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「タイム! ハナちゃん、タイム!」

ふくらはぎや太ももがパンパンに張っている。日が落ち、冷えてきた空気が肺に刺さるようで痛い。

足を止めたダンは流石に弱音を吐くと背を丸め、両膝に手を付いて大きく肩で息をした。

距離を空けていたハナは、呼ばれてうきうきとした表情でダンに駆け寄るとその顔を覗き込んだ。

日も暮れかけ、空はオレンジに染まっている。

やっと射程距離内にハナが近付いたので、ダンは大きく息を吐いてからしゃがみ、引き摺っていたリードを素早く手に取った。

空気の冷えとは反対に、心臓の鼓動と共に身体中に熱が回り、汗が顎を滴り落ちる。あまりの暑さにダンはブレザーを脱いで小脇に抱えると、シャツを第二ボタンまで開け、指をかけて風を送った。

また随分走り回ったなと思いながら、ダンは足元で戯れるハナの頭や胴をしゃがんだまま撫で回すと、ハナは腹を見せて簡単にひっくり返る。

その無邪気な姿に自然と笑顔が溢れた。

「ほら、じーちゃんのとこ帰るよ」

立ち上がり、リードを引こうとしたダンの動きがふと止まる。

『北小学校』

かつての母校であり、今日、部活の休憩中にも話題に上がった場所だ。人がいる気配はないが、校門は開いている。

なぜ今日、聞いた話が脳裏を過ぎり、黒くモヤがかかったノイズ混じりの映像が閃光のようにちらつく。その理由が思い出せるような、思い出せないような喉の奥がモヤモヤする気持ち悪さだけが残る。

口の中が渇き、唾を飲み込みながらダンはもう一度ハナの頭を撫でた。

「ごめん、ちょっと待ってて」

校門の上げ落としにリードを引っかけ、本来なら勝手に入ることは悪いことだと分かっていたが、どうしても何かに呼ばれるように足が動いていた。

ハナは走り疲れたのか、珍しくダンの後を追うような素振りも見せず、大人しくその場に伏せる。

高校生になってから眺める小学校は、全ての視線の位置が低く、見覚えのある景色も異質なものに見えた。

古くからある公立校なので建物や設備も古く、校庭では誰も乗っていないブランコが静かに佇む。

全ての音が、夕闇に吸い込まれていくかのようだ。

ダンはまた唾を飲み込み、頰を伝う汗をシャツの袖口で拭うと、建物の脇を抜けて歩を進める。

一定の場所から足元が芝生になり、無意識に探していたものはその先にあった。

アルミのアングルで組まれた足場に乗っているのは、所々が禿げているが白く塗られた木製の箱。羽板を並べた側面に、傾斜のついた屋根。正面には片開きで右勝手に開く扉と掛金式の簡易な鍵が付いていて、鍵の表面は錆びていた。

本来ならシリンダー式の南京錠もついているはずなのだが、鍵は解除され、U字の金具を引っ掛けただけになっている。

扉の位置は記憶の中よりも低い位置にあったが、百葉箱を前にダンの頭の中を様々な風景が通り過ぎていく。

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