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033_子供がほしい

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

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 033_子供がほしい

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「子供たちを集めているらしいじゃないですか」


 お義兄さんがニヤニヤ聞いてくる。何その顔? 何か面白いことでもあった? 子供を攫ってないよ?


「ええ、文官が不足しているため、文官を育てようと思いましてね」

「文官ですか?」

「そうです。爺やさんも年ですからね。将来のことを考えて今の内から家内のことができる人を育てようと思ったのです」

「それで親のない子を育てていると? 家臣に仕事を教えればいいのではないのですか?」


 それだと脳筋の人ばかりで役に立たない。とは言えないのが辛いところだね。


「親のない子供たちを助けるための政策です。武士なら俺が手を差し伸べるまでもないでしょ?」

「ふむ……どうでしょう。新田の領内にいる親のない子供も受け入れてもらえないでしょうか。そのための支援はします。それから武家でも本人が希望したら、面倒を見てもらえないでしょうかね」

「それをすると、かなりの数の子供が集まると思いますよ? いいのですか?」

「親がない辛さは私もよく知っています。それに忠治殿に養育された子供が育てば、新田のためにもなります」


 お義兄さんは教育の重要性を理解し、そして親のない子供を育てることで新田への忠誠を植えつけるつもりのようだ。そののほほんとした顔からは想像できない強かさだ。

 その強かさを利用させてもらおう。


「資金、米、そして人材の援助をお願いしますね」

「資金と米は分かりますが、人材ですか?」

「子供の面倒を見る人、文字や算術を教える人、あとは武芸百般を教える人ですね」


 武芸百般は将来自分の身を守れるようにするための護身術でいい。


「当然ながら女の子もいますので、面倒を見る人は女性も含めてください。連れ合いをなくされた女性がいいでしょう」

「……分かりました」

「あと、俺の教育方針に従ってくれる人。これが大事です。意見は言ってもらっていいですが、何事も方針に従って動く人じゃなければいけませんよ」

「どんどん増えていきますね」

「これ以上は言う気はありませんから、安心してください」


 お義兄さんはホッとしたような表情を見せた。


「たしかお隣の下野国には足利学校というのがあるそうですね。こちらは新田学校にしましょうか」

「いやそこは賀茂学校でしょ」

「賀茂ではゴロが悪いですから、新田学校にしましょう」


 別にゴロは悪いと思わないけど、カモがネギしょってなんて言われそうだ。


 とりあえず、敷地はそこそこの広さを確保してあるから、長屋と校舎を増築しなければいけないな。

 翌日には上野、信濃、武蔵の新田麾下の領内全てに、親のない子供を保護して厩橋城まで送り届けるようにと触れが発せられた。

 お義兄さん、やることが早い。


 近場の領地から徐々に子供が送られて来る。どの子もやせ細った子ばかりだ。子供は三千五百人くらいになった。赤ん坊から十四歳まで幅広くいる。

 お義兄さんは約束通り、子供たちの面倒を見てくれる未亡人も新田学校へ送ってくれた。


「なんとも……大がかりな話になりましたな」


 爺やさんが呆れている。

 俺もここまでの規模になるとは、最初は思っていなかった。

 男性の教育者は、三十人くらい。武士もいれば、元商人もいる。それから旦那さんや子供を亡くした女性は、百五十人になった。


 厩橋城周辺の農家の子供も教育を受けに来ているから、子供は三千六百人くらいか。多分もっと増えると思うし、武士の子も少しは来ると思うから四千人くらいは見込まないといけないな。


 こんなに集まるとは思ってもいなかったから、敷地を倍に増やした。どんなマンモス校かと思う人数だよ。

 学校長は俺、教頭は胡蝶がすることになった。

 男性教師は、各家で年老いて隠居した人が多い。ちょっと話したけど、あまり頑固な人は送られてこなかった。お義兄さん、ちゃんと考えているね。


 人材育成と並行して産業育成も行っている。


 風魔党が甲斐から山ぶどうを回収してくれた。

 箕輪城の長野さんに頼んで、山ぶどうの栽培を初めている。山ぶどうでワインが作れたらいいな~と思っているわけ。

 長野さんのところはうちと違って山間部が多いから、栽培に成功してくれたらな~なんて思っている。


 あと、異世界で手に入れたリンゴを信濃の海野さんのところで栽培できないかと試している。

 異世界のリンゴだからここで育つかは分からないが、長野県である信濃ならリンゴの栽培に問題はないはずだ。多分……おそらく……。


 異世界の作物はそれだけじゃない。

 厩橋城の一角に温室を造って、そこでイチゴの栽培をしてみるつもりだ。

 イチゴも異世界のものだから、どうなるかは分からない。ダメなら日本産のミカンを温室で育てようと考えている。


 あとは椎茸栽培だけど、これは横瀬さんの弟さんに任せた。

 俺がお義兄さんに相談していたら、横瀬さんの三番目の弟の繁雄さんがたまたまやってきて椎茸栽培をやりたいと言ったんだよ。

 椎茸はこの世界のものだから、成功すると思う。多分。


 他にもイノシシとウシの牧場を広げている。

 石鹸を作るのに脂肪が役に立つ。それに肉も手に入る。一石二鳥だ。


 とりあえずはこんな感じか。





 子供たちの声が屋敷まで聞こえて来る。元気な声だ。

 厩橋城は五層構造になっているが、俺が日頃暮らすのは最外周の一層目の内側だから、元気な子供たちの声がしっかり届く。

 たくさん食べて、しっかり勉強し、そしていっぱい遊んでくれと思う。


「忠治。妾も子供がほしいのじゃ」

「急にどうした?」


 胡蝶の膝枕で休んでいたら、いきなりだな。


「兄上のところでは、側室も懐妊したとか。それに子供たちの元気な声を聞いていると、ほしくなるのじゃ」


 お義兄さんは正室の足利の方さんだけじゃなく、側室まで妊娠したとか。しかも二人も。

 これで四人の妻のうち、三人も妊娠したことになる。お義兄さん、がんばってるね。


 俺だってほぼ毎晩いたしているんだよ。でもさ、こればかりはね。

 あの女神に祈って胡蝶が妊娠するなら祈るけど、どうなのよ? なあ、女神様よ!


『がんばります! 胡蝶さん妊娠させますから!』


 いや、妊娠させるのは俺だからな!


『はいー!』


 久しぶりに女神の声を聞いたが、今回は怒ってないからそんなに必死にならなくてもいいんだよ。


『ホッ』


「大丈夫だよ。俺たちにも子供が授かるよ」

「今すぐほしいのじゃ。子作りするのじゃ!」

「え、今?」

「今なのじゃ!」


 もうしょうがないな~。


「ゴホンッ……」

「「………」」


 爺やさんが縁側に座っていた。なんでいるのさ?

 これから大事なことをするんだから、ちょっと気を利かせようか。


「大変申しわけありませんが」


 申しわけないと思うなら、消えなさい。


「殿に会ってもらいたい者がおります」

「それ、急ぎかな?」

「善は急げと申します」


 つまり遅らせても問題ない案件ってことだよね?

 しかし爺やさんがこう言っていることだし、会いましょう。


「胡蝶。仕事ができてしまった。ごめんな」

「むぅ~。爺やの馬鹿者め」

「真に申しわけなく存じます」


 爺やさんは終始無表情だ。

 膝枕は名残惜しいが、立ち上がって爺やさんについていく。


「殿におかれましては、側室をお迎えなされませ」


 歩いていたら不意に爺やさんから言葉をかけられた。


「何を言っているの?」

「殿は厩橋城主だけではなく、恐れ多くも帝より『剣聖』の称号を下賜された身。それに新田家の重臣中の重臣にございます。賀茂家はこれからも大きくなりましょう。殿のお子は多ければ多い程よいと存じます」

「あなたは胡蝶の爺やでしょ」

「賀茂家の家老でもあります」

「………」


 まさかお義兄さんだけじゃなく、俺にもそんな話がくるとは……。


「俺は胡蝶がいればそれでいいから」

「しかしお方様に懐妊の兆しはございません。幼き頃からお世話をしておりました某も断腸の思いにございますが、お家を栄えさせるためにも側室をお迎えください」

「……大丈夫だよ。俺は胡蝶との間に子供を十人は作る予定だ。すぐに子供もできる。側室は迎えない。はい、この話はここまで。客に会うんでしょ」

「……承知しました」


 縁側を歩く音が虚しく響く。


 

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


また、『ブックマーク』と『いいね』と『レビュー』をよろしくです。


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