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安息のひととき(火星編)

金色の畑が街の外れから遥か彼方まで広がり、冷たい風に吹かれて波打っていた。土の道の両脇には作物の列が緑鮮やかに並び、生命力に溢れていた。家畜たちは広々とした牧草地をのんびりと歩き回っていた。戦争の気配が迫っているにもかかわらず、この土地は手つかずのまま残されており、火星の防衛線の混沌を越えた静かな避難所となっていた。


アーニクは額の汗を拭い、新たに収穫した作物の束を地面に置いた。土は豊かで、彼の手にまとわりつくようにしっとりとしていた。彼は農夫たちと肩を並べ、黙々と作業を続けていた。


「わざわざ手伝わなくてもよかったんだぞ、坊や。」年配の農夫が背中の重い袋を直しながら言った。


アーニクは穏やかな笑みを浮かべた。「いえ、大丈夫です。暇つぶしにもなりますし。」


近くでは、マルクスが金属の柵に腕を組んで寄りかかり、アーニクの働く様子をじっと見守っていた。視線を畑に走らせ、ため息をついた。「なあ、なんで機械を使わないんだ?」


農夫は笑った。「地球外で育てた作物は繊細なんだ。機械を使うと傷つけちまう。」彼は生産物でいっぱいの木箱を軽く叩いた。「リオネルが突破してきた時のために、食料は一つでも多く確保しなきゃならん。」


アーニクの手が、作物の束を握りしめた。「そうか。戦争中だもんな。」


彼は作業を続けた。基礎訓練を終えてから、もう二ヶ月が経っていた。


農夫は額の汗を拭い、掘り返したばかりの畑を見渡し、目を見開いた。土地は広く深く、掘り起こされたばかりの土が新しく、植え付けの準備が整っていた。


「これ…全部手作業でやったのか?」驚きの声が隠せなかった。


アーニクは手の土を払い落とし、笑みを浮かべた。「筋トレも兼ねてますしね。それに、畑は機械じゃとても追いつかない。手伝えるならって思ったんです。」


補給船に積み込む荷物は山のようにあり、人力に頼らざるを得なかった。毎日、食料が火星の防衛のために送られていき、働く手は一つでも多いほうが助かるのだ。


近くでは、マルクスが何人かの作業員が重い木箱を積み込もうと悪戦苦闘しているのに気づいた。無言で一歩前に出た。


「おい、心配すんな。俺がやる。」


マルクスは一度の動作で複数の箱を持ち上げ、軽々と積み上げた。作業員たちはその力に目を丸くしたが、マルクスはほとんど息を乱すこともなかった。


アーニクはちらりと彼を見やり、小さな笑みを浮かべた。──この作業、俺たちの精神にも良い影響が出てるみたいだな。あの日の光景を…特にマルクスは…見過ぎたから。


彼の視線はしばらく友に向けられていた。彼が少しずつ以前の姿に戻っていくのを見られるのは嬉しい。


長い間見なかったが…マルクスの表情は穏やかで、わずかに笑みを浮かべていた。


アーニクは、ただ嬉しかった。


日が沈み、地平線の向こうに薄暗い影を落とす頃、その日の作業はようやく終わりを告げた。小さな木造の屋根の下で、アーニクは冷たい牛乳を一気に飲み干した。


「はああ…たまんねぇな。」彼は大きく背伸びをしながら言った。「なあ、マルクス、こういうのっていいよな?戦時中ってことを忘れちまいそうだ。」


マルクスはフェンスに寄りかかり、腕を組み、無表情で空を見つめていた。「まあな…だが、大事なことを簡単には忘れない性質でな。」


アーニクは眉をひそめ、軽くうめいた。「もう、いいじゃん!さっきは楽しそうにしてたくせに!」


マルクスが口を開く前に、小さな女の子が彼に駆け寄り、背中に何かを隠していた。


「はいっ!」彼女は笑顔を輝かせながら、花の冠を差し出した。


マルクスは目を瞬かせた。「俺に?」


「うん、おじちゃん!おじちゃんはとっても優しいんだよ!パパが腰を痛めた時、一緒に畑を手伝ってくれたでしょ!」


マルクスはしばらくためらった後、小さく笑みを浮かべ、彼女の頭を軽く撫でた。「…ありがとう。」


アーニクはニヤリと笑った。「おいおい、モテモテじゃねえか。」


マルクスは鼻で笑った。「俺が?まさか。」


「うん!おじちゃんは僕より人気だよ!信じられないけど!顔が怖いからみんな避けると思ってたのに!」


マルクスは目を細めて、ため息をついた。「人気なんて、ないって。」


彼の言葉が終わらないうちに、数人の農夫たちが両手いっぱいにパンやお菓子を抱えて駆け寄ってきた。


「マルクス!これ、受け取ってくれ!」


マルクスは手に抱えきれないほどのパンや菓子、スイーツに目を丸くした。「俺に?」


「もちろんさ!本当に助かってるんだから!」


最初はアーニクも笑っていたが、マルクスがもらっている量に気づき、顔が引きつった。


──嫉妬心が芽生えた。


その時、小さな男の子がヨチヨチと近づき、小さなケーキを手にしていた。


「おにいちゃん、これあげる!」


アーニクはその場で固まった。喉が詰まり、声が出なかった。


もう少しで…涙が溢れそうになった。


マルクスは眉を上げた。「おいおい、本気で泣くのか?」


「な、泣いてないってば!!」


農夫たちは笑い声をあげた。「アーニクのことも忘れてないよ!」


気がつけば、二人は山のようなお菓子に埋もれていた。もうどうしようもないくらいに。



次は、他のメンバーの様子を見てみよう。


カイはため息をつきながらこめかみを揉み、目の前に高く積まれた木箱の山を見上げていた。その日早朝、魔法アイテムの積荷が届き、それを検品するのが彼の役目だった。


「……なんで俺が、お前ら二人の面倒を見なきゃいけないんだ?」眉をひそめながら呟く。


ローズは木箱にだらしなく寄りかかり、にやりと笑った。「だって私たちの仕事はもう終わったし?ちょっと遊びたくてさ。」


アイカは半分眠ったようにあくびをしながらふらふらと歩み寄った。「んん……」


カイは腕を組み、深いため息をついた。「……分かったよ。だけど、問題は起こすなよ。」


ローズは大袈裟に息を呑んだ。「カイ!私がトラブルメーカーに見えるって?」


カイは無表情で彼女を見た。「見える。」


ローズは笑いながら肩をすくめた。「まあ、しょうがないか。」


彼女はカイの肩を肘でつつきながら小声で囁いた。「ほら、美女二人に囲まれて感謝しなさいよ。」


「黙れ。」カイは目を半分閉じて呟き、検品作業を続けた。


だが、その時、彼の目が鋭くなり、木箱の中から取り出した武器をじっと見つめた。手に取り、くるりと回して確認する。


「失礼、少し聞きたい。」カイは監督官に声をかけた。


男が近づいてきた。「なんでしょうか?」


カイはその武器を握りしめながら言った。「この積荷が届いたのはいつですか?」


「今朝です。どうかしましたか?」


カイは魔法銃の銃身を片手で簡単に曲げた。


ローズの耳がピクリと動く。「えっ……それ、普通じゃないよね?」


カイの表情が暗くなった。「これは偽物だ。」


監督官の顔色が青ざめた。「えっ……何ですって?」


カイは冷たい視線を向けながら言った。「いくつかの武器が盗まれて、偽物にすり替えられている。」


アイカは目をこすりながら目を覚ました。「え?調査魔法?ああ……そうだった。」


彼女は指を鳴らし、魔法を発動させた。木箱の周りに淡い光が広がり、空気が歪んで蜃気楼のように揺らめく。過去の映像がゆっくりと再生されていく。


作業員が積荷を開け、中身を確認していた。映像が早送りされ、夜になるとフードを被った数人の男たちが現れ、手慣れた動きで複数の武器をそっくりな偽物と入れ替えていた。


カイは腕を組み、冷静な声で言った。「なるほど……荷物が届いた直後だな。俺たちが休憩している間にやられたってわけか。」


監督官は喉を鳴らし、青ざめながら頭を下げた。「申し訳ありません、隊長……」


カイはこめかみを揉みながらため息をついた。「まあいい。面倒だが仕方ない。」


ローズは彼の肩にもたれかかり、にやりと笑った。「で、天才さん。どうやって奴らを見つけるつもり?」


カイは再び映像をじっと見つめ、目を細めて分析を始めた。そして、薄い笑みが口元に浮かんだ。「大体見当はついた。」


旧市場倉庫


湿った木の匂いと錆びた金属の匂いが入り混じった空気が漂っていた。月明かりが割れた窓から差し込み、床にギザギザの影を落としていた。壁沿いには箱が積まれ、ラベルは剥がれかけ、時間の経過を物語っていた。埃が舞い、薄暗い空間を漂う中、盗賊たちの小声が響いていた。


「やったな!新品の魔法武器が十本も!ちょろいもんだぜ!」男の一人が笑いながら銃を肩に担いだ。


もう一人はダガーをくるくると回しながら鼻で笑った。「ここの警備はザルだな。まるで『持ってけ』って言われてるみたいだ。」


その外、暗闇に隠れて、カイとローズが古びた木箱の陰にしゃがみ込み、割れた窓から中を覗いていた。


ローズは眉を上げた。「で?なんでここにいるって分かったわけ?」


カイは眼鏡を押し上げ、薄い笑みを浮かべたまま答えた。「簡単なことさ。訓練の一環で街の地図を全部覚えさせられたからな。」


ローズの耳がピクリと動いた。「は?そんなことする人いるの?」


カイは肩をすくめた。「論理的な推論だよ。武器の重さ、運搬時間、目撃されずにどこまで移動できたか……それを組み合わせれば、ここしかない。」


「はいはい、天才様は黙って。」


「分かった。」カイはため息をついた。「そろそろ突入しよう。」


ローズは指を鳴らし、拳を握り締めた。「殺しは禁止ね。」


カイは口元に薄い笑みを浮かべた。「そんなつもりはない。」


「よし。」


二人は無言でうなずき、動いた。


──ドアが勢いよく開かれた。


盗賊たちの得意げな笑みは、一瞬で消えた。


「なんだと?!なんでこんなに早く見つかったんだ?!」一人が叫び、慌てて武器を手に取ろうとした。


「撃てぇっ!」もう一人が叫び、既に銃を構えていた。


──ビビビッ!


カイの前に半透明のバリアが瞬時に展開し、撃たれた弾丸をはじき、壁へと逸らした。眼鏡の奥で彼の瞳が鋭く光る。「予想通り。」


「ローズ、今だ。」


「了解。」


ローズはすでに動いていた。ひときわ素早い影となり、室内を一気に駆け抜ける。その動きは誰も反応できないほどだった。木箱を蹴って飛び上がり、最も近くにいた男の胸にかかとを叩き込む。


「グッ……!」男は呻き声を上げ、盗んだ物資の山に吹き飛ばされ、木箱と武器を巻き込んで派手に崩れ落ちた。


その瞬間、地面から鎖が噴き出した。


完全に覚醒したアイカが両手を伸ばし、魔法を操る。光る鎖は生き物のようにのたうち、数人の男たちの腕や足に巻きついていった。男たちは必死にもがくが、鎖は逆にきつく締まるだけだった。


「クソッ……動けねぇ!」一人が叫び声を上げたが、無駄だった。


カイは銃を構え、ゆったりとした仕草で狙いを定めた。銃口が青白く光を帯び、退屈そうな表情で男たちを見下ろした。


「……終わりだ。」


引き金を引いた。


魔力を帯びた弾丸が一人の男の胸に命中し、彼の身体は硬直し、力を失って床に崩れ落ちた。


「くらえ!」別の男が魔力を込めたナイフを持ってカイに飛びかかってきた。


カイは軽やかに身をかわし、相手の手首を掴むと、ナイフを奪い取り、肘打ちをみぞおちに叩き込んだ。男はうめき声を上げ、その場に倒れ込んだ。


ローズは宙を舞いながら、別の男の振り下ろした刃を華麗に避け、そのまま背後に回り込む。男の膝裏に鋭い蹴りを叩き込み、ぐらついた瞬間に頭部へ拳を打ち込んだ。男は力なく床に倒れ込んだ。


最後の一人は震えながら床に落ちた銃を拾おうと手を伸ばしていた。


カイはため息をつき、銃を向けた。「無駄だ。」


最後の一発が放たれ、麻痺の魔法弾が男の胸に命中し、彼もまた地面に崩れ落ちた。


──沈黙が戻った。


アイカは手の埃を払いながら微笑んだ。「思ったより簡単だったね。」


ローズは指を鳴らし、肩を回した。「まあ、鎖で半分は片付けたしね。」


カイは眼鏡を押し上げ、倒れた男たちを見下ろした。「さて、報告するか。」


ローズはニヤリと笑った。「でしょ?私たちを連れてきて正解だったでしょ?」


カイは顔をしかめた。「その話はしたくない。」


三人は散らばった武器や盗品をまたぎながら倉庫を後にした。任務は無事完了した。


「よし、報告するぞ。」カイは通信機を操作し、状況を伝えた。数分後、支援部隊が到着し、盗まれた武器の回収と犯人たちの拘束を始めた。


ローズは大きく伸びをしながら、尻尾をゆらゆらと揺らした。「ふう、面白かったわ。」


アイカは目をこすりながら小さなあくびを漏らした。「長い一日だったね……」


カイは彼女に視線を向けた。「……お前、あんまり働いてないだろ。」


「はあ?!」アイカは頬を膨らませた。「最初に見つけたのは私なんだからね!」


ローズはクスクスと笑った。「で、すぐに寝てたけど。」


アイカは口を尖らせたが、反論できずにいた。


カイは髪をかき上げ、深く息を吐いた。「もういい……何か食べよう。」


ローズはにやりと笑った。「賛成。」


任務を終えた三人は、街の灯りが瞬く中を歩き出した。ネオンが頭上でまたたき、街の喧騒が彼らを包み込んでいた。



読者の皆さんへ


ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

これから、次のアークが始まります。

新たな戦い、新たな仲間、そして試練が彼らを待っています。

彼らの物語が、火星を舞台に、さらに深まっていく様子をぜひお楽しみください。

これからも応援よろしくお願いします!

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