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041_前古河公方さんからの手紙

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

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 041_前古河公方さんからの手紙

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「なるほど、統一された武具ですか。それはいいですね」


 お義兄さんに堺でのできごとを報告。

 うちの赤黄(せきおう)備えのことを聞いて、お義兄さんはちょっと羨ましそう。


「なんならお義兄さんも装備揃えたらどうですか?」

「それはいいですな。戦の際にそういったものが畏怖へと繋がります」


 横瀬さんも賛成だよ。


「統一装備もいいですが、今は領内の開発に力をいれましょう!」


 おおお、さすがはお義兄さん!

 俺なんかノリと勢いで決めちゃうのに……。見倣わないとね。


「それじゃあ、本題なんですけど~」

「え? 今のが本題じゃないのですか?」

「違いますよ」

「何が出て来るのか? 少し不安ですね」

「大したことじゃないですよ。金と銀を抽出して残った銅の使い道なんです」

「銅の使い道? はて、何をどうするのか?」


 首を傾げるお義兄さんと横瀬さん。


「天王寺屋さんとも相談しまして、私鋳銭を造ろうかと思ったわけです」

「「………」」


 ん、無反応?


「えーっとですね。私鋳銭を造ろうと思うのですが、いいですかね?」

「……忠治殿。本気ですか?」

「はい。本気ですよ。だって、銭が足りないんですよね? わざわざ大陸から銭を買うとか、あほらしいじゃないですか」


 この時代の銭は、大陸の明(現代の中国)から買ってくるらしいからね。そんなこと全く知らなかったけど、銭が不足しているのは藤吉郎さんから聞いていたんだよね。

 特に関東では銭が不足気味なんだとか。


「忠治殿ことだから、質の良い銭を造りそうですね」

「そこは任せてください!」


 ドンッと胸を叩く。

 ゲホッゲホッゲホッ。ちょっと痛かった。

 いやですねー。冗談じゃないですか。そんな目で見ないでくださいよ。


「本当に大丈夫なんでしょうね? 悪銭や鐚銭を流して商人たちの恨みを買わないでくださいよ?」


 お義兄さん、よく知ってるね。

 陰でこそっと勉強しているんだろうね。のほほんとした顔なのに。


「本当は将軍家や朝廷に話を通したほうがよいのでしょうが、これは極秘で行ってください」


 シリアスモードだね!


「了解です。ボス」

「ぼす?」

「ははは。気にしないでくださいよ、お義兄さん」


 そんなわけで私鋳銭造りがスタートするのであった。





 師走に入って、温室の果物が結構育っている。


「お方様。こちらの苺がいい感じに色づいてますよ」


 藤吉郎さんの母親のなかさんが、見事に色づいた苺を胡蝶に差し出す。

 この温室は藤吉郎さんの家族に任せることにした。藤吉郎さんはうちの重臣の一人だし、俺の秘密を知る一人だからね。


「本当なのじゃ。美味しそうな色をしているのじゃ」


 胡蝶が練乳をつけてかぷり。

 小さな口で美味しそうに苺を頬張る。


「美味しいのじゃ!」


 胡蝶は本当に食べるのが好きだな。

 しかも毎日薙刀を振って運動もしているから、太っていない。


「これもいい色です」


 今度は藤吉郎さんの妹の朝日ちゃんが苺を持ってきた。


「朝日も食べるのじゃ」

「でも……」

「いいのじゃ。妾が許すのじゃ」


 朝日ちゃんは小学校高学年くらいの少女で、胡蝶は妹のように可愛がっている。


「美味しいです」


 苺を齧って微笑む朝日ちゃん。


「お方様。すみませんです」

「妾が好きでやっているのじゃ。構わんのじゃ」


 藤吉郎さんの弟の小竹君が朝日ちゃんが苺を食べて申しわけないと頭を下げるが、胡蝶が言うように好きでやっているのだから構わない。


「殿様。この蜜柑はまだでしょうか」

「あんた、それはまだだがね」

「そ、そうか……?」


 蜜柑の木をもらって温室に植えたんだけど、まだ青い実だ。

 それを藤吉郎さんの姉夫婦が夫婦漫才しながら俺に確認してきた。


「色が黄に変わるから、それからだね」

「これが黄になるのですか。驚きですだ」


 農民が蜜柑を食べるなんて、この時代ではないことらしい。

 苺はもちろんのこと、蜜柑も見たことがないらしい。


「小竹と朝日は、学校はどうなのじゃ?」

「とっても楽しいです!」

「とてもためになります。本当にお殿様には感謝しております」

「朝日は元気があっていいのじゃ。小竹は少し堅いのじゃ。もっと楽しむのじゃ」


 小竹君と朝日ちゃんは、午前中は学校、午後は温室でなかさんや智さん夫妻の手伝いをしている。

 領内の農民の子供も概ね同じように、午前中は学校で勉強している。中には武士の子もいるけど、それもいい。誰もが自由に学べるのが、新田学校なのだ。


 しかし学校で虐められてなくてよかった。

 俺、虐めとか嫌いだし。


 温室のドアが開き、足音が近づいてくる。

 かなり急いでいるのが分かる足の運びだ。


「申しあげまする」


 俺の前で跪いたのは、沼田祐光(ぬまたすけみつ)さん。俺は祐光さんとか上野之助さんと呼んでいる。


「どうしたの?」

「はっ。越後にて古志長尾家、上田長尾家、そして揚北衆が手を組み、春日山城に押し寄せておりまする」


 あら、結構重大事だった。といっても、新田が攻められているわけではない。

 春日山城は長尾景虎さんの居城だね。

 それで古志長尾家と上田長尾家は景虎さんの出身家である三条長尾家と同格なんだけど、守護代の職が三条長尾家に独占されたり、景虎さんが実質的に守護になったことで不満が溜まっていたと聞いている。

 景虎さんがこの上野に攻めてきた前年に内乱を収めていることから、まだ内乱の芽が残っていたんだろうね。


「お義兄さんのところに報告に行こうか」

「はっ」

「胡蝶。ちょっとお義兄さんのところに行ってくるよ」

「分かったのじゃ。これを義姉上に持っていってたもれ」


 足利の方さんたちへのお土産に、籠いっぱいの苺を受け取った。


「練乳を忘れないようにじゃ」


 牛乳に砂糖を入れてとろみを出した練乳もちゃんとある。

 厩橋城の一角で数頭の牛を飼って、牛乳を得ているんだよね。

 公家は牛に車を牽かせるから、比較的簡単に手に入って助かったよ。


 祐光さんと共に転移した。

 最近は金山城にも転移魔法陣の部屋を用意している。

 一瞬で金山城に移動した俺たちは、お義兄さんに面会を求めた。

 すぐにお義兄さんの部屋に通されるが、祐光さんは縁側で待機。

 横瀬さんもすぐにやってきて、三人で火鉢を囲んだ。


「今日はどうしたのかな?」

「越後のことです」

「起きましたか?」

「はい。古志長尾家と上田長尾家、そして揚北衆が手を組みました」

「三国峠はすでに雪ですか」


 お義兄さんが壁で見えない三国峠を見つめる。


「当家としては塩に税をかけず、送ってくればよし。そうでなければ、税をかけた者の身柄を要求するだけですね。それを拒めば、戦ということで」


 粛々と語るお義兄さんは、為政者の顔だった。


 当面、新田は動かない。というか、動けない。

 上野から越後方面に向かう三国峠は、これから雪が本降りになる。すでに雪が降っていることから、通行が困難になるのだ。

 塩は雪が降る前に大量に仕入れている。雪が融けるまで十分な量だ。

 問題は冬の間に景虎さんの勢力がどうなるかだね。


「しかし困りましたね。暖かくなったら武蔵攻めをするつもりだったのですが……」


 お義兄さんは天袋から何かを取り出した。

 俺に差し出されたそれは、書状だった。


「岳父からの書状です」

「岳父……前古河公方さんですよね?」

「ええ。岳父は私に助けてほしいと言ってきました」


 書状を開いて読むけど、やっぱり読めない。

 所々は読めるんだ。一応、勉強しているからね。でもさ、さすがに全部は読めない。なかなか難しいものだよ。


「相変わらず読めませんね。前古河公方さんは助けてとだけ言ってきたのですか? それ以前によく書状が届きましたね」


 前古河公方さんは小田原で幽閉されているのではないの?


「小田原に幽閉され、監視も厳重のようです。使者は監視を掻い潜って抜け出し、山をかけて武蔵へと入ったそうです」

「晴氏公は殿に武蔵一国を与えると仰っております」

「武蔵を……ですか?」


 俺の記憶がたしかなら、武蔵は古河公方さんが実行支配している場所ではない。

 北条さんが実効支配していて、古河公方さんがどうこうできるものではないと思うんだが?


「新田が武蔵を切り取り、小田原まで攻め寄せろということです」

「……なんとも都合のいい話ですね」

「はい。都合がいい話ですよ。本当に」


 お義兄さんも横瀬さんも苦笑いだ。


「春になったら武蔵を攻めて、前古河公方さんを助け出すのですか?」

「武蔵は攻めます。岳父は助け出せるなら、助けます。停戦交渉で岳父の引き渡しを要求すれば、嫌とは言わないと思います。もちろん武蔵を取ってないと意味ありませんが」


 前古河公方さんはついでのようだ。


「交渉でもなんでも引き渡しが行われれば、晴氏公から将軍家に、殿の武蔵守護の補任の申請をしていただきます。そうすれば、殿が武蔵の守護として支配の正当性ができますので」


 武蔵を取っても、お義兄さんに従わない国人はいるだろう。そういった人たちを押さえ込むには、お義兄さんの武蔵守護就任が役に立つらしい。


「この際ですから話しておきますが、今当家は常陸国の佐竹と下野国の那須から同盟の話が来ています」

「両家共に当家へ同盟の話を持ってきましたが、殿は同盟に乗り気ではご座いません」

「両家の戦いに巻き込まれるのは嫌ですからね」

「されど味方は多いほうがいいのは言うまでもないことにご座います。特に常陸の佐竹は力のある大名です」


 お義兄さんと横瀬さんが交互に説明をしてくれる。

 佐竹家は常陸―――現代の茨城県に大きな勢力を持つ家で、新田家と領地は接していない。

 那須家は下野―――現代では栃木県の北側に勢力があり、こちらも新田家とは直接領地を接していない。この那須家はなんと源平合戦で有名な那須与一の那須家の後裔を自称しているらしけど、本当かどうかは不明なんだってさ。へーっと思ったよ。


 横瀬さんは同盟に賛成派だけど、お義兄さんは消極的な感じだね。

 俺はどちらでも構わない。お義兄さんが決めたことに従うよ。

 お義兄さんは家臣たちの話をよく聞き、最終的に判断すると言っている。合議制ではないけど、家臣の意見を聞くのは大事なことだよね。


 

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


また、『ブックマーク』と『いいね』と『レビュー』をよろしくです。


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