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ダンが助けを求めた電話の後すぐ、愛車であるベージュ色のジープ・ラングラーをとばして、剛人は北小学校の近くまでダンを拾いに来た。

「仁さん、すみません……」

「気にすんな。ハナちゃんは後ろな」

窓を開け、運転席から剛人は気さくに声をかけ、ダンが抱いたハナを見ると親指で後部座席を指さした。

剛人の愛車はチューンナップが施されており、改造されたエンジンが低く重く空気を揺らす。グリルバーも装着され、ホイールも既存のものとは違うマットブラック。車内は黒の本革のシートで飾り気はなく、ナビは無い。灰皿は煙草の吸い殻がぎっちり詰まっていた。

良くも悪くも、旧・神戸の街中ではかなり目立つ車だ。

剛人は、豹柄のシャツにブラウンの革のライダースジャケット、細身のデニム、靴は相変わらずピカピカのラバーソールで、日も暮れ、辺りは薄暗くなってきたというのに丸サングラスは外さない。煙草の匂いの中に、ほのかにスパイシーな香水の香りがする。ダンが会う時、剛人はムスク系かスパイシー系のどちらかの香りを纏っていた。

「見た感じは元に戻ってるけど、一度店長に相談しといた方がいいな。電話は繋がったか?」

剛人はダンが助手席に座り、ドアを閉めたのを確認すると、アクセルを一定にギアを2速に入れ、半クラッチからペダルを戻して発進し、加速がつくとクラッチを踏み、スムーズにギアを上げた。

剛人の質問に、ダンはシートベルトを締めながら大きく首を横に振る。

「全然ダメです」

「あんのクソジジイ……!」

ハナは後部座席で大人しくお座りし、剛人の悪態に一度視線を動かしたが、興味がないように大きな欠伸をした。

獣は剛人と合流する前に光に包まれると、そのままぎゅっと圧縮するように小さくなって消えてしまい、同時にダンの身体に起こっていた変化も煙のようにかき消えてしまっていた。

事務所に向かう前にハナの老飼い主の家に寄り、ハナを送り届ける。老飼い主は、ダンからハナを受け取るとさっさと屋内に引っ込んでいき、ダンも自分の荷物を回収する。

助手席に座り、シートベルトを締めようとした矢先、何台かのパトカーのサイレンが聞こえ、思わず音の行先を追うダンの顔に不安の影がよぎるのを見ると、大丈夫だって、と剛人はハンドルから左手を離すと節くれ立った手で、ダンの肩を勇気づけるように強く叩く。

剛人の手のひらから伝わる温もりが、今のダンには心強く、ダンは不安を振り払うと小さく頷いた。

やがて、大熊猫飯店の前にジープが停まる。

「店長はちゃっちゃと探して連れてくるから、事務所の中で待ってな」

剛人は、シートベルトを外すダンに軽く声をかけた。

「すみません、ありがとうございます」

ダンは折り目正しくきっちりと、剛人に頭を下げる。

「いいよ。ほんと、お前は真面目ちゃんだなー」

剛人が小さく笑って車を発進させようとした矢先、そこへビルの階段から一人の女性が軽やかに降りてくる。

「あれっ、ダンくんに仁さん。どないしたの、こんな時間に。事務所、もう閉めてもうたよ?」

「ごめん麻子ちゃん。師匠連れてくるから、事務所開けといてくれない?」

不思議そうな顔をしていた麻子に、剛人は事務所に上がるビルの階段を指差しながら言った。

麻子は、こてんと小首を傾げる。

「なんかあったん?」

「大丈夫っす! なんもないっス!!」

「なんもないよ! ないない!」

「そう。なんかあったんやねぇ」

両手を振り回して慌てふためくダンと、運転席で愛想笑いを浮かべて誤魔化そうとすると剛人を交互に見比べると、麻子は両手を腰に当てて小さくため息を吐いた

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