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009_上杉さんじゃなく長尾さんなんだって

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

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 009_上杉さんじゃなく長尾さんなんだって

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 夏真っ盛りだが、屋根裏の水と氷のなんちゃってクーラーのおかげで比較的過ごしやすい。

 そんな涼しい部屋で悪銭を良銭にしていると、部屋の外に気配がした。


「二度と金山城に来ないようにと言ったはずだよね」


 俺の言葉と同時に目の前に人が現れた。小太郎さんだ。


「頼みがある」

「頼み? とりあえず聞いてあげるけど、聞ける頼みとそうじゃない頼みがあるからね」


 小太郎さんはニヤリと笑った。今日は覆面してない。黒装束でもない。猟師っぽい鹿の毛皮をつけている。


「風魔を雇ってくれ」

「はい? 北条さんに雇われているんじゃないの?」

「捕縛されたはずが、無事に帰ったことを怪しまれて、疎まれた」


 うわー、それ酷い話だな。無事に帰った部下を労うことくらいしろよな。

 てかさ、それ、俺のせい? どう考えても俺が原因だよね。


「……それはすまないことをしたね」

「その責任を取って雇ってくれ」


 なんだよ、そのお義兄さん的な考え方は。とはいえ、仕事がなくなったわけだから、なんとかしてやりたいが……。

 考えたら俺無収入だわ。必要なものは爺やさんが用意してくれるから、特に銭を持っているわけでもない。あれ……俺、ニート? 働いているよね?


「これからお義兄さんに相談してくるから、それまで返事は待ってくれるかな」

「いい返事を期待している」


 お義兄さんの部屋に行くと、爺やさんもいた。


「相談があります」

「忠治殿の相談か。聞きましょう」


 お義兄さんの前に座って、小太郎さんのことを話す。お義兄さんと爺やさんは無言になった。


「風魔が……」


 しばらくしてお義兄さんが呟いた。


「仕事がなくなったから俺に雇えと言って来まして」


 お義兄さんはまた黙り込む。


「いいでしょう。忠治殿が風魔を雇う予算を捻出しましょう」

「いいのですか?」

「拒否して城下で暴れられても厄介ですからね。それに忠治殿のおかげで銭に余裕がありますから。孫九郎、今用意できる銭はどれほどあるかな」

「もうすぐ戦が始まることから武具や兵糧を買い入れましたゆえ、二百貫が限度です」


 錬金術で悪銭を良銭にしているから、比較的銭に余裕はあった。しかし戦争の準備をしたことで蓄えた銭をかなり放出したようだ。


「先ずはその二百貫で風魔を雇うとしましょう。今はそれが限度ですから、交渉は忠治殿に任せます。雇った後の管理もしてくださいね」

「ありがとうございます」

「ただし条件があります」


 えぇ……OKした後に条件つけるの良くないと思います。


「風魔が本当に北条から離れたのか、その証拠が欲しいですね」


 当然の懸念だけど、その証拠に何を望むの?


「今回の戦いで北条が勝とうが、関東管領が勝とうが、この金山城に攻め寄せてくることが考えられます」


 勝ったほうに余力があれば、攻めてくることは十分に考えられる。俺たちからしたら、共倒れになってくれるのが一番いい結果だな。


「その時に活躍してもらいます。それに備えて動いてください」

「分かりました」


 お義兄さんは頼りない容姿だけど、よく考えてしっかり判断している。能ある鷹は爪を隠すというやつかな。


「風魔のこと、しかとお任せしますからね」

「承知しました」


 風魔が北条と本当に決別しているのか、それとも俺の懐に入り込むのが目的なのか、それを判断するまでは警戒は緩めない。お義兄さんと約束するまでもない。

 本当に俺の下で働くのならできるかぎりのことはしてやるつもりだけど、もし小太郎さんが俺を騙しているのなら俺が小太郎さんを始末する。あと腐れのないように、風魔党を根絶やしにしよう。


 小太郎さんと雇用条件を詰める。こちらが出せる銭は二百貫。それでどの程度の数を雇い、どれほどの期間雇えるのかだ。


「北条とは毎年五百貫と任務ごとの報酬をもらっていた。それで風魔党の全てを雇っていたな」

「五百貫か」


 銅銭一千枚で一貫になる。以前米二石(五俵)で一貫と伊勢守さんに教えてもらったことがある。その計算だと五百貫文は一千石の米に相当する。しかもこれは契約金で、任務ごとに報酬をもらっている。


「うちが今出せる銭は二百貫だ。それ以上は出せない。それでどれだけの風魔を雇えるのかな」

「ふっ。北条と同じものを期待などしていない。俺たちは働く場所がなければ世の中に忘れ去られるのみ。俺はそれが我慢できぬだけだ。報酬額はそのついでで、出せる奴からは多くもらうだけだ」

「それじゃあ」

「一年はそれで働こう。来年のことは期限が切れる前に話す」


 契約成立!

 それじゃあ任務の話をしようか。


「分かった。上野の各地には、風魔の手の者が入っている。問題ない」


 お義兄さんの提案を風魔の小太郎さんに伝えたら、問題ないと言い切られた。


「もう入っているの?」


 いくらなんでも早すぎるよね。まさかこのことを予想していた? ま、まさかエスパーなのか!?


「北条はこれから上野を飲み込むつもりだったからな。そのために手の者を入れていたのだ」


 あ、そうなんだね。エスパーじゃないんだ。残念。でも丁度いいから、そのまま使っちゃえ。


「そろそろ関東さんがやってくるから、情報収集をお願いね」

「関東さん……関東管領のことか?」

「そそ、関東管領じゃ長いから、関東さんね」

「ふっ。金山の赤鬼にかかると、関東管領も形無しだな」


 その言葉にちょっと違和感を感じた俺は、関東さんについて聞いてみた。


「えぇぇ……じゃあ、関東管領というのは役職名なの……」


 大きな勘違い! 名前かと思っていたよ(笑)

 まあどうでもいいけど。


「そうだ。上杉憲政が現在の関東管領の名だ」


 メモしておこう。

 越後と上杉といえば、上杉謙信だよね。この上杉さんが謙信さんの関係者かな。

 そういえば武田信玄は? 謙信さんと川中島で戦うんだよね。北条氏康がいるから時代的には信玄さんも謙信さんもいるよね。


「ねえ、武田信玄って知ってる?」

「……武田は甲斐武田、若狭武田、安芸武田、上総武田くらいは知っているが、信玄というのは聞いたことがないな」

「甲斐の武田さんだと思うんだけど、当主は誰?」


 武田信玄が甲斐出身だというのは知っている。有名人だからね。


「武田晴信だ」

「うーん……」


 名前が変わるのかな? そうかもしれないけど、息子さんという可能性もあるな。さすがに孫はないんじゃないかな。


「じゃあ上杉謙信は? 越後の人だと思うんだけど」

「ふっ。越後の上杉といえば守護家の上杉が有名だが、二年前に断絶したな。跡取りは伊達からの養子がいたと思うが、名は謙信ではない。他の上杉にも謙信というのは聞いたことがないな」


 こっちも名前を変える可能性あるけど、どうなんだ?

 俺の知っている人のいない時代という可能性もあるんだよな……。でも北条氏康はいたよな。そうすると―――。


「今川義元は?」

「駿河と遠江、あと三河の多くを治める大名だな。北条と揉めては和議を繰り返しているからな、よく知っているぞ」


 今川義元と北条氏康がいて、武田信玄がいないということはないよね。そうすると武田晴信かその息子が信玄ということになるか。


「武田晴信は何歳かな」

「三十を超えた辺りだったはずだ」

「北条氏康は?」

「三十七だな」


 武田信玄イコール武田晴信説が有力っぽい。

 問題はそこじゃなくて、上杉謙信なんだよね。毘沙門天だっけ? 神仏の生まれ変わりだとか言っている危ない人だから、お近づきになりたくないわけ。

 でもさ、好き好んで関東に何度も出て来る人だもんなー。しかもこの時代で越後と上野を行き来するには、信濃経由もあるけど三国峠くらいだっと爺やさんが言っていた。この上野に直で来るんだよね。


「毘沙門天好きの上杉さん知らないよね」

「上杉ではなく、長尾景虎なら毘沙門天の生まれ変わりだとか言っているな」

「ぶふっ」


 マジか。マジでそんな人いるんだ。しかも苗字まで違うし! 分かるわけないだろ、そんなの!

 あー、でも徳川家康も苗字変えていたな。あとお義兄さんも昔は新田だったって言ってたわ。苗字変えるの流行りなの、この時代?


「その長尾景虎って人は、今度上杉さんと一緒にここにやって来るんだよね。はぁ……」


 軍神とかなんとか言われる戦上手。その上杉謙信がもうすぐやって来る。強いんだろうな。嫌だなー。


「北条さん、武田さん、越後の長尾さんの情報を集めてくれるかな」

「分かった」


 あと上野とその周辺のことを色々聞いておこう。恥をかいたついでだ。全部聞いちゃおう!


「………」


 そんな目で見ないで!


 小太郎さんに教えてもらった情報では、武蔵というのは東京都と埼玉県かな。常陸が茨城県の中央から北部。下総は茨城県の南部と千葉県の北部。上総が千葉県の中央で安房が千葉県の南部。下野が栃木県。相模が神奈川県。伊豆は静岡県の東側だね。


 上野の勢力は北条と独立勢力。独立勢力は元々関東管領の家臣だったけど、関東管領が越後に逃げたことで独立状態になっている。うちも独立勢力だね。





 金山城にはいくつかの支城があって、俺はその支城の防御力を高めて回っている。次の支城に行くところで、伊勢守さんが兵士の訓練をしているのが見えた。


 兵士は足軽と言われる農民が多く、その足軽を率いる侍が足軽大将で、その上に侍大将がいて、さらに部将がいるんだって。


「ここで訓練しているのはほんの一部です。この者たちは武士の家に仕える小者がほとんどですから」


 伊勢守さんが訓練している兵士は、足軽でも各侍の家に仕えている小物と言われる人たちらしい。農民の足軽は農作業があるから基本的に訓練しないんだってさ。


 関東管領の上杉さんと危ない長尾さんがやってきて、北条さんとバチバチやるから、それに巻き込まれたり攻められたりするから訓練しているんだって。

 しかし足軽のほとんどが農民だなんて、不経済だと思う。


 戦争で農民が死んだら、田圃や畑を耕して米や野菜を育てる人が少なくなる。それで収穫量が少ないと言われたら、農民たち可哀想だよね。


 俺は常に訓練している軍団があるのだと思っていたけど、まったく違っていた。これじゃあ足軽たちに戦闘力を期待するのは酷というものだよね。軍制改革を断行しなければいけないと感じたよ。


 

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


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