滑らかな金属の壁に不気味な影を落とした。機械の唸りとホログラフィックディスプレイの微かな音が響いた。
彼は一人ではなかった。
高島は中央に立ち、腕を組み、強化された検査台に横たわる謎の兵士の残骸をじっと見つめていた。魔法のシグネチャとサイバネティックなデータがディスプレイにちらついていた。
右側では、クラウンがコンソールにだらりと寄りかかり、いつものニヤニヤを浮かべていた。「遅かったな、ガキ」
カイは目を丸くした。「お前と違って、俺は仕事してたんだよ」
クラウンは笑い、ナイフを指でくるくる回した。「おいおい、俺が仕事そのものだろ」
ラボの反対側では、アラリックが優雅な装いで立ち、両手を背中で組んでいた。金色の瞳に好奇心がちらついていた。
「で、」カイは前に進みながら息を吐いた。「どういうことだ?高島、こいつは人間じゃないって言ったのに—」
「人間だ」
カイは瞬きした。「マジかよ」
「それが問題じゃない」高島の表情が暗くなり、コンソールのボタンを押した。
検査台が動き、コンテナチャンバーがシューと開いた。
中には—
残骸。
強化ガラスに閉じ込められた、干からびた腐敗した死体。肉は骨にへばりつき、サイバネティック部分は錆びて何世紀も放置されたように腐食していた。
カイの息が止まった。「これ…同じ奴じゃないだろ」
高島はスクリーンから目を離さなかった。「同じだよ」
カイは鋭く振り返った。「は?」
高島は息を吐いた。「こいつ、ずっと前に死んでるみたいだ」
カイは頭をかき、眉をひそめた。「どういうことだよ…?」
高島は一瞬黙り、腐敗した死体を見つめた。「いくつか仮説がある」
その時、クラウンの笑い声がラボに響いた。
「簡単じゃん!」彼はニヤリと笑った。「高島、情けないな。まだ分かってないの?」
高島の目がピクッと動いた。「ここで科学者なのは誰だ?」
「それが信じられねえよ!」
「なんだと?」
二人の視線が火花を散らした。
カイはこめかみを揉み、うんざりした。「みんな、落ち着けって!マジで!」彼はクラウンに向き直った。「よし、天才。説明してみろよ」
クラウンは楽しそうにニヤリと笑った。「ライオネルは本物の悪党、狂人だ。そいつを理解するには、自分も狂人じゃなきゃな!」
高島とカイが同時に言った。「ああ、間違いなくサイコだ」
クラウンは大げさに両腕を広げた。「一番ぶっ飛んだ可能性はなんだ?」
カイは顔をしかめた。「さっさと話せよ」
「こいつは取り憑かれた存在だ」とクラウンが断言した。
カイは鼻で笑った。「マジかよ、ふざけんな」
だが、高島は黙り、情報を頭で整理していた。「でも…筋が通るな」
クラウンはニヤリと高島を見た。「壊されたマシンをいくつか集めたよな?何を見つけた?」
高島はメガネを直した。「ほとんど電子部品がない。コアがあって、金属はほぼ一枚岩だ」
カイは目を細めた。「それって…?」
クラウンが身を乗り出した。「奴は封印された悪魔を解き放ったんだ!」
高島はため息をついた。「正直、この答えは予想してた…自分で分かってたよ」
クラウンは鼻を鳴らした。「へい、全部お前の手柄にしやがれ」
「黙れ」
「でも、人間であることはまだ謎だ」と高島が腕を組んで付け加えた。
カイは顎に手をやり考えた。「取り憑かれたって考えるなら…人間が関わってるってことは…」彼は一瞬止まった。「契約だ」
「契約?!」
「魔法は強いけど、万能じゃない」カイの声が真剣になった。「マインドコントロール魔法なんて存在しないのは知ってるだろ。でも、憑依には本人の同意が必要だ」
高島は鋭く息を吐いた。「なるほど…だからこいつは第二の到来を引き起こす—悪魔が金属と人間の体に生まれ変わるんだ」
クラウンは笑った。「皮肉だよな!人間を滅ぼしたいのに、完全な力を取り戻すには人間が必要だなんて」
カイは拳を握った。「こう考えれば…取り憑かれた人間は明らかにマシンより強い」声が低くなった。「もし奴がこいつらの軍団を持ってたら…」
高島の表情が暗くなった。「この発見を艦長と他の植民地に報告しないと」
「でも、まだ仮説だろ」とカイが念を押した。
「今のところは」と高島は認めた。「でも、生きたマシンのサンプルがある…この憑依説はかなり当たってる。金属の組成をさらに調べなきゃ」
カイは腕を組んだ。「この説が本当なら…こいつらを何て呼べばいい?」
高島はメガネを直した。「デーモンユーザー。悪魔を使う者たちだ」
クラウンはニヤリと笑った。「ハ!映画の悪役にピッタリだな」
カイはため息をついた。「ああ、残念ながら俺たちがその映画の中にいるんだよ」
私が作ったこのシステム、気に入ってくれると嬉しいな!