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北暦863年、この星の地下には巨大な迷宮が多数発見されていた。人々はこれを「ダンジョン」などと呼び、登山の様にダンジョンを旅することがスポーツの一種となっていた
「あーやってきたぞー!おーい!」
齢十八、私こと「aaaaa」はダンジョンのひとつ「パークアラストラ」へ足を踏み入れたのだった
貯金の末、やっと買えた装備はメッキみたいな金色だし、少しサイズキツイけどまあいいや
さて…とりあえず先に進まなければ
しっかし、本当に洞窟なんだなぁ
まっくらってわけでは無いけど、太陽の光が無いから足元が見にくい。あちこちで松明が焚かれているのはこのせいか
つーかあれまさか
んん??恐竜??なんか私からちょっと離れた先に恐竜っぽいのがいる
おっかしいなぁ、恐竜は数億年前に絶滅したって学校で習ったけど
めしゃっ
え?
マジか
人が吹き飛ばされたよ
木の葉みたいになんかあの恐竜の頭で吹き飛ばされて
ていうか死んだ??え??
死んだよね??
あんな高い所から落ちたなら
なんで??
目の前でこんな事いきなり起きる??
ぴくりとも動かなかった。吹き飛ばさてその人は岩に叩きつけられて、腕も足もペンチで曲げられたみたいに変形しちゃってんだ
つーか私はどうすりゃいいんだ?
駆け寄って助けるか?嫌、ダメだ
回復道具をまだ手に入れてない
唾付けるぐらいしか出来ねぇ
あーもー誰かいねぇのか!
そうして私が立ちすくんでいると
「おい、大丈夫か?!」
誰かが吹き飛ばされた人の傍に駆け寄った。
半裸の侍みたいな格好してる人だった
ああ、この人が仲間なのかな?
「ちっ…まだ心臓が動いてやがる。仕方ねぇな!!」
胸に顔を当てて、鼓動を確かめたのだろう
その人はでも、すぐに顔を離すと腰に携えていた剣を取りだして
「ちょっと我慢しろよ!うらぁ!」
胸に刺した
胸に刺したぁ!?
ちょ、ちょっと!?なにしてんの!?
吹き飛ばされた人は消えちゃったし、てか
血とかも消えてんじゃん?!
殺した!?
私の目の前で殺したってこと!?
ああ
「ん?」
やっべ、気づかれた!逃げろ!私まで証拠隠滅のために殺される!いや、マジ勘弁してほしい!!
はぁはぁ…
こ、ここまで距離を置けば大丈夫だろ
にしてもまさか…はぁ…ダンジョンデビュー…
にして…殺人現場を見るはめになるとは…
「つぎ、みーちゃんの番だぜ!」
ん?なんだあそこの集団
輪になって何かをやっている?
「せ、急かすなって!」
「やーい、ビビってるー!」
「はーやくしろよー!」
い、いじめかな?止めた方がいいのかな
てか、頭に突きつけてるのまさか
恐る恐る私は集団に近づいた。幸い、行為に夢中な様で気づかれる事は無かった
じ
銃じゃん!?
コルトパイソンだよあれ!てことは…
ばんっ!
嫌な予感は的中した、番が来て引き金を引いたその人の頭から柘榴みたいな真っ赤なものが吹き出して、地面を染めた
そして、その人は消えた
「あーあ、運のわるいやつ。どうする?ここで待ってか?」
「いや、行っちまっても大丈夫だろ。すぐに見つかるし」
なあんにも慌てる事は無く、残りの人たちは
どこかへさっぱり移動してしまった。私の脳内にはさっきの銃声とやたら綺麗だっ柘榴が消えてくれない
どうかしてる
どうかしてる
どうかしてる
どうかしてる!
逃げ場も分からないのにひたすら走りながらそう口にし続けた。マザーグースの歌みたいにだ。耳を塞いでいる、周りを見たくない
もう何もかもだ
うんざりだ!人生でまさかこの言葉があって
どれほど嬉しかったか実感するとは!
どんっ
「あぁ、すまねぇ。ぶつかっちまった」
「…うん?」
何か硬いものにぶつかって、私は目の前を見た。これは…鎧?
「どうしたんだ?そんな小便漏らした様な顔して」
信じられない、信じられない事が起きた。
ぶつかったその人は
その人は
さっき吹き飛ばされて、殺されたあの人そのものだった!
「ぎゃあぁぁぁ!!!お化けぇぇぇえ!!!」
「お、おい!まち…」
私は走ってきた方とは反対側に逃げた
ひたすら逃げた
時計があれば何度も円を描く様を眺めていられるってのに今の私にはそれすらない
…いや何考えてんだわたし
冷静になれ、冷静に
お化けなんているわけない。モンスターならまだしも人間がこんな短期間で化けて出てくるわけが無い
何かそう、スキルとか魔法とかあるんだろ
そうだ、あそこにいる女の人に聞いてみよう
「あの…お尋ねしたいんですが」
「わふん!?なにかな??」
わ、わふん?!
聞く人を間違えたか?いや、まだ判断が早い。まだどうかしてるとは思えない
「お化けなんているわけないですよね…」
「はぁ?!」
女の人は目をぱちぱちさせて答えた
「いるわけないじゃんそんなの!あなた、どうかしてるわよ!」
「で、ですよね…あはは」
そうだよな、さっきのはやっぱり見間違え、
うん…きっとそうだ。人が生き返るはずがないし、あんなに簡単に死ぬわけもないよな
「じゃあ死んだ人が生き返るってのも…」
「ん?」
途端、手を叩いて大きな声で女の人は笑いだした
「あんた、何、言ってんの!人は、人は生き返るものだよ!笑わせないで…あーくるひい」
…やっぱりこの人もどうかしていた!よく見たら格好もTシャツにスキニージーンズだし
ていうかダンジョンにスキニージーンズ!?
武器は!?
行くかばからし
しかし、私の腕を掴んだのもその人だった
「あ、待って!」
「もしかして…はじめてここに来た人?なら
言ってくれればいいのに!ほら、いこ」
「あ、なにを…」
「面白いもん見せたげるから!」
強引に引っ張られ、私は女の人と移動した
「…ってここマグマじゃないですか!熱っ!」
「そだよ〜」
女の人はマグマの端っこによいしょと腰を下ろし、足をぶらぶらさせた
「戻りましょうよ…危ないじゃないですか」
「危ないよ…でもそれがこうっ」
まるでスカイダイビングみたいに女の人はマグマへ大の字になって飛び込んだ
飛び込んだ
飛び込ん…だ!?
「はぁぁぁ!?」
思わず声が出てしまった。殺人どころか自殺まで見ることに
いや
死なせたくない!
気がつけば私もマグマへダイブしていた。
て、てかこれ、私も死ぬ!死ぬじゃん!
ぎゅっ
「あ…」
「えー?」
なんという事でしょうか、飛び込んだ二人は空中でハグをしていたのです。さっきまで他人だった私たちがこんなキスが出来る距離まで近くに…
そうして、私たち二人は死んだ
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「…い」
「おーい」
筈だったのだが、目を開けたらそこには死んだはずの女の人が立っていた
周りを見渡してみると、マグマからだいぶ離れた位置に来てしまったみたいだ
「ね?生き返ったでしょ」
にこりと女の人は笑った
「うぇえぇぇえぇえぇええぇっっ!?!?」
十八年生きてきてあんなに叫んだのはこれが初めてだった