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町中の小さな一軒家。
ダンは二階にある、自室のハイベッドの中で眠りこけていた。
フローリング貼りの洋室の中は、足の長い金属製のベッドの下に、小学生の頃から使っている学習机と椅子、横の背の低い棚には少年漫画の単行本やバレーボールの本が並び、小さなテレビに繋いだゲーム機。服はクローゼットに仕舞い込まれ、高校の制服はやや雑にハンガーにかけてドアハンガーに吊るされていて、ドアハンガーには衣服用の消臭剤のボトルもかけられている。
床には後で片付けようとした、畳んだ洗濯物と通学バッグ。暗い空は白み、遠くで鳥が鳴き始める。
寝返りを打って仰向けになった、ダンの胸の中央から青白い火花を散り、光の輪が現れた。
その輪の中心から、青白い毛並みの生き物が飛び出してくる。
「ダン! 朝じゃっ!!!」
勢いよく飛び出してきた生き物は、そのまますぐ上の天井にぶつかって、ぶへぇ、と声を上げて落下すると、ダンの腹の上に勢いよく着地した。
「うぼふッ!」
小さくとも、それなりに重みはある。
突然腹の上に降ってきた毛玉に、ダンは悶絶した。
「アオ……起こすのはスマホ鳴ってからにしてくれって、前も言ったよな……?」
ダンはのろのろと起き上がると、枕元のスマホで時間と窓の外を順々に見て、顔をしかめた。アラームを設定した時間より、遥かに早い。
アオは記憶を辿るように宙を見つめていたが、はて、と首を傾げる。
「そうじゃったか?」
「そうだよ! 朝練まで、もうちょっと寝れるじゃん……!」
ダンはのろのろと布団をかぶって寝直そうとするが、アオは懸命にその布団を引き剥がそうとする。
「起きぃ! 朝は田畑の時間じゃあ!」
「うちは田んぼも畑ないって、何度言えば分かるんだよ!!!」
家の外ではカラスの群れが大きな声で鳴いていた。