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変異と魔法の体系

一行は低いテーブルを囲んで座っていた。数ヶ月ぶりの再会に、皆の顔にははっきりと疲れがにじんでいた。ローズは背中をもたれさせながら、アイカの頭を膝に乗せていた。アイカは黒髪を肩に垂らし、静かに目を閉じていた。彼女の寝息が微かに室内に響き、ローズは無意識にその髪を指で撫でていた。


「なあ、ここは昼寝する場所じゃないんだけど?」カイが苛立った表情で前かがみになり、沈黙を破った。「起きて、話すんだろ?」


アイカはうめきながら上体を起こし、目をこすった。「ごめん!訓練が厳しすぎてさ。昨日は怪我した動物二千匹の治療して、そのあとすぐ剣術訓練だよ。休むヒマなし!」


ローズは髪を耳にかけて、皮肉げに笑った。「いいわね。私なんて野犬に追われながら10キロ走らされたわよ。しかも教官、ずっと笑顔だったの。『もっと速く走って、ローズ!追いつかれちゃうわよ~!』って。」ミウの陽気な声を真似しながら、明らかに苛立っていた。


――彼女の意識はあの場面へ。


でこぼこの地面を走り抜け、背後では犬たちの吠え声が近づいてくる。筋肉は悲鳴を上げ、肺は焼けるようだった。小高い丘の上では、満面の笑みを浮かべたミウが叫んでいた。「遅れたら、自業自得よ~!」


――現実へ戻る。


「可愛いけどさ、あいつ絶対悪魔だわ…」ローズがボソッと呟いた。そしてカイを睨む。「あんたはどうせ楽してたんでしょ?」


カイは鼻で笑い、語気を強めた。「楽だと?マジで?俺の教官、書類仕事を全部押し付けてきて、その後は10時間の剣術訓練。で、夜は魔導武器の作成。それで何?銃があるのに、なんで剣なんだよ?」


――彼の思考は、深夜の訓練室へと飛んだ。


書類の山。背後には睨みを利かせる教官。「武器作りはハンマー振るだけだと思ってんのか?すべてのディテールが命取りだ。」


カイは苛立ちながら筆を走らせ、疲れた腕で何時間も剣を振った。教官の鋭い指導は休む暇を与えなかった。


――回想終了。


アーニクは首をかきながら軽く笑った。「お前らは大変そうだな。でも俺は楽しんでるぜ。エネルギー出し続けるだけだし。昨日の訓練、終わったの今朝だったよ。」彼は肩をすくめて笑う。「でも飯は豪華だし、文句なし!」


ローズは呆れたように彼を見た。「なんでそんなにポジティブでいられるのよ?」


カイはため息をつき、少し声を落とした。「お前ってさ、いつもそうだよな。マルクスも…」


一気に部屋の空気が静まり返る。彼らの冗談は止まり、マルクスの不在が重くのしかかる。


「……ちょっと待って」ローズが不安そうに言った。「マルクスはどこ?」


その時、ドアが開き、教官たち――タカシマ、ヴァイネ、ザラ、ミウ――が入ってきた。表情はみな険しく、クロウネの姿だけがなかった。


ヴェイン(ヴァイネ)は髪をかき上げながらため息をついた。「クロウネはまだ外だ。マルクスを鍛えてる。」


ミウは腕を組み、眉をひそめた。「長すぎるわ。休ませてやってもいいでしょうに。」


「言ったけどな…」ヴァイネは首を振りながら呟いた。


――密林。湿気に満ちた空気。ヴァイネは森の奥の影を見つめる。


(まだあそこにいる。あの忌々しい場所で、まだ訓練中…)

(クソ…)足元の石を蹴り飛ばす。

(ま、今月末に這い出してくるだろうよ。)


――現実へ戻る。


「まったく、あの頑固者…」ヴァイネは腕を組んで吐き捨てる。


「彼抜きで進めましょう」ブリッツの声が空気を裂く。「あとで追いつかせればいいわ。」


タカシマが一歩前に出て、力強く言った。「よし、始めよう。」


彼は手を叩いて全員の注目を集める。「よく聞け。今日は“魔法”と“変異”について話す。」


皆の表情が変わる。雑談は消え、真剣な視線がタカシマに集まった。


「魔法と変異。それは表裏一体のようでいて、全く異なる力だ。どちらも自分の力を理解し、生き延びるために不可欠だ。」


「ようやく説明タイムね」とローズがつぶやく。


タカシマは少し歩きながら続けた。「まず魔法について。魔法は人間と悪魔だけが使える。だが、火の玉や雷を出す力じゃない。そんな幻想は捨てろ。」


「じゃあ何の意味があるんだよ…」カイがうめく。


「魔法は破壊じゃない」ブリッツが割って入る。「創造の力。精密で、規律があって、応用力もある。道具であり、武器よ。」


「その通りだ」タカシマがうなずく。「魔法は“マナ領域”という並行世界から引き出す。昔は地球と繋がっていて、自然にマナが流れていた。でも、最初の魔族戦争でその繋がりは断たれた。」


「どうして?」アイカが小さく尋ねた。


「大戦中の過剰使用で、マナ領域が閉ざされたんだ」ヴァイネが説明する。「今では、魔法具やアイテムを通じてしかアクセスできない。“鍵”みたいなもんだ。」


「鍵があっても簡単には使えない」タカシマが続ける。「魔法は想像と集中で制御される。明確な意志と精密さが求められる。制御できなければ、暴走する。」


「つまり、精神力勝負ってことね」ローズが腕を組みながら言う。「あんまりワクワクしないわね。」


「ワクワクじゃ生き残れない」ザラが冷たく言った。「必要なのは、規律よ。」


タカシマが再び手を上げて静めた。「次は“変異”だ。これは人間専用。そして決定的な違い――魔法ではプラズマエネルギーは生み出せないが、変異なら可能だ。」


「プラズマ?」ローズが眉をひそめる。


「プラズマエネルギーは三種。電気、炎、純粋プラズマ」ヴァイネが前に出て話す。「ミュータントは生まれた時に一つの属性だけを持っている。他のものは使えない。」


「アーニクを除いてな…」カイが呟きながら彼に目を向ける。


ヴァイネはそれに触れずに続けた。「ああ、アーニクは例外だ。それは後で話す。今覚えておけ。変異の力は心臓に宿る。使いすぎれば、心不全を起こす。」


「だからこそ制御が命」ザラが続けた。「暴走した力は敵より早くお前を殺すわ。」


「それと“心臓変異”がある」ヴァイネの声は低くなる。「力を完全に解放する技術。でも、代償は命だ。戦略じゃない、最後の手段だ。」


皆の表情が固まる。自分たちの力の重さが、ようやく実感として迫ってきた。


「まとめよう」タカシマが言った。「魔法は思考と集中で創造する力。変異は身体から生まれる純粋な力。どちらも強いが、求められる鍛錬は全く異なる。」


「つまり、無理ゲーを二つ同時にやれってことか…」カイがこめかみを押さえてうめく。


「私は毎日命からがら走ってんのよ」ローズが睨む。


アーニクはいつものように明るく笑う。「でも、大丈夫さ。何とかなるって。」


タカシマはアーニクをじっと見つめ、そして全員に言った。


「敵は、お前たちの苦労なんか知らない。重要なのは、戦えるかどうか。命がかかってる。それも、お前一人だけじゃない。みんなの命だ。」


彼は手を叩いた。「よし、今日はここまで。生徒を連れて行け。」


ブリッツは迷わずアイカのもとへ行き、腕をがっしり掴んだ。「行くわよ」冷たく言い、引きずっていく。


「やだああああ!今座ったばっかりなのに!あと五分だけええええ!」


パシッ!


ブリッツの手がアイカの後頭部を軽く叩いた。「休憩終了。甘えるな。」


皆は笑いを堪えきれず、アイカの叫びが廊下に響く中、クスクスと笑った。


生徒たちが去ったあと、タカシマは小さく微笑み、低く呟いた。


「…頑張れよ、ガキども。」



読者の皆さんへ、

心からの感謝を――

最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます!

これからも応援よろしくお願いします!

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