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044_北条氏康の苦悩

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

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 044_北条氏康の苦悩

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 祐光さんと小太郎さんの魔法適性が概ね分かってきた。

 異世界には適性を測定するマジックアイテムがあったけど、この世界にはない。だから色々試してみて、やっと二人の適性が分かったよ。


 祐光さんはどうやら獣を使役する系統、俗にいうテイマー系の魔法に才能があるようだ。

 テイマー系の魔法は獣などの生き物と意思疎通ができるもので、異世界でも珍しい系統の魔法だった。


 小太郎さんはさすがは忍者だね。諜報系の魔法に才能があるようだ。

 諜報系の魔法は耳を良くしたり、遠くを見通せるようにしたり、薄い壁なら透視できる感じだね。

 もうね、女湯を覗き放題だよ。こんちくしょうめ。


 最初は魔力の暴走があるから慎重に訓練していたけど、ある程度魔力の扱いに慣れたからこれからは自主練メインだね。

 二人はそれぞれの得意魔法を伸ばしているけど、仕事もちゃんとやってくれている……と思う。


 祐光さんは前橋湊の奉行として、しっかり働いている。

 その合間に陰陽師の術と思い込んでいる使役魔法の練習だ。

 最初は犬のような比較的人間に従順に従う獣もいいけど、鳥などを卵から返して刷り込みだっけ? ようは祐光さんを親と思い込ませた鳥を使役させるほうが成功しやすい。

 慣れてきたら、人間に懐かないような生き物を使役するのもいいね。


 小太郎さんは新田周辺の大名や国人の諜報活動を指揮している。

 今日も武蔵で新田に内応した国人が、北条とも連絡を取り合っていると報告を受けた。


「北条さんも余力があるうちに武蔵から撤退すればいいのにね」

「戦わずに撤退したら、それこそ従う国人はいなくなるだろう」

「そんなものなの? 俺なら勝てない相手といつまでも戦おうとは思わないけどなー」


 新田家が武蔵を取ったほうが北条さんのためなのにね。

 だってさ、新田家は相模を狙っていないからね。あくまでも海がほしいから、武蔵を取ろうとしているだけなんだ。

 国人の多くは北条さんとの因縁がそこそこあるから戦いたいみたいだけど、お義兄さんにはそこまで因縁はない。

 お義兄さんが武蔵を欲しているのは、単純に塩だ。越後から安く買えるけど、数十年後俺がいなくなったら止められないとは言えないからね。


 もし新田が武蔵を取ると、もれなく北条さんの領国と接する勢力は新田家の他に甲斐の武田さん、そして駿河の今川さんだけになる。

 北条さん、武田さん、今川さんは三国同盟を結んでいるから、新田以外に敵はいなくなるわけ。(あくまでも地続きという意味)

 しかも北条さんは相模と伊豆の二カ国を支配する大名として勢力を残せるんだよ。悪い話ではないと思うけど?

 といっても北条さんは信じないんだろうね。


「その話、お義兄さんに伝えてくれるかな」

「分かっている」

「うん。引き続き、北条さんとその周辺について監視をお願いね」


 小太郎さんがいなくなると、祐光さんがやってきた。


「申しあげます」


 神妙な顔をしてどうしたのかな? 前橋湊で何かあった?


「どうしたの?」

「はっ! 某、狼を使役しましてございまする!」

「………」


 え、そっちの話? 昼間は仕事しようよ。


「鳥も使役しているんだよね?」

「はい。鷹を使役してございまする」

「その上に狼を使役したんだね?」

「はっ。その通りにございまする」

「他に使役しているのかな?」

「鼠を二匹、使役してございまする」


 鷹に狼に鼠が二匹か。凄いね、祐光さん。

 まだ魔法を覚えたばかりだから、普通はそんなに多くの生き物を使役できないんだよ。祐光さんは魔法の才能が高いようだね。


「あまり多くを使役すると、一体一体の使役の関係が希薄になるから、無理をしない程度にがんばってね」

「はっ。これからも一生懸命努力いたしまする」


 祐光さんの魔力は、この世界の人にしては多い。小太郎さんの数倍はあるだろう。

 ただ使役している生き物にどんどん魔力が吸われるから、数を増やしていくと魔力が足りなくなるんだ。そうなると使役していた生き物との繋がりが切れたり、希薄になる。使役している生き物が言うことを聞いてくれなくなるんだ。





 ▽▽▽ Side 北条氏康 ▽▽▽


 さて、いかがしたものか……。

 上野の新田が武蔵統一を企てておる。

 新田には関東管領も、越後の長尾景虎も、甲斐の武田も一瞬で負けた。

 新田に取り込まれた武蔵北部の国人たちは、誰もこちらの調略に乗ってこぬ。

 これまで優勢なほうについて家を保ってきた国人でさえ、新田から離れようとはせぬ。それほど新田が恐ろしいのだろう。儂も恐ろしいわ。


 新田に攻められた際は、武田は信濃に攻め込んでもらいたいものだ。だが無理であろうな。武田と新田は朝廷のとりなしで停戦している。

 詫びも入れており、ここで武田が新田を攻めたら二度と朝廷はとりなしてくれぬであろう。


 では今川はどうか。駿東郡を巡って争っていた経緯はあるが、今は同盟関係だ。が、治部大輔(今川義元)は信用できぬ。あれは家柄をひけらかすだけの男だ。

 本当は同盟などしたくはなかった。治部大輔の謀のおかげで、我らは駿東郡を失った。あの時の屈辱は決して忘れぬ。


 東海道一の弓取りなどと言われておるが、治部大輔は大して戦が強くない。

 大軍勢を揃えれば誰でも勝てるわ。本当の強さは敵よりも少ない軍勢でいかにして勝つかだ。もっとも大軍を仕立てるのも才覚の内だ。それは認めてやるわ。

 だが、治部大輔が兄と家督争いをした際に、儂が味方してやったから治部大輔は今川の当主になれたのだ。その恩を仇で返された。


 いかん。今考えると怒りが沸々を湧き上がってくるわ。

 こうして考えると、儂はなぜ武田と今川などと同盟を結んだのか。自分の愚かさが嫌になるわ。


 今は新田だ。新田だけならば、耐え忍ぶのは問題ない。だが赤鬼はいかぬ。あれは本当に鬼だ。

 儂でも知っておるぞ。坂東太郎に巨大な堤を築いたと。金山城と厩橋城は儂が知っておる城とはまるで違うものになっておると。誰もそんなものは築いておらぬ。夜の間に築かれていたのだ。


「恐ろしきものよのぅ……」


 聞けば、賀茂家はあの陰陽師だとか。もしかしたら赤鬼を使役しておるのやもしれぬわ。

 賀茂が赤鬼でも使役しているのでも構わん。どちらにしろ堤も城も現実にあるのだ。それが全てよ。


 儂の首一つで済むのであれば、差し出してもよいのだがな……。


「御本城様」


 儂が新田のことで頭を悩ませていると、叔父の幻庵殿と弟の左衛門佐(北条氏尭(うじたか))がやってきた。


「いかがした」


 二人を部屋に入れ、火鉢を囲む。


「また伊賀者が壊滅しましてござる」

「何……風魔か?」


 風魔が去ってよりは伊賀の忍びの者を呼び寄せ、新田の動きを探っておった。呼び寄せていた伊賀者は、悉く落命しておるがな……。

 風魔の仕業であろう。護り抜けなんだ儂を恨んでのことか、それとも新田に……いや、賀茂に忠節を尽くしてのことか。


「そうだと思いまするが、あやつらまったく尻尾を掴ませぬによってに……。元とはいえ当家の仕事をしておったのだ。少しは手加減をすればいいものを」


 幻庵殿の冗談とも本気ともつかぬ言葉に、儂と左衛門佐は苦笑する。


「しかし伊賀者も頼りにならぬわ」


 左衛門佐が吐き捨てる。儂も同感ではあるがな。


「松田ら重臣たちの意を汲んだのが仇になったわ。まさか新田に雇われるとはな」

「雇われているのではなく、武士と同じ扱いだと聞きますぞ。蒼海城を与えられているそうじゃて。新田は忍びにも城を与える。豪気なものですな」


 忍びの者を武士と同じように城主にするとは、新田は何を考えているのか。

 当家の忍びの者の扱いは、他の大名に比べればかなり良かった。それでも武士と同じ扱いをすることはない。

 それが新田では城主だからの。風魔でなくても励もうというものだ。


「それよりも新田の攻勢にどう対処するかということじゃな」


 考えるだけでため息が出るわ。


「今回も河越城にて敵を引きつけまするか?」


 左衛門佐が河越夜戦を再び起こそうと息巻く。

 実際、左衛門大夫(北条綱成)が川越城で新田の攻勢に備えておるが、新田は関東管領や扇谷上杉のような愚か者ではないはずだ。


 それに新田の赤鬼だ。噂が本当であれば、籠城してもすぐに城門を突破されるであろう。


「儂は和睦しかないと思うがの」

「叔父上!」


 幻庵殿の言葉に、左衛門佐が叫んだ。


「武蔵を与えることで、相模と伊豆の領有を認めてもらう。この線で交渉するのが良いと思うぞ。あれは戦っても勝てぬわ」


 幻庵殿はまだ風魔がいた時期に、関東管領と長尾景虎を叩きのめした報告を小太郎より直に聞いている。

 儂はいくらなんでもあり得ぬと思うたが、赤鬼殿が帝の御前で、岩を斬り裂いたという噂もある。噂だが、儂には全て本当のことだと思えてならぬのだ。


 ゆえに儂も幻庵殿と同じ気持ちだ。

 新田は越後の長尾とは違う。冬になったら越後に帰るわけではない。武蔵と上野は雪で閉ざされ動けなくなることは滅多にない。仮に閉ざされても、雪はすぐに融けるであろう。

 もっとも冬に戦などしたくはないがな。


「家内が割れるであろうな」

「新田何するものぞと息巻いておる者も多いですからな」


 幻庵殿と深いため息を吐く。


「お二方は新田と和睦するおつもりなのですか」

「左衛門佐よ。新田と戦って勝てねば、北条は滅ぶことになるのだぞ」


 幻庵殿が左衛門佐を諭すように言うが、納得しておらぬ顔よな。


「戦いは時の運! 戦ってみなければ勝敗は分かりませぬぞ!」

「どうやって新田の赤鬼に勝つのだ?」


 儂の問いに、左衛門佐は黙り込んだ。

 意志や気合で勝てるなら、戦など楽なものだ。だが実際にはそんなものではない。

 川越城の時は十倍もの軍だったが、率いていたのが愚か者だったからなんとか策が決まった。

 だが今回は敵の愚かさをあてにはできない。そんな愚か者なら、上野一国を瞬く間に従えることなどできぬわ。

 たとえそれが赤鬼の力でも、それを従えている以上新田は侮れぬ。


「儂らの意地のために北条を潰したら、亡き父上や祖父宗瑞様にあの世で顔向けできぬ。北条の家を残せるのであれば、儂の首を新田に差し出しても構わん。儂はその覚悟なのだ、左衛門佐よ」

「御本城様……。そこまでのお覚悟であれば、某も御本城様に従いましょう」


 北条は残す。仮に伊豆一国になってもだ。


 

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 北条は立ち回り一応成功ですかね…… まず戦しても赤鬼がいる以上絶対勝ち目ないし、和睦すりゃ家が滅びるのは避けられますもんね
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