連絡先を交換できません。
入学式が終わってクラスに集まった。
「じゃあまずは自己紹介からやろうか。名前の順で畦地拓弥くん。」
「はい。」
「畦地拓弥です。趣味は読書です。部活はバドミントン部に入ります。これからよろしくお願いします。」
当然のように玲花も一緒に出てきていた。
「無難だね~…つまんないよ?それに読書してるとこなんて見たことないんですけど……」
1番最初の自己紹介はこんなもんの方がいいんだよ。あとが楽になるだろ。
「おいお前ら!よく聞け!」
玲花が突然大声で話し始めた。
「私は香月玲花、こいつは私の男だ!手出したら呪い殺すからな!」
もう止められない。まぁ俺以外には誰にも聞こえていないんだ。好きに言わせておこう。
「大事なことだから何回でも言うぞ!こいつは私の男だからな!手出したら呪い殺すぞ!」
もうやめてください、お願いします……!
改めてこんな騒がしい奴が取り憑いていて正気でいられる自分は本当によく耐えていると思う。
「今井さんは今保険室行ってるから一旦飛ばしましょう。続きお願いします。」
*
そして自己紹介は終わり、今後の日程などの連絡を聞いて放課後になった。
クラスにはまだ半分くらい人が残っている。
玲花の奴、初日から飛ばしてきたな。あと何日こんな日が続くんだ。
「あ、あの。畦地君。ちょっといい?」
机に伏せていると話しかけられた。
「ん?あぁいいよ。どうしたの?」
なにこの人ちょーかわいい。色白で外はねボブ。正直ドタイプだ。
自己紹介の時は玲花のことで頭がいっぱいいっぱいだったから、クラスメイトの顔はあまり見れてなかったけどこんな人いたんだ。
「連絡先交換しない?」
おいマジかよ……
冗談のつもりで遥斗に言ったことが本当になってしまった。
「うん。全然いいよ。しよう。」
その瞬間玲花が腕を前に出して、人差し指を何かを切るように横に振った。
嫌な予感しかしない。喜びに満ちた感情が、一瞬にして絶望で埋め尽くされた。
パァァァァァァァン!!!!!!!!
連絡先を聞いてきた人の制服の胸元が爆発したように破れた。
女子の下着を見てしまった。そしてこの状況を半数近いクラスメイトが目撃してしまった。簡単に想像できるこの先の展開。とてつもなく早く頭が回った。
そして俺は、最悪の結論に至ってしまった。
あぁもうどうでもいい……!今はただ、このミントグリーンの下着を目に焼き付けろ!
「キャーーーー!!!」
すぐに走って教室から出て行ってしまった。保健室にでも向かったのだろうか?その道中にいた生徒は運がいい。
教室は一周回って静まり返っている。
白い肌とミントグリーンの下着。素晴らしいコントラストだった。
「たっくん?何あの子にデレデレしてるの?」
相当お怒りなようだ。だがとにかくこの最悪な空気の教室から出よう。
実際は玲花が制服を破ったが、傍からすれば俺が破ったと思われても仕方がない状況だった。いや素手でどうやって制服を破くんだよとツッコミたいところだが置いておこう。
とはいえ勝手に破れたのを見ていた人もいたはずだ……だがそんなこと信じるか?俺だったら自分の目を疑うぞ。
こんな時に限って頼れる遥斗はいない。あいつが弁明してくれても無理がありそうだが。
もうだめだ帰ろう。どれだけ考えてもこの状況を改善できそうにない。俺はクラス中の視線を感じながら逃げるように教室を出た。
「ねぇ、なんで断らなかったの?!私がいるよね?!」
ちょっと待てこいつ…!一旦人のいないところに…!
*
丁度駐輪場の裏が誰もいなかった。
「おい玲花!あれはさすがにダメだろ!?」
「たっくんが悪いんでしょ!私がいるのにほかの女と仲良くしようとするから!」
「いやいや、もっと別のやり方はなかったのか?!高校初日に制服破るって絶対ダメだろ!あの人どうやって親に説明するんだよ!しかもあんな破り方、大問題になるぞ!」
「それは……確かにそうだけど……でも彼女が欲しいなら私と付き合えばいいでしょ?」
こいつは死んでることを忘れているのか?
「まだあきらめてないのかよ!お前中学の時何回俺に告白したか覚えてるか?34回だよ!そして34回振ったよな?!」
「えっ?覚えてくれてたの?」
なぜか頬を赤らめている。
「当たり前だ!中学1年の4月25日、俺の誕生日から毎月死ぬまで25日に告白してきやがって!給料日かよ!」
「最初は私がプレゼントってつもりだったのに断るから、もう毎月告白しようと思って……」
中一でその発想は今思うとなかなかすごいな……
「告白は回数じゃねぇだろ!あと悪いけどお前のことは友達としか見れない……」
「いいよ、それでも死んだけど諦めないよ。」
「でも、それじゃお前成仏できるのかよ?」
「うーん、どうだろ。もしかしたらできるかもしれないけど、できないかもしれない」
「なんだよそれ……条件が分かってるなら教えてくれよ。」
「それじゃ意味がないんだな~これが。」
「………………」
いまでこそこんな関係になってしまったが、もとは普通に親友のような感じだった。できることなら救ってやりたい。
「まぁいいじゃん!テストは私が代わりにカンニングして教えてあげられるし!」
「良くない!」
「もう帰ろっ!お義母さんが待ってるよ!」
「お義母さんって呼ぶな!!」
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