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054_実りの秋

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

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 054_実りの秋

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「これもいいのじゃ! これも綺麗なのじゃ!」


 胡蝶が反物を肩にあて、嬉しそうにしている。


「忠治。これなんかいいと思うのじゃが、どうかえ?」

「胡蝶ならなんでも似合うぞ」

「そういうことではないのじゃ!」


 え、怒られた? なぜ?

 俺は素直な気持ちを言っただけなのに……。しょぼん。


 天王寺屋さんに頼んでおいた絹の反物は色とりどりで、どれも綺麗なものだ。

 胡蝶が選んで余ったものは、お義兄さんに回してあげよう。お義兄さんも奥さんたちの点数が稼げて嬉しいだろう。


 鳳に着物と思ったが、まだ着物は必要ないと胡蝶に言われた。可愛いと思うのにな。




 大量のお菓子を新田学校に持って行くと、子供たちが群がってくる。


「お殿様、ありがとう!」

「「「ありがとう!」」」


「お方様、ありがとう!」

「「「ありがとう!」」」


 子供たちはちゃんとお礼が言える。

 お礼や挨拶は基本です。

 この時代は頭を下げたら負けだと思っている人が多く、最低限の礼儀も弁えない人が多い。主に武士階級だけど。

 だから新田学校では礼儀を教え込む。とことん礼儀を教え込む。武士も商人も農民も関係ない。礼儀は大事だし、感謝の心を持つことは悪いことではない。


 最近は新田学校で学んだ子が、うちや他の家の文官や武官として仕事をするようになった。

 うちでは文字の読み書き以外に、算術を教えている。三桁と三桁の掛け算くらいなら、暗算でできる子もそれなりにいる。何気に俺より優秀だ……。

 武官になるような子は元武士の子が多いようだけど、そういった子でも簡単な足し算引き算ができないと卒業させない。


 今、子供たちにお菓子を配っている清さんも、爺やさんの右腕の文官として働いてくれている。

 彼女はこの新田学校の卒業生で、子供たちとも顔見知りだ。それに弟の太助君も新田学校で学んでいる。

 清さんは家臣用の長屋に住んでいて、太助君もその長屋から通うようになった。家がある人は寮から出てもらわないと、次の子供が受け入れられないからね。


「お殿様! お菓子、ありがとう!」


 藤吉郎さんの妹の朝日ちゃんだ。今日も元気そうで、何よりだ。


「いっぱい遊んで、いっぱい勉強するんだぞ」

「はーい」

「お殿様。ありがとうご座います」

「小竹君もがんばっているようだね。秋からうちで働いてくれるそうじゃないか」

「はい。兄藤吉郎の下で働かせていただきます」

「うん。がんばるのはいいけど、無理はしたら駄目だよ。困ったことがあったら藤吉郎さんや俺に相談しなよ」

「はい。ありがとうご座います」


 子供たちは無邪気でいいね。

 社会人になっても捻くれたりしないでいてほしいよ。





 秋の刈り入れの時期になった。予想通り、豊作だ。


「今年の収穫量は、七万石になりましてございます」


 爺やさん、藤吉郎さん、祐光さんが集まって、清さんから今年の収穫量の報告を受けている。

 開墾担当の藤吉郎さんは、自慢げに鼻の穴を広げているね。ここまで収穫量が上がったのは、開墾を指揮した藤吉郎さんの功績もあるからね。


 うちは五公五民の税率だから、三万五千石の米が収入になる。

 他に野菜や雑穀などの税もあるけど、そっちはそれほど多くない。

 あと二毛作で冬には麦を育てているから、そっちは結構な収穫量がある。

 何はともあれ、米だけで七万石も生産できるのは嬉しいことだ。

 米が穫れれば、それだけ飢える人が少なくなる。食べる分は別にして、今年も米を買い込んで高値で売れる場所で売ってこようかな(ニコニコ)


 他の上野の国人たちも豊作だから喜んでいるけど、うちみたいに開墾が進んでいるわけではない。

 それでも伊勢守さんや小太郎さんの領地は、開発が進んで基本の石高が増えたみたいで何よりだ。


「今年も米を売り捌こうか」

「売るのでしたら、量を抑えるべきでしょう。昨年は当家が上野の米を多く扱ったゆえに、商人たちから不満の声が出ております」

「あー、そうか。俺が米を売り捌くと商人たちが困ってしまうか……」


 考えてなかったな。そういうところにも配慮するか。


「それに武蔵の割譲が進んでおります。現在引き渡しが終わってない場所では、収穫した米は北条家が引き上げていきますが、そこまで多くはありません。それでも何があるかわかりませんので、米は手元に置いておきたいところです」

「それもあったか……。分ったよ。米は売らずに蔵にしまっておこう」


 何かあった時に困るからね。

 それに米を売らなくても銭には困らない。

 何せうちは銭を造っているからね。

 今までに造った銭の総額は五十万貫くらいになる。

 分け前は天王寺屋さんと俺が四割で、お義兄さんが二割。お義兄さんの家臣の俺がやることだから、二割は上納金だね。


 あと粗銅から抽出した金と銀は、天王寺屋さんと俺で半分ずつ。こっちも俺の分からお義兄さんに上納しようと思ったが、お義兄さんが要らない断ってきた。銭だけでいいみたい。

 まあ、銭だけで十万貫になっているからね、お義兄さん。俺なんかその倍だし。俺、異世界の財産がなくても結構な金持ちなんだよ。


「今年は殿が発案された猪牧場も軌道にのりましたので、石鹸の生産量も増やせそうです」


 石鹸の生産は藤吉郎さんから、清さんに担当が移った。

 清さん、超優秀。さすがは爺やさんが見込んだだけのことはあるね。


 猪の肉の脂肪を使って石鹸を作っているから、猪牧場を造ったんだ。

 これは沼田さん、長野さん、それから信濃の国人のところで複数の牧場を設置した。信濃は海野さんが先頭を切ってくれるので、やりやすいんだよね。

 山間部だと空き地も多いし、米の収穫量も増えているから麦などを飼料にする余裕がある。猪を育てるのも、飼料が要るから、石高を高めるのはいいことだね。

 それと猪の赤身は食肉になっているから、総合的に食料事情が良くなっている。


 うちも食卓には肉と魚が欠かせない。野菜も一年を通して作れるように色々なものを集めている。

 外国(日ノ本の外)の野菜も天王寺屋さんに頼めば、取り寄せてくれる。

 これまでに玉ねぎ、ビート、キュウリ、トマト、ナス、カボチャ、ニンジン、サツマイモ、ほうれん草、白菜が手に入った。

 この時代、こういった外国産の野菜を手に入れるのは、数年の時間がかかるのは仕方がないよね。


 現在、農業用水を通すのが難しい場所で、サツマイモを試験的に生産してもらっている。

 ちなみにサツマイモは九州に薩摩という国があって、薩摩を思い起こさせるということから上州芋と呼ぶことになった。

 上州芋はもうすぐ収穫できると思う。今のところ順調のようだ。

 収穫出来たら早速焼き芋をして、胡蝶に食べさせてあげないとね!


 あと、地味にビートが手に入ったのは嬉しい。ビートは砂糖の原料になるんだ。これで砂糖が作れたら、美味しいお菓子を胡蝶に作ってあげようと思う。

 ビートは来春から厩橋城内で試験栽培する予定だ。上手く育ってくれるといいよね。


 猪牧場に関しては、武田さんのところが落ちついたら甲斐にも展開したいと思う。

 武田さんのところは、まず人を食わせないといけない。そのための治水工事は終えたけど、効果を発揮するのは来年だからね。


 今は厩橋城内で細々と飼育している牛の牧場も設置したいんだよね。

 牛は牛乳と食肉に使えるし、脂も石鹸に使える。牛乳を多く生産して、子供たちに飲ませてあげたい。体を作る栄養分が多いからね。


 そんなことを計画していたら、海野さんが豊作になったと報告にやって来た。


「米は多く穫れますし、猪牧場によって銭も得られる。本当に暮らしが楽になりました。これも全て新田の殿と賀茂様のおかげにございます」


 信濃も治水工事してあるし、農業用水も設置した。収穫量はかなり増えているようだ。


「梅雨の時期はどうでした? 堤が切れそうな場所はありましたか?」

「いえ、大丈夫です。強固な堤にて、安心して梅雨を乗り越えられました」

「これから野分(台風)が多くなりますから、何かあったら早めに連絡をしてくださいね」

「はっ。お気遣い忝のうご座いまする」


 少しでも弱そうな場所があれば、改善する。それは坂東太郎でも千曲川でも同じだね。


 

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


また、『ブックマーク』と『いいね』と『レビュー』をよろしくです。


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