027_武蔵攻め
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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027_武蔵攻め
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海野さんが一族の真田さんから養子をとって家督を譲った。これで後顧の憂いなく武田と戦えると鼻息が荒かったよ。
海野さんには蟻三城を任せた。朽ち果てた昔の城跡があった場所に、ほとんど一から城を造ったよ。盛大に造ったよ。武田さんの戦意を蟻三城の威容で削ぐ。それほどの城を造ったつもりだ。
この蟻三城は千曲川と佐久往還という道を見下ろすように立つ一千メートル級の山を使った山城だ。山頂に南城、その東側の尾根に北城、西側の尾根に西城がある。なぜ東側に北城があるのかは知らない。皆がそう言うから、そうなった。
その蟻三城に海野さんと同じ滋野氏の一族で望月さんと禰津さんが共に入った。城が三つあるし、丁度いいのか?
常備兵は四百人。この蟻三城を攻める場所は、二カ所しかない。それ以外の場所は高く堅牢な石の防壁で塞いだ。
守備兵が多ければそれだけ食料が必要になるが、蟻三城は少数で大軍を迎え撃てるように設計したからこの人数で大丈夫。耐えている間に、俺や長野さんたちが援軍としてやって来る段取りだ。
佐久郡には西上野の国人が領地を与えられて入っている。彼らの親族が西上野にいるから武田が攻めて来た際には、援軍を惜しまないだろう。親族を見殺しにしたら寝覚めが悪いものね。
しかし俺がなんで彼らに領地を与えることになるのか。総大将は俺ではなく長野さんなのに、領地の安堵や与えるのは全部俺の名前で行った。
まあ俺はお義兄さんの一門扱いだし、お義兄さんの一門は少ないから特別扱いされているのかもしれないけどさ。
あと捕虜にした多田淡路守さんと原隼人佑さんなどの武田家の武将は、捕虜として長野さんに預かってもらっている。
小太郎さんの話だと、二人の家族が武田さんに捕らえられたそうだ。そのことを聞いた二人は、武田晴信はそういう人だと言ったとか。二人の家族は殺されるだろうとも。部下の家族を殺そうだなんて、武田晴信という人は恐ろしい人だ。
信濃から厩橋城に戻った俺は、胡蝶を満喫してから金山城に入った。あまり胡蝶といられないから、胡蝶が拗ねちゃって俺から離れようとしないんだよ。困ったものだけど、可愛い妻だ。へへへ。
信濃攻めをした国人以外が広間に集まっている。武蔵に攻め込む人たちだ。お義兄さんが率いる戦力はおよそ五千。お義兄さんの初陣だ。
「先陣は是非某に!」
「あいや、待たれよ。儂に先陣を」
「先陣は某に!」
先陣争いが激化している。
武蔵でもお義兄さんに臣従している国人はいるが、多くは北条についている。それと別の勢力と独立勢力かな。武蔵は上野のように固まっていない。北条さん、意外とまとめられていないんだよね。
金山城に入って二日後に、進軍が開始された。最初は深谷城を攻めた。上杉憲賢という人がこの一帯を治めている。横瀬さんが治めていた頃の金山城を攻めた人らしい。
金山城と深谷城は結構近いから、武蔵の橋頭保にするには丁度いい場所だ。しかも北条家とかなり近い関係の家だから、攻めるのに遠慮は要らない。
北条さんは援軍を出してこなかった。今頃はどこで新田軍を迎え撃つか、話し合われているのかな。
「攻めろぉっ」
「一番槍はもらったぁっ!」
威勢の良い声が響き、新田軍の攻撃が始まった。上杉さんは深谷城に籠って出て来ない。集まった兵はかなり少なく、二百もいないとか。
「主の噂を関東中に撒いておいた。特に深谷の足軽は、利根川の堤を見る機会もあるだろうから、主を恐れて徴兵に応じないのだろう」
小太郎さんがどんな噂を撒いたのか気になるが、聞かないでおこう。
今回の俺はお義兄さんのそばにいることが仕事。伊勢守さんがいないから、俺がお義兄さんのボディガードだね。
戦場では何があるか分からないから、すぐ横でお義兄さんを守っているわけ。
伝令が本陣に走り込んで来た。
「申しあげます。山岡伊豆守様、城門を突破し城内へ攻め入ってございます」
「ご苦労。下がってよいぞ」
横瀬さんが続々とやって来る伝令を捌いている。城攻めの状況はいいようで、景気の良い報告が続く。
「申しあげます。市場備中守様が手傷を負いましてございます」
「何っ。傷は深いのか」
「浅傷にございます」
「あい分かった。下がってよし」
たしか市場さんは横瀬さんの一族で、妹が横瀬さんの養女になってお義兄さんの側室になっていたはずだ。ここで良いところを見せて、存在感を示したかったようだね。先陣争いでも名乗りを挙げていたからね。
しばらくすると、勝鬨が聞こえてきた。さて、上杉さんはどうなったかな。逃げたか、捕縛されたか、討死したか。
まさか一日で落ちるとは思ってもいなかった。上杉さんは捕縛された。その上杉さんを捕縛したのは横瀬繁顕さん。横瀬さんの二番目の弟さんだ。横瀬さんは弟さんの大活躍に、かなり喜んでいるようで鼻がぴくぴくしている。隠しているようだけど、全然分かるよね。
「横瀬さん、おめでとうございます」
「恐れ入ります」
「上杉憲賢を捕縛した戦功は大きい。信濃守も鼻が高いであろう」
お義兄さん、余所行きモードです。
「はっ、殿にそう言っていただけますと、弟も喜びましょう」
深谷城を落とした俺たちは、次に忍城を目指した。城主は成田長泰という人で、今は北条勢として名前が挙る。
「某、成田下総守長泰と申しまする。この度は新田様に臣従したく、罷り越しましてございまする」
もうすぐで忍城というところで、成田さんがやってきた。腹に一物ある感じの胡散臭い人だけど、臣従を申し出た人を無下に扱うと今後に差し障る。
「忍城は安堵する。以後、忠勤に励め」
「はっ。ありがとうございまする」
臣従するから領地の安堵をお願いしますと、申し出て来た。
成田さんは意外と勢力が大きくて、あっちこっちに領地を持っていた。でも最初の降伏勧告を無視したから、忍城周辺の土地だけ領有を認められた。あとの土地は没収だね。
もっと早く来れば飛び地も安堵されたのにね。
新田家は武蔵国の賀美郡、児玉郡、那賀郡、榛沢郡、幡羅郡、大里郡、そして埼玉郡の北部を押さえた。武蔵国の北部だね。石高はあまりないけど、それでも十数万石にはなると横瀬さんが言っていた。
「忠治殿の力で、深谷城と須賀城を堅牢な城にしてもらませんか」
夜、忍城内でお義兄さんと横瀬さんと俺だけで悪だくみ。
「構いませんけど、どんな感じにしますか」
深谷城は金山城からほど近い場所。だから重要な拠点として整備するのだろう。
須賀城は成田家の部下の須賀さんが治めていた城を没収している。この須賀城は利根川流域に建つ城だから物流拠点にしたうえで、北条家の侵攻に備えた堅城にしたいらしい。
「同時にここまでの利根川の堤を築いてください。もちろん、当家の側だけで構いません」
今回はここで、武蔵侵攻は終わり。あまり先に進んでも治めきれないからだそうだ。
俺が須賀城を改築していると、お義兄さんの元に朝廷からの使者がやって来たと報告があった。
すぐに戻って来てほしいと聞いた俺は、深谷城に引いたお義兄さんのところへ向かった。
「朝廷が武田家との和議を斡旋してきましたよ」
お義兄さんから書状を受け取る。中身を呼んだが、うん、さっぱり分からん。こんなミミズが這いずったような字を読める人は凄いと思う。俺もこの文字に慣れようと努力しているんだけど、まだまだだ。
「武田さんとの和議ですか」
「大膳大夫の継室は公家の三条左大臣様の姫です。そこから朝廷を動かしたのでしょう」
大膳大夫というのは武田家当主の晴信さんのこと。その奥さんがお公家さんの姫様というコネを使ったらしい。
うちにはないコネだね。でも、お義兄さんの岳父は前古河公方だから、それなりに家柄の良いコネはあるね。
「佐久郡と小県郡を新田の領土と認めてもらえるなら、和議でも終戦でも構わないのではないですか」
「現在そのように交渉をするべく、信濃勢にも根回しをするように手配しております」
もう交渉する方向性が決まっているなら、俺が帰って来なくても良かったんじゃないの? 呼ぶもんだから、緊急事態かと思ったよ。焦って飛んで来たんだからね。本当に飛んで来たんだから。
「信濃のことは忠治殿が差配して得た土地ですから」
「お義兄さんの領地です。俺に気兼ねする必要はありませんよ」
「忠治殿はそう仰ってくれますが、普通はそういうことに苦心するものですよ」
「そういうものですかね」
俺は領地の話はよく分からない。勝ち取った領地を奪われるのはそこに暮らす人たちのこともあるから考えるけど、そうでないならお義兄さんの判断に従うつもりだ。
武田家との和議はそれから十二日後に成立した。
新田は実効支配している佐久郡と小県郡を正式に領地として認められ、お義兄さんを暗殺しようとした謝罪として銭三千貫を支払ってもらうことになった。
そしたら武田さんは三千貫分の砂金を支払ってくれた。三千貫を運ぶのは大変だけど、金にすると大したことない。金は袋に入っていたから、ショボく見えたのは言わない。
「この金の半分は忠治殿が収めてください」
「俺は別にいいですよ」
「前にも言いましたが、忠治殿が褒美をもらわないと、他の人が褒美をもらえません。ですから受け取ってください」
そういえばそんなこと言ってたね。でもさ、俺のアイテムボックスの中にはトン単位の金塊が入っているんだよ。だから本当にお金には困ってないんだ。
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