057_領地整理
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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057_領地整理
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お義兄さんが年始の挨拶をし、総評定が始まった。
「今年は私の居城を江戸に移すことにした。すでに新たな江戸城を築き、移住する環境は整っている」
「「「おおお!」」」
お義兄さんが居城を江戸城に移すと、多くの家臣も江戸へ引っ越しになる。
残念ながら俺は木造の家は造れない。そこは大工さんに頼むことになり、すでに関東中から大工を呼び寄せて城の周囲に屋敷や商家、民家の建設を始めている。
屋敷ができるまでは、俺が用意した石の家に住んでもらうことになる。仮住まいのアパートといった感じかな。家臣の屋敷ができたら、家族も呼び寄せて入ってもらう。そういったことを今年一年かけて行うそうだ。
「さて、昨年の総評定では見なかった顔も多くいることだ。信濃守、それぞれの者を紹介するように」
「はっ。それでは―――」
信濃の国人の仁科さんや高梨さんから始まり、武蔵の国人で北条さんから新田に移籍した三田さんや太田さんなど、そして最後に武田さんの紹介があった。
武田さんは新年の挨拶として、砂金を山ほど持って来た。
堤の建設と水腫腸満の治療のお礼で結構な砂金をもらったけど、武田さんはお金持ってるんじゃん。戦いをせず、砂金を資本にして国内の開発を我慢強くしたらよかったのにね。
関東管領さんの時代に、上野の国人が信濃の佐久郡に攻め込んだことがある。そこで武田さんとは戦った人もいるが、武田さんとそこまで遺恨がある人は上野や武蔵の国人にはいない。その逆に信濃の国人は、武田憎しと言う人が多い。
あと武田さんの扱いは微妙なもので、半臣従なんだよね。つまり独立勢力と言えばそうなんだよ。新田が何かのきっかけで勢いがなくなったら、襲いかかってくるかもしれない。それでもお義兄さんはいいと考えているんだよ。
お義兄さんは武田家に利を与えて、徐々に取り込んでいく気らしい。
現状、甲斐の民の水腫腸満治療を行い、治水工事をしたから新田に感謝する人が多い。今後は飢えさせないようにすることで、新田に臣従したほうがいいと、民に思わせる政策らしい。これ内緒の話ね。
甲斐の民は飢えによって、厳しい暮らしを強いられてきた。それを楽にしてやり、新田に従っていたら飢えないのだと民に思わせることで、武田を押さえ込むつもりなんだとか。気の長い話になるけど、戦争をするよりいい。お義兄さんは本当にそういうことに頭が回るね。
「また、今年は領地の飛び地を整理する。場合によっては領地を移ってもらう者も出るが、今よりは多くを見込める土地に移す。その際は、よろしく頼みおく」
新田家を含んだ国人の領地を整理し、飛び地を出来る限りなくす。
飛び地の管理は結構面倒で、わざわざ他の人の領地を通って移動しなければいけない。
この時代、各国人が自由に関を設置している。関では人を検めるだけでなく、税を取っているんだ。経済が発展するのを妨げることが考えられる。だから関をできるだけ廃止したいし、あっても少なくしたい。
本当は新田領内の関は全部廃止したいが、さすがにそうもいかない。皆、そういうもので実入りを確保しているからだ。
俺は政治や税のことをあまり知らないから、口を出さずにお義兄さんのやることを見ている。
主要な街道は新田の直轄領にしたい。そのために国人を移封する。移封される人には、今までの領地以上になるように配慮もする。だから従ってほしいと、お義兄さんが頼んだわけ。
すでに有力国人には内々に打診している。というのも、有力国人には猪牧場や石鹸生産、リンゴ、ぶどう、椎茸、上州芋などの生産で利を与えている。そういったネタを渡す際に、関の廃止を受け入れてもらっているんだ。
もし約束を違えるなら、その時は力づくになる。もちろん、領地は減らされることになるから、ちゃんと守ってもらいたい。
領地問題は、お義兄さんの領国経営の大きな問題だ。
国人間で領境を巡った争いもあるし、先祖代々の土地を離れたくない人も多い。一朝一夕でできるものではない。だからお義兄さんの動座のどさくさに紛れさせ、それをやってしまおうというのだ。
武田さん以外は、領地の整理に戦戦恐恐としている。
領地整理ができるのも、かなりの石高が見込める改造済武蔵国があるからこそできるものだ。
武蔵の国人で新田に従えない。北条家がいい。そういった人は相模か伊豆に移っている。そういった国人の空いた領地は新田の直轄領になる。
今回、広い空き地ができた。しかも俺が改造したことで、今まで放置されていた場所に人が入れるようになった。
俺が見たところ、石高は二・五倍、場合によっては三倍にはなるはずだ。河川整備はそれくらい重大なことなんだよね、武蔵は。
俺も今回の領地整理で移動することになる。場所は武蔵国の久良岐郡、橘樹郡、都筑郡の三郡だ。整備した多摩川の南側になる。
武蔵と相模の国境という場所で、お義兄さんは俺に北条さんを抑えてほしいと言っていた。要は防波堤だね。
新しい領地の城は海岸に近い場所に造ろうと思っている。
どこにするかはまだ検討中だけど、同時に港も造ろうと考えている。
武蔵を滞りなく割譲した北条さんとは、約束通り不戦条約を締結する方向だ。それでもまだ相模と伊豆の二カ国を領有している大きな勢力だから、抑えとして俺を相模に近い場所に入れたいのだ。
うちが出た後の厩橋城には、お義兄さんと胡蝶の弟である幸寿丸君を入れるそうだ。ただしまだ十二歳だから、三年後の十五歳で元服(成人)させてからと言っていた。
またお義兄さんの金山城は、新田発祥の地ということで城代をおいて直轄領のままにするらしい。同じ理由で厩橋城から西にある八幡郷も直轄地のままにすると聞いた。
武蔵の江戸城と上野の金山城や八幡郷は、繋げて飛び地にする。新田家の直轄地案は関東平野を南北に縦断する感じだ。
その予定地内の国人や土豪には、移封が命じられる。拒否することは許されない。どうしても嫌なら、帰農するかその地に屋敷を与え家禄によって新田に仕えるかになる。それも拒否するなら、追放になるだろう。最悪は戦いになる。
さて、どうなることやら。
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