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苦手な方はご注意ください。

呪われた者達

作者: デギリ

勇者達の活躍で魔王征伐も大詰めとなり、勝利を見届けるために王自ら出陣し、魔族を最後の拠点に追い詰めた。


明日はいよいよ勇者チームが魔王の本拠に乗り込み、決着をつける予定である。


戦場の中ではあるが、王の発案で勇者チームへの激励の宴が行われる。


「魔王を討ち取らねばこの戦争は終わらない。

勇者よ、この国の将来はお前の双肩にかかっている。


魔王退治が終われば、勇者はもちろんチームの者には破格の名誉と報奨を用意している。

では、勇者チームの勝利を願って乾杯!」


王自らの激励に、勇者は感激し、周囲をかこむ仲間の戦士、魔法使い、聖女に語りかける。


「王のため、国民のため、明日は命を捨てて魔王に挑むつもりだ。

みんな、サポートを頼む」


歴代勇者の中でも当代勇者はとりわけ念が強い。

感情が昂った今は全身に纏うオーラが遠くからも見えるほど燃えあがった。


翌日、魔王との戦いは凄絶を極めた。

ここを最期と死力を振り絞る魔王軍には勇者チームも手こずったが、遂に四天王も全て斃され、一人となった魔王に勇者は戦いを挑む。

魔王の張る強力な魔力の前に勇者以外の者は前に進めず、全ては勇者に委ねられた。


長時間の戦闘の果てに、勇者は魔王の胸に全力の念を込めた剣を差込み、その命を奪った。


「よくやった、勇者!」

駆け寄る戦士や魔法使い、聖女に囲まれ、力を出し尽くした勇者は倒れるように寄りかかる。


勇者を抱き留めた戦士は、すかさず手にした鎖で彼を縛りつける。

その目配せに応えて、聖女は勇者に手をかざし、生気を奪う。


「何をする!」

叫ぶ勇者に魔法使いは電撃を与える。


いつもの勇者ならば意にも介さない攻撃だ。

しかし力を使い果たした今は、その攻撃で身体の自由を奪われた。


「許せ」

力なく転がった勇者の四肢の腱を切り動けなくすると、戦士は勇者を担ぎ、その場を離れる。


「どこへ連れて行く?

何故こんなことをするのだ?」


呻くように問いかける勇者の問いかけ。

それに魔法使いがニヤニヤしながら答える。


「巨大な栄光と力を持つ存在は王にとって不要だと。

もちろん俺たちもお前がいれば端役に過ぎなくなる。

いなくなって欲しいんだよ」


「戦士、お前は親友だと思っていたのに!

聖女、戦いが終われば生涯を共にしようと言ったのは嘘だったのか!」


血を吐かんばかりの声に魔法使いは笑い声を立てる。


「こいつらも苦しかったのさ。

逆らえば自分も家族も皆殺し、応じれば莫大な褒美。

戦士は近衛隊長のポストがヤクソクされ、更に恋慕していた美人で有名な伯爵令嬢を娶ることができる。

聖女はハンサムな王子と結婚するそうだぜ。

人間、最後は我が身が可愛いのよ」


「もう止めろ!

すまない。言い訳はしない」


戦士はそう言い、聖女は耳を塞ぐ。

勇者は黙り込んだ。


後は誰も何も言わずに、ひたすらに歩みを進める。


着いたところは、王が一人待つ天幕。


「来たか。

魔王を倒したとは、よくやったぞ勇者。

あとは、お前が死ねばその任務を全て果たしたことになる」


「陛下、勇者の命だけは助けると言われていたではありませんか!」

戦士が叫ぶ。


「それは貴様があまりにも反対するためにそれを抑える方便よ。

こんな危険人物を生かしておけるか。

魔王なき今、予の治世に勇者は不要だ。


しかも、こやつ、無礼にも、民の負担を減らせとか質素倹約をすべきなどをしたり顔で言上してくる。

このような力あって余計なことを言う輩は百害あって一利なし。

速やかに排除すべし。

首を刎ねよ」


王の命令を受けて、身体の自由の効かない勇者を魔法使いが抑えつけて、首を差し出させる。

戦士は剣を振り上げ、最後の言葉を告げる。


「せめてもの情けだ。

俺の渾身の一振りで楽にあの世に行ってくれ」


ガチッ!

振り下ろされた戦士の刃を勇者は歯で食い止める。


「ここで死ねるか!

育ててくれた祖母が待っているんだ!」


「聖女!手伝え!

王子との婚姻を取り消すぞ」


奥で目を閉じ耳を塞ぐ聖女を、王は呼び出して、生気を吸い取らせる。

更に自分も加わり勇者を押さえつけて、無理やり首を出させる。


四肢の力がなくても必死で抵抗する勇者の首を何度も斬りつけてようやく刎ねた時、王も含めた四人は疲れ切っていた。


「やれやれ。

最後まで手こずらせあって。

歴代最強とも言われた勇者も仲間と信じた者に裏切られればこの有り様。

人が良すぎたのよ」


王がそう言いながら、その首をボールのように蹴り飛ばす。

すると、首は空中を飛び上がった。


そして驚く戦士、魔法使い、聖女に黒い液体を吐きかけ、首を蹴った王の足に噛みついた。


「離せ!

お前達、こいつを剥がせ!」


王の足から戦士が力づくで引き剥がす。

勇者の首は王の足の肉を食い破り再び空を飛ぶ。

そして王たちを睨んで叫ぶ。


「よくも騙したな!

祖母の言う通りだ。

人間を救うために勇者などになるのでなかった。


呪ってやる!

貴様たちを心底から呪うぞ!

貴様達は愛する者に呪われ、惨めに死んでいくぞ!」


その言葉を最後に勇者の首は天幕を突き抜け、いずれかに飛び去っていった。


「最後の念を振り絞り、首を飛ばしたようです。

しかし、いくら念が強くとも身体と離れては長くは生きられないはず。

奴の首を後で探させましょう」


魔法使いは冷静に話したが、勇者に吐きかけられた液体のかかった頬が燃えるように熱い。


王も噛まれて血が出ている足を気にしていたが、すぐに気を取り直して言う。


「死に損ないが、世迷言を。

さあ、王都に凱旋するぞ。

兵士を残して首を探させろ。

残るそいつの身体はここらに放置して獣の餌にしてやれ」


王はそう言って天幕を出る。

魔法使いと聖女も後を追う。


残された戦士はせめてもの弔いとして穴を掘って勇者の身体を埋める。

そして、迷わずにヴァルハラに行けと祈りを捧げる。


しかし、その脳裏には先ほど勇者の怒りと絶望の表情と言葉がこびりついて離れない。


そして勇者の吐きかけた液体を浴びた右腕を丹念に洗ったが、いくら洗ってその跡が黒く残り綺麗にならない。

それは彼の罪を表すようだった。


王都への凱旋とその後の祝賀パレード、更に恩賞の授与。

裏切りの約束通りに、戦士は近衛隊長に、魔法使いは宮廷魔導士に、聖女は王子の妃となった。


王国では勇者は魔王に討ち取られ、その後に戦士達が魔王を討伐したということが公式に発表される。

国民は勇者のことを評判倒れと罵り、速やかに忘れ去られる。


「右腕が焼けるように痛い」


2年が経ち、誰もが勇者を忘れた頃、戦士は夜に寝室で呻く。

横には恋い焦がれた、由緒ある貴族から嫁いだ美しい妻が眠っている。

王が後押ししてくれなければ彼女を妻にはできなかったであろう。

子供も産まれた。

戦士は幸せであった。


彼女を起こさないように気をつけるが、勇者の呪いの跡は最初は目立たないシミのようだったのが、だんだんと広がり、今や右の上腕部から肩、胸に広がる。


そして熱を持って酷く疼き、痛むのだ。


「日に日に酷くなる。

勇者の呪いか。

解呪師を探さねば」


戦士は痛みで眠れない中、そう考えた。


解呪師は呪いを解くのに必要だが、人々に嫌悪され、判明すれば殺されることすらある。

故にあちこちを彷徨い、夜にこっそりやってくる依頼者から高額の金を取って生きているという。

彼らがどこにいるのかはわからない。


戦士は解呪師を探すため、しばらく休暇を願おうと王宮を訪れると、王に呼ばれる。


人払いした王の私室で、戦士は驚くものを見る。


勇者の首に噛まれた足から下腹部がどす黒く大きく腫れ上がり、王は歩行すらままならない。


「これはあの勇者の呪いか。

戦士よ、魔法使いや聖女も連れて、呪いを解く方法を見つけよ!


焼けるように痛い。

医者は原因不明と言い、匙を投げた。

一刻の猶予もない」


王の下半身からは膿が爛れ、異臭がする。


戦士は、その命を受け、その無惨な様子から目を背けて出立した。


合流した魔法使いは仮面をつけていたが、それを外す顔面が焼け爛れたように腫れていた。


聖女は一見変わらないものの、その服を少し外すと、左の肩から胸にかけて真っ黒になっていた。


三人は顔を見合わせ、ため息をつく。


「こんなことになるなら、勇者を裏切らなければよかった。

夫からは気持ちが悪い女め、それを治さなければ離婚だと言われているの」


聖女が項垂れてそう言う。


「私は呪いを受けた魔術師と噂され、もはや勤務もできない。

なんとしても治さねば、今来ている縁談も潰れてしまう」


男に見えないほどの中性的な美貌を誇っていた魔法使いは途方にくれたように言う。


「そもそもアンタが勇者を妬んで煽るようなことを言うから呪いなんて掛けられたのだわ。

アンタのせいよ!」


「勇者からサッサと王子に乗り換えた尻軽に言われる筋合いはないね」


聖女の怒りに魔法使いが言い返す。

戦士が困り果てたように間に入った。


「過ぎたことを言っても仕方がない。

手がかりも無いが、まずは勇者の身体を埋葬したところに行ってみよう。

結局頭部は見つからなかったと聞くしな」


三人が向かった勇者の埋葬地のあたりは、あれから数年と言うのに、曲がりくねった不気味な木が生い茂り、暗い陰を落としている。


その中に小さな庵が建っていた。


「こんな不気味なところに誰が?」


手がかりがない以上、訪ねてみるしかない。

警戒しながら、扉を蹴って開けると、中には老婆が座っていた。


「婆さん、貴様、何者だ!」


厳つい戦士の怒鳴り声にも怯む様子もない。


「ノックもできないチンピラに名乗る名前はないね」


怪しいと斬りかかろうとする戦士を止めて、聖女が話をする。


「ごめんなさい。

こんな不気味なところに住んでるのは魔人か死霊じゃないかと思ったの。

私はセシリー。王都で僧侶をしているの。


こっちの気が短いのは騎士のマーク。

あれは魔法使いのグルックよ。

実は悪い呪いをかけられて解呪師を探しているの」


「ちゃんと話せるなら最初からそうしな。

私はドラシー。

ここに私の欲しい魔力の強い材料がありそうでやってきたのさ」


ドラシーといえば、世界一ともいわれる有名な解呪師。

なんと運がいいと三人は内心小躍りする。


「ドラシーさん、私たちの呪いを解いてくれませんか。

お金はいくらかかっても構いません」


いつも高慢な魔法使いが平身低頭して頼む。


「どれ見せてご覧。

おお、酷い。

これはよほど念の強い者からの強い怨みを感じるよ。

何をしたんだい」


魔法使いは魔族に付いた裏切り者を死罪にしたと嘘を騙る。


「これは簡単に祓えるものではないね。

ただ、手段はある。

どんな手段を使っても呪いを解きたいかい」


「勿論だ!」


ドラシーは非常に高額の金を要求し、それと引き換えに治療薬を渡すという。


すぐに王宮に戻った一同は、王に面会を求める。

王は状態が悪化し、近づくと肉の腐った臭いが漂ってきた。

そして、金に糸目はつけないと、もはや下腹部まで腫れ上がった王に懇願される。


金を持っていくと、ドラシーはとても大きなパンらしきものを4つ彼らに渡した。


「これはあんた達の罪だ。

これを愛する者に与えなさい。

彼らが食べたぶんだけ罪は減る。

愛している相手でないと効果はないからね」


「食べた相手はどうなる?」


「そりゃ、背負った罪の分、罰を受けるのさ。

愛する者のため、それくらいは引き受けてくれるのだろう」


半金を渡し、残りは効果を検証してからとして、ドラシーを連れて王宮に引き上げた彼らはすぐに王にそのパンを渡す。


「これを愛する者に食べさせれば余は助かるのだな。

寵妃達や子供達に与えよう。

余の為だと思えば誰も拒むまい」


料理長に命じて、その与えられたパンを少しずつ王の妃や王子、王女が食べさせると、王の病状はたちどころに改善した。


「何という効果だ!

ドラシーと言ったか、その者に厚く謝金を与えよ」


ドラシーは金を持って去っていく。


その頃になると妃や王子、王女は王と同様の身体の腫れが出ていた。

彼らはもう王に呼ばれても食事に来ない。


一方で王の身体はまだ治っていない。


「次は寵臣だ。

奴らを愛し、引き立てたのは余だ。

奴らも食べて然るべきだ」


彼らを食事に呼び、そのパンを食べさせると、また王の症状は良くなる。


「この調子で臣下に食べさせれば全快しそうだな」


しかし、身体が腫れ上がった王族や寵臣があちこちに出てくると、噂が流れる。


「王の食事に呼ばれると奇病にかかる。

あれは罪無くして殺された勇者の呪いだ」


その頃、戦士の家では妻や幼い子供、従者が全身を腫れ上がらせて、のたうち回っていた。


美貌を誇った妻の顔は黒ずみ、腫れあがり、見るも無惨である。


「どうしてあなたの呪いを私や子供に移すの!

あなたがやった勇者殺しに私は関係ない!

痛い!痛い!

ああ、あなたなんかと結婚しなければ良かった。

殺してやりたい!」


あれほど淑やかで、優美だった妻の声はどす黒く、戦士に呪いをかける。


体調が改善したものの、妻子が泣き叫ぶ家にいたたまれなくなった戦士は魔法使いと聖女を訪ねる。


いずれも同じ状況であった。

聖女に至っては、夫の王子に黙って食べさせ、病状が出た王子から訴えられていた。

幸い、王宮は主要な臣下が倒れ、機能していないために見逃されている。


王都では、王や戦士たちが勇者の呪いを国中に広めているという噂が拡がり、解呪師に金を払えば呪いを移すパンを貰えるという話があちこちで語られる。


妃や王子達、王宮の重臣達も呪いのパンを入手してそれを家族や可愛がっている従者に食べさせる。


中にはそのパンを物乞いに与えた者もいたが、一向に効果がなかった。

それは自分の愛する者に与えなければならないことを確認しただけであった。


王国では夫が妻を、親が子を、恋人同士が、愛する者へ呪いを移すということが起こる。


家族が、愛する人が信じられなくなった民衆は怒り狂い暴動を起こす。


「王を倒せ!

奴らが勝手に勇者を殺したんだ。

勇者様、お赦しを」


遂に暴徒は王宮に入り込み、王族や高官を叩き殺す。


そんな状況の中、病状が改善した王は、戦士達に守られて逃亡した。


「ドラシーを捕えて、奴に何とかさせよ!

予とお前達が全快すれば王国は再建できる」


王の命じるままに再び勇者の埋葬地に赴く。


そこの庵を訪ねた一行は、にこやかに笑うドロシーに出迎えられた。


「あれ、思ったより早かったね。

あんた達や人間どもはよほどあの解呪のパンを使ったようだね」


「ふざけるな!

さっさと呪いを解いて元通りの身体にしろ!

お前はそれができるのだろう!」


王はまだ痺れる足を引き摺り、怒鳴りつける。


「おやおや、アンタずいぶん良くなったね。

相当たくさんの人間に呪いを移したね。

他人に移すと10倍の効果になるから、アンタのせいで10倍の呪いが広がったことになるよ」


戦士は戦慄する。

己の病状を1改善するために10の呪いを広げていたとは!


道理で妻や子供達が呻いているはずだ。

戦士も愛する妻子や従者に食べさせる時は胸が痛んだが、自分の重篤な症状を少しずつ背負って貰うつもりで少しだけと食べさせたのだが、それほどの状態となるとは思わなかった。


「騙したな!

そんな大事なこと、なぜ言わなかった!」


思わず戦士は叫んだ。


「自分達の呪いか軽減されると聞いて大喜びで何も聞かなかったじゃないか?

それにそれを聞いていたら使わなかったのかい」


いや、あの辛さから逃れるためならやはり妻や子供に食べさせていたかもしれない、戦士は黙り込んだ。


「うるさい!とにかく治せ!

アンタならできるのでしょう!

私の力と美貌があれば他の国でもやっていけるわ」


聖女が怒鳴ると、ドロシーは笑った。


「うちの孫と結婚してくれたらアンタは治してやろう」


「いいわ!早く治してよ!

またここに来てからどんどんと腫れ上がって痛いの」


確かに、戦士は己の身体が元のように熱く、痛くなっていることを感じていた。


王や魔法使いも改善する前の元通りの症状に呻いている。


「そりゃあ、ここにアンタ達の呪いの元があるからじゃないか。

呪いの元に近づけば呪いは強くなる。


クックッ

さあ、孫よ、花嫁が来たよ」


奥のドアから出てきたのは勇者その人だった。

ただし、以前と異なり、その目は虚ろで首には縫った後がついている。


「首だけでやって来て恨み言を言う孫の為に身体を捜し、縫い付けて生き返らせてと、年寄りには大変だったよ。

ようやく孫も満足してくれるだろう」


「いやー!」

勇者のゾンビに身体を掴まれた聖女が叫ぶが、戦士はそれどころではなかった。


首が激しく痛み、血が噴き出る。

無理やりに首を切られる感触は自分が勇者の首を斬ったときと同じもの。


向かい側では王や魔法使いも首から血を出して倒れている。


首を押さえて膝を突く戦士の前に誰かが立つ。


それは片手に聖女を抱いた勇者のゾンビ。それが戦士の肩を掴む。

何かを言いたげに口を動かす。


「お前は優しいねえ。

裏切った恋人と親友をお伴に連れて行きたいのかい。

少し墓は狭くなるねえ」


ドラシーの言葉に冷や汗が出る。

勇者の墓に一緒に埋められるのか!


「許して!許して!」

勇者に抱えられた聖女が泣き叫ぶ。


戦士は抵抗しようとするが力が全く入らない。

肩を掴まれて引き摺られていく。


勇者はふと振り向くと、首を押さえて転がり回る王と魔法使いの方を見る。

そしてそちらに歩いていくと、その身体を蹴り付ける。


「うげっ」

蹴られたところは立ち所に肉が腐り、膿んでゆく。


「くっくっく。

お前達は、全身の肉が腐れ果てて息が止まるまで苦しみ抜くだろうよ。


なに、死にたくないだと。

いいとも、あたしが肉が腐りにくくなる呪いをかけておいてやろう。

ヤマイヌ達が食べなければ一年は保つだろう。

ゆっくりと自分の肉が腐っていき、手や足がもげ、目や鼻が溶けていく。

この山の中で自分のやったことを思い返して悔やみながら死んでいくがいい」


ドラシーは王達にそう語った後、勇者を見る。


「お人好しの孫よ。

人間など信用するな、利用されるだけですぐに裏切られる。

お前の親も人間に情をかけて呪いを解いてやった挙句に殺されたのだ。


俺には信用できる仲間と王がいると言っていたけれど、やっぱりあたしの言ったとおりだろう。


まあいい。

一旦は縁を切ったが、あたしのところまで首だけで飛んできた執念に免じて、お前の望む通りにしてやった。

あとはその二人を死出の旅への伴として安らかに眠るがよい」


勇者のゾンビは祖母に謝罪するかのように深く頭を下げて、聖女と戦士を連れて庵の裏に向かう。

そこには深い穴に大きな棺が置かれていた。

勇者は棺に聖女を投げ入れ、戦士を棺の隣の土に放り出す。

そして己は棺に収まって蓋をした。


「やめて!助けて!

悪かったわ。余生はあなたの為に祈って過ごす。

だからここから出して!」


隣の棺の中からの聖女の叫び声を聞きながら、戦士は逃げようと身体を起こそうとするが、上から大量の土が降ってきた。


(え!)

見上げると、ゴーレムが大量の土を投げようとしている。

それが戦士の見た最後の風景だった。

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― 新着の感想 ―
勇者の呪いにより、かつての仲間や王達がお互いに責任をなすりつける様子を見て星新一の「鏡」を彷彿とさせます こんな我が身可愛さに他人を平気で不幸にする者達の国など、勇者がいなくても遅かれ早かれいずれ滅亡…
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