誰だって黒川怜に恋をした
――誰だって、一度は黒川玲に恋をした。
いや、男だけじゃない。女だって。
むしろ女の方がハマってた。
だってあいつは、そういうヤツだった。
ルックス? 完璧。
演技力? 天才。
バラエティでの立ち振る舞い? 死角なし。
「明日も君を愛してる」ってドラマ、覚えてるだろ?
あれの主演で、一気に国民的女優に登りつめた。
中学生とは思えない色気と繊細な演技で、一夜にして“天才子役”の称号を手に入れた。
当時の俺も……まあ、バイト先で皿洗いをしながら、テレビ越しに「すげぇな」って思ってたくらいには見てた。
バラエティにもよく出てた。
どこに出ても、誰と絡んでも、絶妙な間と可愛げで回しも殺しも自在。
媚びてるわけじゃないのに、愛されてた。
女優、モデル、タレント、コメンテーター――全部やって、全部でトップを走ってた。
まさに芸能界の寵児。
……だった。
ある日。
週刊誌のスクープ。
未成年飲酒。
しかも、ホストみたいな男たちと深夜のクラブで馬鹿騒ぎ。
写真も動画も、バッチリ残ってた。
深く被ったキャップ、サングラス。
でもバレバレだった。
ネットは当然、大炎上。
テレビも一斉に報道して、出演番組は打ち切り。
スポンサーは全社降板。
事務所は即座に謝罪文を出した。
数日後。
問題の「謝罪会見」。
ネット中継もされたその会見で、黒川は泣きながら謝るかと思いきや――
違った。
あいつは、マイクの前に立って、軽く笑った。
「茶番ね」
そう呟いて、ニヤッと笑った。
記者たちがざわつく中、彼女は一歩、前へ出た。
「ごめんなさいって言えば許される? 嘘ついて、泣いて、反省したフリすれば元に戻れるって? ……ねえ、あなたたち、本気でそう思ってるの?」
記者が一人、「反省の意思はないんですか」と聞いた瞬間だった。
あいつは、静かに近寄って、フッと笑って――
「うるさいわね」
そう言って、そいつの顔に唾を吐きかけた。
――それが“黒川玲の終わり”だった。
会見は中止。
事務所は即日契約解除。
世間は一斉に手のひらを返し、かつてのヒロインにこう言った。
**「魔女だ」**って。
清純派だった。
優等生だった。
誰よりも夢を見させてくれた“子供”が、突如として“化け物”に変わった。
見世物の檻から飛び出したトラみたいに、猛々しく、自由に、そして残酷に。