043_天文二十四年総評定
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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043_天文二十四年総評定
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年が明けて天文二十四年。西暦でいうと一五五五年になるかな。
現代の暦と旧暦には差があるはずだけど、そこら辺はよく分からん。
越後では雪の中でも内戦による戦闘が行われている。
現代よりも多くの雪が降るこの時代で、よくやるよと掘り炬燵の中で思っている次第ですよ。
「蜜柑を食べるかえ?」
「うん。もらうよ」
一緒に掘り炬燵に入っている胡蝶が、蜜柑を剥いてくれる。
甘いが、酸味が強い賀茂家印の温室蜜柑。
もっと甘味を引き出せるように品種改良させようかと思っている今日この頃です。
「あ~んなのじゃ」
「あ~ん。ぱく」
美味いねぇ。
蜜柑はお義兄さんのところに、十キログラムほど贈っておいた。
お正月は家族団欒で蜜柑でも食べてくれ。
それから側室の二人も無事に子供が生まれ、お義兄さんは二男一女の子持ちですよ。
のほほんとした顔をしていても、やることはやっているんだね!
「この酸味がいいのじゃ」
「まだ辛いの?」
「少し食欲がないのじゃ」
とうとう胡蝶が妊娠した。
悪祖はそこまで酷くないけど、それでも食欲は落ちた。
以前の胡蝶は女性にしてはたくさん食べていたから、普通の女性くらいの食事量なんだけどね(笑)
「寒くないか?」
「大丈夫なのじゃ」
俺と胡蝶は現代風の服に毛糸のセーターを着ているし、そこにどてらを羽織っているから死角はない。
掘り炬燵にどてら。日本の冬はこれだよね!
新年早々に雪になって、外は真っ白かな?
最近、外に出ないから分からないや。
「失礼いたしまする」
新年に働いているのは誰だよ?
「三が日くらいは休もうよ」
「何を言っているのじゃ。もう正月も半月が過ぎたのじゃ」
「そうだっけ? まだお正月気分が抜けないんだけど~」
「入るのじゃ」
胡蝶も返事しなくていいんだよ。居留守って言葉、知ってるかな?
障子を開けたのは、爺やさんだ。今日も元気に働いているんだね。
「どうしたのじゃ?」
「はい。金山城で総評定が行われまする。そろそろ動いていただかないと、遅れまする」
この寒いのに、なんで金山城まで行かないといけないのさ。休もうよ。
「忠治がおらぬと、兄上も困ろう。すぐに支度するのじゃ」
「え~」
「え~ではないのじゃ」
胡蝶に着替えさせられ、仕方なく金山城へ向かう。
本当は転移で行きたいけど、城門付近には俺と一緒に金山城に向かう人たちの列ができていた。
この人たちと一緒に金山城へ向かうことになっている。転移で行けば一瞬なんだけど、これだけの人に転移を見せるのはよろしくない。
新田学校からは子供たちの声が聞こえる。今日も元気に遊んで、たくさん食べて、そしていっぱい勉強をしような。
「賀茂殿。寒いですな」
「長野さん。お久しぶりですね」
箕輪城の長野信濃守さんだ。
俺は暖かい下着に防寒マントを羽織っているけど、長野さんたちはちょっとだけ厚着しているだけだ。それでよく生きていられるね。
魔法を使えば真っ裸でも平気だけど、そんなことする気にもならない。
「お子さんが生まれた時以来ですね」
長野さんの娘さんが、お義兄さんの側室になっている。その長野の方さんが男子を産んだのが昨年末のことだ。
「その節は大変お世話になり申した」
「いえいえ。困ったことがあったら、お互い様ですから」
長野の方さんは難産で、産後の肥立ちが悪かった。
危なそうだったから俺が持っていたポーションを、賀茂家秘伝の妙薬ということで飲ませたんだ。
その甲斐あって今は元気に過ごしているよ。本当に良かった。
「賀茂様。ご無沙汰しております」
「海野さん。元気にしてました? 風邪ひいてません?」
「ははは。某、体だけは丈夫にて」
「それはよかった。体が丈夫なのが一番ですよね」
海野さんは年ですからね。気をつけないとけいないよ。
海野さんに続いて信濃衆が次々と挨拶していく。
それが終わるとやっと行列が動き出す。といっても前橋湊から船なんだけどね。
正月早々降った雪はもう融けて、今は見る影もない。それでも寒いね。
新田湊から金山城までは少し歩く。大した距離じゃない。寒いけど。
結構広い広間に入りきらないくらいの人が集まっている。
総評定は大評定とも言われるもので、要は昨年を振り返る反省会や表彰、あとはお義兄さんの年度方針の発表の場になる。
今年は何をするかを明確にして、家臣たちに準備・実行させるんだね。
「賀茂様。ご無沙汰しておりまする」
「「「賀茂様」」」
皆、俺の顔を見て頭を下げるんだけど、そんなに畏まらなくてもいいよ。と言っても無駄なんだよね。
新田の守護神や赤鬼、そして帝からもらった剣聖の称号は伊達ではないらしい。
しばらく待つと、お義兄さんが入ってきた。
ざわついていた広間はシーンとなり、お義兄さんと太刀持ちの小姓君の動く音だけが聞こえた。
お義兄さんは一段高い場所に座り、俺はその斜め前。一応、藁で編んだような座布団を使っているけど、他の人は板の間にそのまま座っている。
広間の中はいいんだよ、床下暖房があるから。でもさ、縁側の人はさすがに寒いだろうに、大変だね。
「新年、明けましておめでとう」
「「「おめでとうございまする」」」
お義兄さんが新年の挨拶をすると、おめでとうの大合唱だ。
昨年は武蔵北部を掌握するために、内政に時間を割いた。という報告の後、大きな反省点は特にないということになった。表彰のほうは俺が内政していたから表彰された。そして今年の話に移る。
「旧年は武蔵の北部の安定に時を費やした。今年は武蔵全土を治める」
「「「おおお!」」」
新田領になった土地で治水や、荒れた田畑の整備を行った昨年。
今年は武蔵全域を支配するために軍を起こす。そのための調略が進んでいて、多くの国人が新田に臣従することを約束しているのだとか。
お義兄さん、結構まめに働いているんだよね。
「また、越後では内乱が激しさを増しているそうだ」
越後を誰が治めても構わないんだよね。お義兄さんも越後まで統治しようとは考えていないから。
冬になったら雪で閉ざされる場所の統治は難しい。雪で閉ざされている間に、攻められたら援軍を送ることもできないからね。俺は別だけど、それは俺が生きている間の話になる。
「越後のことには関わらぬが、塩は別である。もし塩に税をかけるようであれば、越後に攻め込むことになるであろう。皆、備えを怠らぬように」
「「「ははーっ!」」」
武蔵が優先されるけど、約束を破ったら必ず越後にも報いを受けさせる。お義兄さんは強い口調で語った。
総評定が終わり、お義兄さんの部屋に入った。
「ふー。忠治殿ではないですが、堅苦しい喋り方は疲れますね」
家臣たちの手前、威厳のある口調が求められる。
肩をくるくる回したお義兄さんが、白湯で喉を潤した。
床下暖房はあるけど、どうしても火鉢に近づいてしまう。
指先が冷えるのを摩りつつ火で温めたお義兄さんが俺を見た。
「武蔵を得たら、本拠地を武蔵へ移そうと思います」
あら、金山城を出るの?
「どこに移すか考えているのですか?」
「できるだけ海の近くがいいですね。ただ武蔵は河川が多く土地は湿地が多い。どこにするか決めかねています」
そうえいえば、東京は埋め立て地ばかりだったよな。徳川家康が江戸に入ってから開発が進んだから、この時代ではまだ未開の地なんだとか。
俺がこの時代に飛ばされた直後、北条さんちのうじちか君の取り巻きが江戸を馬鹿にしたけど、それがこの時代の普通なんだよね。
「埋め立てればいいのではないですか?」
「それにどれだけの財と歳月がかかることか。頭が痛くなります」
「なんなら俺がやりましょうか?」
「できるのですか?」
「住人を移動させてもらえば、やれますよ」
お義兄さんは考え込み、その時は頼むと言った。
人さえいなければ、いくらでも埋め立ては可能だ。なんなら城も湊も造るし、町も造っていいんだよ。
「まずは武蔵を確実に取るところからですね。それができなければ、拠点の移動もできませんから」
そりゃそうだ。まずは武蔵を取ることが先だね。捕らぬ狸の皮算用だったよ。
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