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始まり

夜は果てしなく彼らの頭上に広がり、空は深い青と黒で彩られていた。遠くの光がちらつき、遥か上空で続く戦いの名残を示していた。火星の防衛線は依然として堅固で、数ヶ月にわたる断続的な小競り合いにもかかわらず、その要塞は揺るがなかった。


マーカス、アーニク、ローズ、カイ、そしてアイカは都市の外れを歩いていた。彼らの前に広がる土地は、空での戦いとは対照的に静かだった。冷たい空気が発電機の遠い唸り声と、道の先での巡回のささやきを運んでいた。


マーカスは腕を組み、空を見上げながら息を吐いた。「火星の防衛線はまだ持ちこたえているようだな。」


アーニクは頷き、夜空から目を離さなかった。「これで三ヶ月だ。攻撃、撤退、繰り返し。何度も何度も。」


カイは眼鏡を直した。「奴らはただ我々を試しているだけだ。少しずつ、我々を消耗させている。」


アイカは自分の腕を抱き、軽く擦った。寒さが問題ではなかった。胸の重さ、彼女がこの道を歩み始めた日から続く不安な感覚が問題だった。彼女が話すとき、その声は静かだった。


「信じられる?私たち、今や兵士なんだよ?」


彼女は笑おうとしたが、それは空虚に響いた。その言葉は異質で、不自然に感じられた。兵士。彼らは訓練された戦士であり、戦いによって鍛えられ、戦争の前でも動じない存在であるはずだった。しかし、彼女が彼ら、そして自分自身を見たとき、彼らはただの人間だった。自分たちの力を超えた何かに投げ込まれた人々。


アーニクは低く笑ったが、いつもの温かさはなかった。「全く信じられないよ。」


アイカは息を吐き、その呼吸は不安定だった。「私たちの誰も、戦場に向いていない…」


カイはニヤリと笑い、頭を振った。「それはまさにその通りだ。」


ローズはにっこりと笑った。「私たちの心は純粋すぎるのよ。」


カイは目を転がした。「ベタすぎる。」


ローズは彼を軽く肘で突いた。「でも、あなたはそれが好きでしょ。」


都市のスカイラインが彼らの前に広がり、夜の下で静かだった。遠くで巡回が動いており、そのシルエットは高層建築物に対して小さく見えた。少なくとも今のところは平和だった。


マーカスは空から目を離さず、上空の遠くでちらつく光を見つめていた。彼の表情は読み取れず、彼の手はわずかに拳を握っていた。


カイが彼を見た。「大丈夫かい?」


マーカスはすぐには答えなかった。彼は鼻から息を吐き、視線を暗い空から離さなかった。


彼らのスーツの鋭いチャイムが夜を切り裂き、それに続いて声が聞こえた—冷静で制御されていたが、緊急性を帯びていた。


「こちらアンドリュー・ハンダーフォール。エンジェル・スクワッド、直ちに報告せよ。聞こえるか?!」


マーカスは剣の柄を握る手に力を込めた。アーニクの目が光り、突然の警報を処理するために深い青に輝いた。


カイは体を硬直させた。「これは良くない兆候だ。」


アーニクは息を吐き、その声は落ち着いていたが緊張していた。「聞こえています、提督。」


一時の沈黙。


そして—


「ライオネルが突破している!!郊外を避難せよ!!今すぐに!!」


彼らの周囲の世界が一瞬静止したように感じられた。


そして—


地平線が光に包まれた。


避難車両がほぼ到着し、そのエンジンが夜を轟かせ、ヘッドライトが煙に包まれた空気を切り裂いていた。


「皆、乗れ!乗れ!乗れ!」マーカスが叫び、人々を輸送車両へと誘導した。


「でも、作物が—!」一人の農夫が収穫した作物の束を抱えながらためらった。


「命の方が—」彼の言葉を遮るように、これまでで最も大きな爆発音が響いた。


爆発が遠くで起こり、その衝撃波が彼らに津波のように襲いかかった。眩しい閃光が夜を飲み込み、破片が空中に舞い上がり、金属と石が嵐のように降り注いだ。


「動け!急げ、急げ!」アーニクが叫び、人々を輸送車両へと押し込んだ。


ローズは子供を抱えて走り、落ちてくる瓦礫を避けながら叫んだ。「行って!今すぐ中へ!」


カイは歯を食いしばり、避難者のグループを魔法のバリアで守りながら破片の雨を防いだ。「時間がない!」


「よし、全員乗った!」カイが叫び、最後の避難者が安全に輸送車両に乗り込んだのを確認してバリアを下ろした。


マーカスは剣の柄を握りしめた。彼の視線は地平線を越え、瓦礫と燃える畑の向こうを見つめていた。彼の顎は固く締められていた。


「遠くの端を確認してくる!」


アーニクが鋭く振り向いた。「待て!一人で行くな—!」


しかし、マーカスはすでに走り出していた。


彼は遠くの郊外へと駆け出し、そのシルエットは煙と混乱の中に消えていった。


マーカスは走り、息を切らし、ブーツで地面を叩きながらさらに力を込めた。彼の装備は重かったが、彼は速度を落とさなかった。彼にはその余裕がなかった。


マーカスは走った。息が荒くなり、土を蹴り上げる足音が夜に響く。装備が重くのしかかったが、彼は止まらなかった。止まることはできなかった。


あの老人が言っていた…「設備が故障してるかもしれない」…彼らは警報を受け取れていないかもしれない。


瓦礫がどんどん近づいてくる。まるで隕石のように大地に叩きつけられ、平和だった農地を無惨に切り裂いていく。炎が遠くで立ち上り、黒煙が空に巻き上がる。


マーカスは畑の一番奥にたどり着き、心臓が激しく脈打つのを感じた。


「皆、攻撃が来てる!今すぐ逃げろ!」


炎の中で影がちらつく。まだ人がいる。恐怖で動けずにいるのだ。


やっぱり…残っていたんだ。


「今行くから!」声が返ってきたが、パニックに満ちていた。


「荷物なんかいらない!家族だけ連れて行け!」マーカスは叫び、その声は混乱を切り裂くようだった。


そのとき、何かが彼の足にぶつかってきた。小さな少年が、目を見開き、震えていた。周りでは多くの人が走り去り、恐怖に満ちた表情が溢れていた。


マーカスは膝をつき、少年を見つめた。


「大丈夫か?」


少年は鼻をすすり、頷いた。「だ、大丈夫…」


「じゃあ急げ。」


マーカスは通信機に手を伸ばし、叫んだ。


「まだ人がいる!もう一隻、避難船を要請する!」


ザーッという雑音の後、返事があった。


「了解。輸送船を回す—その場で待機せよ!」


マーカスが顔を上げた。


空が燃えていた。


まるで地獄の炎が降り注ぐかのように。


時間がない。


彼は少年を抱き上げ、しっかりと腕に力を込めた。


「しっかり掴まってろ!」


そして、彼は走った。


マーカスの目が見開かれる。空が裂けた。


最初の衝撃波が地面を揺らし、木々をなぎ倒し、わずかに残っていた建物を粉砕した。炎が夜空を流星のように駆け抜けるが、そこには美しさなどなかった。ただ、死だけがあった。破片が空を切り裂き、金属が、石が、燃える残骸が止まることなく畑に叩きつけられる。


大地そのものが、破壊の嵐に震えているかのようだった。


息が詰まる。


あの記憶が蘇る。


あの日。


混乱。叫び声。無力感。


俺は…みんなを救えない。


彼の拳は強く握りしめられ、手袋がきしむ音を立てた。


だが、この子だけは…救う。


マーカスは歯を食いしばり、少年を引き寄せた。少年は泣きながら震え、必死にマーカスのジャケットにしがみついた。


「大丈夫だ…」マーカスはかすれた声で囁きながらも、しっかりとした口調で言った。彼は地面に身を伏せ、少年を覆い隠すように体を丸めた。熱が背中を焦がし、衝撃が骨まで響いた。


彼は腰のホルダーから携帯用の呼吸器を取り出し、それを少年の顔にそっと当てた。


「しっ…しっ…落ち着け、呼吸をしろ。」彼は静かに囁いた。


少年はすすり泣きながらも、小さな手で必死にマーカスのジャケットを掴み続けた。


炎と瓦礫の嵐は激しさを増すばかりだった。


一つの衝撃ごとに、マーカスの体が揺れ、地面が呻き声を上げた。かつて命に満ちていた畑は、今や燃え盛る業火に包まれ、風は焦げた作物の匂いを運んできた。煙が重く、息をするのも苦しい。


地面はひび割れ、建物は崩れ落ち、それでも—それでも—破片は降り注ぎ続けた。


マーカスは必死に抱きしめ続けた。


そのとき、アーニクの声が通信機越しに響いた。静電気混じりの雑音の中で、緊迫した声が刺さる。


「マーカス!お前、あの地獄のど真ん中にいるのか!?」


マーカスは顔をしかめ、少年をさらに強く抱きしめながら立ち上がろうとした。体中が痛みで悲鳴を上げ、筋肉が軋んだ。


「…っ、大丈夫だ…!」


「大丈夫なわけあるか!今すぐお前のところに向かう!」


マーカスは歯を食いしばり、戦場を見渡した。炎はなおも燃え盛り、熱が重くのしかかっていた。残骸は燻り、かつて命があった場所は灰と化していた。


そのとき—空が変わった。


マーカスは目を細めた。煙と炎の向こうに、何かが浮かんでいる。


戦艦だった。


その巨大なシルエットが、燃え盛る雲の中にぼんやりと見えてきた。そして、何の前触れもなく—


ポッドが。


数十ものポッドが、その腹部から発射され、流れ星のように地上へと向かっていった。


マーカスは息を鋭く吐いた。


「…あの悪魔め、ついに動き出したか…」


彼は少年を抱え直し、走った。


この熱は…奴を殺す。


彼のブーツが燃え盛る破片を踏みしめ、彼は破壊の中を駆け抜けた。戦艦の存在感は圧倒的で、その影が荒廃した土地を覆っていた。


ライオネルはただの突破じゃなかった。


奴は…ここにいる。


マーカスは燃え盛る残骸を駆け抜けた。呼吸は荒く、肺は煙で焼けつくようだった。腕に抱えた少年は震えながらもしがみつき、小さな指がマーカスのジャケットを必死に掴んでいた。まるで、その手が命綱であるかのように。


そして—


ドンッ。


ポッドが目前に墜落し、地面が激しく揺れた。衝撃波でマーカスは足を滑らせそうになりながらも、体勢を立て直した。土と金属が四方に飛び散り、炎が爆発的に燃え上がった。


マーカスの目が鋭く細められる。ポッドの外殻が、蒸気を吹き上げながらゆっくりと開き始めた。ギィィ…という金属のきしむ音が夜に響き渡る。


考えるより先に、体が動いた。


マーカスは少年を抱きしめ、体をひねって庇うように覆いかぶさった。ジャケットの裾が翻り、破れた布が空気を裂いた。


ドンッ。


魔力の弾丸が背中に直撃し、マーカスの体が前方に弾かれた。筋肉が悲鳴を上げ、呼吸が詰まった。二発目が肩の装甲を貫き、肉を焼いた。


まだだ。


三発目。少年を狙った直撃。


マーカスは地面に倒れ込み、全身で少年を守った。


次々と襲いかかる衝撃が彼の背を貫き、ジャケットを焼き、肉を裂いた。焦げた布と肉の匂いが空気に充満し、痛みが神経を容赦なく蝕む。


少年はマーカスの下で小さな体を震わせ、泣き叫び、かすれた声で助けを求めていた。


小さな手が必死にマーカスの破れたジャケットを掴み、震えながら離さなかった。


マーカスは歯を食いしばり、血を滲ませながらも決して離さなかった。剣を握りしめ、再び立ち上がり、燃え盛る戦場に立ちはだかった。


その刹那、黒い魔力が空気を歪め、戦場全体に不穏な気配が広がった。


悪魔機兵たちが一斉に動き出し、赤い光を放つセンサーがマーカスに集中した。まるで獲物を囲む獣のように、彼を中心に円を描くように迫ってきた。


マーカスは考える前に、動いた。


刃が閃き、一体の悪魔機兵の喉元を切り裂いた。首が吹き飛び、黒い火花と共に機体が崩れ落ちた。


別の一体が側面から飛びかかる。マーカスは回転しながら刃を振り抜き、その胸部を一刀で両断した。鋭い金属音が響き、破壊されたコアが光を放ちながら消滅した。


着地した瞬間、さらに別の機兵が殺到してきた。魔力が空気を震わせ、無数の攻撃が四方から降り注いだ。マーカスは体をひねり、刃を閃かせ、ギリギリで一撃をかわしながら攻撃を繰り出した。


狙いは正確、動きは無駄がなかった。無慈悲で、速く、鋭い。彼のブーツが瓦礫を踏みしめ、地面を蹴るたびに、破壊された機兵の残骸が戦場に散らばった。


背後から掴まれた。


マーカスは迷わず肘を打ち込み、機兵の頭部を叩き潰した。すぐさま剣を振り返して胸部を貫き、黒い火花を散らした。


だが、敵は次々と現れた。際限なく、止まることはなかった。


その時—耳に届いた。


あの声。


少年の泣き声だ。


マーカスの視線がその方向に引き寄せられた—そして見てしまった。


悪魔機兵が、刃を振り上げていた。少年に向けて。


「やめろ—!」


マーカスは飛び出した。しかし、その瞬間—


鋭い痛みが腹部を貫いた。


黒い刃がマーカスの身体を貫き、動きを止めた。息が詰まり、視界が揺らいだ。剣を握る手が震える。


刃を突き刺した機兵が、無機質な声で嗤った。


マーカスは動こうと必死にもがいたが、体が言うことを聞かなかった。


彼の視線の先で、悪夢が現実となった。


悪魔機兵の刃が、少年の胸を深々と貫いた。


世界が静止した。


少年の目が見開き、小さな手が弱々しく刃を掴もうとした。唇が震え、かすかな声が漏れたが、言葉にはならなかった。


マーカスの心臓が止まった。


機兵は刃を捻った。血が灼けた地面に滴り落ちた。


少年の体が力なく崩れ落ちた。


悪魔機兵が嘲笑った。


マーカスの視界がぼやけ、意識が遠のいていった。


……戦争……なんて、ひどいものだ。



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