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020_宗滴さんは元気なお爺ちゃんで、義藤君は剣術馬鹿です

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

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 020_宗滴さんは元気なお爺ちゃんで、義藤君は剣術馬鹿です

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 直江津近くの屋敷で宇佐美さんから歓待を受けた翌日、蔵田五郎左衛門さんという人を紹介してもらう。

 この蔵田さんが船を用意してくれた人。利根川でも船を見たが、やっぱり海の船は大きい。といっても豪華客船などに比べるべくもないんだけどね。


「帆が木だよ……」


 布じゃなかった。びっくりだ。


「大きいのじゃ……」


 胡蝶は船を見上げている。夜の時に言ってほしいセリフなんだけど……。


「これは安宅と言われる船です。七百石を運ぶことができます」


 蔵田さんが自慢げにしている。大きい船なんだろうな。よく分からんけど、この世界(時代)で見た船の中では大きい。


「お世話になります」


 俺は蔵田さんに頭を下げて、船に乗り込む。初めての船旅だ。

 利根川の船には乗ったけど、船旅というようなものではない。現代では船に乗ったことはないし、異世界では筏で川下りはしたけどちゃんとした船の旅は初めてだ。これをちゃんとした船というかは、現代のものを知っていると微妙だけどね。


 荷物の積み込みも終わり、船は直江津を発った。波が少し荒いように思うが、日本海なんてこんなものかと思ってしまう。俺の日本海のイメージは、火曜●スペンスの東尋坊。岩を削るほどに激しく打ちつける波なんだよね。


 ちょっと沖に出ると、波はさらに高くなった。結構な揺れに、昔乗ったジェットコースターを思い出す。一回転しないだけマシだと思っておこう。

 お義兄さんはさっきから魚に餌を与えている。連れて来た兵の多くが同じようにゲーゲーしている。

 伊勢守さんはさすがだね、ちょっと顔色が悪いけど吐いてはいない。横瀬長繁さんも我慢しているけど、顔色は悪い。


「胡蝶は大丈夫か?」

「平気なのじゃ。この程度でへばっている兄上はやっぱり軟弱なのじゃ」

「うぅぅ……私はうっぷ……」


 喋ろうとすると出てくるらしい。まあ慣れてください。俺を陰陽大允って呼ぶから罰があたったんだよ。




 船旅は天気にも恵まれて順調に敦賀へ到着。蔵田さんに礼を言って、この地を治めている朝倉家の敦賀郡司の朝倉宗滴さんに挨拶する。事前に領地を通らせてもらう許可は取っているが、超有名人らしいので顔つなぎだね。


「おお、これは上野介殿。よくお越しくださった!」


 最初の印象は元気なお爺ちゃん。


「酒はいける口ですかな」

「嗜む程度です」

「若いのだからガンガンいきなされ!」


 豪快なお爺ちゃん。

 ちょっとアルハラ入っている。でもお義兄さんは嗜む程度と言うけど、かなりの酒豪。宗滴さんとガバガバ飲んでいる。

 俺は隅っこでチビチビと飲む。酒というのは楽しく飲むものもいいが、俺は味わって飲むのが好きだ。


「若者よ、飲んでいるか!」


 トスンッと横に座った宗滴さんが背中を叩いてきた。危うく酒を零すところだったよ。


「はい。いただいております」

「ははは。そんな盃では飲んだ気になれぬであろう。ほれ、これで飲むがいい」


 出されたのは大きめのお椀だ。宗滴さんはさっきからこれで飲んでいるが、俺は盃でいいんだよ。

 そのお椀になみなみと注がれた酒。これを一気するの? 飲めるけどさ、アルハラ上司だよね、宗滴さん。上司じゃないけど。


「ぐいっと」


 目が怖いんですけど。

 仕方がない……。ゴクッゴクッゴクッ……ップッハー。


「おお、いい飲みっぷりだ。ささもう一杯!」


 ヤバい、完全にロックオンされてしまった。こうなったら宗滴さんを潰すしかない。


「老師もどうぞ」


 なみなみに注ぐ。ほれ、一気だ。おおお、いい飲みっぷりだな、このお爺ちゃん。

 そんな感じで飲ませ飲まされ、気づいたら皆潰れていた。ごめんね。俺、毒への耐性があるから、アルコールを摂取してもほろ酔いくらいにしかならないんだ。


 縁側に出る。立派な庭園だ。空には黄赤色に輝く月が笑っているように見えた。現代日本ではこのように月を見上げたことなんてなかった。ビルに隠れて見えないことが多かったからだろう。


 さて、胡蝶のところに戻るか。




「いやー、この儂を飲み潰すとは、さすがは新田の赤鬼じゃ!」


 笑いながら背中をバンバン叩かれてます。どうやら宗滴さんに気に入られてしまったようだ。


「帰りも寄ってくれ。今度は儂が勝つからな」


 意外と根に持つ人だな。と思いつつ苦笑する。この時代の超有名人に会えて、親しくなれたと思えばいいか。


 昨夜は胡蝶と別々で行動したが、今日はこの日本庭園を二人で楽しもう。宗滴さんはお義兄さんに押し付ける。


 宗滴さんのところに三日間逗留してから、疋田を通って塩津という琵琶湖の港に到着。そこから船で京都の近くまで行き、あとは陸路を行く。琵琶湖の波が穏やかだったおかげで、お義兄さんたちは魚に餌を撒かずに済んだ。


「ここが京の都なんじゃな……」


 随分と荒れていて、胡蝶がとても残念がっている。

 仮にもこの国首都なんだから、もっとさ……まあいいけど。


「戦乱はまだ続いているということだね」


 お義兄さんが残念そうに言う。眉間のシワが深いよ。


「将軍は東山霊山城に入っているとか。何度も三好を裏切っては許されているらしいのじゃ。情けないことじゃな」


 胡蝶が将軍の愚かさに首を振る。将軍が三好さんを裏切って、許されるとか馬鹿じゃないか。それでよく将軍なんてしているよね。

 俺が三好さんなら、一回裏切った時点でぶっ飛ばすけどね。二回目は息の根を止める。裏切ることをなんとも思わない奴は、何度でも裏切る。裏切る罪悪感というものがないからだろう。そう言う奴は早めに見切りをつけて切り捨てるべきだ。じゃないと後ろから刺される。


 荒れた京都の中を進み、宿舎に指定されている本能寺に入った。

 本能寺ってあれだよね、織田信長が殺された寺だよね。縁起悪いけど、まだ織田信長は生きているから、大丈夫だ。


 横瀬長繁さんが朝廷と幕府との調整で忙しくしている間、俺は胡蝶と京見物だ。といっても今の京は大したものがなかった。荒廃している京都を見て楽しむ気にはなれない。


「堺に行ってみたいのじゃ」

「堺か。いいね、お義兄さんに頼んでみよう」

「楽しみなのじゃ」


 こんな京都より堺のほうが楽しめそうだ。

 お義兄さんに堺へ行きたいと頼んだら、遠回りになるけど帰りに寄ろうということになった。




 将軍に呼ばれた俺たちは、なんとかいう御所に入った。周辺は荒廃しているけど、御所は一応の体裁を整えている……のか?

 上座にまだ将軍はいない。三十人くらい幕閣たちがいるけど、ほとんどが俺たちを田舎者だと侮ったような目をしている。まともな人は数人か。


 その数人のまともな人の一人は伊勢貞孝さん。政所執事という役職の人だ。お義兄さんに聞いたけど、この人がいないと、幕府は幕府としての体裁を保てないんだとか。それだけ重要な人だけど、将軍からは軽んじられているらしい。なんとも不遇な人だ。


 他には細川藤孝さんや和田惟政さんくらいかな。さっき挨拶した時に名前は聞いた。他の幕閣は挨拶されなかったり、挨拶があってもあからさまにこちらを馬鹿にした態度だった。


「上様の御成りにございます」


 そんな声に、お義兄さんと俺は頭を下げた。


 実はこの謁見はとても微妙なものなんだよね。

 新田と足利は鎌倉時代の末期から室町時代の初期にかけて戦い、新田の宗家は滅んだらしい。

 お義兄さんが名乗っていた岩松姓は新田の傍流だったけど、足利に従っていたから残ったんだとか。

 だから新田としては足利将軍家が仇で、岩松としては主家のようなものなんだよね。岩松の生まれであるお義兄さんは、足利との因縁を引きずっていないらしい。

 これ、京都までの旅の空の下で教えてもらったんだ。


 ただ、今のお義兄さんは新田姓を名乗っているから、非常に場の空気が悪い。幕府の人たちから刺さるような視線が投げかけられている。


「面を上げよ」


 頭を上げて将軍を見る。若いな。まだ中学生くらいか。名前は足利義藤。誰だよそれ? あまり歴史に詳しくないし、歴代足利将軍を全部覚えているわけではないので知らなくても当然だけどさ、まったく知らんわ。

 この義藤君は十三代目らしい。最後が十五代だからあと二代で足利将軍家は終焉を迎えるわけだ。


 お義兄さんのことがメインだけど、次第に剣術の話になっていく。


「そういえば、上野介の配下に上泉と申す剣豪がいると聞く」


 その伊勢守さんは俺の左横に座っている。ちなみに右横には横瀬長繁さん。俺たち三人はお義兄さんの後ろに控えているんだ。


「はい。ここに控えておる者が上泉伊勢守と申します。伊勢守、将軍家にご挨拶を」

「はっ。某、上泉伊勢守信綱と申しまする」


 伊勢守さんが挨拶すると、義藤君は伊勢守さんを質問攻めにした。


「伊勢守、一手相手をせよ」

「はっ」


 よしよし。俺はモブになり切っているぞ。

 このまま将軍の相手はお義兄さんと伊勢守さんに任せるんだ。


 

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] いやまあ、この頃の将軍様は権力も行動の決定権もほぼ無いしなぁ・・・
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