047_動き出す者たち
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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047_動き出す者たち
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武蔵国の割譲について、お義兄さんと北条家当主の氏康さんが面会することになった。
事前交渉をしていて幻庵宗哲さんは、武蔵を割譲するから北条と不可侵の約定を交わさないかと持ちかけてきた。なかなか強かな人だ。
しかし北条家の家臣たちは真っ二つに割れているらしい。
そりゃそうだよね。武蔵に所領がある国人は怒りまくってもおかしくはないよ。
北条氏康さんは、そういった人たちを丁寧に説得しているらしい。頭ごなしに命令してないけど、もう決定事項なんだよね。大変だと思うよ。まさに他人ごとだ。
「北条左京大夫氏康と申します」
「新田上野介義純と申す」
なんと氏康さんは金山城までやってきた。
道中の護衛として千人の兵を連れてきたけど、今の武蔵の国人たちの怒りを考えると襲撃されてもおかしくないからね。
新田領内では、ちゃんと氏康さんを護衛する兵が用意された。長野さん率いる二千だ。
道中無事に到着した氏康さんは、少し休憩して面会になった。
この二人が会うことで、戦が回避されるならいいことだ。俺は新田の者だから、新田にいい結果に終わりそうで嬉しいよ。
会談は終始和やかな雰囲気で進み、武蔵の割譲と前古河公方さんの引き渡しに関する調印は終わった。
最後に不可侵条約については、新田側として北条と武田の同盟に関する懸念を訴えた。
武田は昨年も信濃に侵攻したし、今年もするだろう。今は小笠原家と戦っている。
「武田は同盟をしていた諏訪家を滅ぼした。新田も武田と和議を結んでいるが、いつ武田に攻められるか分からぬ」
お義兄さんは武田が不義理の家であることを強調する。
そんな武田家と同盟している北条とは、安心して盟約を結べないというものだ。
「上野介殿のご懸念はもっともなれど、我が北条は信義を重んじる家にござる。盟約は決して破らぬ」
「諏訪家も当初はそう思い、武田を信用したのやもしれませんぞ」
お義兄さんが少し厭らしいことを言うと、氏康さんは困ったといった感じで一旦間をとった。
「当家は約束通り武蔵を割譲する。これで北条の信義について判断いただければと思うところですな」
「……いいでしょう。武蔵が無事に引き渡された暁には、北条家との盟約を前向きに検討しましょう」
盟約については武蔵の引き渡し後、再び話し合うことになった。
前古河公方についてはおまけくらいの話しか出なかったが、正直言って新田としても前古河公方は不要なんだよね。でも足利の方さんの養父だから、無下にもできない。
武蔵の国人で、北条から離れて新田に臣従する者はそのまま残る。ただしこの和議が成立する前に調略に応じた国人だけだ。そうじゃない家は出て行ってもらうか、土地から切り離して禄で仕えてもらうことになる。禄で仕える人はいないようだけどね。
武士は土地を守ってなんぼだと思われている。だから土地から離れるのを凄く嫌がるんだ。
そういった国人を氏康さんは押さえ込んで相模に連れていかないといけない。大変だよね。
▽▽▽ Side 今川義元 ▽▽▽
北条が新田と和睦したか。なんでも武蔵を割譲したとか。北条め、新田に勝てぬと思うたようだな。
雪斎和尚が新田との同盟を進めよと儂に言うた。あの後、新田について調べたが、調べれば調べる程信じられぬ報告ばかりがもたらされる。
これらの報告が真であれば、新田は正に赤鬼を飼っているということやもしれぬ。毘沙門天の生まれ変わりと称しておる長尾景虎でさえ一蹴され、捕虜になった。
おかげで上野では越後の塩を安く手に入れているとか。今後は武蔵も得たことで塩の調達はさらに容易になる。
最近では多くの銭が新田領に回っているとか。
件の赤鬼の領内にある坂東太郎の前橋湊に、多くの商人が集まり取引が活発だと聞いている。
しかも悪銭、鐚銭を良銭に替えておるとか。良銭に替えるのはいいが、その良銭はどこからもたらされたのだ? 海の向こうの明との交易をしているとは聞かないが、なぜそれだけの良銭を用意できるのか? いったい何をしているのだ、新田は?
戦に強く、税は五公五民、物資は溢れ、商売が活発。
新田に死角はないのか……。
いやある。新田義純の血族は少ない。息子が二人と弟が一人だ。息子のほうはまだ生まれたばかりで、弟も若年であるとか。
今上野介に何かあれば、新田は崩壊する……。そんな甘いことを考えていては生き残れぬわ。
新田の力の源は、ひとえに赤鬼だ。賀茂某が新田を支えておる。
それを理解せぬ者に、明日はない。
「北条を介しては癪であるな。和尚はもはや動くこと叶わぬし、関口を使者にしてまずは武蔵平定の祝いの品でも贈るか」
だが悪いことばかりではない。
新田が武蔵を得る際に、北条は同盟を持ちかけたそうだ。同盟は武蔵の割譲が無事に終わり次第、前向きに話し合われるとのことだ。
新田と北条の同盟がなれば、北条の周囲に敵がいなくなる。
これは今川の後方が安定するということである。
北条は相模と伊豆の二カ国。これが安定するということは、儂が三河と尾張に注力できるということじゃ。
問題は武田よ。武田は信用できぬ。今は信濃を北上しておるが、もし今川が三河か尾張で負けたら駿府に攻めてくるやもしれぬ。それどころか攻めている最中に侵攻してくるやもしれぬ。
晴信は諏訪との同盟を一方的に反故にし、攻めて滅ぼした前歴があるによって油断できぬ男じゃ。
「だが、信濃と武蔵に新田がいるのは悪くない。やはり新田と同盟するべきじゃな。どの道、儂が目指すのは西じゃ。東に同盟者がいくついても構わん」
さすがは和尚だ。こうなることが見えていたようじゃな。
惜しむべきはその和尚の具合が悪いことだ。もう長くないであろう。幼い儂を厳しく育ててくれた、二人目の父親だ。もっと長生きしてほしいと思うが、こればかりはなんともならん。
▽▽▽ Side 織田信長 ▽▽▽
「半介。新田への使者となってくれ」
「新田……にご座いまするか?」
何を呆けておるのか。
新田は今や関東随一の勢力になりつつあるのだぞ。
以前、尾張に新田の赤鬼がやってきた。賀茂忠治だ。
忠治の纏っていた気配は、ただ者ではない。あれは正に鬼だ。熱田と那古野を結ぶ道で忠治を見た時は、心の臓が止まるかと思ったほど恐ろしかった。
あの後、忠治や新田のことを調べた。
上野を瞬く間に統一し、さらには信濃に勢力を伸ばしていた武田を鎧袖一触であしらい、武蔵をその手中に収めんと北条を圧迫し、武蔵を割譲させた強国ぞ。
忠治は帝に直答が許されたという噂もある。しかも帝が直々に剣聖の称号を贈ったとか。
新田の躍進の裏には忠治がおる。赤鬼がいることで上野は纏まっていると言っても過言ではないであろう。
「新田と同盟をする」
「同盟にご座いまするか……。しかし新田といえば上野の守護でしたか。上野のような遠方の新田と同盟して、当家のためにはならぬと存じまするが……?」
この馬鹿者は何を言っておるか。新田と北条が和睦した以上、今川は北条の盛衰を気にすることなく西を目指せるのだ。その最初の鉾は、この儂に向けられるのは間違いない。
今川の動きを抑えるためにも、新田が重要なのだ。
しかし半介では心もとない。
そうじゃ五郎左を共に送り出すか。五郎左は若いが落ちついた男だ。半介よりはよほど使者の役目を果たしてくれよう。
残念なのは半介は織田の重臣であるが、五郎左はそうではない。これから引き上げるつもりだが、今は織田の家老という身分が必要だ。
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半介 : 佐久間信盛
五郎左 : 丹羽長秀
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