×3
「ついた〜」
「着きましたねぇ」
私たちがたどりついたそこはダンジョンの中にあるのにまるで地上の街の様な場所だった
「で、どうしてここに?」
「ふふん、ここはねぇダンジョン内でもかなり治安が悪いって噂があるんだ。だからここだったらたくさん死ねるかなって…」
噂は本当だった様で中に進むと、そこらかしこに倒れてる人間が視界に入った。腕に注射の跡を付けながら注射器で何かを注入してる人、ひたすら何かを殴り続けている人、膝をついて道の真ん中で祈りを捧げ続けている人、それに言葉に出来ないような異臭
「夢がなさすぎる」
思わず私はそう呟いてしまった
「だから銃の練習にはピッタリかなって。
撃ちたい時は言ってね、私が教えるから」
「人を撃て…と!?」
「当たり前じゃん」
またしても夜中にケーキを食べてしまった時みたいにカオリンは笑ったけれど、手に持っている銃の確かな重さは腕の細胞を通して私の脳内に「命を奪う」という存在をひしひしと伝えている
「おっと、さっそくターゲット発見!あれならどうかな?」
カオリンが指さした方にはナイフを振り回してる男がいた。しかも、全裸で
「いやいや、無理!無理です!めっちゃ動いてるじゃないですか!」
「それはそうか。じゃ、行ってくるね〜」
「は?」
彼女は私に手を振ると、てんてんその男に近づいていった。そして目の前で
「ねぇ、殺して」
そう言ったのだった
「んだてめぇ!ざけてんじゃねぇよ!!」
「きゃあっ」
男はナイフをカオリンに振り下ろそうとしたのだが
「…いやなんかいいわ。冷めた」
と言ってナイフをその場に捨てて、どこかへ行ってしまった
「あーあーがっかり。私が殺しちゃおうかと
思った〜」
「めちゃくちゃですな…」
こうして、機嫌をそこねたカオリンとさらに
街を歩いていると
「なぁなぁ姉ちゃんたち」
誰かが声をかけた。見るとそこには空いた胸元からタトゥーらしきものが見える三人組の男が座っていた
すると、カオリンは目を輝かせて
「はいは〜い!なんですか?!」
と男たちに近づいたのだった
そして、言われるまま路地裏に連れていかれ
しばらく経って
銃声!!
すぐさま私は路地裏に向かった
そこには銃を手にしたカオリンが立っていた
「ごめ〜ん、一人殺しちゃったぁ。で、お前はどうされたい?」
「あ、ぁあぁ…」
カオリンが男の顔に当てているあれは確か…
デザートイーグル?どこにあんなものを
「あのね、私は気持ちよくされて殺されたいんじゃないの、殺すならすぐに殺してほしいんだよ。わかる?」
「ひ、ひゃい…」
男の口元から血が垂れていた。表情はすっかり怯えきって、まるで不意に赤信号を渡ってしまい、大型トラックが寸前で止まった時のような
「カオリン…」
「あ、エナくんちょーどよかった」
「これ…撃ってみなよ」
持ち上げたこれとは鷲掴みの男のアタマであった。こっちを見ている、僅かばかりの可能性を信じてこっちを見ている
私は銃口を男に向ける。手が震える、おもちゃの銃を撃った事はいくらかあるが、これが殺傷能力のあるものでそれを今、私が使おうとしている。鼓動も早くなるわけだ
だが、しかし
「…撃てません。やっぱり」
「あーらら」
結局、私は銃口を足元に落とした
「てめぇ、あのこの優しさに感謝しろよ。言っとくけどな次会ったらてめぇも殺すからな。
消えろさっさと」
「ひぃっ…いやぁぁぁぁぁっ!!」
男は慌てふためいて、どこかへ消えた
「やはり初めては難しい…ね。いいさ、別に私がどうこう言えることじゃない」
「誰だってそうなりますよ」
カオリンはため息をついて、銃を左手でクルクル回した
「デザートイーグルなんて持ってたんですね」
「一応、護身用に」
路地裏を囲うように街のざわめきが耳に響いていた。さっきの男のあの怯えた顔が妙に忘れられない。これからいくつもあんなのを見ることになるんだろうか
「さ、行くよエナくん」
「あ…はい」
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「うっ…ぐすっ…ぅぅ…」
「おや?」
バラックの入口で子供が座りながら泣いていた。ボロ雑巾みたいな服を着ているいかにも
社会から見捨てられた様な子供だ
「少年よ、どうした?」
「石…取られちゃった…ぅう…」
「なんだ、そんな事か。よーし、お姉ちゃんに任せなさい!で、取った奴はどこへ?」
「…あそこ」
指さした方向には石造りの建物があり、そこの門で二人の屈強な男が立っていた
「ふーん、あんなのか。じゃ、行くね」
「マジですか!?なんか絶対ヤバそうですよ」
「ヤバいから行くんじゃん」
「でも…」
この時、なぜ私は少年をまた見たのかは分からない、だけど確かに少年はニヤリと笑っていたのだ。さっきまでの涙をどこかにしまった様に