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「そういえば、ダンは進路どうするの? 公務員試験受けるんだっけ?」
放課後の体育館。
その隅で座り込み休憩していた男子バレーボール部は、特に三年生たちがそれぞれの進路について盛り上がっていた。
アルマジロらしく固い背中を丸めたカミュランの問いに、ダンは隣で小さく頷く。
「母さんは大学行っとけって言うけど、オレは勉強したいことって無いから早く働きたいし。警察に入りたいんだよな」
「警察って、なんでまた」
警察は治安を維持する行政組織であるが、旧・近畿地方においては滞在する宇宙人によるトラブルや、度重なる異界との接触で、資格保持者と同じくらい危険度に晒される頻度が高い。そもそも資格保持者との違いは身柄を拘束する権限があるかどうかだけとも揶揄されており、今では公務員の中でも敬遠されるタイプの職種になっていた。
カミュランの問いに、ダンは無意識に自分の膝頭を撫でる。
「昔から思ってたんだよ。オレ、親戚に警察多いし、従兄も旧・大阪で刑事やってるから割と身近だしさ。仕事は大変なの知ってるけど、オレが周りに助けられてばっかりだから、誰かが困ってる時、すぐに助けに行ける人になりたいんだよな。あと最近は、警察に入ったら何かヒントになるようなこと見つけられるかなって、思って……て……」
「ヒント? なんのこと?」
「や、こっちの話」
親友に対して、つい喋りすぎたダンは笑って誤魔化した。
隣で話をしていた後輩がカミュランとダンの間に首を突っ込む。
「先輩たちもやらなかったですか? 肝試し」
「どうしたんだよ急に」
わざとらしく真面目くさった顔で質問され、ダンとカミュランは思わず笑う。
カミュランが先に口を開いた。
「でも流行ってた気がする、そういうの。異界のものを呼ぶからやるなって、親も言ってたよ」
ダンは、現在進行形で自身に問題を起こしている話題に口を出す気になれず、黙って見ていた。
「時間軸が重なることと肝試しって、関係ないですけど。七不思議とかありましたよね」
他の部員が朗らかに笑い、部内で話題が広がっていく。
「あったあった、学校の七不思議。理科室の人体模型が走るとか」
「おれもありましたよ! 夜になったら階段が一段増えてるやつ」
やいやいと、ダンを除く計十人の男子バレーボール部たちは上級生下級生を問わず、もう少しで休憩も終わるというのに盛り上がり始める。
「あれって結局、見間違いとかそういうのじゃなかったでしたっけ。でも、そう言えばうちの小学校、一日急に休校になって、資格持ちが来たことありますよ」
「えっ、なんで?」
ダン以外の部員全員が一年生の話に食いついた。話を出した彼はそのまま話を続ける。
「先生たちは水道管が破裂したからとか言ってましたけど、そんなので来るはずないから、本当は学校の中で異界と重なって、その事後処理じゃないかって親の間では噂になっ」
「えっ、普通にヤバいじゃん。それ。どこ小?」
「北小です」
それを聞いて、黙っていたダンは目を丸くする。
「えっ、オレも北小! そんなのあったっけ?」
学校のような公共施設や医療機関などは、万が一でも異界と繋がることがないように厳重な結界が張られており、結界を展開するのも国家戦力レベルである1級か準1級取得者だ。
その結界も定期的に張り直されており、綻びが出ないように処理もされている。
それを破るようなことがあれば、破ってくるものは旧・近畿地方だけでなく、惑星そのものを滅ぼしかねない脅威でもある。
「だから祠があったのも、そういうとこ以外のはずなんだけどな……」
「どしたの? ダン」
「いや、ただの独り言ー」
休憩時間ももう終わる。
間仕切りネットで分けられた体育館の半分では、女子バスケットボール部が走りながらパスを回す練習をしており、ダンたちは腰を上げると、新しく入った四人の一年生に基礎練習の指示を出す。三年生はダンとカミュランの二人だけで、残りの四人は二年生なので共に他の練習をやることになる。
「まずはパスの練習からやろうか。顧問の小城先生がメニュー組んでくれてるし、もう少ししたら練習も見に来てくれるから」
ダンは練習に入る前に、ボールの入ったカゴから一つ球を出すと真上に投げ、手首のスナップを効かせながら、両手の親指と人差し指を使った三角形で真上にパスを上げる動作を三回繰り返し、四回目にふざけて笑いながらカミュランに軽いパスを出す。
「はいよ」
カミュランも手を三角形にして、パスを受け、ダンに投げ返した。




