048_娘が生まれました!
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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048_娘が生まれました!
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「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
俺は走った。走って走って走りまくった。
ヤバい。これはヤバいぞ!
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
叫ばずにいられるか。
「こぉぉぉちょぉぉぉうぅぅぅっ!」
「静かにするのじゃ。おちおち寝られぬであろう」
「お、おぅ。すまん」
だが、これが静かにできようか。
俺の胡蝶が、俺の子供を産んでくれたのだ。
「あぁぁぁ可愛いな~」
「女の子なのじゃ。すまぬのじゃ」
胡蝶が落ち込んでいる。
「何をそんなに落ち込んでいるんだ。こんなに可愛い子が生まれてくれたのだから、もっと喜んでいいんだぞ」
「じゃが、賀茂家の嫡子ではなかったのじゃ」
ああ、そういうことか。
家を継ぐ男の子を生みたかったんだな。
「そんなの気にするな。子供はこれからじゃんじゃん生んでくれればいいんだから。俺は女の子でも大歓迎だぞ!」
「忠治はおかしいのじゃ」
「おかしくもなるさ。こんなに可愛いんだからな」
まさに玉のような子だ。
ほっぺをツンツン。柔らかいな~。
ちゅーしちゃおうか、ちゅー。
「この子は嫁にやらん!」
「嫁とか話が早いのじゃ」
「今から宣言しておく! この子を嫁にしたければ、この俺を倒せ!」
「それは無理なのじゃ!」
可愛いな~。
愛い子じゃの~。
「名は決めたのかえ?」
「はっ!? ……名前か」
「可愛らしい名をつけてたもれ」
「むむむ……。可愛い名前……」
どんな名前がいいんだ?
子供なんて初めてだし、名前なんてつけたことがないんだ。
どうしよう!?
胡蝶の子だから、トンボ? いやいやいや、それはグレるって。
じゃあ……そうだ! 鳳蝶の鳳にしよう!
「鳳。この子は鳳だ。鳳凰の鳳という字で『あげは』と読むんだ」
「鳳。いい名なのじゃ」
そうだろ、そうだろ。俺もそう思うよ。
「鳳。パパでしゅよ~」
「ぱぱとはなんじゃ?」
「お父さんってこと」
「そんな呼び名があるのか? 母はどんなのじゃ?」
「ママだな」
「まま……うむ。妾はままじゃぞ、鳳」
「パパと」
「ままじゃ」
二人で鳳を構っていると、爺やさんがやってきて俺を引きずっていく。
「爺やさん。今日くらい仕事は勘弁してくれ~」
「姫のご誕生を家臣たちに宣言してください。それと名も告げてください」
そういうのは二、三日後でもいいじゃないか。
「あー、皆、よく集まってくれた」
俺の家臣はそれほど多くないが、爺やさん、藤吉郎さん、祐光さん、小太郎さんたちが座っていた。なんで小太郎さんまで? まあいいか。
「無事に娘が生まれました。母子共に元気です」
「殿。おめでとうございまする」
「「「おめでとうございまする」」」
こうして祝いの言葉をもらうと、実感するよ。俺、父親になったのだな。
「娘の名前は鳳だ」
紙に鳳と書いて見せる。
「鳳姫。いいお名にご座いまする」
当然だよ。世界で一番可愛い名前だよ!
「今から言っておくけど、鳳は嫁にやらないからね!」
「「「………」」」
その目は何よ?
「鳳を嫁に望む奴は、俺を倒していくことだ」
「「「………」」」
だから、喋ろうか。
「もし鳳を狙っている者がいたら俺に報告してください。ぶっ潰します!」
「「「………」」」
「そんなわけで、俺は鳳と遊ばなければいけない。仕事はしばらくやす―――」
「ゴホンッ!」
爺やさんの大きな咳払い。凄い圧を感じる。
「……今日の仕事は休む」
「今日一日ですぞ」
むむむ。爺やさんのいけず。
早速鳳と遊ぶ。といってもほっぺをツンツンするくらいか。
あまり抱っこしてもいけないみたいだし、とりあえず添い寝でもするかな。
「ホギャーウギャー」
「ど、どうした!?」
「乳のようじゃな」
最初の母乳は生まれた直後に胡蝶があげた。
母親の初乳は赤ちゃんの体にいいと聞いたことがあるから、絶対に飲ませるように言っておいたんだ。
この時代のそれなりに偉い武士の家だと、乳母という母乳をあげて赤ちゃんの世話をする人がいるらしい。
爺やさんが鳳にも乳母を選んでいたが、俺としては胡蝶の母乳で育てるほうがいいと思った。胡蝶の母乳の出が悪いならともかく、出るのにあげないのはよくないよね。
胡蝶が乳をあげるからと、俺は侍女たちに追い出されてしまった。
胡蝶のオッパイは毎日見てるのにさ。
しかし暑いな。
少し前に梅雨が明けて、それ以来雨は降ってない。
今年は戦があると思ったが、武蔵は無血で新田のものになる。
今はお義兄さんの命令で、長野さんや沼田さんなどの国人が武蔵で段階的な引き渡し作業を行っている。
さすがに一気に引き渡しできないからね。順調であれば、秋の終わりくらいには完全に引き渡しが終わるらしい。順調ならね。
縁側で空を見上げていると、ドスドスと足音がした。爺やさんかな。
「殿。新田の殿より至急金山城へお越しくだされとのことです」
「えー、今日はお仕事なしで~」
「そういうわけにはまいりません」
もう、お義兄さんもタイミングが悪いんだから。
これでしょうもない話なら、ぶっ飛ばすよ。
金山まで転移し、お義兄さんの部屋に。
「わざわざすみませんね」
「本当ですよ、今日の俺は忙しいんですからね!」
「どうしたのですか? 何をそんなに怒っているのですか?」
「うちの胡蝶が女の子を産んだのです。これがまた可愛くて、俺は鳳の相手をしないといけないのですから、話があるならさっさとしてください!」
「……胡蝶は私の妹ですよ。子供が生まれたら、知らせをくれてもいいんじゃないですか」
「あ……忘れていた」
「忘れないでくださいよ。まったく……それで女の子なのですか?」
「ええ、可愛い、可愛い、とーっても可愛い、女の子です。あ、言っておきますけど、嫁にはやりませんからね! もし俺の鳳を狙う奴がいたら、そいつごとその国を滅ぼしてやりますよ!」
「……親馬鹿もここまでくると笑えませんね。国を滅ぼすのは止めてくださいね。本当に。はぁ……」
ふふふ。俺だってその程度のことは弁えているよ。
だけどね、本当にぶっ飛ばすからね。
「で、用事はなんですか? くだらない用事なら、俺と鳳の時間を邪魔した報いを受けてもらいますからね」
「くだらないって……今日お呼びしたのは、使者が来たからです。しかも二家から」
「二家っから? 北条さん関係じゃないのですか?」
「遠いところでは北条家も関わっていますかね」
「はい?」
遠いところってどういうこと?
「一家は今川家です」
「今川って……」
「当主は今川治部大輔。駿河と遠江、それに三河の大半を従える大大名ですね。今川は足利将軍家に連なる家です」
「えーっと義元さん?」
「はい。今川義元が当主です」
今川義元といえば、桶狭間であの織田信長に負けた人だね!
俺でも知っている歴史上の人物で、俺のイメージとしては油断して信長さんに倒された情けない人かな。
本当かどうかは知らないけど信長さんは三千、義元さんは二万だっけ? これで負けるのだから、よほど油断していたんだろうね。
この時代にやってきて、同じような話を聞いたっけ。関東管領さんとか色々な大名が八万で北条さんを攻めたってやつ。北条さんは川越城に籠城して大逆転したとか。
その後、北条さんは攻勢を強めて関東管領さんを関東から追い出したという話だ。あとは俺が知っているように長尾景虎さんを引き連れて戻ってきたわけね。
それはいいとして、義元さんは足利将軍家の関係者なんだね。知らなかったよ。
「もう一家は尾張の織田家です」
「え、織田ですか?」
「今川が織田と争っているのは、私も知っています。織田は守護家ではなく、ただの国人のようですね」
争っている今川と織田からの使者か。
「両家はなんと?」
聞かなくても想像できる。
「新田と同盟を結びたいと言ってきました」
「お義兄さんは何と回答したのですか?」
「それを相談しようと、忠治殿を呼んだんですよ」
そうだよねー。思い出したよ。ははは。
「お義兄さんはどう考えているんですか?」
「普通に考えれば、今川と同盟してもいいかもしれませんね。ですが織田はないでしょう」
「その理由は?」
「今川は織田を倒せば、畿内へ近づきます。しかも四カ国を従えることになります」
「それは織田も同じでは?」
「そうですね。しかし織田が今川を滅ぼせるでしょうか? 織田は尾張一国でさえ従えていません。それに対して今川はほぼ三カ国を従えています。それに織田は当主が代替わりしたばかりで、地盤が固まっていません。織田が今川に勝てる見込みはありません」
それが勝ってしまうのですよ。
俺が知る歴史とは違ってしまっているが、そっちに影響があるかは分からない。史実通りに信長さんが勝つ可能性はゼロではないはずだ。
「お義兄さんは忘れていませんか? 川越城のことを」
「忠治殿は織田が勝つと言うのですか?」
「国力や兵力が勝敗を左右する大きな要因であることは、俺でも理解しています。でも戦いというのはそれだけではありませんよ」
「ふむ……織田が今川に勝つにしても、それは当主の治部大輔を戦場に引っ張り出し、その首を取るしかないでしょう。治部大輔のほうは一度や二度の負けでは大勢に影響はないと……そうか、上洛するなら話は変わりますね」
お義兄さんはブツブツと呟きながら自分の世界に浸ってしまった。
のほほんとした顔をしているお義兄さんだけど、その判断は悪くないんだよね。それを支えるのが、この思考力なんだ。
お義兄さんは考えを巡らせてから、ちゃんと判断することができる。これ、意外とできないものだから、それができるのがお義兄さんの強みだね。
「両家とは誼を通じる程度として、様子を見ましょう。さすがに情報が少ないし、両家ともどうしても新田と同盟しなければいけないわけではないので、それで問題ないでしょう」
「それでいいと思います」
俺が出遭った織田信長が本当に今川義元を倒せるだろうか。
この世界はすでに俺が知っている歴史とは違っているから、信長さんは義元さんに負けるかもしれない。それならそれで信長さんに天運がなかったということだが、一宿一飯の恩義があるから信長さんに肩入れしそうになるよ。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
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