表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/64

オーブ

火星の軍事基地の広大な敷地内、その一角に彼らは整列して立っていた。巨大な格納庫や、整然と並ぶ戦車と巨大な戦艦の列が、施設の広がりをさらに圧倒的に見せていた。


赤い太陽が地平線に傾き、風景全体を赤褐色に染めていた。機械や防衛構造物の滑らかで反射する表面が、太陽光を反射して眩しく輝いていた。


そのとき、一人の歴戦の兵士が視界に飛び込んできた。彼の影が新兵たちの列に長く伸びる。


彼の存在には圧があり、そしてその声は刀のように鋭く響いた。


「――よし、クソガキども!よく聞けッ!」


そのブーツが金属製の地面を強く踏み鳴らしながら、新兵たちの前を歩き回る。


「俺のことは**“サージ”**と呼べ!いいなッ!?」


「サー、イエス、サー!!」と新兵たちが一斉に叫んだ。その声は火星の乾いた風に乗って広がった。


アーニクとその仲間たちは列の最前列に立っていた。彼らの制服には赤いタグがついていた。その他の訓練生たちは青いタグだったが、赤は明らかに異質で、まるで「的」そのもののように目立っていた。


その違いは明白だった――赤タグは期待値が高い証であると同時に、これから待ち受ける試練がより厳しいことの象徴でもあった。


サージの鋭い視線が赤タグのグループに突き刺さる。


その顔に浮かんだ笑みには一片のユーモアもなかった。目を細め、彼の視線は真っすぐアーニクを捉えた。


そして彼は、まっすぐアーニクの前に立ち止まった。空気が一層重くなる。


「お前ら五人、前へ出ろ!」とサージが叫んだ。


グループは一瞬だけ視線を交わし、そして迷いなく一斉に前へ出た。他の新兵たちから完全に分離される。


「区分球を持ってこい!」


サージの声が基地全体に響き渡る。


すぐに二人の兵士が現れ、大型の発光するオーブを乗せた補強済みの台を押してきた。


そのオーブは淡い音を響かせながら光を脈打ち、表面には複雑な模様が渦巻いていた。


新兵たちがざわめき始める。不安と興味が入り混じったような声があちこちで漏れた。


サージはオーブを指さして言う。


「これが“区分球”だ。お前たちは全員、一人の“マスター”に割り当てられる。歴戦の戦士だ。お前たちを鍛え上げる者だ」


「潜在能力が高いほど、より強力なマスターが選ばれる。だが――それをご褒美と勘違いするな」


彼は一歩前に出て、低く唸るような声で続けた。


「高いスコアを取ったって、楽になるわけじゃねぇ!むしろその逆だ。マスターが強ければ強いほど、お前たちは地獄を見る!生きて帰れる保証なんか、どこにもねぇ!!」


新兵たちの間にざわめきが広がる。「えっ、それって許されてんのか……?」誰かが小声でつぶやく。


アーニクは拳を握りしめた。顎を引き締め、オーブを真っすぐ見つめる。


心臓の鼓動が速くなる。重圧が肩にのしかかってくる。


サージの目が再び赤タグに向けられた。そしてその指が、まっすぐアーニクを指す。


「中央のお前、前へ出ろ!」


アーニクは一秒だけ迷い――そして前へ踏み出した。


その拳はまだ、硬く握られていた。


オーブの光が彼の顔に映り込み、淡い輝きがその表情を包む。


サージは顔を近づけ、その口元に浮かぶ笑みは、もはや不気味さすらあった。


「見せてもらおうか、赤タグ」


アーニクが近づくにつれ、オーブの光は次第に強まり――


突如、強烈な緑色に輝き始めた。


オーブの中で渦を巻く模様の中に、名前が浮かび上がる。


アルリック・ヴェイン


新兵たちからどよめきが起きる。サージでさえ、ほんの一瞬だけその動きを止めた。


そして――爆発するような笑い声が響いた。


「パァーッハッハッハッ!運がいいな!」とサージが叫ぶ。その笑い声は基地中に響き渡った。


「とんでもねぇのを引いたな、赤タグ。……さぁ、進め!」


アーニクはごくりと息を飲み、拳を少しだけ緩めて、前へ一歩進む。


誰が自分の“教師”になるのかなんて、全く想像もつかないまま。


「次だ!」


サージの怒号が再び飛ぶ。


マルクスが前に出る。顎を引き締め、黙ってオーブへと歩み寄る。


マルクスが区分球に近づくと、光は徐々に強まり――


そして突如、炎のような橙色の光が爆発するように輝いた。


オーブの中に浮かび上がる名前:


マルリク・クラウン


その瞬間、訓練生たちの間に大きなどよめきが広がった。


「マルリク・クラウンだって……!?」「マジかよ……」「鐘が鳴って聞こえる気がする……」


マルクスの胃がひゅっと縮んだ気がした。


(まさか……イカれた奴とかじゃないよな……)と彼は思った。拳が自然と握られる。


しかし――


サージの反応は爆発的だった。


彼は大声で笑い出し、膝を叩きながら身体を折り曲げるほどだった。


「うっははは!!マジかよ!それはキッツいな、坊や!」


サージの笑い声が火星基地中に響き渡る。


マルクスは顔をしかめ、眉をひそめた。「何がそんなに可笑しいんだ?」と不機嫌そうに言う。


サージは目尻に浮かんだ涙をぬぐいながら、口角を大きく上げて答える。


「可笑しいって?……かわいそうなくらい可笑しいってことさ」


彼の声は同情のふりをした悪意に満ちていた。


「お前が引いたのは“ただの狂人”なんかじゃねぇ。本物の狂人だ。マルリク・クラウン様だ!!」


マルクスの息が一瞬止まる。


だが彼はすぐに姿勢を正し、目を細める。


サージはさらに顔を近づけ、声を低くする。


「マジで哀れだな。地獄に行きたくなるぞ、坊や」


マルクスの思考は暴れ始めたが、それでも表情は変えずに答える。


「……見てろよ」


心の中では叫びたくなるほどの不安を抱えながらも、声だけは冷静だった。


(最悪だ。最悪すぎる)


「最初の“幸運者”の横に並べ!」サージが命じる。


マルクスは無言でアーニクの隣へと移動する。背後ではオーブの光が徐々に弱まっていく。


(これは……悪夢の始まりだ)


続いて、ローゼが一歩前に出た。動きは慎重だが、揺らぎはなかった。


オーブは淡く光り、その色は徐々に柔らかな桃色に変わる。


そして、表示された名前:


望月ミウ


サージが眉を上げ、口元に小さな笑みを浮かべた。


「おいおい……面白いな」と彼は小声で呟く。


そして指でアーニクの隣を指し、「そこに並べ」と命じた。


ローゼは無言で頷き、その場に立つ。


サージが手をパンと叩く。


「急げ、寝ぼけ野郎!次!」


眠そうな目で、アイカがゆっくりと前へ進んだ。どこか上の空のように見える。


オーブが輝きを放ち、次第に鮮やかな紫色へと変わった。


浮かび上がった名前は――


ザラ・ブリッツ


サージは低く口笛を吹いた。


「また一人、当たりくじを引いたな……。こりゃあ、お前も相当鍛えられるぞ」


アイカは欠伸をしながらも、ゆっくりと頷き、ローゼの隣に並んだ。


そして――


サージの目がカイへと向く。


「次はお前だ!」


カイは背筋を伸ばし、力強く前へと進む。


彼がオーブに手を近づけると、その光はまばゆい白色に変わり、瞬く間に辺りを照らした。


現れた名前:


高島リンタロウ


サージの表情が、驚きと哀れみに変わる。


「おお……またアイツか」彼は鼻で笑う。


「どうやらまた“実験材料”が手に入ったらしいな」


その言葉は、わざと周囲の訓練生たちにも聞こえるように放たれた。


カイの顎がわずかに引き締まるが、感情を表に出すことはなかった。


無言でグループの横に並ぶと、他の訓練生たちのささやき声が背後で広がっていった。


サージが再び手を叩き、声を張る。


「よし!これで赤タグ組は全員振り分け完了だ!」


「覚悟しろ。ここから先、お前たちの人生は――もうお前たちのものじゃない!」


サージは数歩後退し、不敵な笑みを浮かべる。


「――幸運を祈るぜ」


その瞬間、彼はテーブルの側面にあるボタンを押した。


赤タグ組の制服に付けられたタグが、一斉に光を放ち始める。


ローゼの目が見開かれる。「なにこれ……?」とタグに触れる。


そして――


赤タグ組の五人は、一瞬にしてその場から姿を消した。


青タグの訓練生たちは一斉に息を呑み、騒然となる。


「今の……どこ行ったんだ……?」誰かが呟く。


サージは腕を組み、薄ら笑いを浮かべたまま立っていた。


「――マスターの元へだ」


その声は何気ない調子で放たれたが、その奥には確かな悪意と期待が込められていた。


「……そしてな、奴らは絶対に……気に入らねぇと思うぞ」


オーブの光は静かに消えていく。任務を終えたように。


残された訓練生たちはただ黙って、それを見つめていた。


まるで――自分たちの未来を、見てしまったかのように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ